鴻の誕生日~瓶に思いを詰め込んで

作者:猫鮫樹


 琥珀色に染まった液体は、その色が濃ければ濃いほど、長い年月を過ごした証だと聞いたことがある。
 ワインのように、月日を置けば置くほど、その味わいや香りが変わってくるのだと。
 そんな深い琥珀色となった梅酒を、中原・鴻(宵染める茜色のヘリオライダー・en0299)は丸みを帯びたロックグラスに注いでいく。
「うん、良い出来だねぇ」
 芳醇な甘い香りに、鴻は満足そうに笑ってその琥珀色に口付けていく。この梅酒を漬けた時はどんなことがあったっけ? なんて思い出しながら口中を満たす液体を飲み干して、そうだと小さく声を漏らした。
「皆で梅酒を漬けたら、楽しそうだよねぇ」
 確か古民家の方で梅酒を漬ける体験が出来るはずだとも添えて、鴻は声を弾ませていた。
 その時その時の思いを、氷砂糖と梅と一緒に瓶の中に閉じ込めて、ゆっくりと眠りにつかせて、いつかそれを開ける時に懐かしさなんかを感じられたら素敵だろう。
 お酒が飲めない人はシロップを作ることもできるし、軽食なんかも用意して過ぎ去っていった時間に想いを馳せ、語らうのも楽しいかもなんて、鴻はグラスを揺らして目を細めた。
「ちょうど紅葉の時期にもなるし、皆とゆっくりとした時間を過ごせたら楽しそうだねぇ」
 そう遠くない日を想像して、頬を緩ませた鴻はまたグラスに思いを閉じ込めた琥珀色を満たしていくのだった。


■リプレイ

●秋晴れ
 どこまでも澄み渡り、突き抜けるような青い空。そこに浮かぶイワシの群れの様な雲を見上げる中原・鴻(宵染める茜色のヘリオライダー・en0299)は、紅葉する木々よりも赤い瞳を細めて嬉しそうに笑みを浮かべていた。
 気温は少しだけ低く肌寒いけれども、鴻の胸はぽかぽかとしていた。だって、こうしてケルベロスの皆と一緒に何かできることが、こんなにも幸せに感じられるのだから。
「皆、今日は色んな気持ちをこの瓶に詰めていこうねぇ」
 鴻はやってきたケルベロス達を、嬉しそうに目を細めて出迎えたのだった。

●梅
 暦の上では冬が始まる時期となり、寒さが段々と増していく季節。
 その寒さに負けないようにと、鮮やかな紅葉色を纏った木々や、淡紅色に染まる山茶花、様々な色が溢れる大菊などが来るものを暖かく迎えてくれていた。
 千歳緑・豊(喜懼・e09097)とバラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)の二人はそんな花々が咲き誇る世界を見回して、ガラス瓶と梅が用意された場所へと向かう。
 二人の目の前に広がる梅の実は、艶やかな果実の色を浮かべているように見えた。
 バラフィールは目の前に広がる梅の実の姿にほぅと小さく息を吐いて、それから少し悩まし気に豊に視線を向けた。
「材料は……定番のものが良いでしょうか……?」
 お酒に関しての知識が浅いバラフィールがそう豊に訪ねてみれば、豊はそうだねぇと何かを思い出す様にその自身の苗字と同じ名の瞳を閉じた。
「梅酒は知人が付けたものを飲ませてもらったことがあるんだが、ブランデーが美味しかったんだよね」
「ブランデーですか」
 豊は濃い琥珀色が詰まったブランデーの瓶を見つめてそう口にすると、バラフィールも視線をその瓶へと向ける。
 たっぷりと満たされた琥珀色の瓶を豊は迷いなくとり、バラフィールを優しく見つめてからその隣に置いてある透明の液体が満たされた瓶をバラフィールへと薦めた。
「ブランデーよりも、こちらの方がアルシク君には合うかもしれないね」
「これはホワイトラム……?」
「そうそう。梅はやっぱり……完熟南高と氷砂糖が私はおすすめかな」
 緑と赤が混じる梅の実を手にした豊は優しく目を細めた。千歳緑さんのおすすめで作ってみようと思いますと、同じ梅を手にしたバラフィールは顔をほころばせる。
「たしか梅のヘタを取ってから、砂糖と交互に入れるんだったかな」
「交互に……こうしてみると、綺麗な層になりますね」
 ガラス瓶に梅と氷砂糖を交互に重ねて出来る層に、バラフィールは少しだけ声を弾ませた。
 積み重なる層はきっと自分達が過ごしてきた時間と同じようなもので、それを梅と砂糖が現していく姿はなんだか嬉しいような寂しいような、色んな感情がないまぜにされていくようだった。いつかこの梅酒が良い漬け込み具合になった時に、蓋を開ければ今日のことをこうして思い出して懐かしい気持ちにさせてくれるのだろう。
「じゃ、あとはお酒を入れるだけだね」
「はい。……私、千歳緑さんとこうして一緒に梅酒を漬けられて楽しいです」
 トクトクと梅と氷砂糖の層へと注がれる琥珀色と無色の液体に、バラフィールはふわりと笑みを浮かべて、そのガラス瓶の蓋を閉じた。梅と砂糖とアルコール、そして今日のこの思い出すらも閉じ込めたガラス瓶を大切にしようと、きっと豊も思ったのかもしれない。
 二人は梅酒を作り終え、目的の人物の元へと足を向ける。
 目的の人物は縁側に腰掛け、丸みを帯びたロックグラスを片手に静かに来てくれた皆を楽しそうに眺めていた。
「中原さん」
「おや、バラフィールさんと千歳緑さん、梅酒はもう漬けられたのかい?」
 バラフィールに声を掛けられた鴻は、にこりと笑って梅酒が入ったグラスをくるくるとまわした。
 琥珀色が揺れて踊り、芳醇な香りを漂わせるそれはまるで、詰め込まれた思いすら一緒に溢れ出るようで。
 そんな風に揺れるグラスを持つ鴻に、豊がラッピングされた包みを取り出してから穏やかな笑みを湛えて言葉を添えた。
「鴻君、お誕生日おめでとう」
「わぁ、嬉しいなぁ。ありがとう、千歳緑さん」
「中身はアールグレイの紅茶なんだ。梅酒の紅茶割りは結構おいしいからね」
 ソーダやロックアイスも持ってきた豊は、みんなで色々飲み比べるのも面白そうだが……と提案し、それもいいねと鴻も頷いて見せた。そんな二人の傍でバラフィールは、ウイングキャットの『カッツェ』が首から下げていた袋から折詰を取り出して、縁側に並べて見せる。
「お誕生日おめでとうございます。よろしければ……召し上がって下さい」
 バラフィールが折詰の蓋を開けて見せると、そこには春巻きや一口稲荷が綺麗に並んでいた。
「お稲荷さんだぁ、バラフィールさんもありがとうねぇ」
「お酒ばかりでは体によくありませんので……お口に合えばいいのですが」
「確かに……お酒ばかりはダメだよねぇ」
 気をつけなきゃなんて言ってバラフィールに苦笑を返すしかない鴻のすぐ近くでは……、
「ぐぞぉおおお……!」
 心底悔しそうなに呻く姿があった。
 声の主であるマリオン・フォーレ(野良オラトリオ・e01022)は、目の前で悪びれもなく梅を突くルイス・メルクリオ(キノコムシャムシャくん・e12907)に恨めしそうな視線を送る。
「頑張って仕込んだものだったのよ……!」
 あく抜きをして、汚れを丁寧に落としてへたを取ったりと下ごしらえし、一週間かけて仕込んだ一年分の梅シロップ達が……空の瓶と種だけを残して食糧庫に転がっていたのはつい最近のことだった。
 あまりに綺麗に消え去ってしまったが故に、この瓶がいったいなんだったのだろうと首を傾げてしまったくらいで、マリオンはいまだに表情を変えないルイスを睨むくらいには胸の悲しみが消えないようで。
(「いやー、かき氷シロップとして梅シロップを使うってのは、目から鱗でしたわ~。甘みと酸味のバランスが絶妙なので、もう無限に食えますね!」)
 贅沢な夏であったと、ルイスは満足げに思い出してから、マリオンの前にすっと瓶を差し出した。
「……というわけで、こちらに消毒済みの空瓶がございます」
「なにがというわけだ! この盗っ人が!」
 ちゃぶ台をひっくり返す勢いでマリオンはルイスに指を突き付ける。
「厳しい夏を乗り切るために、栄養価が高いものをと考えたのに、気付いたら全部空になってたんだよなぁ……」
 突きつけられた指すらも眼中にないのか、ルイスは瓶の底に穴でも開いてたかなとすっとぼけながら空を見上げた。
「家から出ねーでアニメアニメアニメたまにゲームばかりのお前に、夏バテなんて関係ねーだろ!」
「いやいやいや、アニメ見るのもゲームするのも大変なんですわ~」
 全く分かってないなぁとでも言うようにルイスが頭を左右に振り、マリオンをじぃっと見つめ返した。
「それよりも姉ちゃんが地下食糧庫で奇声発して暴れているから、とうとう黒魔術に手を染めて怪しい召喚儀式でも始めたのかとおもったよ」
「そんなわけあるか! もう! 作り方教えるから、自分で使う分は自分で仕込めや!!」
 これ以上の言い争いは無駄だとマリオンも分かっているのか、そう切り上げるように叫んで追いシロップ作りへと意識を向かわせた。
 今度こそ賊に取られないように、自分の分は自分でと言い放ってから梅と氷砂糖をガラス瓶へと詰め込んで、マリオンは小さく息を吐く。
 青々とした色の丸い梅――白加賀が氷砂糖と共に沈んでいく瓶を見て、マリオンの心は少しばかり落ち着きを取り戻したように見える。マリオンの横でルイスは、白加賀や完熟南高などの梅よりも小粒で、可愛らしい見た目をしたパープルクイーンを瓶の中に入れていた。
 あく抜きして、楊枝でヘタ取りまで済ませた梅の上には氷砂糖を敷き詰める。
 氷砂糖を使うと綺麗な色になるとかどうとかで、ルイスもそこはおとなしく従っておいたようだ。
 マリオンの白加賀で作った梅シロップも、ルイスの作ったパープルクイーンの梅シロップも秋の陽光に光り輝いているようだった。

 賑やかな声と温かな秋の日差しが紅葉する世界を包み込むようなその場所で、一つのガラス瓶を前にして悩む二人の姿があった。
 並べられた材料を前にして君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)はどれを選んだものかと悩まし気な表情を浮かべる一方、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は楽しそうに笑みを浮かべていた。
 対照的な二人の表情ではあるが、今日の思い出をしっかりと刻もうとする意志は同じかもしれない。
「梅酒を飲んダことはあルが、自分でつくルのは初めてダ」
 艶やかでいて、甘酸っぱいような香りを漂わせる様々な梅。それらを一通り眺めてから、眸は相棒である広喜とどの素材にすべきかと思考を回す。
「なぁなぁ、この露茜ってやつはどうかな」
 広喜がそう眸に見せるように梅を持ち上げた。
 まるで桃を小さくさせたような赤い実は、他の梅よりも梅らしい赤い輝きをしていた。
 眸も異論はないようで静かに頷くと、今度は次に選ぶ砂糖へと視線を移す。
 きらきらと輝く氷砂糖に金平糖、ブラウン色の香ばしい香りのてんさい糖……どれもきっと美味しい物になるに違いないが、眸は広喜へと視線をずらした。
 広喜も分かったように頷いてから蜜色に輝くそれを持ち上げる。
「やっぱこれだよなっ」
「流石は広喜ダ」
「相棒だからな! はちみつ、いっぱいいれようなっ」
 透明な瓶の中へと赤い実を一つ、また一つと落としては広喜と眸は顔を見合わせて笑いあっていく。
 そうした共有する思い出も全て露茜と共に瓶へと落とし込んで、蜜色で沈めればあとは仕上げのお酒を注ぐだけ。
 入れるだけの単純作業とはいえ、二人でするだけでこんなにも楽しいものになるんだと広喜は自然と笑顔になってしまう。楽しい、嬉しいという気持ちが次から次へと溢れてくるのだ。
「最後は酒だな」
「甘みの出ルホワイトラムも良イのだが……」
「四種類だけど、悩むよなー」
 無色透明の液体で満たされる三つの瓶と、濃い琥珀色の瓶が一つ。
 露茜とはちみつに合わせるには、どのお酒が一番あうのだろうか……と広喜は自分の中にあるデータにアクセスをしてみるが、当てはまるものを見つける事ができなかった。
 眸も同様のようで、右側の目元の皮膚の下にある回路が淡い光を見せる。
 そしてどちらともなく、一つの瓶に手を伸ばしていた。広喜も眸も、お互いの気持ちが通じ合っていたことに笑みを零し、最後の材料を注いでいく。
 三つの材料と、広喜と眸の気持ちを閉じ込めた瓶に蓋をすれば、あとはゆっくりと漬け込みが終わるまでしばしのおやすみ。
 一体どんな味になるのか、広喜は今から楽しみで仕方がないような笑顔を浮かべていた。
「よし! じゃあさ、用意してもらってる梅酒飲みに行こうぜ」
「ソウだな」
 瓶に閉じ込めた気持ちを嬉しそうに眺めていた眸に広喜はそう声をかけ、二人は並んで軽食類が置いてあるテーブルへと歩いていく。
 いくつかの軽食に、梅酒のグラスを受け取ってから眸は赤く染まる木を見上げた。
 漬けた梅酒が飲めるのはきっと来年くらいだろうかと、目を細める眸に広喜の弾んだ声が鼓膜を揺らす。
「眸、今日の思い出に乾杯だぜー」
 来年もまた眸と一緒に酒が飲めると思うとすげぇ嬉しいと広喜は言った。眸も広喜の気持ちと同じだったのだろう、笑顔を浮かべてグラスを軽く合わせた。
「へへ、美味えっ」
「うん。とても、美味しイな」
 今日の日を胸に刻んで、二人で漬けた梅酒を飲みながら今日のことを思い出せたなら、きっと幸せだろうなと飲み干したグラスを見つめて広喜と眸は紅葉の下で笑顔を浮かべているのだった。

「味の好みはあるか、ティアン」
「味なら甘酸いの、すきだぞ」
 ガラス瓶を抱えたティアン・バ(彼岸のみぎわ・e00040)は灰色の瞳を瞬かせて、レスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206)を見上げた。
 頭上では葉が揺れ、視線を下げれば大輪の菊がその灰色の瞳に映り込む。
 秋の景色が広がるこの場所でケルベロス達が集まって、各々梅酒とシロップ作りを楽しむ傍らティアンとレスターもまた同じように用意された材料の前にいる。
 まだ二十歳になっていないティアンはシロップを、レスターは半年後に誕生日を迎えるティアンの為にお祝い用の梅酒を作りに今日は来た。
 味の好みをティアンに尋ねたレスターは、甘酸いという言葉と勘を頼りに材料を選んでいく。
 梅は露茜、飲みやすさを考えてはちみつを多めに入れて、そこにブランデーを注ぐ。
 ブランデー特有の樽の香りに混ざる梅とはちみつに、半年後の誕生日を迎えるティアンへのお祝いの気持ちを込めて、しっかりと蓋をしてレスターは梅を瓶に敷き詰めるティアンへと視線を向ける。
 ティアンが選んだ梅はレスターと同じ露茜。
 どんなお酒を好きになるかティアンは分からなかったが、味の好みならそれが好きだとレスターに答えてから手に取った露茜。
 淡紅色の綺麗なその実をティアンは優しく瓶に入れて、涼やかな氷砂糖を重ねていく。
 大人になったらお酒に気をつけるようになんて、レスターに言われたのを覚えている。いつかもし、飲める時期がきたら……おいしいものがいいとティアンは思う。
 露茜と氷砂糖の層が薄っすら赤く煌めく様を、ティアンはどこかふわりとした判然としない表情で見つめてからすでに梅酒作りを終えたレスターを見た。
「開けるのは半年後だな。美味くできるといい……や、美味すぎてお前が嵌るのもいかん」
 蓋をした二つの瓶とティアンを見つめたレスターはそんな風に言ってから、難しい顔をした。
 美味しくできるにこしたことはないが、お酒に嵌ってしまうのもいけないという感情が入り混じってしまったのだろう。まぁ、それでもこの梅がちゃんと漬かってお祝いができればいい。
「作り終わったし、行くか」
 レスターの言葉にティアンは小さく頷いて、軽食のある場所へと歩いていく。
 都市部の郊外にあるとは聞いていたが存外綺麗なこの場所は、絶好の紅葉見ができるような場所だった。時折風で舞い落ちる葉は、鮮やかな色を秋の陽光で輝かせていてとても綺麗で見応えがある。
 そんな世界をティアンとレスターがゆっくりと歩いていけば、ちょうどそこには湯気を立たせるカップを持った鴻の姿があった。
「やぁ、二人ともいらっしゃい」
「鴻、誕生日おめでとう」
「おめでとう。誘ってくれたこと、ティアンは感謝している」
「ふふ、嬉しいなぁ。僕のほうこそ、来てくれて……お祝いしてくれてありがとう」
 アルコールが回ったのか、嬉しさからなのか、鴻の頬は赤みが差していた。
 温かい紅茶割りの梅酒を一口すすって、稲荷寿司をぱくりと口に放り込んで鴻はレスターとティアンにもう一度嬉しそうな笑顔を見せてから、ゆっくりしてねと声をかける。
「何を飲むかな、ティアンは決まっているのか?」
「ティアンは梅ジュースを」
 レスターは自分の分の飲み物と軽食をいくつか、そしてティアンの梅ジュースを受け取って紅葉が一番見える縁側にそれらを置いて二人並んで座った。
 故郷を離れてから、幾度となく過ぎ去っていったこの国の秋。
 ティアンは手元にあるグラスに視線を落とし、その縁をなぞる。指を這わす振動で揺れる黄金色は、まるで寄せては返す海の波の様だった。
「あっという間に時は過ぎる」
 黄金色の波間に揺れていたティアンは、その呟きに顔をあげてレスターをその灰色の瞳に映す。
 レスターはただ、赤く燃えるような木を見つめたまま、二十歳になるのが待ち遠しいかとティアンに問うた。
 その問いにどんな意味があるかは誰にもわからないが、ティアンはレスターの顔を見つめたまま考え込んだ。あと半年。そのあと半年で二十歳になるティアンには、いまだに実感が湧いてこない。それでも、
「ティアンは、二十歳になること自体よりも……こうやって準備してくれるものを楽しみにしている」
「……そうか」
 明日を生き延びられるかどうかわからない世界だ。ティアンもレスターも、それは重々理解している。
 それでも変わらぬ侭、変えぬ侭で居たいと思ってしまう時だってある。
 なんでもないこの穏やかなひと時がまさにそうだった。
 命を懸ける世界ではあるけれども、あの梅酒を開ける特別なその日……、
(「変わる事への祝杯を掲げよう」)
 レスターは銀色に光る瞳に、温かな色を滲ませティアンを見つめた。
 この時間は何にも変えられない。19歳であるティアンは、訪れる誕生日を迎えた時に、自分は何か変わるだろうかと……言葉に出来ないような思いを、自身の胸の中で燃える炎にそっと潜ませたのだった。

作者:猫鮫樹 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月16日
難度:易しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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