秋の紅葉狩り

作者:芦原クロ

 鮮やかに色づいたモミジが、観光客の視界を包み込む。
 モミジのトンネル、と。呼ぶのに相応しいほど、歩道に沿ってモミジの木が並んでいる。
 スマホやカメラで撮影したり、途中の出店で買ったたい焼きを頬張りながら紅葉を楽しんだり……と、一般人の歩くスペースは遅い。
 紅葉のトンネル内にずっと居たい、と思っているかのようで。
 それ程に絶景で、幻想的な雰囲気が漂っていた。
 不意に、入り口方面から悲鳴が響く。
 驚き、振り向いた人々の目に映ったのは、巨大化した1本のモミジの木だ。
 攻性植物になり、動いている。
 パニック状態で逃げ回る一般人を、異形は惨殺してゆく。
 美しい紅に、おぞましい赤い血潮が重なり、現場は凄惨な光景と化した。

「尾方・広喜さんの推理のお陰で、攻性植物の発生が予知出来ました。現場に急行し、攻性植物を倒してください」
「攻性植物から紅葉狩りの名所を守ろうぜ」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の言葉に続く、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)。
「尾方さんが言っている通り、紅葉狩りの名所です。その為、観光客の数も多いですが……避難誘導を担当する者と、避難が完了するまで攻性植物の注意を惹き付けておく者とで、分担すれば大丈夫です」

 配下は居らず、攻性植物は1体のみ。
 歩道の入り口付近に広いスペースが有るので、そこが戦場としては最適な場所だろう。
 戦闘中、少し気をつけていれば、他のモミジの木が傷つくことは無いハズだ。

「放っておけば多くの死者が出ます。攻性植物の討伐を、お願いします」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ


 降下時、華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)は用意した通信機を確認。
 避難誘導を完璧にこなす為、観光客が良く見える上空から、降下中に人数や位置を把握し、仲間に伝える。
 取得した情報を、アイズフォンでメンバー全員に伝える、ジェミ・ニア(星喰・e23256)。
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)は地図を見ながら、地形を確認している。
 メンバーが地面に着いた頃には、攻性植物が動き出していた。
「俺は敵の惹きつけ役を担当するぜ。こっち来いよ」
 デバイスを使って高く飛翔し、先手必勝とばかりに攻撃を叩き込む、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)。
(「攻性植物化してしまった紅葉には申し訳ないですが、被害が出る前にやっつけてしまいましょう」)
 カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)も、即座に攻撃。
 広喜は敵の前を飛び回りながら、カルナは攻撃を続けて、攻性植物の意識を惹き付け、広いスペースへと誘導してゆく。
「ここは護りマス。大丈夫ですよ」
 光の翼で空を飛びながら、一般人に対して声を張り上げるのは、バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)。
「避難ー。……んうー? うごけない? もんだいない、はこべる」
 腰を抜かしたり、恐怖心から動けなくなった一般人を、アームドアーム・デバイスで運び始める、伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)。
 バラフィールも、レスキュードローン・デバイスに思念で命令し、確保した安全なルートを通って複数人をいっぺんに運搬する。
(「避難は迅速にだけど……」)
 強化ゴーグル型のゴッドサイト・デバイスを着用している灯は、敵と仲間の位置を再確認。
「焦らなくて大丈夫ですよ! 何しろ、最強の私と仲間が! 皆さんを絶対守りますから!」
 不安がる一般人を少しでも安心させようと、明るい笑顔と共に言い切る、灯。
「落ち着いテ、避難してくだサイ」
 エトヴァは凛とした風を使用。
 パニック状態になっていた一部の人を礼儀正しくさせ、避難を促す。
 人々が次々と移動してゆくことに気付き、敵は再び一般人のほうへ意識を向ける。
 避難中の一般人を攻撃しようと動いた瞬間、碧蓮火力式機械剣で敵を叩き潰す、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)。キリノは指示通りに、ポルターガイストで足止めを敵に付与した。
「余所見をすルな。ワタシが相手ヲしてやろう」
 敵の攻撃が、一般人へ向かおうとすれば、身を挺してでも庇う気で。
 避難してゆく人々と、敵との間に割り入り、進路を妨害する、眸。
 怒りが付与されたのも重なり、敵の意識は完全に、眸へ向けられた。


(「お客さん達を傷つける訳にはいかないのです」)
 周囲の紅葉、そして店等を、なるべく壊さないように注意しつつ立ち回る、ジェミ。
「紅葉さん、こっちこっち!」
 敵に呼び掛けを行ないながら、ジェミは魔法陣を描き、前衛陣の守護を高める。
(「鯛焼きは粒あんが良いですかね。チョコとか抹茶も気になりますが……その前に、お仕事もきっちりやりますよ!」)
 マイペースに、たい焼きについて思案していたカルナだが、はっと我に返り、今は仕事に集中しよう、と。戦闘態勢に入る。
「しっかり退治して、紅葉も甘味も楽しめたら良いですね」
 カルナは輝く果実を実らせ、聖なる光で前衛陣の耐性を強める。
 続くのは、ふわもこなウイングキャット、2体。
 灯のアナスタシアが、「しっかり皆さんを支えるんですよ」と事前に言われた通り、翼を羽ばたかせ、前衛陣にBS耐性を付与。
 バラフィールのカッツェも、清浄の翼で、後衛陣の耐性を高める。
 直後、侵食された大地が揺れ、前衛陣を飲み込んだ。

 一方で、避難誘導の役目を担った4人。
 戦闘の衝撃や敵からの攻撃などが、絶対に届かない安全な場所まで、誘導している。
 情報共有ももちろんだが、デバイスの駆使、そして必要に応じてアイズフォンの使用。
 逃げ遅れが出ないように注意し、泣きだしている子供には優しい声を掛けて。
「落ち着いて……お連れの方とはぐれないように」
 一般人を安心させながら避難誘導を急ぐ、バラフィール。
 誰1人でも欠けていれば、ここまでスムーズに、多い観光客の避難誘導は出来なかっただろう。
「大丈夫なのです! 頼もしい仲間と私がいるので、少しだけ待っててください!」
 不安がる一般人に対し、灯は大船に乗ったつもりでいるようにと、自信満々に答える。
「たのもしいが、みなぎる」
 無表情のまま、こくっと頷いて見せる、勇名。
「全員の避難が完了しまシタ。急ぎ、合流しマス」
 一般人を数人、誘導して来たエトヴァが、取り残しは居ないと断言。
 念の為、はぐれた者は居ないかを一般人に確認した後、急いで戦場へ向かった。

 戦場では、苛烈をきわめる戦闘が繰り広げられている。
 催眠が付与されると、優先して解除につとめ、回復もこまめに行なう。
「全部ぶち壊してやるよ。俺たちが最後まで見届けてやる」
 敵が回復して耐性を得た際は、広喜が即座に、青い地獄の炎を手に纏い、護りごと砕き潰す。
 衝撃で、モミジの葉がヒラヒラと落ちてゆく。
「せっかく綺麗な紅葉なのにもったいねえな」
 常時、笑みを浮かべている広喜は、舞い落ちる紅葉を一瞥。
「怒りでダメージ分散です!」
 ジェミは美しい虹をまとう急降下の蹴撃と、神速の突きを見切られないよう交互に繰り出し、怒りを複数付与していた。
 それが終わると、影の中から漆黒の矢を出現させる。
「餮べてしまいます、よ?」
 漆黒の矢は変幻自在な軌道を描いて、敵を射抜き、生命を奪い去る。
「4名が戻ルまで少しでも多く、ダメージを与えておきたイな」
 眸も怒りを複数付与させており、回復が間に合わない時は、キリノが敵の行動を妨害している内に、シャウトで治癒。
「穿て、幻魔の剣よ」
 他の紅葉が傷つかないようにと、動いていたカルナが、魔力を圧縮して不可視の魔剣を形成。
 魔力の塊である剣が敵を穿ち、深い傷痕を残す。
 敵も負けておらず、咆哮を響かせ、怒りを掛けた2人が居る前衛陣を狙って。
 大地が前衛陣を覆うように飲んだ直後、華麗に飛び出した影が1つ。
「私が来たからにはもう安心です!」
 駆け付けた灯が、明るい声をあげる。
 エトヴァと、勇名と、バラフィールも合流。
 仲間を庇い、戦線を維持していたジェミは、大切な存在であるエトヴァを見て、思わず安堵の息を零す。
「キュアでサポートしマス。樹も施設も傷つけぬ立ち回りデ、攻性植物の撃破にも専念しますネ」
 戦況を素早く見極め、エトヴァは戦う者達を癒やす音を、奏でる。
 新たに加わったメンバーに敵は警戒し、ツルクサを伸ばして。
 前衛陣を癒やしたエトヴァを、ツルで締めあげた。
「えとば、ぴんち。華輪のたべられるヒールの、でばん。たのしみ」
 勇名はわくわくしつつ、怒れる女神カーリーの幻影を出現させ、敵を狂乱させる。
「華輪灯のーっドキドキ女子力クッキング!! これをこうしてこうしてこうやって! 完成ですね! さあ、召し上がれ! 甘いグラビティでテンションあげあげです!」
「うん、美味しいデス」
 灯が可愛いドーナツをエトヴァに投げると、上手く口でキャッチする、エトヴァ。
「灯さんのそれは、食べて大丈夫なんですよね?」
「味方には可愛いドーナツ! 敵には謎のアレ! カルナさんもアレがご所望です?」
 カルナの問いに、灯が元気良く答える。
 問われ、ふるふると首を横に振る、カルナ。
「調べを後衛に」
 バラフィールは、歌で呼び寄せた魂を後衛陣に纏わせた。
 それから更に数分、蓄積された状態異常で、敵は思い通りに動けなくなってゆく。
 対し、ケルベロスたちは常に万全の状態を保ち、確実に、敵を追い詰めていた。
 前衛への強化を心がけている、エトヴァ。
 仲間と声を掛け合って、連携を重視する、勇名。
 灯は足止めを付与しまくり、バラフィールは味方の負傷を優先的に治癒し、有利な状態を保つ。
「がりがりーの、ぎゃりぎゃりー」
 丸鋸の刃を複数射出して、敵を切り刻む、勇名。
 治癒を阻害する効果を敵に付与し、戦況を更に有利な方向へ持ってゆく。
(「紅葉を眺めつつの食べ歩きは、絶対素敵な大正義……至福の時間を守るのです!」)
 灯はアナスタシアと共に、攻撃に入る。
「一気にぼこぼこにしちゃうのです!」
 物質の時間を凍結する弾丸を敵に撃ち込む、灯。アナスタシアは回復に専念している。
 カッツェがアナスタシアの周りをくるりと飛行した後、敵に向け、尻尾の輪を飛ばした。
「仲良しですね。回復の必要が無いようなので、私も攻撃に回ります」
 楽しそうなカッツェを見て癒されつつ、バラフィールは敵に向け、雷を走らせる。
「エトヴァ、合わせて」
「無事にお仕事完了しテ、晩秋の季節を楽しみたいデス」
 雷の力を武器に宿らせ、ジェミが放つのは神速の突き。
 逆側に回り込んでいたエトヴァは、ほぼ同時に、星型のオーラを放つ蹴撃を食らわせて。
「ささっと終わらせましょうか」
 カルナが超重の一撃を叩き込み、敵を凍結させる。
「てめえだって仲間もヒトも壊したかねえだろ。だから止めるぜ」
 広喜が敵に言葉を投げ、地獄の炎を武器に纏わせた。
 眸は、キリノが攻撃したのを見送り、広喜と視線を交わす。
 一瞬だけ交わる、双方の視線。
 そこに言葉は無く。
 肘から先をドリルのように回転させて、眸は威力の高い一撃を食らわせ、敵の防御を崩す。
 阿吽の呼吸で入れ替わった広喜が、炎に包まれた武器を敵に叩きつける。
 トドメを刺され、攻性植物は霧散して消滅した。


 各自、周囲に被害が及ばないよう、気を付けて戦っていた為、他の紅葉も店も無事に済んだ。
 ヒールを掛け、侵食された大地を治し、戦場の痕跡も消す。
 観光客の避難を解除して、ようやく一息吐くメンバー。
 眸と広喜は、いつの間にか、ラフな秋物の着物と羽織に着替えている。
「あまいもの、あまいものはあるか?」
 勇名が、漂う甘い香りに誘われるように、店のほうへ向かってゆく。
「紅葉散歩を楽しみましょう」
「たい焼きも!」
 カルナが後を追うように店へ進みながら言うと、すかさず、灯が主張する。
「寒い中でのあったかチョコは最高です! でもカルナさんのも美味しそう」
 チョコ味のたい焼きを頬張り、美味しそうに食べていた灯が、餡とチーズのたい焼きを食べているカルナを、じっと見つめる。
 一口トレードを提案する灯に、カルナは快諾し、微笑む。
「チーズの塩気に甘い餡子のバランスが絶妙なんですよね。灯さんのチョコも気になってたので、一口トレードは望む所です」
 一口食べてから感想を伝えあい、仲良く紅葉のトンネルを歩く、灯とカルナ。
 鮮やかな紅葉に圧倒されていたカルナは、今年も残り少ないのだと、実感する。
「過ぎゆく月日は少し寂しいけど、来年もきっと、楽しいことが沢山ありますよね」
 寂しさを抱くカルナの言葉に、一緒に歩いていた灯は、寂しさは不思議と感じず。
(「紅葉の色も、たいやきも、みんな温かいです」)
 そう思案し、首を小さく横に振る。
「来年の事は早いです! 今年もまだまだ楽しみましょう! ふふ、次はイルミネーションが綺麗かも」
「……そうですね。イルミネーションにクリスマスマーケットもありますし、今年も沢山楽しまないとです!」
 紅葉から灯へと視線を移し、楽しげに笑む、カルナ。
「温かいお茶を持ってきまシタ。宜しければいかがデス?」
「えとば、ありがとありがとだ」
 エトヴァが仲間たちにお茶を振る舞い、勇名は熱々のたい焼きとお茶を、美味しそうに飲食する。
 こんがり焼けた、たい焼きは、香ばしい香りを漂わせていて。
 外はカリッと、中はふんわりしている。
「ラフィー、つかれたときはあまいものだぞ、とてもじゃすてぃすーだ」
 仲良くじゃれあっているカッツェとアナスタシアを微笑ましげに眺め、紅葉にも目を向けていたバラフィールに、勇名が話し掛ける。
「甘い物……そうですね、良い香りもしますし、いただきましょう」
 バラフィールは自分用と、師団への土産用にもたい焼きを購入した。
「僕、普通のあんこの鯛焼きに不満があるわけじゃないけれど、変わった鯛焼きも好き」
 ジェミは、たい焼きを食べながら、紅葉を眺めるつもりだ。
「こういう場所で新たな味覚との出会いも大切にしたい! ということで店長さん、ちょっと変わったおすすめ鯛焼きとかありますか?」
 甘くない惣菜系のたい焼きも好きなジェミは、エビチリとチーズ入りのたい焼きを勧められると、即購入。
「紅葉を眺め歩きまショウ」
 エトヴァも幾つか購入してから、ジェミを誘う。
「紅葉狩りと鯛焼き。良いですね。紅葉は色鮮やかで、秋の深さを感じるのです」
「……見事ですネ。紅を愛でる心地がしマス……そしテ、熱々のたい焼きの美味しい季節ですネ」
 隣を歩き、ジェミとエトヴァは紅葉のトンネルを仰ぎ見て。
「こっちも食べてみマス?」
 幾つか購入した内の1つを、エトヴァはジェミに差し出す。
 シェアも大歓迎のジェミは、先ほど購入した、からそうなたい焼きを一口勧めるのだった。
「綺麗だなあ、紅葉狩りだぜー」
 眸と寄り添って歩き、たい焼きを片手に二人でのんびりと、紅葉のトンネルの中を歩く広喜。
「去年は、皆で紅葉の神社を参拝しタな。また広喜と紅葉狩りに来れて嬉しイ」
「うんっ。来年も一緒に紅葉見ようぜ、再来年もその先も、ずーっと一緒にっ」
 眸に笑って頷き、たい焼きに勢い良く齧りつく。
「わあっ」
 飛び出したクリームに驚きの声をあげる、広喜。
 そんな広喜を大切そうに見つめてから、普段は表情をあまり変えない眸が、たい焼きを食べた途端、微笑む。
 人形のような端正な顔立ちが、自然と柔らかくなって。
「中、クリームにしタのだ。甘くて美味しイ」
「へへ。うん、美味えっ」
 眸の微笑を目にすると、広喜は少し照れくさそうに。
 そして、幸せそうに笑うのだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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