柿の奇譚

作者:芦原クロ

 とある農園では、11月下旬ごろまで柿狩りが楽しめる。
 渋味が無い、甘い柿を好きなだけもぎとり、食べ放題が可能とのこと。
 キッチンスペースとレシピも有り、スタッフ、もしくは来園者が柿を使った料理を作れる。
 独特の甘さや、歯ごたえの有る柿は、様々な料理で活躍出来る。
 チーズとの相性も良いので、チーズと柿の生ハム巻きが、この農園では人気のメニューだ。
 簡単に作れるものなら、甘い柿のホットサンドや、チーズと柿を載せたトースト。
 スイーツなら、ふわとろで甘い柿プリンや、ホットケーキミックスで作れる柿のドーナツ。
 レシピを見ながら調理を楽しむ大人や、もいだ柿を皮ごと美味しそうに食べている子供たち。
 来園者やスタッフの声が響き、賑やかで楽しそうな雰囲気が漂っている。
『タクサン、タベテ! カキハ、ビタミンC、イッパイ! ケンコウ、ビヨウ、ソロッテル!』
 急に喋り出した柿の木に驚いて、逃げようとする一般人たち。
 攻性植物と化した異形は、ツルで一般人を数人捕え、力の加減が上手くゆかずに絞め殺してしまう。
 動かなくなった一般人に、「柿を食べて」と、ひたすら繰り返していた。

「タキオン・リンデンバウムさんの推理のお陰で、攻性植物の発生が予知出来ました。急いで現場に向かって、攻性植物を倒してください」
「農園の柿の木が攻性植物と化しました。幸い、まだ予知の段階なので、一般人を助けられますね」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の説明後、タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)が冷静にそう告げる。
 頷いたあと、セリカが説明を始めた。

 来園者の数が多い為、避難誘導を担当する者と、避難が完了するまで攻性植物の注意を惹き付けておく者とで、分担するのが最善だ。
 この攻性植物は、柿を食べている者を優先して見届けるので、柿を食べたり、調理をしていれば、簡単に惹き付けることが出来る。
 避難誘導を担当した者と合流後は、美味しい柿を食べていると良い。
 ひたすら柿を食べながら、仲良く盛り上がったりすると、満足して弱体化するようだ。

 この攻性植物に配下は居らず、1体のみだが、回避率はうんと高く、逃げ足も凄まじく速い。
 通常時、一度でも攻撃されれば、逃亡する可能性が極めて高い。
 上手く弱体化させることが出来たら、逃げる気は無くなり、攻撃も確実に命中する。

「放っておけば多くの犠牲者が出ます。皆さんの力が必要です。攻性植物の討伐を、お願いします」


参加者
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
九竜・紅風(血桜散華・e45405)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのガジェッティア・e49743)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ


「先ずは、落ち着いてもらおう」
 降下中に、オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)は翼を広げて飛び回り、パニック状態の一般人たちを落ち着かせてゆく。
 攻性植物が、一般人にツルを伸ばし掛けた、その時。
「一般人の安全は、しっかり確保するわ」
 静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)が間に割り入り、ツルを叩いて弾き返す。
 それだけで攻性植物は、伸ばしたツルをさっと素早く引っ込めた。
 惹き付け役を担う4人が、迅速に攻性植物を囲むように位置取りするが、攻性植物は大きく跳躍。
 飛び退き、囲いから脱出した。
『……カキ、キズツク、ダメ。ニゲヨウ』
 攻性植物の意識を惹き付けようと、攻撃で牽制しようとしていた、リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)の動きがピタリと停まる。
 攻撃すれば、この攻性植物は目にもとまらぬスピードで逃げてゆくだろう。
 言動から察し、リサは他のメンバーに視線だけを送った。
 惹き付け役を担うメンバーも、攻撃しようとしていた動きを、停める。
(「私は、干し柿も生柿も、どちらも大好きですよ」)
『アッ、イマ、カキノコト、カンガエタ?』
 アクア・スフィア(ヴァルキュリアのガジェッティア・e49743)の思考を、まるで読み取ったかのように、攻性植物はアクアに注目。
「皆さん大丈夫です、私たちはケルベロスです。必ず助けてみせますので」
 その間に、タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)が一般人に声を掛け、安全な場所まで誘導してゆく。
(「私が危惧していた攻性植物が、本当に現れるとは驚きましたね」)
 攻性植物の動きにも注意を払っているタキオンは、視線を僅かな間、攻性植物へ向ける。
 相手は、アクアに意識を集中させており、こちらに気付く気配がまるで無い。
(「ともあれ、人々に被害が出る前に対処できるのは、不幸中の幸いですけど」)
 タキオンは引き続き、警戒は怠らず、一般人の避難誘導役を務めた。


「トトは道案内役で、なるべく怖がらせないように、楽しい行進……みたいな感じで導いてね」
 先程目にした、攻性植物のツルが伸びた辺りを目安にして、オズはそこで立ち止まり、これより先には一般人を近づかせないように動く。
 種族特徴を隠さないオズを見て、子供たちは怖がり、今にも泣きだしそうだ。
 雨の翼を使用していなければ、避難誘導に苦労したことだろう。
 怯える子供たちの前へ、緋色の翼を広げて、黒猫が接近する。
 愛らしく、優しげな瞳を持つトトは、子供たちの周りを一度飛び回ってから、ゆっくりと宙を進む。
 怯えていた子供はすっかりトトに夢中になり、楽しそうに、トトを追い駆ける形で避難してゆく。
「さぁ、この背中に乗ってね。すぐにこの場から離れるわよ!」
 シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)は、急いで走ったり出来ない者を背に乗せ、高速で駆ける。
 次々と人々が避難誘導されるが、攻性植物の意識はアクアから逸れることは無く。
(「俺も柿は好きだから、柿狩りは楽しみだな」)
 九竜・紅風(血桜散華・e45405)が思案した瞬間、攻性植物は紅風のほうを向いた。
(「……まぁ、まずは人々に害をなす攻性植物を倒すのが先決だ」)
 心が読めるのか、と。
 紅風は試しに思案を続ける。
『カキノコト、カンガエテル?』
 じりじりと紅風に近づいてゆく、攻性植物。
「思っている事を読めるわけでは無いようだな」
 その場に残ったメンバーへ、紅風が言葉にして伝える。
「つまり……柿のことを考えたら、察知するのね」
『カキ、スキ?』
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が、柿というワードを発した瞬間、攻性植物が大きく反応した。
 食いつきが、すごい。
 確かにこれなら、攻撃せずに惹き付けておくことが出来る。
 得た情報を、オズのマインドウィスパー・デバイスで伝え、情報を共有し合う。
 そのお陰で、避難誘導を完璧に終わらせて戻って来た4人は、即座に状況が理解出来た。
「少し田舎に行った時、そこらで鈴生りになっているのにそのままだから、どういうことなんだろう、と思っていたんだ」
 オズが早速語りだすと、攻性植物は、大きな柿頭を上下に揺らし、うんうんと頷いている。
「渋柿は加工しないと食べられないんだね。ここでは甘い柿を作っているっていうのは面白い」
 そう告げ、「是非守らなくちゃ」という言葉は、胸の内に留めて。
『ココノ、カキハ、アマイカラ! オイシイヨ! タベテ! タクサン、タベテ!』
 猛烈に主張し、柿を食べるようにグイグイ推す、攻性植物。
(「美味しい柿が沢山食べられると聞いて、やって来たのだけど……本当に美味しそうな柿が沢山実っているわね」)
 依鈴は完熟している柿を見て、表情こそ変わらないものの、喜んでいる雰囲気が伝わって来る。
「ホットサンドメーカーは、好きな具材を挟んで焼いて作る簡単なタイプね。ミキサーも有るわ」
 調理道具をチェックし、柿を使ってなにを作ろうかと、暫し思案する依鈴。
「皆で柿を美味しく頂きましょう」
 アクアが早速、もいだ柿を人数分、切り分ける。
「予想以上に甘くて、美味いな」
「皆で美味しい柿を食べると、楽しいわね」
 紅風が話し掛けると、悠姫は頷き、無表情だが瞳を輝かせている。
「生の柿は自然本来の甘さが、感じられますね」
「とてもジューシーで、甘みが強くて美味しいですね」
 柿を堪能する、タキオンとアクア。
「……甘い! 柿って殆ど食べたことがないから、知らなかった」
 オズは美味しい甘みに驚き、興味深そうに柿を見つめる。
「こんなに甘かったら、鳥や虫から護るのは大変だよね。農家さんって、すごいね」
『クロウガ、ツマッテルカラ、タクサンタベテ、オイシイヲ、カンジテホシイ』
 感想を述べるオズに対し、攻性植物は柿への情熱を語る。
(「柿狩りとは、興味深いイベントね。沢山の柿をお土産に持って帰る為に、頑張るわ」)
 トーストの上にチーズと柿を乗せ、とろけたチーズと柿の甘みの絶妙な組み合わせに、悠姫は舌鼓を打つ。
「溶けたチーズと、トーストの食感だけでも美味しいのに、柿が合わさるともっと美味しくなるわね」
 悠姫が感想を口にするだけで、攻性植物にとっては柿のアピールに繋がるようだ。
 攻性植物は嬉しそうに、左右にゆっくり揺れている。
「悠姫、少し分けてくれ。俺は柿のジュースを作ってみよう」
 感想を聞いていた紅風は興味を持ち、相手が悠姫なので口数も、いつもより多くなる。
「言いそうな気がしていたから、人数分作ってみたわ。皆も、良かったら冷めない内に食べてね」
 見抜いていたとばかりに、悠姫が和やかな雰囲気をまとって。
(「美味しい柿が食べられるなら、喜んで頂こうかしら」)
(「柿って、あまり食べたことが無かったけど、色々な食べ方があるのね」)
 どれから食べようか選び始めるリサと、柿の食べ方に興味を持つシルフィア。
「お一つ頂くわね」
「私も食べてみるわ。……美味しい」
 トーストを貰うリサと、少し冷ましてから食べる、依鈴。
 仲の良い2人は、楽しそうに感想を伝え合う。
「私は柿をミキサーでジュースにして、飲んでみようかな」
 レシピを確認しつつ、依鈴は皮をむき、種を取った柿をミキサーへ投入。
 ジュースのレシピも複数有り、依鈴が作ったのは、牛乳も足して柿の風味がしっかり感じられる、優しい味わいのジュースだ。
「美味しいわ。紅風さんは柿だけのジュースにしたのよね?」
「ああ。俺のは、柿をミキサーで混ぜたものだ。苦みも無い、絶妙な甘みが絶品だな」
 お互い、味見もかねて、自分が作った柿ジュースを飲み、その美味しさを味わう。
 依鈴が案を出し、紅風と共に、全員分の2種類のジュースを作り始める。
(「この機会に、沢山柿を食べて楽しみたいわ」)
 シルフィアはレシピをざっと見て、どれを作ろうか、嬉々としている。
 シルフィアと仲の良いアクアは、彼女の様子を見逃さず、微笑みを浮かべた。
(「色んな柿を食べられるのは幸せですね」)
 彼女が柿をどう調理してくれるのか、アクアまで楽しくなって来る。
「焼き柿と言う物も美味しそうよね。焼いて食べてみようかな」
 リサは作るものが決まり、レシピの通り、柿を数個ほど手に取り、十字の切り込みを深く入れて。
 アルミを敷いた上へ数個並べ、オーブンで焼く。
 その間、オズも柿をチーズと合わせて食べ、次は生ハムと合わせたり、と。
 コクと塩気で味を変え、食べ比べていた。
 出来上がった焼き柿は柔らかく、深みのある味わいと、甘さが濃密で美味しい。
 リサにすすめられ、早速食べてみる、オズ。
「口に合わなかった?」
 急に真面目な表情になったオズを見て、リサは不思議そうに問う。
「美味しいよ。これってたぶん、お酒が進むんだと思うけど、僕にはまだなんだ」
「私もまだだから、お茶にするわね。お茶にも合って、美味しいわ」
 温かいお茶を飲んで一息吐くオズが少し可愛く思えたのか、クスクスと笑ってしまう、リサ。
「どれも美味しそうで悩むけど、やっぱり、チーズと柿の生ハム巻きが一番美味しそうだな。それを作って食べよう!」
 シルフィアは一番人気のメニュー、チーズと柿の生ハム巻きに決めた。
 甘い柿は、生ハムの塩気とチーズとの相性が抜群だ。
 程よいサイズにカットした柿とチーズを、生ハムで包む。
 仲間たちが好きな時に食べられるようにと、皿の上に並べてから、シルフィアは自分の分を食べる。
「皆も食べてみてね、すごく美味しいよ!」
「食べたいですが、その前に……」
 タキオンは冷静に、攻性植物へ視線を送る。
 首を傾げていたシルフィアは、その視線の先を追い、攻性植物が全く動かなくなっているのを目にした。
 言葉も発さず、大きな柿頭が斜め下へと、かたむいている。
「敵を包囲する様に陣形を組んで、倒しましょう」
 アクアの声に応え、メンバーは素早く敵を囲み、戦闘態勢に入った。
「この蹴りで、一刀両断にしてあげます!」
 全身に力を溜めたアクアが、猛スピードの斬撃を浴びせる。
「さぁ、いくぞ疾風丸。サポートは任せるからな!」
 疾風丸に声を掛けながら、紅風が跳躍し、煌めく軌跡を描いて。
 敵の機動力を奪う、強烈な飛び蹴りを叩き込む。疾風丸はサポートに専念している。
「この弾丸で、その身を石に変えてあげるわ」
 逆側から、紅風の攻撃に合わせるようにして、悠姫が石化弾を撃ち込んだ。
 更に続くのは、シルフィア。
「セントールの蹴りを、甘く見ないでね!」
 重力が宿った、強烈な飛び蹴りを敵に食らわせる。
「自然を巡る属性の力よ、仲間を護る盾となりなさい」
 形成した盾で護りを強化する、リサ。
 敵からの反撃も無く、余裕が有る戦況を理解して。
 オズは冒険家の歌を響かせ、アタッカーに力を与える援護に回った。トトも支援に集中している。
(「柿狩りを誰もが楽しめる為に、攻性植物は倒してしまいましょう」)
 依鈴の周りを、ふわりと浮かびだす、鈴蘭の花弁。
「吹雪の様に舞う鈴蘭を、その身に受けてみなさい」
 花弁は吹雪のような勢いで敵に降り注ぎ、ダメージを与える。
 鈴蘭の香りが漂う中、タキオンは予め決めていた技では無く、別のものに替えた。
「これで、終わりです!」
 あと一撃で倒せると判断し、肘から先をドリルのように回転させ、タキオンは高威力を叩き込む。
 タキオンの読み通り、敵は霧散して完全に消滅した。


「皆、怪我していないかしら?」
 戦闘終了後、悠姫が仲間たちを見回し、確認。
「まだ柿を食べて良いでしょうか?」
 ヒールでの修復や一般人の避難解除などを済ませた後、アクアが尋ねる。
 農園の管理人やスタッフも、大歓迎の様子だ。
「折角ですので柿をお土産に持って帰りたいですね」
「柿は持ち帰りも可能らしいぞ」
 タキオンの言葉に、紅風が販売スペースを視線だけで示し、教える。
「皆で再び、柿料理を頂きましょう」
「私も、色々な柿料理を食べて楽しみたいわ」
 アクアの提案に、大賛成のシルフィア。
「皆の作った柿の料理やジュース、とても美味しかったわ。次はどんな料理が作られるのか、楽しみね」
「ジュース以外も、作ってみようかな」
 リサが仲間を褒めれば、レシピを確認し始める、依鈴。
「甘い柿プリンとかも食べてみたいですね」
「柿でプリンも作れるんだね。食べてみたいな」
 オズが期待の眼差しを向けると、アクアはお任せあれとばかりに、柿をピューレ状にし、牛乳を加えて混ぜる。
 業務用の冷蔵庫に入れ、暫く待てば、ふわとろの甘い柿プリンが出来上がった。
「優しい味だね」
 柿をエンジョイしまくっている、オズ。
「本当に、とても美味しい柿ですね」
 タキオンは表情を和らげ、ほんの少し微笑む。
(「柿かぁ、もうこんな季節になったのね」)
 実っている柿を眺めて、季節をひしひしと感じるリサ。
 寒空の下だが、温かい料理や楽しげな雰囲気で、寒さを感じさせず。
 和気あいあいと、柿を堪能するのだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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