電子ロックは開かない!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化した屋敷に、電子ロック式金庫があった。
 いわゆる開かずの金庫。
 その場所は、屋敷の主が眠っていた寝室。
 しかし、屋敷の主が頑なに暗証番号を言わなかったため、金庫を開ける事が出来なかったようである。
 それでも、何度か開けようとしていたようだが、どんなに頑張っても開ける事が出来ず、持ち運ぶ事が出来ないほど重かったため、廃墟と化した後も、屋敷の中に放置された。
 その場所に小型の蜘蛛型ダモクレスが現れ、電子ロック式金庫に機械的なヒールを掛けた。
「ロックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電子ロック式金庫が耳障りな機械音を響かせ、廃墟と化した屋敷を飛び出すのであった。

●セリカからの依頼
「オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)さんが危惧していた通り、都内某所にある屋敷で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある屋敷。
 この屋敷は金持ちの男性が亡くなった後、遺産相続でモメまくっていたらしい。
 そのため、放置されたままになっている電子ロック式金庫の中身は、価値のないモノである可能性が高いようだ。
「ダモクレスと化したのは、電子ロック式金庫です。電子ロック式金庫と化した事により、物凄くゴツいロボットのような姿をしているようです」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)

■リプレイ

●都内某所
 電子ロック式金庫にとって、大切なのは中身を護る事だった。
 それが電子ロック式金庫の仕事であった。
 故に、中身は気にしない。
 例え、それが何であろうと関係ない。
 価値があろうと、なかろうと、大した問題では無かった。
 それよりも、中身を護る事が、最優先ッ!
 叩かれようと、殴られようと、絶対に開く事はなかった。
 唯一心を許すのは、暗証番号を知っている所有者だけ。
 その気持ちも、思いも、すべてしまい込む勢いで、所有者に心を許していた。
 そのため、数字も適当に入れただけでは開く事が無かった。
 そして、小型の蜘蛛型ダモクレスが現れた時も、電子ロック式金庫が開く事はなかった。
「……開かずの金庫ですか。遺産相続で揉めまくっていたらしいですし、うーん、何を入れていたのでしょうか? 少し興味ありますね」
 そんな中、肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)は仲間達と共に、ダモクレスが確認された屋敷にやってきた。
 その屋敷には、かつて金持ちが住んでいたものの、彼が亡くなったのと同時に、醜い遺産争いが起こったため、今では廃墟と化しているようだ。
 噂では、未だに屋敷の所有権をめぐって、遺産争いが続いているようだが、まったく手入れをしていなかったため、すっかり荒れ果てており、どこからどう見ても廃墟にしか見えなかった。
「鍵を持たなくて良いので便利、と思っていたのですが、パスワードを知っている人がいなくなるとこんなこともあるんですね」
 伊礼・慧子(花無き臺・e41144)が殺界形成で人払いをした上で、屋敷の中を進んでいった。
 事前に配られた資料を読む限り、電子ロック式金庫を開けるため、総当たりで番号を入力していったようだが、どれも違っていたらして。
 だが、調べていくうちに、金庫の中身が価値のないモノだと分かったため、無理をしてまで開ける必要性が無くなったようである。
「ところで、金庫の中に何が入ってるか気にならない? 金庫に入れるって事は、とっても大切なものなんだよね? お金だったり、思い出だったり、この金庫の持ち主の大切は、なんだろうね?」
 月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)が電子ロック式金庫を見つけ、興味津々な様子で口を開いた。
 電子ロック式金庫には無理やり開けようとした形跡があり、幾つも傷が残っていた。
 その横にはバールと一緒に、無数の番号の書かれたメモが転がっていた。
 どうやら、それは間違った番号。
 すべての数字にバツが書かれていたため、これ以外の番号を入力すれば、金庫を開けられる可能性があった。
 残念ながら、事前に配られた資料には、電子ロック式金庫の中に何が入っているのか書かれていなかったが、遺産を相続する者達にとって、価値のないモノである事は間違いないようである。
「換金するための価値はなくても、当人にとって大事なものっていっぱいあるからね。何億にもなるダイヤモンドより、初めて買ってもらったラムネのガラス玉のほうが大事とか……。僕の場合は、そういう感じになるかな」
 オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)が、自分なりの考えを述べた。
 実際に、遺産を相続する者達が価値のないモノと判断しているため、宝石よりも、ガラス玉に近いモノが入っている可能性が高かった。
 しかし、現時点で中身を判断する術はない。
 遺産を相続する事になっている者達が、どんな手段を使って中身を知ったのか分からない。
 それでも、興味を無くしてしまう程のモノであった事は間違いない。
「デ、デ、デ、デ、デ……」
 次の瞬間、電子ロック式金庫が激しく揺れ、みるみるうちにダモクレスに変貌を遂げた。
 ダモクレスは物凄くゴツいロボットのような姿をしており、ガシャコンと音を立てながら、ケルベロス達を威嚇するようにして、耳障りな機械音を響かせるのであった。

●ダモクレス
「よしじゃあ、はりきって金庫破りと行きますかー! ……あれ違う?」
 すぐさま、京華がメタリックバーストで、全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、超感覚を覚醒させた後、ハッとした表情を浮かべて、仲間達を二度見した。
 何やら微妙な空気が漂っているものの、京華の考えは変わらない。
 例え、金庫の中に入っているモノに価値が無かったとしても、気になっているのだから仕方がない。
 それこそ、このまま金庫を開けずに倒してしまったら、金庫の中身が気になって夜も眠れなくなってしまう。
 それが分かっているため、金庫を開ける事しか、頭にない。
 もちろん、それには危険が伴うものの、それも覚悟の上である。
「キンコォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 その事に気づいたダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
 しかも、そのビームは超重量級ッ!
 畳がボコボコとえぐれ、ケルベロス達に迫ってきた。
「当たったら、タダでは済まなそうだけど、思ったよりもスピードが出ていないようだね」
 オズがダモクレスの放ったビームをギリギリのところで避け、寓話語り『最後の希望』(グウワガタリ・サイゴノキボウ)で自らを癒した。
 それに合わせて、ウイングキャットのトトが、清浄の翼でオズを援護した。
「だからと言って、油断をするわけには……」
 そんな中、鬼灯が警戒した様子で、スターサンクチュアリを発動させ、地面に描いた守護星座を光らせ、仲間達の身を護った。
「キンコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、苛立ちを隠せない様子で、再びビームを放とうとした。
 しかし、ビームを放つためにはチャージをしておく必要があるらしく、メーターと思しき部分が少しずつ赤く染まっていた。
「……今のうちに攻撃してしまいましょうか」
 その隙をつくようにして、慧子がイガルカストライクを発動させ、杭(パイル)に雪さえも退く凍気を纏わせ、ダモクレスを突き刺した。
 それに合わせて、京華がハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾でダモクレスの動きを鈍らせた。
「デ、デ、デ、デ、デ……」
 その影響でダモクレスは身動きが取れなくなり、恨めしそうに機械音を響かせた。
「1504! ……1505……151……あれ? どこまでしたっけ? でも、中身が変なものだったらどうしよ……。ほら、墓場まで持っていく秘密のひとつやふたつ…みんなもあるでしょ? その時は……私たちの秘密にしようね?」
 その間に、京華が総当たりで番号を合わせつつ、仲間達に軽く冗談を言った。
 近くにあったメモのおかげで、番号をだいぶ絞り込む事が出来たものの、それでも時間が掛かりそうな感じであった。
「デンシロォォォォォォォォォォォォック!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせながら、電子ロック式金庫型アームを振り回した。
 そのため、京華は番号を合わせる事が出来なくなり、ダモクレスの攻撃を避けるようにして、その場から飛び退いた。
 だが、電子ロック式金庫が開くまで、もう少し。
 どうやら、151まで合っているようなので、既に秒読み段階と言った感じであった。
「さすがに、番号を入力している場合ではないようだね」
 その事に気づいたオズが京華を援護するようにして、黄金掌で光輝く掌をかざした。
「……こっちですよ!」
 そんな空気を察した鬼灯が、ダモクレスの注意を引いた。
「キンコォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 その挑発に乗ったダモクレスが、耳障りな機械音を響かせながら、鬼灯に迫っていった。
 それに合わせて、鬼灯が稲妻突きを仕掛け、稲妻を帯びた超高速の突きで、ダモクレスの身体を貫き、神経回路を麻痺させた。
「かかれ、見えざる矢。その影のみを残せ」
 それに合わせて、慧子が瞬息の一矢(シュンソクノイッシ)を仕掛け、水属性を帯びた魔法の弓で非常に細い矢を放ち、ダモクレスの左アームを凍りつかせた。
「デ、デ、デ、デ、デ、デェェェェェェェェェェェェェ!」
 それと同時に、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、電子ロック式金庫型のミサイルを飛ばしてきた。
 ダモクレスから放たれたミサイルは、天井にぶち当たって畳に落下し、大爆発を起こして大量の破片を飛ばしてきた。
「あわわっ、ビームとかミサイルとかあぶないなぁ……! この金庫のセキュリティ物騒だよ!」
 京華が涙目になりつつ、大量の破片を避けていった。
 その大半は壁にザクザクと突き刺さり、障子に幾つも穴を開けた。
「これ以上、被害を出す訳にはいきませんね。……これで終わりにしましょう」
 次の瞬間、鬼灯がサイコフォースを仕掛け、精神を極限まで集中させる事で、ダモクレスを爆破させた。
「デ、デ、デンシィィィィィィィィ……」
 その途端、ダモクレスが真っ黒な煙を上げ、完全に機能を停止させた。
 その間に、京華が暗証番号を入力し、ダモクレスと同化していた金庫を開けた。
「どうやら、金庫が開いたようだね」
 オズがホッとした様子で、金庫の中を確認した。
 金庫の中に入っていたのは、数枚の手紙。
 それは子供達から父親に送られた感謝の手紙。
 おそらく、遺産を相続した者達が子供の頃に書いたモノだろう。
 たどたどしい文章であったが、気持ちと思いが伝わってきた。
「まあ、個人の名誉もありますし、私は見なかった事にしましょうか。……とは言え、相続でトラブルがあったという親族に渡すのは少々気が引けますね。何か良い決着方法があればいいのですが……」
 慧子が複雑な気持ちになりながら、黙って金庫を見下ろした。
 少なくとも、遺産を相続する者達にとっては、タダのゴミ。
 亡くなった金持ちにとっては、宝物。
 物自体は同じモノなのに、その価値は雲泥の差があった。
 それ故に、例え遺産を相続する者達に渡したとしても、単なるゴミとして処分されるだけだろう。
 その事を考えると、何やら悲しい気持ちになった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月5日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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