姫林檎の祝福

作者:四季乃

●Accident
 声が聞こえた。
 そんな気がして歩みを止め、背を向けたばかりの教会を振り返る。
 林檎の木に囲まれたチャペルは、森の中にあるせいか都会のそれよりずっと年季が入っていて、少しばかり梁に痛みもあったけれど、外国の聖堂のような趣があって一目で気に入った。
 今日は、どうしても仕事を抜け出せなかった彼を抜きにしての打ち合わせだった。特に問題が起こるわけでもなく、教会側の人たちもプランナーさんも親身になってくれたので、緊張していたのがおかしく思えるほどの順調さで恙無く終えることが出来た。
 あとは帰るだけ、という時だった。
「気のせい、かな」
 頸を傾げ不思議に思いつつも、女性は再び前を向く。
 その背中に、ズズッと黒く大きな影が覆いかぶさった。足元に広がる不穏な気配に総身を粟立てた女性は、鋭く振り返って――。

●Caution
「おそらくは、何が起こったのか全く分からないままだったと思います」
 一人の女性が攻性植物に囚われてしまった。肢体に絡みつく木の枝は可憐な女性を容赦なく内へと取り込み、己の宿主とする。
 しん、と静まり返ったケルベロスたちを横目で見つつ、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は折りたたまれた一枚の紙を広げてみせた。どうやらそれは、件の教会が記された地図のようだった。
「この教会、姫林檎の木が植えられてるんだよ。今回、攻性植物化したのも、その内の一本でな」
 被害者の女性は教会で結婚式を予定しているらしい、と補足したのはエリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)であった。教会の正面にあたる箇所をトントンと指で叩く。
「姫林檎の木が左右に連なって、まるで一筋の道のようになっているんだと。彼女はこの道を通って帰ろうとしたら声のようなものを聞いたらしいんだ」
 それは歌声に、似ていたらしい。

 攻性植物は姫林檎の木、それも二センチほどの実を付けているらしい。配下といったものは居ないが、女性を取り込んで一体化しているため、普通に倒すと彼女もまた命を落とすことになるだろう。
 だが敵にヒールを掛けながら戦うことで、戦闘終了後に囚われていた女性を救出できる可能性が出てくる。
「いわゆるヒール不能ダメージだな。これを蓄積させるために、粘り強く攻性植物を攻撃する必要がある」
「どうやら攻性植物は林檎の実を爆弾のように投げつけてきたり、枝を振るってムチのように扱ったり……あとは、実の汁を酸に変質させて撒き散らしたりといった攻撃を仕掛けてくるようです」
「流石に変質した林檎の実は食えんだろうなぁ……」
 勿体ない、と腕を組んで唸るエリオットの横顔を見て、セリカがようやく笑みを浮かべた。けれどすぐさま表情を引き締める。
「教会の正面は林檎の木が連なった道となっていますが、元々森の中に建てられた教会です」
 左右に逸れればスペースも十分にあるので、他の林檎の木を傷付ける心配もないだろう。
「攻性植物に寄生されてしまった女性を救い出すのは大変かもしれませんが……もし可能でしたら、救出をお願いいたします」
「仕事でやむを得ず同行できなかった婚約者も、辛いだろうしな。よろしく頼むよ」
 二人の真っ直ぐとした視線に見止められたケルベロスたちは、力強く頷いた。


参加者
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
エリヤ・シャルトリュー(影は微睡む・e01913)
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)
月隠・三日月(暁の番犬・e03347)
華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)
セーブ・サパナ(楽園追放・e62374)

■リプレイ


 のそり、”脚”を伸ばして歩き出す。茂みを左右に大きく揺らして、のそり、のそり。ゆっくりとした歩みで進むのは姫林檎の木であった。
「姫林檎も教会もとっても可愛い。ここはきっと、幸せいっぱいの素敵な場所」
 言葉と共に吹き荒れた花の群れ。
「悲しいお話は似合わないのです!」
 しなやかなレイピアで嵐を巻き起こした華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)は、美しい花びらに囚われた攻性植物を見止めると、真っ直ぐ正視するように行く手を遮った。白いワンピースの裾が、空気を含んでふんわり揺れる。その傍らに寄り添うように浮いているアナスタシアは、可愛らしく鳴いたかと思えば、ぽってりしたふかふかの尻尾をくるり。リングに回転を交えて叩き込む。
 バッチィーンと乾いた衝撃音が森に響き渡って、鳥たちが逃げていった。太い幹に痛烈な一撃を喰らった姫林檎は、一瞬呆然とした様子で静止していたが、次の瞬間ぷんすかと地団駄を踏んで、地面に落っこちた林檎を踏みつける。
「わっ」
 ぷしゅ、と林檎の汁が飛んでくる。それは咄嗟に前に出たロストーク・ヴィスナー(庇翼・e02023)の腕を焼いて、瞬く間に皮膚を爛れさせた。酸だ。
「幸せな花嫁になろうって人を横からさらうなんて、感心しないなあ」
 一瞥を寄越したロストークに、姫林檎がビクンと跳ねる。襟元に花を挿したタキシード。灯と重なるその色の白さに何を視たのか、動きが寸の間、鈍くなる。
「声のようなもの……も、気になるが。まずは、目の前のコレをどうにかせんとな」
「門出の祝いには少々不躾かと。姫林檎と名乗るのでしたら、捕らえるのでは無く祝い、幸福を呼ぶものであって欲しいものですね」
 ルーン文字が刻まれた斧で地面を突いたエリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)の言葉に、頬を掠めた酸が地面を溶かしているのを尻目に見ていたレフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)が、頷き返す。
 エリヤ・シャルトリュー(影は微睡む・e01913)がロストークにマインドシールドを、リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)が前衛たちにスターサンクチュアリで守護するのを見て、白のタキシードをはためかせたレフィナードはエナジープロテクションの盾を形成。守りを強化する盾を付与されたエリオットは、大地を蹴って姫林檎の木より高く飛び上がると、敵の頭上からスカルブレイカーを叩き込む。
 太く伸びた枝を叩き割られた反動で、姫林檎の木がよろける。しかし、よろけた背後から今度は鋭い飛び蹴りが見舞われた。反対へ突き上げられた木が揺れる。
「幸せを見守ってきた林檎を、こんな悪者にするなんて……! これ以上の被害は出させないんだから!」
 青々とした葉が幾重にも折り重って降りしきる中、ヴェール越しに敵を見上げているのは、セーブ・サパナ(楽園追放・e62374)であった。白いドレス風のワンピースを、見せつけるように靡かせてすぐさま後退することで、敵の意識を引き付ける。
(「うー……このカッコ、ちょっと恥ずかしい……」)
 ほんのりと色付く頬を隠すように、ヴェールを下に引っ張って隠れるセーブであったが、効果はてきめんのようだった。姫林檎の”視線”がセーブと灯、ロストークとレフィナードの間をぐるぐる回る。
「ふむ……あれはつまり目を回しているのだろうか」
 分身の術にてレフィナードに幻影を纏わせた月隠・三日月(暁の番犬・e03347)は、後方から敵の仔細を眺めながら、ふとそんなことを思った。注目しているのは、おそらく姫林檎の記憶の中で最も見覚えがあるからだろう。それは姫林檎にとっても、きっとやさしくてあたたかなものであったはず。
 高々と飛び上がったロストークを、まるで見上げるように幹を反らして仰いでいる。が、流石に氷河の力を操る槍斧で枝をごっそりと叩き切られてしまえば、ぼうっとしている余裕はない。すっかり己が誘導されていることなど気が付きもせず、目の前をうろちょろする赤い東洋竜のプラーミァに炎で巻かれれば、流石に慌てるというもの。
「癒しの花束、いかがです?」
 灯から齎されたたくさんの光る羽と木瓜の花が姫林檎を包みこむと、優しい光とほのかな香りに充ち満ちたそれは、傷付いた木を癒していく。「あら?」とでも言うかのように、はたと動きを止めた姫林檎。ふっさりと茂った葉のあちらこちらに、白い花が咲く。
 なんだかよく分からないけど「わあい」といった風に、姫林檎の果実がぽんぽん降ってきた。それはひとたび触れると爆発する林檎爆弾であり、しかも範囲攻撃だ。土煙を巻き上げて、あれもこれもと着弾するものを等しく爆破する。
 爆弾の雨を掻い潜ったセーブがオウガナックルのパンチを放つ。続けざま幹の中心部に稲妻を突き立てたロストーク。援護するようにプラーミァが裏側からタックルすると、槍の穂先がぐぐっと深く突き刺さる。ぎゃっ、と飛び上がって伸ばした枝で払い除けようとする姫林檎であったが、アナスタシアの爪に引っ掛かれて無残に散った。
「意外と感情表現が豊かだねぇ」
 大地に塗り込められた「惨劇の記憶」から魔力を抽出していたエリヤが独語のように呟くと、地獄の炎を足に集中させていたエリオットが思わず、といったように少し苦笑交じりの笑みを漏らした。
 その傍らで、リコリスが悲哀の色を湛えた瞳を痛ましげに眇めるところであった。教会を見る度に、婚約者と結ばれる筈だった日の事を思い出す。
(「私とデウスエクス以外、生きている者は誰も居なくなった血塗れの光景。――いっそ、あの時私も殺してくれたのなら」)
 そこまで考えて、小さくかぶりを振る。
「……あのような光景も、私と同じ思いをする方が生まれる事も、全て阻止してみせます」
 中衛に向けてスターサンクチュアリの輝きを描くと、援護を受けたエリオットが地面を蹴ることで、白色の炎で出来た小鳥を解き放つ。飛び立ったそれは、姫林檎の頭上で円を描くように滑空し、自身の体を構成する炎で癒しを降らせる”幻創像・光翼のカラドリウス”。茂みにまた、花が咲いた。
 花びらのオーラを降らせることで、攻撃を受けた前衛たちの躯体を等しく癒す三日月と、ゴーストヒールの死霊魔法でエリヤが都度回復に努めてくれるのを見て、回復から転じたレフィナードは、手の爪を超硬化。途端、目にもとまらぬ素早さで駆けた姿が、次の瞬間には姫林檎の木を貫いていた。
「大丈夫。貴女をきっと、彼の元へと導きます。だから――」
 かえってきて。
 一巡、二巡、気を抜かず緩めずに、声を掛け合って互いをフォローして庇いあい、敵の様子を注視する。事前に叩き込んだ情報を駆使して、周囲にも気を配りながら懸命に戦い続ける。
 そんなケルベロスの想いが届いたのだろう。
「気をしっかり持って。彼が帰りを待ってるだろう」
 ロストークが流星の煌めきを帯び放つ蹴りで枝を撃ち落としたとき、その茂みの奥から白い手がだらりと垂れ下がるのを見た。ハッ、と目を見開いたプラーミァが体当たりして茂みを押し上げると、ごそりと音を立てて女性の華奢な上体がまろび出る。
「息は……してるな!」
 艶やかな黒髪の下で微かに上下する胸を見て、安堵したエリオットたち。すぐさまリコリスが、定められた未来からの解放を求めて「深空」を歌い上げると、触手のように伸びた枝が封じ込められるのを見た。三日月は素早い連続跳躍で姫林檎に迫り、枝の根元目掛けて一気に突きを繰り出した。
「遅い」
 ぼとりと地面に落ちた枝が、林檎の酸を浴びてしゅわしゅわと溶けていく。
「もう少し頑張ってよね……!」
 セーブが具現化した光の剣にて紗枝に絡みつく枝を切り開いていけば、レフィナードも共にマインドソードで削ぎ落す。
「白炎の地獄鳥よ、蝕む害を吸い取り癒せ」
 エリオットが姫林檎の木にヒールをかけると、矢庭に元気を得たがゆえに鞭がしなった。パシンと乾いた音を立てて、咄嗟に庇いに出たプラーミァの皮膚を裂く。
「回復は任せてね」
 盾役として積極的に前に出るちいさき竜に、エリヤが優し気な言葉と共に魔術回路の影から光の盾を具現化する。敵と味方の様子を鑑みて、少し思案していたアナスタシアは、灯と目配せするなりリングを射出した。
「大丈夫です、アナタの抱えた幸せごと、全部全部、まるっと守っちゃいますからね!」
 くるくる旋回して敵を打ったリングが尻尾に戻る際、すれ違いに敵へと向かうは華羽舞踊。キラキラとした眩しさに包まれた姫林檎の果実が、つやりと輝く。
 リコリスが奇蹟を請願する外典の禁歌を紡いだとき、放り投げられた林檎の爆弾が前衛たちの身体を掠めていった。地面に落ちて爆発したそれは、余波こそ受けたものの直撃には至らない。
 爆風を引き裂いて前に出たレフィナードが、一旦エナジープロテクションをロストークに付与することで攻撃の手を休めることにしたところ、三日月からあたたかなオーラが飛んで来た。肉体に巡るオーラが、火傷を癒し状態異常を消し去っていく。ほっと安堵の吐息を漏らして短く礼を口にすれば、三日月は口端を吊り上げて笑った。
「そろそろ貴様も辛いのではないか?」
 三日月が向き合うと、姫林檎の木は微妙に葉の色が異なる茂みをわさわさ揺らしてみせた。それが是なのか否なのかは分からなかったが、宿主を取りこぼさぬよう必死に巻き付いてみせる枝も、徐々にやせ細ったものになっている。今はかろうじて中央の幹の根元にうつ伏せに引っ掛かっている状態だ。
「謡え、詠え、慈悲なき凍れる冬のうた」
 ゆえにか槍斧に刻まれたルーンを開放したロストークは、そのまま氷霧をまとう武器をぶつけてみせた。突如、息すら凍る冷気に氷塵が鳴る。それはまるで星々の囁きのような。紗枝に纏わりつく枝も共に砕け散って、はらり降りしきる残滓の名残は、プラーミァが吐き出す紅蓮の焔に触れてとけていった。
「耐えてくれよ……」
 エリオットが白色の炎の小鳥を飛び立たせて癒しを与えるのを見て、エリヤは自分の影の一部を両翅が陽炎のように揺らめく異形蝶に変化させる。
「《我が邪眼》《羽搏く蜉蝣》《其等のゆらぎで力を奪え》」
 不定形の両翅で姫林檎を覆い、周辺の景色全てが揺らぐ幻影を見せられた木が不自然なほど傾いた。今にも倒れる、そうと思われた瞬間。
「いい加減、離してよね!」
 飛び上がったセーブが茂みに突っ込むと、紗枝の腹に巻き付いている枝を蹴り抜いた。すかさず灯が木瓜の花を舞わせてめいっぱいの癒しを降らせれば「まだ眠る時間じゃありません」レフィナードが励ましの声を、「どうか諦めないで」リコリスが懇願にも似た呼び声を放つ。
「リョーシャ、エーリャ」
 奇妙に震える様子を前に、親友たちに目配したロストークは、短い言葉を交わしただけで疎通を図ると、槍斧を引っ提げて大地を蹴る。エリヤが暗黒縛鎖にて姫林檎の木を捕縛した間際を狙い、槍斧を振り払う。まるで雷でも落ちてきたかのような苛烈さに織りなすのは、エリオットの幻創像・光翼のカラドリウス。太い幹がぱっくりと二つに割れて弾けた林檎が酸を撒き散らすのも構わず、投げ出された紗枝をレフィナードが受け止める。
 それを見て。
「――貴方に、葬送曲を」
 それはかつて、母親から受け継いだ遥か昔に滅んだ一族の歌。氷のように冷たく静謐な旋律が、深い悲しみの想いを紡ぐ。リコリスは歌う。姫林檎の朽ちゆく姿に、忘れられぬ過去を重ねて、けれど諦めたくない明日を視ながら。
 天から花びらが落ちてきた。静かに、空気を撫でるような静謐さで。三日月と灯から齎されたそれは、姫林檎の木が跡形もなく溶けていくまで、ずっと続いていた。まるで束の間の、永遠を思わせるように。


「なんだか、ずいぶんとご迷惑をおかけしたようで……」
 あたたかなケルベロスたちの笑みに触れて気まずそうに、そして多分に恥じらいを込めて紗枝が肩を縮めている。
「無事でよかった」
 悪い夢を見ていたのだ。のんびりとした口調でエリヤにそうと言われれば、何となくそんな気もするようで。ちいさく安堵を浮かべている。そうして、思い出したように教会から頂いた姫林檎を引っ張ってくると、手ずから配り始めたので、林檎大好きな面子は大いに喜んだ。
「ヴァレニエ、アップルパイ、丸ごと焼き林檎もいいね」
「あとはタルトタタンにパウンドケーキも」
「作ったことないメニューも興味あるなあ」
 指折り数えているのは、加熱調理済の林檎が好きで紗枝に親近感を抱いていたロストークとエリオットだ。そばで林檎のお菓子が大好きなエリヤが、お裾分けの林檎を両手で持ち上げてそわそわしており、二人が挙げていくレパートリーが楽しみで仕方なくてにこにこ顔を緩めている。
「作る時は僕もおてつだいしたいな」
「手伝ってくれるならありがたい。そうだ、三日月、そっちはなんかリクエストある? 作ったやつ今度道場に持ってくよ」
 姫林檎を片手に教会のステンドグラスを見上げていた三日月は、話を振られて目を丸くした。
「エリオット殿は林檎で菓子を作るのか? 楽しみにしているよ。では、アップルパイなどどうだろう」
「OK、アップルパイだな。任せてくれ」
 ニッと口端を吊り上げて笑う頼もしい姿に、つられて笑みが浮かぶ。掌で林檎を転がしていたレフィナードも三日月やエリオットに振る舞うつもりらしく「さて、なにを作ろうかな」と楽し気に思案顔。
「頼もしい林檎友達なのですー!」
 会うのはまだ二度目だけれど、セーブとはお祭りの林檎スイーツを共に制覇した仲間なのだ。と、どーんと胸を張って紗枝に堂々と言い切った彼女の隣で、肝心のセーブが声を裏返している。とてもお友達になりたいが、恥ずかしくて言い出せなかったのだ。
「えへへ、見てても可愛いけど、やっぱり味が気になります。美味しい食べ方、ご存じです?」
「えっと、種類によっては丸齧りも美味しいけど。やっぱ、りんご飴とかコンポートとかジャムとか……あ、丸ごとパイにするのも――」
 聞かれたのが嬉しくて、普段は笑うのが苦手なセーブが、このときばかりは笑顔はゆるゆる、いっそう饒舌に。可愛らしい姿に微笑を浮かべていた紗枝は、ふと傍らに立ったリコリスに微笑まれる。
「少々気が早いですけれど……ご結婚、おめでとうございます。どうか、末永く共に在れますように」
 紗枝は美しく笑った。この笑顔を守れたのならば、胸の奥底で疼く痛みも、少しだけやわらぐようで。彼についてレフィナードから飛んで来た質問に驚いて、赤面してたじろぐ横顔を見ながら、詰めていた息を吐く。
「林檎は、パイを作るのが良いでしょうかこの時期ならサツマイモと合わせるのも良いのですけれど」
 ちいさな果実に目を眇める。
 食べてしまえば、この痛みも今だけは薄れていきそうな、そんな気がした。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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