慟哭の路

作者:坂本ピエロギ

 助けてくれ、という絶叫が響いた。
 死にたくない、と哀願する声が木霊した。
 生きた者達の発した声ではない。それはここ、死者の泉へ繋がる異空間を満たす、亡者の群れが時折発する怨嗟の叫びだ。
 ――助けてくれ。
 ――死にたくない。
 ――絶対に呪ってやる。
 常人が晒されれば、1分と正気を保てぬであろう怨念の海。
 その只中で、エインヘリアルの黒騎士がひとり、転移門を守り続けていた。
『……』
 騎士はおもむろに剣を掲げ、凝り固まった怨念を弾に変えて吹き飛ばす。
 双魚宮『死者の泉』――それを守る事こそ、この騎士が負った唯一の務めなのだ。
 その名を『門』。死をもたらす現象と化した、防御機構の化身であった。

「よく集まってくれた。早速だが説明を始めるぞ」
 ザイフリート王子はそう言ってケルベロス達を見回した。
「磨羯宮ブレイザブリクの探索を進めた事で、双魚宮『死者の泉』への転移門が発見された事は知っていよう。お前達には、その門を守る存在――『門』を撃破して欲しい」
 死者の泉は、死者をエインヘリアルに生まれ変わらせる役割を担っている。
 つまりはアスガルド勢にとっての生命線であり、ここへの侵攻ルートを開拓する意味は、計り知れぬほどに大きいと言える。
「『門』については戦った者達もいるだろうが、念のため説明しておく。この敵は転移門を守る防御機構に取り込まれた、エインヘリアルの黒騎士だ。その実力の程を言い表すならば――強い。それも圧倒的にな」
 そう断言する王子の表情は苦い。
 『門』は元より戦闘力が高い事に加えて、戦場となる異空間の効果により、それが数倍に強化されているのだ。更には復活能力までも備えており、撃破されても一定時間が過ぎると新しい『門』が出現してしまう。
 だが、対処法は無論あると王子は言った。
「『門』の復活能力は、これを42回撃破する事で無効化できる。すでに相当な撃破の数が重ねられているゆえ、もう間もなく奴の復活能力は失われよう。今回の依頼で『門』を新たに撃破すれば、転移門の開通がさらに一歩近づくはずだ」
 王子によれば、今回の『門』は回復と解呪に優れる個体だという。
 得意とする攻撃は、回廊を満たす死者の慟哭を波動に変えて放つ一撃。波動は麻痺の力を有しており、もろに浴びると一切の行動が不可能になる。火力や回避も相応だが、唯一防御だけは薄い。そこをどう攻略するかが鍵となるだろう。
「現時点では、泉へのルートが発見された事をアスガルド本国は知らぬ。しかし――」
 しかし攻略に時間がかかれば、彼らとて対策を講じるだろう。
 もはやエインヘリアル達との決戦は時間の問題だ。彼らとの戦いに勝利するため、一刻も早い達成を頼む――そう言って、王子は話を終えるのだった。


参加者
シュネカ・イルバルト(翔靴・e17907)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)
ティニア・フォリウム(小さな鏡・e84652)
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)

■リプレイ

●一
 死者の泉へ繋がる門の攻略は、今まさに佳境を迎えていた。
 黒騎士『門』の数は、既に片手で数える程度を残すのみ。その1体を確実に撃破すべく、8名のケルベロス達が異空間へと突入する。
「さあ行くぞ。42の一助、果たして見せよう」
 ヘリオンデバイスを装着したシュネカ・イルバルト(翔靴・e17907)が、ジェットパックの力で隊列後方へと飛行していく。デバイスによる飛行戦闘が初経験という事もあってか、いつにも増して気合たっぷりの様子だ。
 同様に、先頭を行くラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)も、機械腕型デバイスをぶんぶんと元気よく振り回してみせる。
「死者の泉まであと少しってとこか。きっちり倒さねえとな」
 ラルバ達が見据える道の先、『門』の姿は未だ見えない。
 その代わりに、そこかしこから流れてくるのは死者達のもたらす慟哭だった。
 ――助けてくれ。
 ――死にたくない。
 ――絶対に呪ってやる。
 異空間を漂う怨嗟にティニア・フォリウム(小さな鏡・e84652)は眉をしかめ、額の紋様に指をあてる。
「……声、だんだん強くなって来てるね。誰のものなんだろう?」
「はてさて。大昔に死んだ者達か、あるいは――」
 俺達が命を奪った、救えなかった者達のそれかもしれない。
 そんな言葉を櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)は飲み込んで、走る速度を一層上げた。
 怨嗟の声は単なる音ではないのか、耳を塞いでも頭の中に響いてくる。『門』との戦いで浴びる叫びは、間違いなくこの比ではないだろう。
「彼ら、随分この世に未練が残っているみたいだね」
「ええ。大量の怨念達……泉の機能で収集されているのでしょうか」
 どこか作り物めいた笑顔を浮かべるメロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)の横で、葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)が呟いた。
 もしも泉の力で、ここにいる怨念達がエインヘリアルに変わる事があれば――そんな想像がかごめの脳裏をよぎってしまう。
「急ぎましょう。1日も早く門を開けるためにも」
「そうだね。もう少しで終わりだもんね……」
 頷きを返す山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)の胸に去来するのは、撃破対象である『門』の存在だ。
 泉の防御機構に取り込まれた、エインヘリアルの黒騎士。
 幾度も刃を交えた彼の門番との戦も、いよいよ終わりが近いのだ、と。
「死者の魂か……今際の悔いとか嘆きとか、定命の存在だと覚悟キマった人が多いけど」
 腕力だけではない、心の強さも鍛えたい――オウガの少女はその決意を胸に、残り少ない『門』との戦いに決意を燃やしていた。
 進むにつれ、いや増す怨嗟の響き。
 そうして前方に現れたのは、門を守るように立つ1体の黒騎士――『門』であった。
『…… ……』
「遂に終わりはあと少し。故に彼の敵もまた、着実に破って行かねばなりませんね」
 死者の嘆きを凝縮させ始めた『門』に、ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)はゾディアックソードの剣先を突きつける。
 立ち止まる事は許されない。たとえその慟哭が、先に進む者達への警鐘であろうとも。
「ローゼス・シャンパーニュ、いざ参る!」
 嘆きを退けるように響く自由騎士の鯨波。
 ケルベロスと『門』、その死闘の幕が切って落とされた。

●二
 戦闘開始と同時、死者達の慟哭が異空間に轟いた。
 並の者なら、聞いただけですくみ上るような絶叫。その只中で悠然と大剣を構える『門』めがけて、ケルベロス達はヘリオンデバイスの力と共に攻め込んでいく。
「さて。お手柔らかに頼むとしよう」
「流石はデバイス、自分で飛ぶより動きやすいな。全力でいけそうだ」
 アタッカーを務めるのは千梨とシュネカ、そしてティニアだ。
 ジェットパックで猛攻を仕掛ける2人を支援するように、ティニアは蝶の翅で空中を舞いながら『門』を攻める。強化ゴーグル型デバイスによる狙撃は正確無比で、振るう刃は一撃も外れる事がない。
「かごめさん、私は大丈夫。クラッシャーの支援をお願いするよ」
「了解しました」
 そう言ってかごめが喰霊刀の力をシュネカに注ごうとした、次の瞬間である。
「気をつけて、攻撃が来るよ!」
 ことほの警告と同時、怨嗟の波濤が『門』の剣から迸った。
 あらゆる命を憎悪する声が木霊しながらケルベロスの中衛へ殺到する。そこへラルバと、ことほのライドキャリバー『藍』が壁となり、怨嗟を真正面から受け止めた。
『憎い憎い憎い憎い憎い憎い』『どうして自分だけが――』
「ぐぅ……っ!」
 脳髄を万力で締め付けるような叫び声に、顔を歪めるラルバ。ことほは番犬鎖で魔法陣を描くと、レスキュードローンの力と共に前衛を癒していく。
「どんどんヒールするから、全力でゴーだよ!」
「ありがとな……こんな所で、立ち止まってる場合じゃねえ……!」
 ラルバは気合を入れて立ち上がると、『門』へと打ちかかった。
 竜翼を広げ、地から空から勇猛果敢に攻めるラルバ。それを剣でいなす『門』を、ふいに半透明の御業が鷲掴みにする。
「少し、大人しくして貰おう」
 千梨が禁縄禁縛呪を発動しながら、そう言った。
 飄々とした口調とは裏腹に凶悪な威力を誇る御業の力が、漆黒の甲冑を握り砕く。しかし『門』は悠然と剣を掲げると、全身から放つ黒い光で御業の捕縛を振り切った。塞げる傷を塞ぎ、妨害力を上昇させる加護と共に。
「薄い装甲に、それを補って余りある回復力……なるほど面倒だ」
「ああ……けど、負ける訳にはいかねえ」
 攻撃を続行する千梨の横で、ラルバがバトルガントレットを構えた。
「オレ達は必ず、泉への道を切り開く!」
 死者の慟哭を雄叫びで払い、ジェットエンジンで突撃。ブーストナックルを叩き込み、『門』の妨害力をブレイクする。
 呻き声と共に解ける『門』のガード。その一瞬をかごめは逃さない。
「シュネカさん、頼みます」
「任せろ。私達の想いの強さ、奴に教えてやる!」
 かごめの魂うつしを受けたシュネカがドラゴニックハンマーを構え、吼えた。
 これまで『門』を倒してきた仲間達のためにも退く事は出来ない。持てる全力を尽くし、この戦いに勝利するのみだ。
「くらえ――轟竜砲!」
 魂のエネルギーをみなぎらせ、シュネカは竜砲弾を発射。
 続けざまに藍が、足を止めた『門』に炎の体当たりで激突する。メロゥは愛用のトランプ『《misos》』を手に取ると、召喚した槍騎兵の矛先を門へと向けながら、慟哭の声の主達に向かって語り掛けた。
「遠慮なくおいで。少しくらいなら、受け止めてあげるから」
 作り物めいた笑顔をそのままに、メロゥは優雅に手を振るう。
 いななきと共に突撃する騎兵。『門』を貫くエネルギーの槍が、漆黒の甲冑を氷で包む。
『…… ……!』
 その一撃に反撃するように『門』は怨嗟を波濤に変えると、ますます苛烈にケルベロスを責め立てる。ケルベロスの身を束縛する、死者の呻き声。それをローゼスは鼓舞の声で振り払いながら、守護星座の力で仲間を包んでいく。
「臆することなかれ、星の導きと共に駆けよ!」
 中衛のローゼスが付与する支援は、『門』の有するブレイク効果よりも厚い。
 絶える事無き鼓舞と支援。それに背を押されるように、ティニアは『門』を狙い定めた。
「咲き誇れ、オダマキ。愚か者を捕らえあげよ!」
 地面から一斉に花開いた苧環の花々が、一斉に『門』に絡みつく。
 『門』は拘束から逃れようと身をよじるが、ゴッドサイト・デバイスがもたらす狙撃は、決して逃れる事を許さない。
「私は絶対に目をそらさないよ。耳も塞がない。たとえこの慟哭が……」
 戦場で散った、かつての戦友達のものであったとしても。
 直撃を浴びた『門』、その足を止める苧環はますます美しく咲き誇る。まるで死した者達に送る、手向けの花のように――。

●三
 怨嗟と慟哭の響きは、戦いが続くほどにその強さを増していった。
 やり残した事があったと嘆く声。帰りを待つ者がいると訴える叫び。非業の死を遂げた者のそれを刃に変えて、『門』はケルベロスを攻め続ける。
「千梨さん、敵の回復力はどう?」
「着実に落ちている。あと一息、といったところだな」
 空中からティニアが投げる問いに、千梨は簒奪者の鎌を振るいながら応えた。
 『門』の誇る脅威は強力な回復力にある。千梨は先程から肉食獣の一撃を浴びせ、その力をアンチヒールで封じ続けているのだ。
 キュアにも構わず付与し続けた服破りや足止めによって、『門』には相当量の状態異常とダメージが蓄積されている。仕掛ける機は、すぐそこまで迫りつつあった。
「では最後のひと頑張りと行こうか。そう長居したい場所でもないしな、ここは」
「異論ありません。怨念の無力化完了、行動に支障なし――」
 かごめは耐性の力で麻痺を除去すると、渦巻く呪詛を掌に凝縮させ始めた。
 死者の嘆きを、怨念を駆使するのは自分とて同じ。それを示すように、かごめは『門』へ肉薄すると、呪詛を込めた掌底を叩き込む。
「回復はさせません。今度はそちらが死者の嘆きに憑かれる番です」
『…… ……!』
 かごめの『壊神掌』が『門』の鳩尾にめり込んだ。
 妨害に優れた一撃が怨念の大渦となって荒れ狂い、癒しの力を阻害する。『門』は回復と守備をなかば放棄したように、捨て身の猛攻を繰り出し始めた。
 押し負ければ後がないと、防御機構が判断したのだろうか。
 だがそれを易々と通すほどケルベロスは甘くない。ことほは藍と共に気力を奮い立たせ、いっそう全力で仲間達を支援していく。
「皆、ここが正念場だよ! サポートは私達に任せて、ゴーゴー!」
『…… ……』
 対する『門』もまた、死者の嘆きを刃に変え、負けじとケルベロスへ浴びせかける。
 怨嗟の共鳴が、更にその力を増して後衛に迫る。
 ――助けてくれ!
 ――絶対に呪ってやる!
 ――まだ死にたくない!!
 響く怨嗟を弾き返すように、ローゼスは真正面から鬨の声を響かせた。
「我らは此処に幾つもの死を見て、そして越えてきた!」
 赤き風となって戦場を駆ける時。仲間と共に強敵相手に戦う時。
 『死』は常にケルベロスの傍にあるものだ。故にローゼスは喝破する、かの慟哭を恐れる理由はどこにもないと。
「慣れ親しみこそすれ恐るに及ばず! あれは追い詰められた門の断末魔に過ぎぬ!!」
 今こそ蹂躙の時――ローゼスはそう告げるように、守護星座で仲間達を包み込む。
 慟哭が身を縛ろうと、守護を解呪しようと、彼が付与し続ける力は決してケルベロス達に挫ける時間を与えない。
 そして――付与完了と同時に始まるのは、息もつかせぬ一斉攻撃だ。
 ラルバは『門』の懐へと飛び込むと、両掌に宿した風の力を全力で叩き込む。
「宿れ神風、轟き吹き抜け切り刻め!」
 突風の力は『門』の肉体で荒れ狂い、かごめの与えた傷をジグザグに切り開いていく。
 瞬く間に積み重なっていくアンチヒールの呪い。ことほは番犬鎖を握りしめると、震える指先で魔法陣を描き、後衛の仲間達を包み始めた。
『死んでゆく……プラブータが……』『畜生、畜生……』
「……っ」
 死者の叫びと共に、過去の幻影がことほの眼前に描き出される。
 行方の知れない同胞のオウガ達。彼らの嘆きは否が応でも、ことほに突きつける。生と死の立場に分かれたであろう、運命の理不尽を。
「……もー、ホンッとに……テンサゲなんだからー!!」
 唇を噛み締めて、サークリットチェインを発動することほ。
 同時、キュアで麻痺を取り除いたティニアが、エアシューズの爪先を『門』に向ける。
「メロゥさん。先に行くね」
「うん……僕は大丈夫、任せるよ」
 ティニアは、シュネカの身代わりとなったメロゥの後方で、宙を軽く蹴った。
 宙に満ちる嘆きを切り裂いて、『門』へと直撃するスターゲイザーの一撃。砕け散る甲冑を遠めに見ながら、メロゥは己を蝕む怨嗟に優しく語り掛けた。
「よしよし……悲しくて辛いんだね。さぁこっちにおいで」
 そして、メロゥは本来の姿を顕現させる。
 慰撫を司るメリュジーヌ、その力を余す事無く解き放ち、
「僕の呪いの中へ、一緒に。好悪諸共慰めて、解き放ってあげる」
 血に籠る呪いの力を肉体に親和させ、生命を汚染する劇毒の一手に変えて、
「――君が悪いんだよ。僕に触れたから。触れさせたから。君が」
 大蛇の下半身で跳躍したメロゥが放った『慰撫呪術:自因自果さえ揺らめいて』は、漆黒の甲冑を引きちぎり、その中身を毒の淀みで芯まで汚染する。
『…… ……!!』
 『門』は傷だらけの体で剣を掲げ、黒光を放って傷を癒す。
 しかし積み重なった負傷とアンチヒールによって、回復した負傷はごく僅か。更なる回復を試みようとする『門』。だがそれよりも早く、眼前には竜の幻影が迫っていた。
「逃がすものか。行くぞっ!」
 幻影を帯びたシュネカの突撃が半透明の砲弾さながらに激突した。デバイスの力を帯びた渾身の一撃は甲冑もろとも『門』を圧し潰し、致命傷を刻み付ける。
 もはや逆転はない。決着の時だった。千梨は星座の力で慟哭を払うと、未練を残すように消えていく怨嗟の塊を見上げながら、御業を練り上げていく。
「可哀想に、な。生きたかった命の慟哭……悲しいよな」
 ケルベロスは神ではない。全ての命を助ける事は出来ない。
 だがそれでも――彼らの死を越えて、千梨達は進まねばならない。
 ここで倒れる事は、地球に住む人々すべてを危機に晒す事と同義なのだから。
「己が与える死なのに、その魂が憩う事を祈らずにはいられない……皮肉なものだ」
 勿忘草の指輪に手を添えて、飄々とした溜息をひとつ。そうして迷う心を吹き飛ばすと、千梨は『門』を結界で包み込む。
「散ればぞ誘う、誘えばぞ散る」
 御業の桜が舞い散る中、荒れ狂う嵐は全てを吸い込んでいく。
 門番たる『門』の命、死者達の慟哭、その全てを。
『…… …… ――』
 そうして嵐が晴れると同時、異空間には無言の静寂が訪れるのだった。

●四
「お疲れ様でした。それでは帰還しましょう」
 全員が離脱準備を終えたのを確認し、ローゼスはそう語り掛ける。
 目標達成の瞬間まで気を抜く事は許されない。ことほは離脱していく直前、『門』のいた場所へと黙祷を捧げ、
「せめて、この静寂が手向けとなりますように……っつっても、また来るんだけどねー!」
 しんみりした空気を払うように笑った。
 ラルバもまた、消え去った慟哭の主を思い、最後に祈りを捧げる。
 もっと生き、もっと笑い合い、幸せな時を過ごしたかったであろう、亡き者達の魂へ。
「みんなの声、オレは忘れねえよ」
 そうして後に残されるは、無人となった異次元回廊のみ。
 未だ閉ざされた転移門はいずれ、残り僅かとなった『門』の手で守られるのだろう。

 双魚宮『死者の泉』。
 そこへ到る道が開かれる時は、刻々と迫りつつあった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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