紅い林檎のポム

作者:坂本ピエロギ

 往来する人々で賑わう、昼過ぎの商店街。
 そのメインストリートを少し外れた片隅に、休業中のカフェがあった。
 下ろされた真新しいシャッターには『改装中』の張り紙。脇には中古と思しき家電製品がまとめて積み置かれている。古い店での役目が終わった今、彼らは遠からず然るべき所へと渡って行くことだろう。
 と、そんな無人の店先へ、青空の彼方からふわりと飛来するものがあった。
 光の粒――攻性植物のそれを思わせる、金属製の胞子だ。
 胞子は積み置かれた一台のオーブンに付着すると、それを人型の機械に作り替えていく。グラビティ・チェインを奪う、歪な殺戮マシンへと。
『ポ、ポ、ポムゥ!』
 可愛い手には、紅く瑞々しい毒林檎。
 人々の賑わいに導かれるように、ダモクレスは街中へと歩き出した。

 金属粉のような胞子を浴びた家電製品が、ダモクレス化する事件が予知された。
 この個体が街の人々を虐殺する前に撃破して欲しい――そう言ってムッカ・フェローチェはケルベロス達に説明を始めた。
「ダモクレス化したのは小型のオーブンです」
 どうやら店先に置かれていたものが、運悪く変異してしまったらしい。
 事件が発生するのは商店街の外れにある駐車場。十分な広さがあって障害物も存在せず、周辺の避難誘導も完了しているため、戦闘に専念できる状況だ。このダモクレスは妨害能力に優れる個体で、対策さえ怠らなければ苦戦する相手ではない。
「本依頼ではヘリオンデバイスの使用が可能です。ぜひ活用して下さい」
「了解だよ、ムッカ殿。絶対に悲劇を防がなければね」
 御影・有理(灯影・e14635)がボクスドラゴンの『リム』を連れて頷くと、ムッカの話は戦いが無事終わった後の事へと及ぶ。現場近くの商店街にある、一軒のカフェについてだ。
 その店は美味しい林檎菓子で知られ、特にアップルパイとタルトタタンが絶品だという。むろん珈琲と紅茶も美味で、菓子との相性は抜群だ。
「11月5日は『いい林檎の日』。折角ですし、美味しい林檎で甘いひと時を過ごされてはいかがでしょう」
 アップルパイ。言わずと知れた定番スイーツ。みっしり詰まった果肉を焼きたての生地と一緒に頬張れば、瑞々しい甘味に頬が緩む事請け合いだ。クラシックやフレンチ等、種類毎の食べ比べに興じるのも面白いかもしれない。
 タルトタタン。トロトロに火を通した林檎を使用したタルト菓子で、その表面には飴色のキャラメリゼが艶やかに光る。甘くて香ばしい、リッチな林檎のタルトに濃厚なクリームを絡めれば、その美味しさたるや冒涜的でさえある――そんな逸品だ。
 無論、他の林檎菓子や飲物も注文可能だ。ハロウィンも終わり、デウスエクスとの戦いが一段落した今、のんびり羽を伸ばすも英気を養うも良し。素敵な時間を過ごしてきて下さいと話を結ぶムッカに、有理は微笑みを浮かべた。
「楽しみだね。そのためにも、きっちり任務を遂行するとしよう」
「よろしくお願いします。それでは出発しましょう」
 そうしてヘリオンの搭乗口が開放されると、ケルベロス達は出撃の準備を整え始める。
 街の平和な日常を、ダモクレスの手から守るために――。


参加者
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
御影・有理(灯影・e14635)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)

■リプレイ

●一
 がうがう、ぴゃうぴゃう。
 無人となった昼の駐車場を、箱竜のリムとシャティレが元気に駆け回る。
 彼らに混じって翼で飛びまわるのは翼猫のトト。そして林檎をテレビに映してはしゃぐ、テレビウムのマギーとバーミリオンであった。
「今日はサーヴァントが5体か。賑やかになりそうだね」
「頼もしいですね。頑張ってダモクレスを撃破しましょう」
 御影・有理(灯影・e14635)と翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)は、眼前の光景を微笑ましく見つめながら、作戦の準備を開始した。
 戦場となる駐車場には車の一台もなく、隣接した商店街もシンと静まり返っている。
 普段ならば人で賑わう時間帯にも関わらず、ケルベロス以外の人影が見あたらないのは、もうじきこの場所が戦場となるからだ。
「逃げ遅れた人はいない、障害物もない。よし、心おきなく戦えそうだ」
 マギーの主であるピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)が現場の確認を終えて小さく口笛を吹く。
 彼の装備は、カントリーな林檎農家を思わせるオーバーオール姿だ。毒林檎を武器とするダモクレスに必ず勝利せんとする、彼の意志が伺える。
「ポムさん……名前からして可愛らしい林檎菓子の様ですね」
 靴型のデバイスを装着したマロン・ビネガー(六花流転・e17169)もまた、やる気満々といった様子だ。この戦いには林檎スイーツがかかっている。超甘党を自認する彼女にとって絶対に負ける訳にはいかない任務であった。
「新鮮で艶々した赤い宝石のような林檎。それをたっぷり使って作るスイーツ……」
 叶うならば、林檎モンブランなどあれば最高なのだが――。
 マロンは際限なく膨れそうになる空想を打ち切ると、キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)の方を振り返る。
「キリクさん。敵の反応はどうですか?」
「……12時の方角、到達まで約15秒。きっちり迎撃しましょう」
 キリクライシャがデバイスから得た情報を伝えると、仲間達は急ぎ隊列を組んでいく。
 駐車場に満ちる緊迫の空気。そうして準備完了から間を置かず、商店街の奥からゆらりと現れたのは、鮮紅の林檎を手にした人型ダモクレスだ。
『ポ、ポ、ポムゥ!』
「綺麗な林檎だね。とても毒の果実とは思えないよ」
 相棒のハープを爪弾いて、オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)が物憂げに微笑む。
「残念だけど、それを食べる訳にはいかない。僕は、地球の美味しい林檎が好きなんだ」
『ポムゥ……!』
 目の前のケルベロスが敵である事を、ダモクレスは悟ったらしい。
 毒林檎を手に、敵意に満ちた視線を投げつけるポム。長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)は真正面から睨み返すと、拳を固く握りしめた。
「皆、準備はいいな?」
「林檎……早く食べたい、お腹が空いた……!」
 千翠の横では、オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)が突撃態勢を整えて、戦闘開始の時を今か今かと待っている。
 1秒でも早く片付ける。この戦いを終わらせるために。
 アップルパイを、タルトタタンを、あらん限りの林檎スイーツを堪能するために――!
「辛抱ならない……速攻で、終わらせる……!」
「よし。じゃ一丁いくか!」
 どろりと濁る駐車場の空気。
 オウガの咆哮が轟き、戦いの火蓋が叩き切られる。

●二
 戦闘開始と同時、毒の林檎が雨あられと降って来た。
 ケルベロス達はそれを掻い潜り、炎のダメージに耐えながら一斉に反撃を開始する。
「悪い林檎さんは、これで料理しちゃいますっ」
 マロンは一番槍で駆け出すと、グラニュー糖にも似た粉末をポムへ振りかけた。
「仕上げが肝心なのですっ」
 『Op.Gl 【White Sugar】』――浴びた者の動きを封じる粉はポムの体を麻痺させ、その体に麻痺を付与していく。ギシギシと関節から音を立て、苦痛のうめきを上げるポム。そこへ肉薄するのは、エアシューズを装着した千翠だ。
「オーブンは食い物じゃないし、毒の林檎は食べたらやばい。そもそもあれはダモクレス。それはよくわかってんだけどさぁ……」
 肩を竦めて苦笑しつつ、千翠は流星蹴りの一撃を叩き込む。
「見てるだけで腹減るの、なんとかならねーか?」
『ポムゥーッ!』
 ジェットパック・デバイスで強化した攻撃は、ポムを防戦に追い込み始めた。ピジョンはその隙を逃さず気力を溜め、毒林檎を受けたキリクライシャの火炎を、バトルオーラの力で吹き飛ばしていく。
 だが炎の勢いは凄まじく、気力溜めでは消火が追い付かない。ピジョンはすぐに相棒へと指示を飛ばし、回復支援を命じた。
「マギー、応援動画を!」
 ブラウン管に林檎の動画を流し、回復を補助するマギー。
 そうして炎が消えると同時にキリクライシャが反撃を開始する。サウザンドピラーの光を並べる彼女の瞳に宿るのは、ポムへの強い怒りだ。
「……よくも焼いてくれたわね。私の強化軍服『アップルパイ』を……!」
 キリクライシャは光でうお座を描くと、凍結のオーラに変えて発射した。
 スターイリュージョンの一撃がポムを捉え、瞬く間にその身を凍結させていく。続け様、果物ナイフで切り付けるバーミリオン。実体化したトラウマにポムが悲鳴を上げる傍らで、風音とオズは前衛への回復支援を開始した。
「星辰の力よ、加護の光を!」
「さあ、皆がつかみ取る希望は何かな?」
 ガーディアンピラーの光、そして「碧落の冒険家」。ふたつの回復グラビティを浴びて、オルティアがパイルバンカーを手にポムへ迫る。歌の力で切り開かれた未来の希望、それが彼女の眼に映し出すのは――。
 アップルパイにタルトタタン、アップルサイダーにタルト・オ・ポム。
 地平線の果てまで続く、林檎スイーツの景色であった。
「……もう、ダメ。……我慢、できない……!」
 渾身の力で叩き込むイガルカストライクが、ポムの体を貫いた。雪さえ退く凍気に包まれ凍結していくポム。好機と見た有理は一切の容赦を排し、自身の体をドラゴニアンを模した姿へと変化させた。
「逃がすものか。砕け散れ!」
 漆黒の竜翼を背に広げ、有理は吠えた。
 かつては人々のために働いた機械。しかし今は命を奪う殺戮マシン。元に戻す事が叶わぬならば、1秒でも早く排除する――それがせめてもの情けだ。
「『限定竜化』、受けてみろ!」
 突進とともに繰り出す竜爪が直撃し、鋼の装甲を射抜く。
 ケルベロス達は毒林檎による攻撃を懸命に防ぎながら、一つ二つと着実にポムへと深手を負わせていくのだった。

●三
 激戦は、それからも続いた。
 ポムが発射する林檎型の砲弾はケルベロスの保護を破壊し、投擲する毒林檎は浴びた者を真っ赤な炎で焼き焦がす。
 対するケルベロスの猛攻も衰える事無く、更なるダメージを蓄積させていった。
「隙あり、なのですっ!」
 マロンは飛来する林檎を『日本刀さん』で切り払い、月光斬を叩き込んだ。中衛から放つ一撃はポムの腕を寸分の狂いなく切り裂き、林檎の狙いが大きくぶれる。
 それを好機と見たオズは、手にしたハープですぐさま負傷者の回復を開始した。
「トト、援護を頼んだよ」
 オズが歌う寓話は『聖女の林檎』。病める人々と、彼らを救った聖女の林檎の物語。その結びと一緒に、グラビティを帯びた癒しの林檎がキリクライシャに差し出される。
「おひとつ如何かな?」
「……ありがとう。元気百倍よ」
 キリクライシャは林檎を頬張って傷を塞ぐと、オラトリオの力で時空凍結弾を生成。
 トトのキャットリングで林檎を刻まれたポムを狙い定める。
(「……毒だろうと林檎なら……いえ、敵なのだもの」)
 一瞬頭をよぎる逡巡を、キリクライシャは振り捨てた。
 人々の命を奪うダモクレスを放置は出来ない。それはすなわち、美味な林檎の布教が邪魔される事と同義なのだから。
「……邪魔は、よくないわ」
 デバイスの狙いに従い、凍結弾を発射。
 直撃を浴びて凍りついたポムはさらに怒り狂い、八連装ポムポム砲の砲弾をケルベロスの前衛めがけて発射してくる。嵐のごとき砲撃から必死に千翠を庇うシャティレ。風音は懸命にハープを爪弾きながら、仲間のダメージを癒し続ける。
「もう少し耐えて、シャティレ。美味しいアップルパイが待ってるよ!」
「ぴゃう!」
 風音の箱竜は元気に応じると、ブレイクを受けたオルティアを属性注入で癒す。
 そうして砲撃が止むと同時、真っ先に反撃に転じたのは有理とリムだ。
「行こうリム、早くおやつの時間にするためにもね」
 有理の手から簒奪者の鎌が投擲された。続けてリムのブレスがポムを襲う。
 衝撃、破砕、そして悲鳴。デスサイズシュートに装甲を吹き飛ばされたポムは、ブレスで傷口を切り開かれ、全身を氷に覆われていく。
 やがてポムの全身から、黒煙がプスプスと立ち昇り始めた。ダメージの蓄積が限界を超えつつあるようだ。それを見たピジョンは、左の掌に銀薔薇の幻影を顕現させる。対象の集中を研ぎ澄ますグラビティ『妖茨の残香"Order of petal"』である。
「……頼んだ」
 握り潰した薔薇は花弁となって舞い散り、淡い芳香を残して前衛を包む。
 千翠は己を蝕む呪いを餓えた竜へと変えると、磨かれた集中力とともに竜の大顎をポムへ向けた。もはや番犬に負けはない。1秒でも早く幕を引かねばならない。なぜならこの戦いには、甘くて美味しい林檎スイーツがかかっているのだから!
「噛み砕け! 食い散らかせ! あと俺も腹減った!!」
 バキバキと音を立てて全身をかみ砕かれるポム。
 そこへオルティアは感知魔術を張り巡らせ、『蹂躙戦技:舌鼓雨斬』の構えを取った。
 五感による把握を捨て去り、反射的に繰り出した一閃がポムの心臓を穿ち貫く。
『ポムウゥゥーッ!!』
「焼きたてのパイが……甘くて美味しい林檎が……私達を待ってる……!」
 爆発四散するポムを背に、バンカーをしまうオルティア。
 現場のヒールが完了したのは、それから程なくしての事であった。

●四
 訪れたカフェは、幸せな時間が流れる楽園だった。
 馥郁たる温かな紅茶。アーモンドやシナモンが薫るアップルパイ。そして、飴色の輝きが艶めかしいタルトタタン――きらびやかな林檎菓子がテーブルに揃っている。
「これは美味しそうだね。では皆、いただこうか」
 リムと一緒に支度を終えた有理の言葉で、林檎の宴が幕を開ける。
 ケルベロスとサーヴァント、13名で過ごす憩いのひと時。キリクライシャはテーブルの菓子達を愛おしそうに目で味わいながら、感極まったように吐息を漏らした。
「……いい林檎の日……林檎の美味しさが更に布教される、いい日ね」
「同感……なんて素敵な、日……!」
 オルティアは日頃のそっけなさもどこへやら、早速アップルパイへフォークを伸ばす。
 パイにギッシリ詰まった林檎から迸る、甘い果汁。後をそっと追いかけてくるシナモンの香りに、頬がふわふわと緩んだ。お供のアップルサイダーの鮮烈な芳香に食欲はいや増し、まさに天国の心地である。
「いい香り……これは最高……!」
 至福の心地に酔いつつも、オルティアの目線は早くも別皿へ――フレンチとアラモードのアップルパイへ向いている。アーモンドクリームたっぷりのフレンチか、アイスクリームと一緒に頬張るアラモードか。贅沢な悩みは尽きない。
 遅れじと、キリクライシャとマロンもアップルパイにフォークを伸ばした。
「……パイの味が素晴らしい……全制覇必須ね……」
「これがタルトタタンなのですね。凄く美味しいです!」
 アップルパイはみっしりと重く、感動的に甘い。
 タルトタタンはひと口頬張れば、凝縮された林檎の風味がふわりと華やかに花開く。
「……まさに幸福の極みだわ」
 大好きな菓子に囲まれて満足の息を漏らすキリクライシャ。かたやマロンは林檎ジャムを塗ったケーキをパイやタルトと食べ比べ、嬉しい悲鳴を上げている。
「……後で、持ち帰り用も選びましょう」
「私も、ジャムとポムポムなケーキはお土産に……あっ、お待ちかねの到着です!」
 マロンがミルクティーで体を温めていると、新たな一品が運ばれてきた。
 林檎モンブラン――モンブランクリームをたっぷり載せたアップルパイである。
「ふわわ……ぽっくりした栗の味と、林檎の甘酸っぱさが合わさって……!」
「美味しい。こっちも美味しい、美味しい……!」
 オルティアもまた、蕩けた笑顔でアップルパイを頬張っている。クラシックにフレンチ、アラモード……あまりの感動になんだか語彙さえ怪しい。
 一方、有理はそんな風景を見つめながら、リムと菓子を分け合っていた。
 紅茶をお供に濃厚なタルトとパイの食べ比べに興じながら、有理は至福の吐息を漏らす。お行儀が悪いのを承知でパクッとパイにかじりつけば、鮮烈な香りと果汁についつい目尻が緩んでしまうのだ。
「両方頼んで正解だったね、リム」
 林檎菓子を頬張って大喜びする箱竜の姿に、ふと有理は家族の顔を思い浮かべる。
 皆でお菓子を分け合えば、もっと素敵な時間が過ごせるだろう。この幸せを独占するのはあまりに勿体ない。
「お土産、皆にも持って帰ろうね」
 がう、と元気に吠えるリム。
 その向かいでは山積みのパイと珈琲を相手に、千翠が格闘の真っ最中だった。
「パイ? タルト? 名前はよく分からねーけど、美味いから問題ない!」
 戦いで動いた後ゆえか、その食欲も一入のようだ。
 片やピジョンは、クラシックのアップルパイを手に満悦の笑み。季節の林檎をふんだんに詰め込んだ一品は、控えめな甘さがしみじみと美味い。
「幸せだね、マギー」
 甘く、あたたかく、そして賑やかな宴。
 その景色を眺めつつ、オズはタルトタタンをストレートの紅茶と一緒に楽しむ。
「素敵な時間だね……ん?」
 何だか、新しい歌が閃きそうだ――そんな予感を覚えながら、クリームを塗したタルトを口に運んでいると、トトが物欲しそうな視線を無言で送ってきた。
「ごめんごめん、一口どうだい?」
 差し出したタルトにご機嫌のトトを見て、オズはふふっと頬を綻ばせる。林檎ジュースが届いたら、また歌を思案するとしよう。
 こうして過ぎ行く長閑な時間を、風音もまた満喫していた。窓越しに見えるのは、紅葉の舞い散る街路を行きかう人々。平和な秋の風景だ。
「静かな日常は、良いものですね」
 風音はアップルパイを一片切ると、シャティレの口元へと運ぶ。
 焼きたてのパイも、香り高いタルトタタンも、シャティレはすぐ好きになった。風音よりも沢山の量をぺろりと平らげた箱竜は、空の皿にちらりと未練の視線を送りつつ、行儀よく林檎ジュースを飲み始める。
「ドライフルーツ、後で買って帰ろうか?」
 風音の素敵な申し出を、シャティレはぴゃう、と快諾する。
 箱竜と過ごす、我が家での団欒。
 そのひと時を思い描きながら、風音はそっと紅茶を干すのだった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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