天守や御殿はもう残っていない。
お堀と石垣だけが、城址公園として整備され、観光地化していた。
休日には屋台なども出て、人々に親しまれている。
するうち、近隣の識者らが、堀に入り込んだ外来種が、生態系への被害を起こしている、と指摘した。
自治体から予算が下りて、水を抜くほどの大規模な捕獲が行われたのである。
「ぐはあ。死ぬかと思った。死ぬかと思ったー!」
命からがら逃げのびてきた外来種のカエルは、頬を膨らませてゼエゼエ喘ぐ。
額にはあぶら汗が滲んでいた。
だが、口から伸びた舌は、シダ植物の葉のようであり、全体の大きさは熊ほどもある。
公園の茂みに身を隠しているが、やがては人目についてしまうだろう。水抜きしての捕獲作業からは一昼夜あけ、本日は観光客も通りかかるはずである。
「さぁ、人間のいない場所に連れて行ってあげます。人間のことは忘れて、暮らしましょう」
神獣のような姿に植物を纏った存在が言った。
外来種のカエルを大きくさせたのはこの、『森の女神』メデインである。種を与えて、攻性植物化したのだ。
その提案を巨大カエルは拒否する。
「元はといえば、人間たちが、俺たちを連れてきたんじゃないか。都合が悪いからって仲間はずれにしやがるとは」
急速に知性を備えた生物は、自らの境遇に対して認識を得た。
メデインは、優しく諭す。
「人間を殺めたとて、なににもなりませんよ」
「いいや、我慢ならない。復讐してやる。復讐してやるー!」
巨大カエルは、再びお堀のほうへと跳ねていった。
悲しげに見送って、森の女神は姿をくらませた。
予知を伝えた軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、白のレインコートをぷるぷる震わせて、巨大カエルの討伐依頼だと、念を押した。
「とうとう私のところにも、動物関連の事件が廻ってきた、って感じよぉ」
すでに数件が届いている報告によれば、『森の女神』メデインが、人間に恨みを持つ動物を助けて攻性植物化させるというもの。
背後にいるのは、『攻性植物の聖王女アンジェローゼ』。
配下を増やすくわだてだ。
そのためメデインは、復讐などさせずに戦力として連れて帰りたかったはずだが、動物のほうでは人間への恨みをはらそうとして別行動になっている。
今回は、城址公園の観光客を、襲ってしまうらしい。
「駆除にきた学者先生や業者の方々は、もう現場にいないの。お堀の周辺にいる一般人が無差別に被害にあってしまう。カエルは、『イノデフロッグ』を自称していて、彼にとっては人間は全部、復讐対象なのね」
事前に避難を行う猶予はないが、イノデ(シダ植物の一属)フロッグが堀に近づく数10m手前で駆け付けられるという。
「シダ植物の葉のような舌でひとりを巻き取る攻撃と、全身から油を飛ばして周囲の者を濡らす攻撃をしてくる。いずれも、着ている服が透けちゃうから、気を付けてぇ」
ヘリポートに移動したのち、冬美はコマンドワードの音頭をとった。
「なんか、予知を見たときからムズムズというか、うずうず? する敵だったのねぇ。レッツゴー! ケルベロス!」
嫌な予感がしつつも、ケルベロスたちはヘリオンデバイスを装着していく。
参加者 | |
---|---|
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773) |
除・神月(猛拳・e16846) |
皇・露(スーパーヒロイン・e62807) |
カフェ・アンナ(突風はそよ風に乗って・e76270) |
●ケルベロスの作戦
城址公園の入り口と駐車場、バス停などは、国道寄りにつけられており、行楽客はもっぱら、そちら側を使っている。
元々の正門があった辺りは、公園としては裏手となり、古い石段が残されていた。
ほかに通る者もいない。
4人のケルベロス以外には。
カフェ・アンナ(突風はそよ風に乗って・e76270)が、ほぼハダカンボで駆けあがっていても、見とがめられはしないのだ。
「冬美さんは、なぜウズウズしていたのでしょう。カエルが苦手なのでしょうか……?」
防具の形状は、イボ付きシャフト。
自分の腕ほどもある大きさが腰からそそり立ち、ヒクヒクと上下する。
その動きに、皇・露(スーパーヒロイン・e62807)は、咳払いして。
「ごほん……。カ、カエルへの反応とは違ってませんこと?」
普段着とかけ離れているのは、露も同じである。
マントをたなびかせ、お尻が丸出しになるような切れ込みのヒロインスーツ。全体に黒基調であった。
「ただ、この公園を管理する側からは嫌われていたのですわね。……勝手に連れてこられたのに、と露はむしろ同情いたします」
左右から伸びる木々に隠された前方を、キッと睨んだ。
一般人を襲う以上、許すわけもない。
同じ決意を感じ、除・神月(猛拳・e16846)は、状況をもういちど口にする。
「カエル野郎が客の奴らを襲う前に横入りしてやらねーとナ。悠長に声掛けしてる暇はねーだろうシ」
チャイナ服の短衣に、黒いズボン。
カンフーシューズが軽快に段を蹴る。観光客では神月たちのようには登れないだろう。
城攻めへの妨害として、わざと不規則な高さと歪曲がつけられている。
デウスエクスの侵攻に対しても、ケルベロスが自ら妨害役をかってでる必要があるのだ。
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)は、最後の一枚を脱いだ。
「敵の注意は、私たちが惹きつけるからな、カフェ」
「はい……!」
スナイパーは、ゴッドサイト・デバイスをかけた。
石段は、砂利道にかわり、そのまま進めば、お堀に出る。すでに、観光客が、石垣跡を背景に写真を撮ったり、清掃の終わった水面を眺めていたりで、数10m先に行楽の様子が見て取れる。
それらを強化ゴーグル内の光点として捉えながら、左斜めを指さした。
「この方向……です。みなさん、カエルはお願いします!」
「お任せですわ!」
「カフェも気をつけてナー」
「避難誘導を頼む」
カフェだけが、その砂利道を行く。
ふたりのクラッシャーが、ミスラの全裸を支えると、砂利道の傍らにあった生垣へと斜めに突っ込んだ。
低空飛行の、まさに頭から入る感じである。
生垣を破ると、低木の生い茂る森であり、幾重にも交差した枝を顔に受けながらも、3人には何するものぞ、である。
左手から、跳ねてくるカタマリを見たのなら、なおさら。
「やりィ! 横入りしてやったワ♪」
神月たちは、加速したぶんでカエルの進路に追いつき、遭遇を果たした。
戦闘開始でゴッドサイトからは表示が消え、インターセプトの成功も知ることとなる。
カフェは、砂利道を直進しながら、シャフトの先端を握った。
根元部分が回転する。
この防具の特徴である、キープアウトテープのホルダーになっているのだ。
左の生垣に貼り付けていく。
仲間が公園の茂み内に敵を留めてくれれば、一般人への危険は、ぐっと減るだろう。
そのまま、お堀まで達して声をはりあげた。
「にっ、逃げてくださーい……!」
●疼きの正体
牽引ビームを伸ばして、草地にミスラを置き、露は零式寂寞拳に構えた。
『零の境地』が、拳に載る。
ジェットパックの加速ぶんも含めて、殴った。熊ほどの大きさのカエルを。
「ここから先は通しませんの! 露を倒してから行きなさい!」
跳ねる相手の出頭を、捉えられたらしい。
来た方向へとぶっと飛ばす。
露の手に残った感触はゴツゴツで、想像と違った。
攻性植物化した動物は低木のあいだに手足を突っ張り、転倒を防いで身を伏せる。
その声も低く。
「昨日の奴らとは違うようだが……。どうしても俺を駆除するつもりかっ!」
「あァ、すぐに片付けてやんヨ。今日は残さねーよーにしねーとナ!」
神月も接近し、ルーンアックスを振り下ろす。
呪力の光に、表皮から飛び散った油がきらめいた。
やはり、思っていたよりもサラサラしていて、粘り気はなさそうだ。
カエルの口元が歪んでいるのは、憤慨からだろう。神月は、この場で戦いに持ち込むため、わざと挑発的な物言いをしたのだ。
もっとも、話し合えることなど、ない。
「報復には許しを~♪ この魂に憐れみを~♪」
ミスラは森に、『憐れみの賛歌(キリエ・エレイソン)』を響かせた。味方に加護を振り分けつつ、敵を囲むような陣形にもっていく。
静かな怒りが、禍々しい羅刹紋となって裸身を覆いはじめた。
語らぬ唇を塞ぐべく、カフェほどではないものの、太い一本が挿入され、押さえつけるかのようなピンクの光沢が、Tバックハイレグレオタードを形成した。
イノデフロッグも口をつぐむ。
シダ植物型舌での攻撃では数のうえで不利と、悟れる知能がメデインによって授けられている。
うずくまって力むと、全身から油を飛ばしてきた。
「来ましたわね! マントで防いでみせますの!」
露は、黒い布地をコスの前に垂らす。
チャイナにレオタード、そして露のマントにも、油はふりかかった。
「は!? ……冬美さんの反応は、これだったのですわ!」
攻撃をくらってみて、わかった。
白くなって、透ける。
何色だろうと、ビニール地のレインコートのごとく。
神月の黒かったズボンも、染み込んだ油で、下着の赤を浮き立たせていた。
「好みっつーカ、予知した冬美が興奮しそーだワ」
蛍光ピンクが薄くなり、ミスラの股にはまった機械も、グチュグチュとナカをかき混ぜる動きが、一目瞭然である。
いっぽう、お堀の周辺では、カフェの極太シャフトが活躍していた。
裸の女性が乱入してきて、観光地は一時、騒然となったものの、軍装備を強化した防具は救助の支援もでき、奇抜な形状がかえってケルベロスの証明となった。
堀の外縁から、屋台の並びへ。
さらには、城址公園の入り口まで、カフェは追い立てるようにして、一般人を避難させる。
「に、人数が……多いです。みなさんを誘導できたでしょうか……はっ」
駐車場のすみに、一組の母娘を発見した。
他にも自家用車での来園客がいて、彼らは事件について知らされていない様子だ。
「絶対、助け……ます!」
カフェは、使命をまっとうすべく、駆け寄った。
攻性植物化したカエルが狙いそうなものを解除させる。正確な情報を伝えるのが、本スジだろうが、問答の暇はない。
仲間を信頼してはいるが、人員の少なさは戦闘と避難の両担当とも自覚していた。
ここへ、敵が襲撃してこないとも限らないのだ。
ある意味、スジを通すため、娘に救助シャフトを振るった。母親には、危険な事態にあることを、口頭ではなしに突きつけてやる。
他の一般人ともども驚きつつ、息せき切って動いてくれそうだ。
ジョバッ……。
無理を押したからか、カフェもすこし漏らしたが、唇を噛んで堪えた。
ぶっかけられた油に手間取ったものの、森の中でのケルベロスは、イノデフロッグを逃がしたりはしなかった。
包囲は守られ、その外に霊体が取り巻いている。
透けたそれらよりも、なお透けたレオタードから、羅刹の理力を引き出す、ミスラ。
やがて、喰霊刀『虚空ノ双牙・陽』へと霊体が寄り集まる。
憑霊弧月に、斬りつけた。
神月は、冬美を笑えないほどに、興奮している。赤い下着も油に染みて、二枚重ねの布地を、突起がはっきりと押し上げていた。
「はァ、はァ、……お前も月ニ、狂ってみるカ?」
元来、ルナティックヒールにあった凶暴性を高める効果が、破壊にまで転じている。
知性化動物など、この『ルナティックエナジー』の光球をぶつけられれば、物事を識別する力をふたたび奪われるのだ。
「ゲコッ?! ゲコゲコッ!」
フロッグはイノデの舌を、露にむかって伸ばした。油飛ばしには劣る。
「万策つきましたわね。覚悟!」
余裕で回避。続けてトドメ。
の、はずが、つい動きに恥じらいがでてしまった。
すでにスーツも透明ビニールのようにされ、どのみち透けているのにマントでお尻を隠そうとしたばっかりに、かえってそこへイノデが命中してしまったのである。
生尻がむき出し。
「よくも、よくも、はあああああーー!!」
涙目になりながら、露は『破纏撃(ハテンゲキ)』を、突きだした尻に纏わせた。
あきらめ半分のヒップアタックを、ゴツゴツした体表にぶつける。
「ぶぎゃ」
今度こそ、期待した感触が、尻の下にあった。
攻性植物化動物の巨大カエルは、圧死したのである。
●帰還の前に
服のピンチは終わらない。
今日の露は、ツキがなかった。
「こんなこともあろうかと、事前に持ってきた服や予備のヒロインスーツが……はぁ?!」
全部、透明である。
ちょっとはマシな、白っぽい一着を頼りに、裏手の石段から抜け出すしかない。
「カフェさんや避難した人々のことは任せましたわ!」
ぴゅーっと去っていくお尻を見送って、神月とミスラは顔を見合わせた。
「そーいヤ、キャスターがいねーかラ、連絡とれねーナ」
「マインドウィスパーに慣れてしまうと、ないとき不便を感じますね」
敵は倒したのだし、手分けして状況の把握に努めることにする。
ミスラは、森をさらに奥へ向かった。
メデインのいたとされる場所の確認だ。なにも見つからないつもりで、木の陰に動きをみた。
「隠れなくても大丈夫ですよ」
出てきた人物は野球帽を目深にかぶり、顔を赤くしてモジモジしている。
言うまでもなく、ミスラの格好が原因だ。そして、それに罪悪感をもつ年ごろだった。
「お詫びにお姉さんが気持ちいい事してあげますね……」
楽な格好をとらせると、透けたハイレグレオタードを押しつけた。
機械を抜いて、代わりに導く。
「ふふ、いけない味覚えちゃったね……。そのまま、お姉さんのナカに……。あんっ♪」
ミスラの格好は、強烈な印象を残したであろう。
「もう一回シて欲しいの? ……いいよ、満足するまでシてあげる……♪」
野球帽は、斜めに歪んだ。
お堀に向かった神月も、ちょっと帰還まえにクールダウンしたい気持ちはあった。
カエルが生息していた水辺を観察し、屋台の並びに行ってみると、ちょうど店主らしき男性と、数人の客が戻ってくる。
顛末を聞いて安心した。
「そーカ、避難誘導はスムーズにいったんだナ。ところデ……」
浴びた油は、まだ乾いていない。
「あたしの服がやべーのとか見テ、別の意味でやべーことになってんナ♪」
話をしていた男性の前にひざまずくと、透けた胸に挟む。
ぎゅっと、染み出した油が、男性のズボンにも移って、形がありありと浮かんできた。
「うぅッ……」
「着衣なんだかラ、カフェよりマシ。全員、相手してやんヨ♪」
お堀の柵に手をつく。
冷ますどころか、火に油。
作者:大丁 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年12月1日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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