クリスマスマーケットの怪異

作者:四季乃

●Accident
 きらきら。ちかちか。
 溢れんばかりに輝く数多の光が更けた夜を彩っている。白、黄、青、取り取りの眩さに目が眩みそうな洪水の中、ヒュッテとツリーに縁取られた通りを人々は往来する。
 光を瞬かせる電飾を巻き付けたクリスマスツリーがあった。本物のモミの木ではない。天辺にお星さまが輝く、何の変哲もない人工のツリー。ただ一つ妙なことだと挙げるとするならば、お星さまの近くで何か光の粒子がくるくるまとわりついていることだろうか。他のツリーにそんなイルミネーションはない。でもこのツリーだけ、特殊な光を放っている。
 残念なことに、それは光の粒子などではなかった。
 正確には、金属粉のような攻性植物の胞子だったのだ。鈍く光るそれはイルミネーションの輝きを浴びて独特な光を放つ。胞子はまるで検分でもしていたかのようにツリーの周辺を漂っていたかと思うと、天辺のお星さまに向かって飛んで行った。胞子が黄色い光に融けるようになくなった。
 ――直後。
「メ、メ、メ、」
 奇天烈な声を出しながら、突然クリスマスツリーがぶるぶる震えだした。ちょうど足元には、ツリーを見上げていたちいさな少女が居た。彼女は目を真ん丸とさせると、隣で会計をしている母親を見上げ「ママー!」「ツリーがお喋りしたよー!」とはしゃいだ声をあげる。
 すると、ツリーは子どもの声に触発されたのか。
「メリィィィィ、クリスマァァァス!!」
 プレゼントあげるよーとでも言うかのように、木の根元に飾られてあったプレゼントボックスを伸ばした”枝”で掴み、少女目掛けて振り被った。

●Caution
「クリスマスマーケットにツリーの怪異現る、ですね」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はとても残念そうに、けれど何だかくすぐったそうな表情をしていた。事前に配られた雑誌にはヒュッテとツリーが連なるクリスマスマーケットの写真が大きく取り上げられており、美味しそうなスイーツやホットワインの紹介が数ページに渡って特集されている。
「噴水広場のツリーは本物みたいだけど、通りのツリーは大体が人工なんだって。だからかな、ダモクレスになっちゃったのは」
 そう言って、りかーの顎下を人差し指で撫でていた癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458)は苦笑を漏らした。放置していればマーケットに訪れた人々が虐殺されてしまうのは目に見えている。グラビティ・チェインを奪われてしまう前に、撃破しなくてはならない。

「これは植木鉢に入っているタイプのツリーなのですが、ダモクレス化したことにより植木鉢の裏に車輪がついて自由に走行できるようになったみたいですね。加えてモミの木の枝を自在に伸ばして操ることも可能なようです」
 天辺のお星さまからビームを撃ったり、針状の葉を吹き矢のように飛ばしたりといった攻撃を仕掛けてくるらしい。
「そしてなんと、プレゼントをくれるらしいよ」
 様々な形をしたプレゼントボックスを無差別に投げて寄越してくるのだとか。もしかするとそれは多くの子どもたちを見守ってきたクリスマスツリーの残留意思の影響によるもの、なのかもしれない。
 しかし。
 このダモクレス、どうやら攻性植物の胞子に入り込まれたものらしく、そのせいなのかプレゼントの中身は毒に侵されたポインセチアの花びらなのだそうだ。開封すればひとたび内から飛び掛かってくる花びらの群れ。落っことしたり斬り付けたりといった衝撃でも開いてしまい、襲い掛かってくるという。
「現場は人通りの多いマーケットのど真ん中です。幸い通路は比較的広いので小回りは効くと思いますし、皆さんならうまく対処できると思います」
 マーケットの運営スタッフや警備員に避難誘導の協力を願い出ているので、一任しても大丈夫だろう。ただ、ダモクレス化したツリーの周辺は子ども用のぬいぐるみやおもちゃが販売されているヒュッテの一画なのだ。ショーと勘違いして居残る子が出てくるかもしれない。
「せっかくのクリスマスイベントに、怖い思いはさせたくないよね」
 強敵ではないようなので、工夫を凝らして子どもたちから引き離してあげてほしい。
「この事件は恐らくユグドラシル・ウォーで逃げ延びたダモクレス勢力によるものと思われます」
「事件を解決していけば、奴らに繋がる何かが得られるかもしれないね」
 そのためにはまずこのクリスマスツリーを退治してほしい。
「お仕事が終わったら、ほら。楽しい時間だよ」
 ヒュッテが立ち並ぶクリスマスマーケットの雑誌を拡げて和がにっこり笑った。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458)
ディオニクス・ウィガルフ(否定の黒陽爪・e17530)
天原・俊輝(偽りの銀・e28879)
月岡・ユア(皓月・e33389)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)

■リプレイ


 小さく、恐れも驚きも感じぬ音が、少女の口からまろび出た。投球された白いプレゼントボックスが勢いをつけて自分に差し迫っている状況を、把握できていないのだ。
 足の裏に根っこが生えたみたいに、じっと立ち止まっている。手荷物を全てぶちまけた母親が必死の形相で手を伸ばすが、しかし。
 間に合わない。
 誰もが思い、絶望したそのとき。
 忌みの力が宿りし月光の刃が、プレゼントを叩き切る。二つに割れた残骸から庇うように、ふわりと抱きすくめるような優しさで少女の視界を遮ったのは、目口を柔和に下げた天原・俊輝(偽りの銀・e28879)であった。
「クリスマスは楽しいイベントなんだよ! 楽しいを邪魔するなんて許さないんだからね!」
 姿を現すなり足の爪先から徐々に変身していく月岡・ユア(皓月・e33389)に、”終焉ノ月律”の切っ先を突き付けられているツリーが後ろへよろけた。
「楽しいクリスマスを狙うワルモノめ! ツリーに取り付くなんて、ボク達ケルベロスが許さないぞ!」
 しゅた、と傍らに着地して、すぐさま周囲に雷の壁を編み上げたのは、サンタ服に身を包んだ癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458)だった。武装を変形させながら立ち上がり、肩越しに振り返ってその口元に力強い笑みを刷けば、張り詰めていた空気がやわらいでいく。
「ツリーも楽しいクリスマスもボク達が取り戻すよ! だからみんなはあっちでがんばれ! ってお祈りしててくれるかな?」
「そう! ボクらに任せて、皆は離れていてね? 応援してくれたらボクらいーっぱい強くなれるから!」
 わっと歓声が沸く。それが悔しかったのだろう、ダモクレス・クリスマスツリーはぷるぷる小刻みに震えたかと思えば「こっちを見て」と言わんばかりにバンザイしてみせた。
「メ、メ、メリィ」
「メリークリスマース! さあ、パレードが始まるよ!」
 突然、空気が爆発したみたいに、辺りの音も声も全て掻き消すようなギターの音色が弾けて膨らんだ。金色の羽を羽ばたかせ、清浄なる風を起こしているグリの傍らで、ギター演奏を披露しているのは曽我・小町(大空魔少女・e35148)だ。リズムに乗って身体を揺らし、全方位に声を響かせれば大人も子どもも熱狂する。
「皆、ついてこれる?」
 いつの間にかヒュッテ通りにはクリスマスの飾り付けをされたレスキュードローンデバイスの移動ステージがあって、イルミネーションに負けずとも劣らぬ輝きを放っているではないか。それは、すべての人を魅了させるようなフェスティバルのオーラで抱きしめる。
「皆さんはプレゼントがもらえるような良い子たちかな? さ、ヒーローがクリスマスツリーさんに取りついたオバケをやっつける間にサンタさんと一緒に、こっちへ行こうね」
 腕を一生懸命に伸ばして、アピールをする子どもたちを微笑まし気に眺めつつ、俊輝サンタはユアたち前衛へメタリックバーストのプレゼントを残して歩き出す。
 ツリーがそちらに向かって前進した瞬間、天辺に鎮座する星にごちん、と鈍い衝撃が走った。星をさすりながら立ち止まると、封印箱からくるりと姿を現したりかーが、尻尾をふりふりさせていたずらに笑っていた。一般人の背中を守るように左右から立ち塞がった美雨とユエたちビハインドが、後追いなどさせないと言った風に、ボロボロになったプレゼントボックスをツリーへ返却。ばちんと激しく打ち返されてふらふらな足元に、今度は小型ミサイルが撃ち込まれた。
「ずどーん」
 背後から寄越された一撃は、見事に爆発。夜空を押し上げるようなカラフルな火花を散らすツリーを仰ぎ見て、伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)は、背後を振り返ると親指を立立てた。
「ほわほわのクリスマス、ちゃんととりもどすから、なー。まかせろー」
「さあ、危ないから下がっておいで」
 殿の俊輝に逃げ遅れた子どもを預けるオズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)の影から、ぶんぶんと手を振って弾けるような笑顔を浮かべている様を目にし、ちいさな安堵を見せたアリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)は、木漏れ日のような光を降らせ始めた。
「大丈夫です、怖いツリーのオバケは私達がお尻ぺんぺんしちゃいますから」
 ふんわりと微笑みながら光の中で舞う足元にツワブキの花が咲く。花言葉のおまじないと日陰でも咲く奥ゆかしい黄色は、見る者の心を震わせる。それは先を見通す能力と、困難に耐える力を与える”花獄の舞~石蕗~”だ。
「では、手筈通りによろしくお願いします」
 星の輝きを宿した魔力の柱を、通りに突き立てて出発した小町のパレードを横目に、警備員へそっと声をかけたディオニクス・ウィガルフ(否定の黒陽爪・e17530)は、両腕を黒炎で肩まで燃やし、縛霊手とアームドアームデバイスを装備。アリッサムからやってくる暖かな流れを身の内に巡らせると、クロスした腕と背の腕を一気に広げニィと笑う。
「メルィィィクリスマァァアス!!」
 赤っ鼻のトナカイ服に身を包んだ大男の全身から放出される、光輝くオウガ粒子にビクンと身を震わせたツリーであったが、しかしツリーはそのまま車輪をきゅらきゅら鳴らして円を描くように駆け回り始めた。
「イィィルミネェィショーーン」
 かと思えば、ぴかーっと眩い光を奔らせた。
 キュンッと空気がひりつくような鋭さで回転を描いて走った光は、至近に居たディオニクスたち前衛の身を等しく灼いた。閃光のごとし素早さと苛烈極まる一撃に、トトがすぐさま飛び上がって上空からヒール。
(「書物で調べてはいたけれど……初めてのクリスマスだ。あまり苦い想い出にしたくはないな」)
 漆黒の翼を大きく広げたオズが、傷付いた仲間に向かって羽搏きを起こせば、それは心の乱れを鎮める風となる。あまり大怪我にならずに済んで、ほっと一息ついた和。
(「これ……ブラックサンタだよなぁ」)
 どるるんと唸るチェーンソー剣にちらと視線を落とした和は、脳裏に包丁を振り回すなまはげを想像して唇を引き結んだ。ぎゃりぎゃり轟音を掻き立ててツリーを斬り付けた和と入れ違いに、縛霊手の掌から巨大光弾を発射したディオニクスなど、
「バッドステータスのプレゼントだ。受け取れイカ野郎!!」
 と、まぁこんな風に、子どもたちが居なくなったとたん遠慮がなくなる始末だった。
「ぐるぐるにするぞー」
 後方から広く戦況を見渡していた勇名は、やたらよく動く車輪付きの植木鉢に目をつけると、風を切って振り回していた黒鎖を放り、絡め取る。その瞬間、美雨が金縛りにて動きを阻害すると、空を掻くように空回る車輪が悲しい音を立て、もがいた反動で後ろに倒れ込んでしまった。
 ブラックスライムを捕食モードに変形したユアの”死与の漆黒”がガブリと喰らい付けば、ツリーはその痛さに驚いてぴょーんと高く飛び上がる。そしてズシンと僅かに大地を揺らして正位置に着地。
「まぁ……身軽なんですね」
 キープアウトテープで現場を封鎖し終えたアリッサムが、味方の受けたダメージ量から推察して、グリにマインドシールドを付与。トトは後衛たちに清浄の翼で耐性付与に臨む傍ら、率先して味方への攻撃に対して庇いに出ていたグリが、空中で一回転してキャットリングを撃ち出した。激しい音を立ててツリーの中ほどに命中したそれは、いくつかのオーナメントを破壊して、細かな枝葉を削いだようだった。
 短い声を漏らしてぷるぷる震えるツリー。何か良からぬことを――そうと察したオズが金色の瞳を眇めた矢庭に、パッと目の前で何かが散るのを見た。空中を漂うそれは鉄臭くて、石畳に落ちて赤く咲く。
「皆さん、お待たせしました」
 頬に引かれた赤い一筋。親指の腹で滴る血を拭った俊輝は、そのまま腕に突き刺さった細いモミの針を引き抜いて、炎を纏った激しい蹴りを繰り出した。全体、やや中ほどに喰らったその一撃で、ツリーがくの字に折れ曲がって勢いのまま吹き飛んでいく。その背後に回り込んだユエがポルターガイストで残骸を叩きつけると、りかーが吐いたブレスが敵を丸っと包み込む。
「さぁここからは、特別ライブの始まりよ!」
 ぷすぷすと黒煙を上げてよろりと立ち上がったツリーが、小町を見つけて飛び上がる。どうやら先ほど自分の台詞を奪われたことを根に持っているらしい。”腕”をぶんぶん振り回してプレゼントボックスを叩きつけるツリーであったが、
「いつだってその光が見守ってくれているエール。独りだって無敵になれる。Listen to the 『Song of starlight』」
 始まった小町のライブに、思わずつられてしまったのか全身がゆさゆさ揺れる。人を見守る星々の歌は、生きる道を照らし導く標である。俊輝の周囲で乱反射する星の光が、躯体の傷を見る間に癒していった。
 それまで回復に徹していたオズは、ちょっと悲し気に眉を下げると、
「楽しそうなところ、ごめんね」
 毒のオーラを纏いし大蛇の尾で、打ち据えた。びたん、と――おそらく――正面から地面に突っ伏したツリーの上に、和の飛び蹴りが炸裂。天に向けて両手を振り上げた勇名は、軽い身のこなしでサッと脇に引いた和と入れ違うように、
「どっかーん」
 竜を象った稲妻を落っことす。
「オラァ! 寝てる場合じゃねぇぞォ!」
 そう言って倒れ込んだツリーを鷲掴みにして持ち上げたディオニクスに、微かな苦笑を浮かべてみせた俊輝は轟竜砲を撃ち出した。それは放り投げられたツリーのみに命中し、左から飛び掛かってきた美雨にオーナメントの礫を喰らったことで、大きく吹っ飛ぶこととなったのだ。
 それでもまだ、むくりと起き上がって星を煌めかせ接近を阻むようにレーザーを撃ち出してくるあたり、まだ自分が廃棄処分されるようなものではないと思っているのかもしれない。
(「武器が刃物だけにブラッドサンタになりかねないなぁ……なんて、ね」)
 歪に伸びた枝を居合い斬りにて叩き切るユアの影から、両手でプレゼントを叩き込むユエを横目に、アリッサムと小町は互いに目配せをし合うと、まずアリッサムが動いた。
「”いつでも咲顔を忘れない”黄色は、”先見の明”がある証。大丈夫、私達はこの程度の” 困難に負けない” 筈です」
 花獄の舞にて傷付いた前衛の身体をやさしく包むと、小町がその傍らを駆け抜けていく。
「プレゼントは子供たちの希望を聞いてあげなきゃね? ツリーが減るのはちょっぴり残念だけど、こういう催し物は安全第一なのよね!」
 鋼の鬼と化したオウガメタルで拳を作り、ツリーの中心部を狙い振り抜いた。そこへ。
「過日の幻、薄暮の現、黄昏の夢、宵闇の真――」
 爪で切り裂き流し込む絶望の獄炎に神経を晒す、それはアトラス精霊術の一種である。精神操作によって不安定になったツリーが、ガクガクと震えだし植木鉢が粉々に砕けて崩れていく。
 なにを視ているのか、過日の幻に苛まれるクリスマスツリーを聊か哀れに思い、オズは竪琴を弾くと、歌を口ずさみながら光を放つ。希望という名の眩しき白が、星を抱いて夜空に散った。
「早いけど……メリークリスマス」
 こっそり囁いたユアの言葉が、夜のしじまにとろけていく。


「いっぱいうごいたから、あまいものがとてもじゃすてぃすーだぞ」
 赤い髪を揺蕩わせて、勇名がお菓子通りを駆けている。軽やかな足取りであとをついてくる子どもたちの中に、例の少女を見つけた勇名は立ち止まった。
「こわい、もうないといいな」
 あまり表情が変わらない勇名であったが、返ってきたのは満面の笑みだった。そのやさしさは、きちんと伝わっている。
 そんな微笑ましい様子にやさしく笑みを浮かべていたアリサッムとオズは、テープを回収して辺りの片付けを終えると、それぞれクリスマスマーケットの人波に消えていった。
「大人も子供も楽しい時間を過ごせるクリスマスマーケットが、悲しい思い出の場所になってしまわなくて、本当に良かった……」
 すれ違う人々のあたたかな笑顔に触れると嬉しくなってくる。アリッサムはみなの様子に安堵を覚えつつ、自宅用のクリスマスツリーの飾りを探したり、あるいはクリスマスケーキの候補を食べ歩いてみたりと、わくわくした面持ちがずっと続いて、その足取りはいつもより軽かった。
 一方のオズはトトを肩に乗せ、書物で得た予備知識と実際のクリスマスを比べたり、漂ってくるワインやシナモン、チョコレートに粉砂糖といった様々な香りに睫毛を伏せる。耳朶に届くのは子どもたちの笑い声、少年少女の初々しい囁き声。大人たちの、ちょっと大変そうで、でも何だか嬉しそうな声。
「みんな、ありがとう! これでクリスマスプレゼントもらえるね♪ やったー!」
 ふとどこからかユアの声が聞こえてきた。少し先に開けた場所があって、そちらに進むと、どうやら小町がライブを開いているようだった。その傍らで子どもたちを集めたユアが、無邪気に笑いかけているのが見える。
「時間はたっぷりあるから、いい子に並んでね!」
 歌うようにギターを鳴らす小町に合わせて、子どもたちが踊る。そのすぐ隣では和がトナカイの衣装を着たりかーと一緒に、子どもたちと握手をしているようで列をなしている。
「みんなの応援が力になったよ、ありがとう」
 と微笑めば、隣に立って五歳児を両腕に抱きかかえていたディオニクスが、首を伸ばして近付いてきた。
「魔法少女なごさん、も見たかったけどな? 今度やろうぜ」
「似合わない」
 全力で嫌がる和にケラケラ笑い、ディオニクスは次の子どもたちに目線を合わせる。
「この後はクリスマスマーケットを楽しむか。ホットワインと肉で優勝、とな?」
「そうだね。それは賛成」
 和は吐息が抜けるように笑った。

「ヒュッテ、というのですね。色々面白そうなものがありますね?」
 存外造りのしっかりとしたヒュッテを仰ぎ見て、ワインに口を付ける。俊輝は、両手でホットアップルサイダーを包み込んでいる美雨が何かを熱心に見つめていることに気が付いた。
「ああ、これはツリーのオーナメントショップですよ。色んな種類がありますね」
 白銀の丸いボールに、雪の結晶をしたもの。中には可愛らしい天使の形をしたものまで様々だ。ぽーっと見とれるように、きらきらした光に夢中になっているので、俊輝はやさしく目口を下げた。
「1つ買って帰りますか? きっと来月はウチもツリーを飾るでしょうし。お土産に」
 パッと振り返った美雨が笑みを綻ばせる。
 振り返れば、美雨と同じように微笑う子どもたちがいた。大人たちも同じくらいあたたかな気持ちでふくふくとした表情を浮かべていて、クリスマスというのは不思議な魔法だなぁと、二人の背後を通り過ぎていったオズはくすぐったくて不思議な気持ちになったのだった。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。