助けを求める呼び声

作者:ゆうきつかさ

●栃木県某所
「タス……クダ……。ワタ……、ココ……マス。……カ、……ケテ、……ーズ……」
 栃木県某所にある山中に、テープレコーダーが落ちていた。
 そこには、山で遭難した登山者のメッセージが記録されていたものの、それが聞かれる事はなかった。
 だが、助けを求める声は、今でも時々、響いていた。
 それは途切れ途切れで、既に言葉になっていた。
 それでも、テープレコーダーからは、言葉が発せられていた。
 その場所に小型の蜘蛛型ダモクレスが現れ、テープレコーダーに機械的なヒールを掛けた。
「テープレコーダァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したテープレコーダーが、耳障りな機械音を響かせ、山を滑るようにして下りていった。

●セリカからの依頼
「綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)さんが危惧していた通り、栃木県某所にある山中で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、栃木県某所にある山中。
 この場所で遭難した男性がいたらしく、テープレコーダーは彼が持っていたモノらしい。
「ダモクレスと化したのは、テープレコーダーです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスはテープレコーダーがロボットになったような姿をしており、耳障りな機械音を響かせながら、ケルベロス達に襲い掛かってくるようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)
 

■リプレイ

●栃木県某所
「……ケテ……サイ……。シハ、……ニイ……。ダレ……、タス……、プリ……」
 テープレコーダーから聞こえていたのは、誰かが助けを求める声だった。
 その声は、とても弱々しく、不安そうであった。
 しかし、電池が切れかけているのか、言葉は途切れ、途切れ。
 何を言っているのか分からない程、聞き取りづらくなっていた。
 そのためか、テープレコーダーは、放置されたまま。
 誰にも持っていかれる事なく、雨ざらしになっていた。
 そして、助けを求めるテープレコーダーの前に現れたのは、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
「まさか私が危惧していたダモクレスが本当に現れるとは……。遭難者の事も気になりますけど、今は現れたダモクレスを倒しましょうか」
 そんな中、綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)が、仲間達と共に栃木県某所にある山中にやってきた。
 そこは毎年のように、遭難者が出ている危険な山。
 それが原因で山道には警告文の書かれた立て札がいくつも立てられているのだが、遭難者の数が減る事はないようだ。
 それどころか、警告を無視して山の奥に足を踏み入れてしまう者が、後を絶たないようである。
 おそらく、それはこの奥でマツタケが採れるため。
 例え、危険を冒しても、採るだけの価値があるという事だろう。
 だが、山道を一歩外れてしまうと、そこは別世界。
 似たような景色が広がっているため、迷ってしまっても仕方がないと思えてしまう程だった。
「山で遭難した人の持っていたテープレコーダーか。遭難した本人は、もう亡くなっているのかな?」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が事前に配られた資料を参考にしながら、疑問を口にしつつ山の中を進んでいった。
 そこは雑草に覆われていたものの、添付されていた地図のおかげで迷う事はなかった。
 だが、ダモクレスが確認された場所が近づくにつれて、妙な胸騒ぎに襲われ、両足が鉛のように重くなった。
「確かに、遭難した人はどうなったんだろう……。僕としては、レコーダーだけが置き去りになって、録音した人自体は救出された、であってほしいのだけど……」
 オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)が複雑な気持ちになりつつ、何処か遠くを見つめた。
 テープレコーダーの所有者が、どうなったのか、事前に配られた資料には書かれていない。
 そのため、生きているのか、死んでいるのか、現時点で分からない。
 おそらく、遭難者の生死は、必要ないと判断され、詳しく書かれていない可能性が高かった。
「遭難した人のメッセージか。おそらく、遭難した本人は、亡くなっていると思うけれど……。せめて、これ以上被害が拡大しない様に、ダモクレスを倒すしかないわね」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、気持ちを切り替えた。
 調べた限り、この山で遭難した者達が何人も救出されているようなので、必ずしも亡くなっているとは限らないようである。
 だからと言って、テープレコーダーの所有者が生きているという保証もないのだが、現時点でそれを調べる術はなかった。
「……そうですね。何やら大変な事態が発生していたようですが、まずはダモクレスです」
 その途端、兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)が、警戒した様子で物陰に隠れた。
 その音は、茂みの向こう側から聞こえており、物凄いスピードでこちらに迫っているようだった。
「テェェェェェェェェプレコーダァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、茂みの中から現れたのは、ダモクレスと化したテープレコーダーであった。
 ダモクレスはロボットのような姿をしており、今にも消え去りそうな声で、助けを求めていた。

●ダモクレス
「タスケテェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 それと同時に、ダモクレスが悲鳴にも似た機械音を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
 それは禍々しい力が宿っており、辺りの木々を薙ぎ倒しながら、ケルベロス達に迫ってきた。
「いきなりビームを放つなんて……。礼儀がなっていないわね。さぁ、自然を流れる属性の力よ、仲間を護る盾になりなさい!」
 すぐさま、リサがエナジープロテクションを発動させ、自然属性の盾でダモクレスが放ったビームを防いだ。
「タ、タ、タ、タスケテェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 それを目の当たりにしたダモクレスが、恨めしそうな声を響かせた。
 この様子では、ダモクレスの発した言葉に、深い意味はないのだろう。
 助けを求める言葉に反して、ダモクレスの殺気が爆発的に膨らみ、鋭い殺気が刃物の如くケルベロス達に向けられた。
「さぁ、行きますよ、ネオン。サポートは任せましたからね!」
 その間に、玲奈がボクスドラゴンのネオンに声を掛け、ダモクレスに攻撃を仕掛けるタイミングを窺った。
 それに合わせて、ネオンが属性インストールを発動させ、玲奈に自らの属性を注入した。
「それじゃ、援護をよろしくね、トト」
 続いて、オズがウイングキャットのトトと連携を取りつつ、寓話語り『勇者よ奮い立て』(グウワガタリ・ユウシャヨフルイタテ)で仲間達を援護した。
 その気持ちに応えるようにして、トトが清浄なる翼で羽ばたき、辺りに漂う邪気を祓った。
「テェェェェェェェェェェェェェェプゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 それと同時にダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、助けを求める声と共に再びビームを放ってきた。
 それは先程よりも強力であったが、ケルベロス達には当たらず、辺りの木々を薙ぎ倒した。
「……なかなか厄介な攻撃ですね。まずは、この一撃で氷漬けにしてあげましょう」
 紅葉が間合いを取りながら、達人の一撃を仕掛け、ダモクレスの身体を凍りつかせた。
「エクトプラズムよ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 それに合わせて、悠姫がプラズムキャノンを仕掛け、圧縮したエクトプラズムで作った霊弾をダモクレスにブチ当てた。
「レ、レ、レコーダァァァァァァァァァァァァァァ」
 その途端、ダモクレスがブチ切れた様子で、テープレコーダー型のアームを振り回した。
 だが、思うように体が動かないため、ケルベロス達には当たらない。
 それどころか、まわりにある木々が倒れて、身動きが取りづらくなっていた。
「まだ凝りていないようね。だったら、魔導石化弾で石に変えてあげるわ!」
 その隙をつくようにして、悠姫がガジェットを拳銃形態に変形させ、魔導石化弾を発射し、ダモクレスの左アームを破壊した。
「もう片方は斬り落としてしまいましょうか」
 続いて、紅葉が月光斬を仕掛け、緩やかな弧を描く斬撃で、ダモクレスの右アームを斬り落とした。
「タス……ケテ……タス……ケテ……」
 その間もダモクレスのテープレコーダー部分から、助けを求める声が響いていた。
「この声……ちょっと気になるわね」
 リサが複雑な気持ちになりながら、ダモクレスの攻撃を避けるようにして、後ろに下がった。
 その声はダモクレスと同化したテープレコーダーから発せられていたが、所有者の姿はどこにも見当たらなかった。
「やっぱり、テープレコーダーの所有者は亡くなっているのかな? それとも、所有者に置いて行かれた事を恨みに思っているのかな? どちらにしても、怒っている事は間違いないようだね」
 一方、オズは鎮めの風を発動させ、竜の翼から仲間の心の乱れを鎮める風を放った。
「テェェェェェェェェェェプゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスが苛立ちを隠せない様子で、テープレコーダー型のミサイルを飛ばしてきた。
 ダモクレスから放たれたミサイルは次々と地面に落下し、爆発したのと同時に大量の泥と木々を飛ばしてきた。
「この呪いで、貴方を動けなくしてあげますね!」
 その間に、紅葉が尋常ならざる美貌の呪いを放ち、ダモクレスの動きを封じ込めた。
「テ、テ、テ、テ、テ……」
 それでも、ダモクレスが必死に抵抗していたが、その気持ちに反して身体は全く動かなかった。
「これ以上、暴れられても困るので、大人しくしてもらいましょうか」
 その隙をつくようにして、玲奈がスターゲイザーを繰り出し、ダモクレスを蹴り飛ばし、わずかに見えていたコア部分を破壊した。
「レコーダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが激しく痙攣した後、真っ黒な煙をブスブスと上げて崩れ落ちるようにして動かなくなった。
 その間も、ダモクレスと同化したテープレコーダーからは、何やらブツブツと声が聞こえていた。
「何とか倒す事が出来たけど、遭難者はどうなったのかしら? さっきの声が、ずっと残っているせいか、気になって仕方がないのだけれど……」
 リサがモヤモヤとした様子で、ダモクレスだったモノを見下ろした。
 ダモクレス自体は、完全に機能を停止させていたが、テープレコーダーは無傷であった。
「まあ、内容が内容だし、録音に含まれる情報から、どこで録ったのか場所を特定して調査したほうがいいかな。取り越し苦労であってほしいけどね」
 そんな中、オズがダモクレスの中から、テープレコーダーを取り出した。
 いまのところ、遭難者の生死は不明。
 亡くなっている可能性が高いものの、それを確定されるだけの情報はない。
 そう言った意味でも、テープレコーダーを持ち帰り、可能な限り調査する必要があった。
 場合によっては、ダモクレスが確認された周辺を調査し、遭難者の手がかりを捜す必要があるのだから……。
「少し辺りを調べてみましょうか。このまま帰ったら、ここまで来るのに一苦労だし、だいたいの場所なら、絞り込めると思うから……」
 そう言って悠姫がダモクレスの現れた場所から、テープレコーダーの場所をある程度特定した。
 そして、ケルベロス達は手掛かりを求めて、茂みの中を進んでいった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月4日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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