聖夜のあしおと~光の誕生日

作者:東間

●2020、冬
 ころりと丸く。雪の結晶のように。星のように。
 あたたかな照明の色は橙に金に白。
 屋根の形はなだらかな三角形。照明の色が広がる屋根の下はそこに収まっている素敵なもの全てをきらきら照らし、出逢い求める眼差しを、手を、待っている。
 クリスマスのお洒落をして並ぶテディベア、雪だるまやトナカイのぬいぐるみ。
 一休み中のサンタクロースとトナカイを抱いたスノードーム。
 赤、青、緑、金、銀――艶々、さらさら、毛糸でふわふわ――星屑めいたライン、輝くビーズ、手書きの模様と見た目も色も豊かなオーナメントたち。
 古き町並みからやって来たようなキャンドルハウスだって負けてない。屋根の形から玄関、窓の雰囲気に作り手の個性が宿り、並ぶ様はそこに町が広がるよう。
 子犬から成人男性まで幅広くカバーしそうな靴下専門のお店には、少し驚いてしまうかも。プレゼントを待つ誰かを驚かせるには、きっと最適だ。
 いい匂いに惹かれるまま行けば、ホットワインにチョコレート、シュトーレン、皮がパリッと香ばしいチキンやソーセージが迎えてくれる。
 美味しいエリアの中には『今年のクリスマスはこのケーキを是非!』と自信と誇りで胸を張るパティシエ作の、クリスマスケーキ(掌サイズ)のお店も何件か。
 大きなツリーが電飾オーナメントでとびきりのお洒落をしたそこは、この時期だけやって来る特別な市場。来る人全てに贈り物をと願う、やさしい場所。

●聖夜のあしおと
「実は私、クリスマスマーケットって行った事がなくて」
 地元のデパートや100円ショップのクリスマスコーナーならあるのよ、と花房・光(戦花・en0150)は冬毛でふっさふさのもっふもふな尾を揺らした。
 そんな時、自宅ポストに投函されていた新聞からこれが落ちてきたのだと言って取り出したのは、クリスマスマーケットのチラシだった。
「運命の出逢いってやつかな?」
「ええ、そう。だから、その運命に逢いに行こうと思うわ」
 ラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)に光は笑み、壱条・継吾(土蔵篭り・en0279)は目をぱちりとさせながら受け取ったチラシを見つめる。
 きらきらあたたかな灯り。聖夜に相応しい品々が並ぶ三角屋根の店。屋根が連なるその向こうでは、大きな大きなクリスマスツリーも輝いていて――。
「沢山の運命が待っていそうですね」
「でしょう? チラシだけじゃなくて、SNSにあがっていた写真も素敵だったわ。キラキラしていて、眩しくて……数も凄かったのよ。どこまでスクロールしても止まらなくて」
 沢山の写真があがっていたという事は、それだけそのクリスマスマーケットが素敵だったという証。
 丁度シーズンだからとヘリポートにクリスマスマーケットの話を持ってきた光は、皆もどうかと笑いかけた。
 クリスマスを彩るのにぴったりのアイテムは勿論、グルメエリアも充実しているクリスマスマーケット。色々と買ってからグルメエリアで一休みしてもいいし、しっかり腹ごしらえしてから出逢いを求めて買い物に行ってもいいだろう。
 宝箱のような、おもちゃ箱のような。プレゼントのような。そんな輝きと賑やかさでいっぱいのマーケット内を巡るだけ、という時間も、そう悪くはない。
「このチラシ以上にキラキラしているのかしら……?」
 真面目な表情でチラシを見ていた天色が笑う。
 こうしていても始まらない。善は急げ――聖夜の色に染まりし市場へと。


■リプレイ

 会場の全てが灯りと共に幸せとわくわくを届けるよう。贈り物が沢山貰えそうな肉球模様の大きな靴下はシアに。素敵な止り木用オーナメントはネレイドに。
「肉球模様はそのままですね」
 カルナと目を合わせ笑った灯は、相手の目がテディベアの店に留まっている事に気付いた。お好きです? 可愛いですよね。訊いて、返した二人の間でまた笑顔が咲く。
「私も好きです! 家にも1人います!」
 そこから二人同時の提案で始まる新しい友達探し。手作り故に微妙に違う為、「どの子が良いと思いますか?」とカルナの目はつい真剣に。
 それが何となく可愛い。視線に気付き首傾げたカルナへ灯は笑み、選ぶ時のコツ――顔を見てふんわり幸せになった、微かに青みがかった白毛を抱き上げる。
 カルナも“なんとなく”で手に取った雪のような白毛へ優しく微笑んだ。赤リボンでのお洒落が可愛らしい。
「クリスマスは君も一緒ですね」
 一段落したら味わうホットチョコもこの出逢いと同じ。幸せ灯してくれるプレゼント。

 灯り浴びる各種アイテムは気になるが腹が減ってはと、まずは腹拵え。グリューワインのベリーはエルムが、林檎は環が。オレンジと檸檬が添えられ蜂蜜溶かした物はアンセルムお勧めの品で、エルムが見つけたリゾットも加わりなかなか豪華だ。
「僕たち、飲むし食べるから多少ガッツリ系でも大丈夫でしょう。環さんは、今年はお酒無事に買えたんですね」
「エルムさん、それどういう意味ですかー!?」
「いえ、なんでもないです」
「ふふ、環もワインが飲める大人の女性って知っているよ。流石にシャンメリーはない、よね?」
「エルムさんよりお姉さん……大人ですからね!」
 22歳に火花飛ばした環23歳は選んできた林檎のワインを一口。ふむと味わったその目は蜂蜜入りやベリー系に興味津々で、他にも何かおつまみをと周りを見る。
 折角だしと見た目華やかなアヒージョを。種類豊富なケーキは欲張って色々と!
 更に豪華になる気配の中、アンセルムの目は何だか美味しそうなエルムのワインへと。
「少し飲ませてもらってもいいかな?」
「どうぞ。程よい甘みが美味しいですよ」
 一口貰えばコメント通りの味わいが温かく豊かに広がって――と、今度はエルムの目がちらり。出来ればそちらのも一口、と呟き、無理ならいいですと遠慮がちなその前に笑顔でワインが出されたのは言うまでもなく――買ったパリパリチキンも分ければ、始まったばかりの夜はもっと楽しくなる。

 自分達の背丈と同等か少し大きいくらいのツリーは二人で飾り付けるのにピッタリで、迫力あるものになる筈。フロスト加工された物なら雪化粧をしたようで綺麗だろう。眸の提案に広喜は早速一つ見付け、微笑んだ眸の頷きに笑顔を輝かせた。
「オーナメントもいっぱい買おうぜ。眸と俺の目の色みてえな、緑と青の丸い飾りをたくさん!」
「そうダな。大小様々に、電飾も雪のように見える白色にしよウか」
 目の色に合わすならツリーの天辺には金と銀で出来た星を。背丈だけでなく見目も自分達のイメージに近付けていく中、広喜は仲良く寄り添う二体セットの天使人形を手に取った。
「なあなあ、この天使、眸みてえだ」
「うん、仲良しの二人でワタシ達に似ていルな」
 片方が眸に似て見えた。照れながら笑えばそれが眸にも移り、迎えたツリーは広喜が片腕で大事に抱え、オーナメントは眸が持つ事に。空いた手はしっかりと繋いで、いざ帰路へ。
「クリスマス、楽しみだなっ」
「ああ。早く帰ろウな」
 二人のツリーを飾り付けるその時はきっと、星よりも眩しい。

 結婚後一緒の時間は増えたがデートは久々。ついはしゃぐウォーレンに光流の気遣いが止まない。平気だと笑うが無理はさせられないと休憩を提案すれば、示されたのは雪だるま電飾が可愛いカフェ。
「光流さんはやっぱり、ビール?」
「いや、今は酒より君に酔ってたいからな」
 もう酔ってる? いや、だいぶ前から君に。
 くすり笑ったウォーレンの気遣いで、休憩のお供はノンアルもあるホットワインに。作り手が違う為、当然光流が知るウォーレン作とは味が違った。レシピの伝授はやんわり辞退。だって彼が作ってくれる事が極上のスパイスになる。
(「レシピだけあってもしゃあないねん。君がおらんと俺は――」)
「ふふ、ありがとうー。それにしても結構人が多いねー」
「混み合ってるさかい。くっついた方が良えかもしれへん。大きいのが二人やからな」
 手招かれ少し迷ったウォーレンだが、寒いしちょっとくらい甘えてもとくっついて。一秒一分過ぎる毎に、甘い幸せが繋いだ温もりと共に増えていく。

 全てが申し分ないだろう店を見付けた銀河と、店の様子に目を輝かす雨依。二人との外出は双牙には初であり、今日は何年ぶりかのXmasマーケット。各自買い物をし入り口で再合流は迷子の可能性という不安を消すもので、了解の声にそれじゃ後でと銀河の声が続く。
 二人と分かれた銀河の目は、暫くして色硝子で出来たペアのワイングラスに留まった。
「まるで星空みたいだな」
 購入を決めるまでに要した時間は少しだけ。盟友と暫くゆっくり酒類を飲んでいない事を思い出せば、選んだそれを気に入ってもらえるかが気になって。
(「まぁ大丈夫だろう」)
 その頃、双牙の心を惹いたのは絵入り硝子のキャンドルホルダーだった。
(「期間中、店のテーブルに飾るのも面白そうだ」)
 Xmasらしい絵柄、動物柄。いくつか適当に見繕い――特別な物も一つ。
 雨依も喫茶店に飾れる物を探していて、リースにオーナメント、カウンターに置くと良さそうな小さいツリーと色々気になっていた。なにせ汎ゆる物が可愛い。迷って視線巡らせた雨依の心を射止めたトナカイぐるみは――土産ではなく、部屋に飾る用へ。
 そうして買い物を終えて合流した三人は互いに何を買ったか披露し合う。
「俺は星空グラスだ。双牙は?」
「キャンドルホルダーだ」
「どれも素敵だと思います! 私はこれを……えへへ、楽しい思い出が出来て嬉しいです!」
 やって来るXmasは皆に優しい時間をくれるだろう。迎える新年はどうなるだろう。
(「……この面子が居るなら、悪い年ではないか」)

「クリスマスマーケットは初めて来たけれど凄く賑やかねぇ」
「可愛いものもたくさんで目移りしてしまいますね」
 雑貨物色のお供は春燕がホットワインでアリッサムがホットチョコレート。可愛らしい玩具や置物、部屋を彩るアイテム達。その中で春燕が思わず足を止めたのはクリスマスの街並み描いたキャンドルホルダーだ。
「ねぇアリッサム、これに合うアロマキャンドルって何があるかしら?」
「わぁ、素敵ですね。それに合いそうなキャンドルですと……」
 折角だから出番はXmasパーティーの時に。ならば適役は明るく華やかな香り?
 悩んだ末カシスベリー香る品にした春燕は、微笑みながら沢山のオーナメントに感嘆の声をもらした。同じように見つめたアリッサムが、でしたらと笑む。
「春燕さんにはパーティーのツリーに飾るオーナメントを選んでもらおうかしら」
「これはどう?」
 指差したそこにはサンタ帽子を被ったリスが一匹。
 色々選び合い軽い足取りで帰路についた二人を、Xmasの魔法めいたイルミネーションが照らしていた。

 中国茶屋風の内装故、西洋系の飾りは控えめ方針。だが毎年同じは飽きるとの理由でイミナを誘い出した朱砂は今、不安しかなかった。
「……いいものがあそこにあった。……見ろ、この恐ろしい形相のサンタの人形を」
 サンタならぬ惨太くん。しかもオリジナル。見回す限り煌めく物ばかりの中から、イミナはどうやって見つけ出したのか。いやルーツを考えればそれもやむを得ないと朱砂は納得した。
「……藁人形にサンタの恰好させて飾ると雰囲気が出るのではないか?」
「いやそれは縁起的に……そういやお前さんは部屋には何か飾ったり、」
「……ワタシの部屋は聖夜風に仕上げた呪具の類ならば」
 ブレが無さ過ぎる方向性。だがやや呪わしいデザインは僅かにあれど呪具の類は無く、ゆらり視線巡らすイミナを横に朱砂は年代物アクセならと思案する。パールやカメオなら着物でも合いそうだ。
「……ふっ、なんだ朱砂。……アクセで着飾った着物のワタシが見たいか?」
「まあ、ひとつきもしない内に正月だしなあ」
 見付けたその後は、限定品という特別感が良い持ち帰り可なグリューワインの元へ。

 煌めきと笑顔が溢れ過ぎるそこ、孤独の中で立ち止まってはぐれないよう時々名前を呼んでと頼むロコに、メイザースは微笑んで手を差し出した。
「それじゃお手をどうぞ、シアン?」
 人酔いにも気を付けながら行く中、目が留まったのはとある店に並ぶリース達。
「ドアに飾るのにちょうどよさそうだ」
「小振り? 豪華に? あ、ハーフムーンもかわいいな。花やリボンが青いのもある」
 視線を追ったロコは去年作った事を思い出し、店先に並ぶようなプロの作には到底及ばないと眺めていたが、自然あれこれと指し示していく。その様にメイザースはやわらかに笑み、大きめの方がと言いながら、リースと共にもう一つ。
「……あれ、ヤドリギも買ったの?」
「あぁ、クリスマスのおまじない用に、ね。当日のお楽しみだよ」
 そのまじないなら知っている。なんて教えたら楽しみが減るから、ロコは少し笑って言葉を切った。さて次は? 男の声に、じゃあと指したのは別エリア。
「気になっているんだろ」
「おや、お見通しだったか。それじゃあワインで温まって、」
 二人、共に帰るとしよう。

 炬燵の恋しさを覚えた時にはもう12月。仕事で目の下に隈が常の友人を窺うと、仕事抜きで楽しんでいるようで――ざっと一通り見終えたそこには、とても上機嫌なキースがいた。
「どれもこれも欲しくなってしまうな……。グレイシアも、何か欲しいものがあれば、買ってやるぞ?」
「オレは特に欲しいものはないけど……キースはこう言うの好きなの?」
 時代の進化を感じながらふと尋ねたグレイシアだが、でもまぁ、とかすかに笑う。少し大きめのスノードームを持つキースの表情を見れば、聞く前から答えがわかる気がした。きっと、
「日本のクリスマスは、華やかで、活気に満ちて、好ましい」
 当たった。普段の無表情も綻んで――と、その表情が自分に向く。
「なぁグレイシア、これ、買っても良いだろうか?」
「折角買い物に来たんだし、欲しいモノ買うと良いと思うよ。なんなら逆にオレがソレをキースに買おうか?」
 それは出不精なグレイシアも今を楽しみ、有意義に過ごしている証。だがキースは緩く首を振る。この時間を共有出来ただけで――それが、充分な贈り物だから。

 賑やかなそこは散策するだけで心が躍り、目移りせずにいられない。
 そこで買った物をXmasらしく交換、なんて。
「帷と贈り合い、してみてえな」
「是非やろう」
 眠堂提案の楽しそうな響きに帷はわくわくしながら頷いた。となると互いに贈る物を探すわけだが、どれも魅力的で帷の悩みは増えるばかり。その時間もXmasを楽しくさせる要素か。
「ん、これは……よし、これに決めた」
 眠堂も贈り物を決め終え、購入済み。綺麗に包まれたそれを帷が解くと、中から雪化粧し飾られた樅の木煌めくスノードームが現れた。
「帷の髪の色は雪みたいだなと思ってさ」
 楽しみを見つけた時の目の輝きも帷と重なったというそれは、Xmasを硝子に閉じ込めたよう。帷からの贈り物、同じく綺麗に包まれていたそれは雪降る街と空を行くサンタ一行が描かれた大きなマグカップで。
「これで温かいものを飲んで、温かな冬を過ごして欲しいと……そう思った」
「ああ、これで飲めば冬も安泰だな」
 次はどこへ行こう。飲み物も美味尽くしだ。
 悩み、探す時間もまた、幸せ色。

 Xmas一色の風景を見る志苑はどこか嬉しそうだ。隣を行く蓮はその様を静かに見つめつつ必要な物を探し見て――、
「まあ、此れは……」
 こぼれ聞こえた声、立ち止まる姿。何かと思えば、志苑はXmas仕様の実に愛嬌あるハニワめいた犬ぐるみを手に取っていた。
(「そういえば好きだったな、これ」)
(「今年成人した身……ヌイグルミはやはり子供でしょうか、けれど可愛いです」)
 可愛い。しかし。蓮からの視線に志苑はグッと我慢して戻す――が、それを蓮の手が取り他と共に会計をササッと済ませ、目を丸くする志苑に押し付けた。
「……今日付き合ってくれた礼だ」
「……良いのですか?」
「別に気にしなくてもいい。あんたと一緒に……隣に居てくれる」
 ありがとうございます。微笑んだ志苑は少し早いXmasプレゼントをぎゅっと抱きしめ、微笑んだ。自分も蓮への贈り物を考えよう。そして。
「今年も貴方と一緒でとても嬉しく思います」
 贈り物。その言葉以上に、志苑が隣で微笑む。ただそれだけで――。

 風邪をひかないよう巻かれたマフラーは、冴えた空気彩るイルミネーションと同じくらい優しくて温かい。
「20歳のクリスマスだしちょっと大人な飲み物を飲んでみたいな。おススメはある?」
「それでハ、ホットワインはいかが? 君といつか一緒に飲みたいなと思っていたのデス。あったまりますよ」
 20歳になったジェミに袖を引かれ、微笑んでの提案は、OKサインを得てシナモンのローストアーモンドが付いたワイン二杯に大変身。空いてるベンチに腰掛け味わえば豊かな香りが熱と共に舞い、淡く躍った湯気の向こう、輝くツリーにジェミの目が留まる。
(「そう言えば、三年前も」)
 光るツリーを目指し手を繋いで駆けた。微笑むエトヴァも、繋いだ温もりと互いの表情で同じ事を思い出しているのだと感じ、乾杯の音を響かせる。
「誰かが隣にいるクリスマスは、とても暖かいな」
「……本当ですネ。とても」
 ワインの香り。繋いだ温もり。
 ぽかぽかと増すさいわいを胸に、今年も共にツリーへと。

 今宵の戦場は標的多数のXmasマーケット。アイヴォリーが掲げた名目は高難易度だが、夜とティアンと三人で力を合わせればテーブル上はケーキビュッフェも顔負けの眩しさを誇るのみ。
(「おいしい。とてもおいしい」)
 アラザンが生クリーム彩る雪色ケーキを食むティアンは無言だが、その耳は上下に揺れている。頬に付いた雪色は、艶めくフルーツタルトに思わず目を輝かせたアイヴォリーが拭ってくれた。
 御礼に一口、隊長のもとへ。上質な口溶けと味を分け合えば笑顔が二つ咲き、これは買い! とリストに大きな丸が付いた隣。夜は小さな三角印をこっそりと。タルトと雪色のどちらをと悩んでいたティアンがそれに気付き首を傾げた。
「……夜は生クリーム苦手?」
「……いえ。苦手なのでは無く。難攻不落の砦という奴デス」
 真顔で言うも、ふふ、と笑ったアイヴォリーは予想通りお見通しで。
「ええ、高い山ですからね。甘い雪山で遭難してしまわないように、貴方にはキルシュたっぷりのフォレノワールなんて如何?」
 一等甘い微笑みへフォークで届く贈り物達と、見渡せば鮮やかに心躍らす品々。腹も満たされ気分の夜は、大量の丸印咲くアイヴォリーのリストにふわり笑む。ほんのり酩酊気味なのは、先程の贈り物のせい。
「じゃあ皆へのおみやげをタルト、当日別口で頼むのをケーキにしよう」
「ではリストの物は全部買いで!」
 当日をどう彩ろうか楽しく考えれば、普段の面子が集い余裕で食べ尽くすだろう光景が浮かぶ。宴の時はきっと、想像以上に楽しいものとなるだろう。

 自分とカメラの目でどこを見ても煌びやかで、絵にならない場所がない。さすが光ちゃんを虜にするだけあるなぁとキソラは時間も忘れて楽しんで、けれど故郷の弟妹らへの贈り物や、二人分Xmasケーキと軽めのスパークリングワインは忘れない。
 気付けばそこそこの物量に空色の目を丸くした時、天色と目が合った。祝辞贈った光の手には運命の出会いを楽しんだ証。妹達の分がまだでとアドバイスを求めたキソラは、解決してもらったお礼とお祝いに定番で悪いケドと荷物を一旦置く。
「キラキラと一緒に一枚ドウ?」
「是非。でも今日だけの一枚は定番に収まらない気がするわ」
 だって、彩りを背に写した笑顔は記憶と共に残るから。

 この時期お馴染みの世界がXmasの訪れを告げる。心は鈴の音よりも跳ね、胸は一足早い聖夜気分でいっぱいだ。
 果実と砂糖菓子でめかした艶々ケーキは、リースやツリー、雪だるまとモチーフも纏って小さな宝石のよう。小さなケーキの大行列を前に頬緩ますラウルはまるで、
「ケーキ屋さんみたいだなあ」
 上機嫌な声に視線向けたラウルの目に飛び込んだのは、チキンにソーセージにローストビーフと肉の宝石達。
「シズネも俺と同じだよ。大好きなお肉と沢山出会えて良かったね」
「やっぱりクリスマスといえば、にくだろ?」
 互いに燈ったものに二人は笑い合い、各々の宝石に舌鼓を打つ。多彩で甘い幸せとジューシーなご馳走。頬張る味は違えど思い巡らすのは、今年も傍にいてくれるサンタへの贈り物だ。
(「アドベントカレンダーも渡そうかな」)
(「絵本なんていいんじゃないか」)
 日々開いて喜ぶ顔。物語紡ぐ甘く優しい声。相手へ贈るそれはまるで自分への贈り物だが、その時を思うと何よりも欲しくなるから――心身を美味で満たしたら、笑顔の源になる出逢いを探しに行こう。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月17日
難度:易しい
参加:32人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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