電波の声は届かない!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
「ホン……ハ……テン……リ……。ク……カエ……ホ……ツハ……リ……。
 廃墟と化した工場から響いたのは、ポーダプルラジオから発せられた言葉であった。
 それは途切れ途切れであったが、何らかの電波を受信しているようだった。
 しかし、電池が切れかけているのか、言葉は途切れ、途切れ。
 それでも、必死に何かを訴えかけているような感じであった。
 だが、その言葉が誰かに届く事はなかった。
 その声に導かれるようにして現れたのは、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、カサカサと音を立てながらポータブルラジオに近づき、機械的なヒールを掛けた。
「ポータブルラジオォォォォォォォォォォォォォォ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したポータブルラジオが耳障りな機械音を響かせながら、工場を飛び出すのであった。

●セリカからの依頼
「リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)さんが危惧していた通り、都内某所にある工場で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある工場。
 工場は既に廃墟と化しており、今では心霊スポットとして知られているらしい。
「ダモクレスと化したのは、ポータブルラジオです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスはポータブルラジオがロボットになったような姿をしており、耳障りな機械音を響かせながら、ケルベロス達に襲い掛かってくるようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのガジェッティア・e49743)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)
 

■リプレイ

●都内某所
『……ジツ……セイ……ナ……。リ……シ……マス……ンジ……セイ……テン……ナ……』
 ポーダプルラジオの電池は、切れかけていた。
 それでも、最後の力を振り絞るようにして、言葉を発していた。
 だが、その言葉は誰にも届かなかった。
 いくら言葉を発したところで、誰も聞く者はいなかった。
 しかし、それでも関係なかった。
 言葉を発する事に意味がある。
 少なくとも、ポータブルラジオは、そう思い込んでいた。
 そして、その場に現れたのは、ポータブルラジオが求めた相手ではなく、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
「まさか、私が危惧していたダモクレスが本当に現れるとは驚いたわね。まぁ、人に危害が出る前に、さっさと倒してしまいましょうね」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)は仲間達と共に、廃墟と化した工場にやってきた。
 事前に配られた資料を見る限り、以前までこの工場では、電子部品を製造していたらしい。
 そのためか、辺りには小さな部品が、いくつも転がっていた。
「……何やら不気味ですね。いまにも幽霊が出そうな感じがしますけど、ダモクレスの方が幽霊よりも脅威ですね」
 綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)が仲間達と話をしながら、工場の中を歩いていった。
 工場の中は、妙にホコリっぽく、辺りにはゴミが散らばっていた。
 その間も、工場の奥から、何やらボソボソと声が聞こえてきた。
 だが、その言葉は途切れ途切れであり、今にも消え去りそうであった。
「……とは言え、ここって心霊スポットでもあるらしいし、ちょっと怖いわね。早くダモクレスを倒して帰りたいわ」
 雪城・バニラ(氷絶華・e33425)がブルっと身体を震わせ、殺界形成を発動させた。
 この時点で、嫌な予感しかしない。
 その事を証明するようにして、先程から鳥肌が立ちまくりであった。
 おそらく、何か出る。
 いや、ダモクレスが現れる時点で、きっと出る。
 そう考えると、肝試しスポットになるのも、納得であった。
「心霊スポットだからと言って、面白半分でやってきた一般人が、ダモクレスに殺される、という状況は防がないといけないわよね」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が、警戒した様子で辺りを見回した。
 いまのところ、辺りに人気はないものの、誰かが肝試しに来ているような事があれば、それこそシャレにならない感じであった。
 ただし、殺界形成を使って、人払いをしているため、誰かが間違っては行ってくる事はないだろう。
「もしかして、死者からのメッセージが流れる……なんて事は無いでしょうね?」
 アクア・スフィア(ヴァルキュリアのガジェッティア・e49743)が、ビクッと体を震わせた。
 何やら嫌な予感としかしないものの、いまさら帰る訳にはいかなかった。
「ポータブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したポータブルラジオが耳障りな機械音を響かせ、ケルベロス達の前に現れた。
 それはケルベロス達が一斉に驚いてしまう程、いきなりだった。
 そのため、まるで本物の幽霊が現れたような感じで、ケルベロス達がビクッと身体を震わせた。

●ダモクレス
「ポ、ポ、ポ、ポ、ポォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 それと同時に、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、刃物の如く鋭い殺気を放ちながら、超強力なビームを放ってきた。
 そのビームは恨めしそうに声を発しながら、禍々しく渦巻きながら、ケルベロス達に迫っていった。
「鏡の螺子よ、仲間を護る盾を創りなさい!」
 すぐさま、リサがエナジープロテクションを発動させ、ダモクレスの放ったビームを防いだ。
 その拍子に、超強力なビームが弾け飛び、漆黒の雨となって降り注いだ。
「ポ・ポ・ポ・ポ・ポォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」
 ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、再びビームを放とうとした。
 その間もダモクレスの身体と同化したポータブルラジオの部分から、何やら音声が聞こえていた。
 しかし、ボソボソと呟いているような感じのため、何を言っているのか分からない。
「そう何度も撃てると思った? だとしたら、調子に乗り過ぎているわね」
 その間にバニラが間合いを取りつつ、スターゲイザーを放ち、ダモクレスを蹴り飛ばした。
「ポータブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
 その一撃を喰らったダモクレスがバランスを崩し、転がるようにして工場の壁にぶつかった。
 だが、戦意はまったく衰えておらず、自らの殺気を爆発させるようにして、勢いよくムクッと起き上がった。
「まだ起きるのは、早過ぎですよ」
 その間にアクアが間合いを取り、バスターフレイムを放って、ダモクレスの身体を燃え上がらせた。
「少し熱くなってしまいましたね。これでバランスを取っておきましょうか」
 それに合わせて、玲奈がボルトストライクを仕掛け、自らの拳で殴りつけ、氷の爆発で追い打ちをかけた。
「ポポポポポポポ……」
 ダモクレスが小刻みに痙攣しながら、それでもビームを放とうとした。
 しかし、チャージに時間が掛かるらしく、すぐに放つ事が出来ないようだ。
「その硬い身体を、かち割ってあげるわ」
 それと同時に、悠姫がスカルブレイカーを仕掛け、高々と跳び上がって、ルーンアックスを振り下ろした。
「ポ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、耳障りな機械音を響かせ、ヒビ割れた部分から真っ黒なオイルを撒き散らした。
「ポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 だが、ダモクレスはまったく怯んでおらず、半ばヤケになりながら、アンテナ型のアームで鋭い突きを繰り出した。
「気を付けてくださいね、ネオン。油断していると、痛い目に遭いますよ」
 玲奈がボクスドラゴンのネオンに声を掛け、ダモクレスの攻撃を避けていった。
 だが、ダモクレスはまったく諦めておらず、執拗に玲奈を追いかけ、目にも止まらぬ速さで、何度も突きを繰り出した。
「確かに、当たったら、一溜りもないわね」
 リサが素早い身のこなしで仲間達と連携を取りつつ、ダモクレスを取り囲むようにして間合いを取った。
「ラァァァァァァァジィィィィィオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 それでも、ダモクレスは怯む事なく、再び狂ったように突きを繰り出した。
 そこには迷いもなく、ガンガン攻めて、攻めまくっていた。
「随分と荒ぶっているようですが……、そこまでです」
 その攻撃を避けるようにして、アクアが威嚇に回りつつ、グラインドファイアを発動させた。
「ポータブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスの身体が炎に包まれ、悲鳴にも似た機械音が辺りに響いた。
「ラジオォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 その熱さから逃れるようにして、ダモクレスが狂ったように、アームを振り回した。
 しかし、あまりにも感情的になり過ぎたせいで、ケルベロス達に攻撃を読まれてしまい、誰にも充てる事が出来ず、近くにあった壁や柱を傷つけた。
「……その腕を石に変えてあげるわ」
 その間に、悠姫がガジェットを拳銃形態に変形させ、魔導石化弾を発射した。
「ポ・ポ・ポー・タ・ブ・ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その途端、ダモクレスの右アームが石化し、関節部分から嫌な音が響いた。
「ラ・ジ・オォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 それでも、残った左アームを振り回し、再びケルベロス達に迫っていった。
 だが、先程よりも、感情的。
 怒りを前面に押し出しているせいで、殺気の塊が目に見える程、膨らんでいた。
「弱点を見抜いたわ、これでも食らいなさい!」
 その隙をつくようにして、バニラが破鎧衝を仕掛け、高速演算で敵の構造的弱点を見抜き、痛烈な一撃でダモクレスの装甲を破壊した。
「ポォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせ、ポータブルラジオ型のミサイルを飛ばしてきた。
 ポータブルラジオ型のミサイルは床に落下したのと同時に爆発し、ケルベロス達に対して大量の破片を飛ばしてきた。
 それが鋭い刃となって、ケルベロス達の身体を、情け容赦なく切り裂いた。
 その間も、ダモクレスのボディと同化しているポータブルラジオが、ブツブツと何やら音声を発していたが、やはり聞き取る事が出来なかった。
「……大丈夫よ。落ち着いていれば、安心だから」
 リサが仲間達に声を掛けながら、鎮めの風で傷ついた身体を癒した。
 それに合わせて、バニラが黒影弾を放ち、ダモクレスの身体を侵食させた。
「一気に、断ち切ります!」
 次の瞬間、アクアが溜め斬りを仕掛け、ダモクレスの身体を切り裂いた。
「ポ・ポ・ポ・ポ・ポ……」
 だが、ダモクレスは小刻みに身体を震わせながら、再びミサイルを放とうとした。
「これで、吹き飛んでしまいなさい!」
 それと同時に、玲奈がサイコフォースを仕掛け、精神を極限まで集中させることで、ダモクレスを爆発した。
「ホ……ジ……ハ……」
 その途端、ダモクレスの放とうとしていたミサイルが爆発し、大量の破片が辺りに飛び散った。
「ナ……ナ……ナ……」
 それでも、ダモクレスが動こうとしていたが、そのたび装甲が転がり落ち、真っ黒なオイルを撒き散らして、崩れ落ちるようにして動かなくなった。
「どうやら、終わったようね。廃墟だから身体が汚れたわ。帰ってシャワーを浴びたいわね」
 悠姫がホッとした様子で、ガラクタと化したダモクレスを見下ろした。
 ダモクレスから、何か言葉が漏れる事はない。
 もう何も受信する事はない。
「ともあれ、不気味な工場ね。本当に幽霊が出そうだわ」
 そう言ってバニラがぶるっと身体を震わせ、仲間達と共にその場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月31日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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