当たりが出たら、もう一本ッ！

■リプレイ

●都内某所
「……何だか幽霊でも出そうな不気味な雰囲気だな」
　九竜・紅風（血桜散華・e45405）はセリカから受け取った資料に目を通しながら、仲間達と共に廃墟と化した工場にやってきた。
　廃墟と化した工場は不気味な雰囲気が漂っており、ネットリとした空気が纏わりつくようにして、身体に絡みついてきた。
　すぐさま、綾辻・翡翠（戦銃士・e56530）が殺界形成を発動させ、人払いをしたものの、嫌な気配は漂ったままだった。
　それでも臆する事無く、ライトの明かりを照らしながら、不意打ちなどに備えて、周囲の警戒を怠らないようにして歩いていった。
「最近は色んなものがダモクレス化していますね。一般人に被害が出る前に、早く倒してしまいましょう」
　サイレン・ミラージュ（静かなる竜・e37421）も、事前に配られた資料に目を通しながら、足元をライトで照らしながら、廃墟と化した工場に足を踏み入れた。
　工場内はヒンヤリとした空気に包まれており、いかにも何か出そうな感じであった。
「……自動販売機かぁ。僕も良く利用しているから、こういうものがダモクレス化するのは、ちょっと悲しいね」
　漣・雫紅（紅葉と夕空・e77286）が複雑な気持ちになりながら、工場内の廊下を歩いていった。
　ダモクレスと化した自動販売機があるのは、工場の中にある食堂内。
　工場が稼働していた頃は、従業員達で賑わっていた食堂も、廃墟と化した後は、不良達の溜まり場になっていたようである。
「そう言えば、当たり付きの自動販売機って、昔は良くあったわね。もう一本当たると、ちょっとした幸せな気分になれるから、嫌いじゃなかったけれど……」
　リサ・フローディア（メリュジーヌのブラックウィザード・e86488）がランタンを照らしながら、警戒した様子で辺りを見回した。
　ダモクレスと化した自動販売機は、食堂の奥にあった。
「ボクは一度も当たったことが無いけど、本当に当たりってあるのかなぁ？」
　翡翠がライトで辺りを照らしながら、不思議そうに首を傾げた。
　よく当たったという話は聞くものの、自分では当たった経験がない。
　そのため、単なる都市伝説で、実際には当たらないのでは、と言う気持ちが芽生えた。
「本当に当たるかどうか試してみたい気もしますが、あの自動販売機からマトモなジュースを頂くのは難しそうですね」
　夢月・焔華（焔の様に高く・e50952）が、警戒した様子で自動販売機に視線を送った。
　そもそも、電源が入っていないので、買う事すら出来ないのだが、例え買う事が出来たとしても、飲めたモノではないのだろう。
「例え、マトモであったとしても、流石に二本は飲み切れませんが……」
　天月・悠姫（導きの月夜・e67360）がハンズフリーライトを照らしながら、ゆっくりと距離を縮めていった。
　いまのところ、自動販売機に変化はないものの、首元を締められているのではないか錯覚する程、嫌な気配が漂っていた。
「当たりが出るかも、という射幸心を煽るよりも、流行り作品の自販機限定コラボ缶なんかを企画したほうが結果的に売れたかもしれないね」
　そんな中、オズ・スティンソン（嘯く蛇・e86471）が、鬼を滅するアニメ柄の微糖缶コーヒーをすすり始めた。
「ジ・ド・ウ・ハ・ン・バ・イ・キィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　次の瞬間、自動販売機がみるみるうちに形を変え、ダモクレスと化してビームを放ってきた。
　そのビームはまっすぐケルベロス達に向けられ、その色はコーヒー色だった。

●ダモクレス
「自然を巡る属性の力よ、仲間を護る盾となりなさい！」
　即座にリサがエナジープロテクションを発動させ、自洗属性のエネルギーで作り出した盾で、ダモクレスが放ったビームを防いだ。
　その途端、ダモクレスの放ったビームがビシャッと飛び散り、雨の如く降り注いだ。
「こ、これ、腐っていませんか？　何か妙なニオイがするのですが……」
　それと同時に焔華が身の危険を感じ、その場から素早く飛び退いた。
　実際に腐っているかどうかは別として、コーヒーとは思えないほど、生臭い。
　おそらく、コーヒーを模した別のモノ。
　見た目だけを真似た紛い物である可能性が高かった。
「ただでさえ当たりたくないのに、腐っているって……。でも、仕方ない」
　オズが半ば諦めた様子で、自分自身に言い聞かせた。
　その間もダモクレスはガシャコン、ガシャコンと音を響かせ、ケルベロス達に迫ってきた。
「さぁ、行くぞ疾風丸。サポートは任せるぞ！」
　紅風がテレビウムの疾風丸に声を掛け、ダモクレスに攻撃を仕掛けるタイミングを窺った。
　それに合わせて、疾風丸が応援動画を流し、紅風達の援護をした。
「私達も行きましょう、アンセム！　共に頑張りましょうね！」
　サイレンが仲間達と連携を取りつつ、ダモクレスを囲むようにして布陣した。
「ジ・ド・ウ・ハ・ン・バ・イ・キィィィィィィィィィィィ！」
　だが、ダモクレスの勢いは止まらず、耳障りな機械音を響かせながら、再びビームを放とうとした。
「そこまでよっ！　もう二度とビームを撃たせる訳にはいかないわ」
　その事に気づいた悠姫が、プラズムキャノンを発動させ、圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾を作り、ダモクレスにブチ当てた。
「ジ、ジ、ジ、ジ・ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ！」
　その事に腹を立てたダモクレスが体勢を立て直し、意地でもビームを放とうとした。
「意地でもビームを撃ちたいようだけど、駄目だよ。そんな事をしたら……」
　それに合わせて、翡翠がスターゲイザーを仕掛け、ビームの発射口を破壊した。
「ジ・ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ！」
　その途端、ダモクレスが真っ黒な煙を上げ、壊れた場所から色取り取りのジュースが飛び散った。
「呪われた太刀の一閃を、受けてみろ！」
　それと同時に、雫紅が呪怨斬月を繰り出し、呪われた武器の呪詛を載せ、美しい軌跡を描くようにして、ダモクレスを斬りつけた。
「ジ、ジ、ジ、ジ、ジドゥゥゥゥゥゥ……」
　次の瞬間、ダモクレスが小刻みにボディを震わせ、体内に収納してあった自動販売機型のアームを伸ばしてきた。
「あんな巨大なアームじゃ、当たる前に気づかれてしまうような気もするけど……」
　オズが素早い身のこなしで、ダモクレスの攻撃を避けた。
「ハ・ン・バ・イ・キィィィィィィィィィィィィィ！」
　しかし、ダモクレスはまったく気にしておらず、自動販売機型のアームを振り下ろし、容赦なく床を破壊して、大量の破片を弾丸の如く勢いで飛ばしてきた。
「……！」
　その事に気づいたウイングキャットのトトが、清浄の翼で傷ついたオズを癒した。
「大丈夫よ、落ち着いていれば安全だからね」
　すぐさま、リサがオズの所に駆け寄り、鎮めの風で傷ついた身体を癒した。
「ジ・ド・ウ・ハ・ン・バ・イ・キィィィィィィィィィィィィィィ！」
　それと同時に、ダモクレスが一気に距離を縮め、自動販売機型のアームを振り上げた。
「……これでは傷を癒す暇すらありませんね」
　その事に危機感を覚えた焔華がプラズムキャノンを放ち、自動販売機型のアームを傷つけた。
「ジ・ド・ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ！」
　それでも、ダモクレスがギチギチと音を立て、強引に自動販売機型のアームを振り上げた。
「……そこまでだ！」
　紅風が尋常ならざる美貌の放つ呪いで、ダモクレスの動きを封じ込めた。
「ジ・ド・ウ・ハ・ン・バ・イ・キィィィィィィィィィィィィィ！」
　そのため、ダモクレスは攻撃する事も、動く事も出来なくなった。
「この弾丸で、石化させてあげるわよ！」
　その隙をつくようにして、悠姫がガジェットを拳銃形態に変形させ、魔導石化弾を発射した。
　その弾はダモクレスの左アームに命中し、関節ごと容赦なく石化させた。
「霊体よ、ボクの刀に宿りなさい！」
　その間に翡翠が憑霊弧月を仕掛け、宝仙刀（日本刀）に無数の霊体を憑依させ、斬りつけたダモクレスを汚染した。
「月明かりの様な華麗な太刀を、ご覧あれ！」
　続いて、雫紅が月光斬を繰り出し、緩やかな弧を描く斬撃で、ダモクレスの左アームを斬り落とした。
「捕食の双牙よ、敵に絡みつき、その身を食らい尽くしなさい！」
　次の瞬間、サイレンがストラグルヴァインでツルクサの茂みの如き蔓触手形態に変形すると、ダモクレスに絡みついて締め上げた。
　それに合わせて、アンセムが猫ひっかきを繰り出し、ダモクレスのボディを引っ掻いた。
「ジ、ジ、ジ、ジ、ジ！」
　その事に危機感を覚えたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせ、缶型のミサイルを飛ばしてきた。
　そのミサイルは天井に当たって爆発し、大量の破片とジュースを撒き散らした。
　それは、まさしく地獄絵図。
　甘いニオイや、腐ったニオイ、そこにコーンのニオイが混ざって、大変な事になっていた。
「ジ・ド・ウ・ハ・ン・バ・イ・キィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、再びミサイルを放とうとした。
「そんな事をしても、無駄です」
　それを迎え撃つようにして、サイレンが紅風と連携を取ってグラインドファイアを仕掛け、ダモクレスがミサイルを放つ前に爆発させた。
　その途端、ミサイルが次々と爆発し、大量の破片がダモクレスのボディに突き刺さった。
「自業自得ってやつだな。それにしても、大丈夫か。そんなに液体を浴びて……」
　紅風が軽く皮肉を言いながら、疾風丸を引き連れ、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
「ジ、ジ、ジ、ジッ！」
　その影響が出ているのか、ダモクレスが小刻みに痙攣を始め、真っ黒な煙を上げた。
「あちこちガタが来ているようですね。それでは、この一撃で終わりにしましょうか」
　それと同時に、焔華がダモクレスの懐に潜り込み、抉り込むようにして獣撃拳を叩き込んだ。
「ジ・ド・ウ・ハ・ン・バ・イ・キィィィィィィィィィィィィ！」
　その一撃を喰らったダモクレスが、断末魔にも似た機械音を響かせ、ブスブスと煙を上げて崩れ落ちた。
「終わったかな？　皆、怪我は無かったかな？」
　翡翠がガラクタと化したダモクレスから視線を逸らし、仲間達の無事を確認した。
「うう、洋服が飲み物でベタベタ……」
　その問いに答えた後、雫紅がゲンナリとした表情を浮かべた。
　ダモクレスと戦っている間は、まったく気にならなかったものの、汚れとニオイで身も心もヘトヘトであった。
「それにしても、廃墟の工場って不気味ね。早く帰ってしまいたいわ」
　悠姫が不機嫌な様子で、廃墟と化した工場から出ていった。
「それじゃ、早く帰ろうか。トトもお疲れ様。一緒に帰ろう」
　オズがホッとした様子で、トトの頭を優しく撫でた。
　そのためか、トトは、何処か誇らしげ。
　えっへんと言わんばかりに、胸を張っていた。
「……そうね。喉が渇いたから、自動販売機でジュースを買って帰ろうかしら」
　そう言ってリサが乾いた喉を潤わせるため、仲間達に別れを告げ、近くの自動販売機に行くのであった。

作者：ゆうきつかさ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年11月28日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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