檻の楽園

作者:崎田航輝

 翠の中に響くのは、子供達の無垢な声だった。
 木々の茂る林の奥、木造の壁や柱の朽ちた跡だけが残るうらぶれた空間がある。
 元に何が建っていたのかすら判らないそこは、植物だけが生い茂り手入れもなされていない。
 おそらくずっと過去に大人達に捨てられた場所。
 市街の傍にありながら人目につかないのは、一帯を、棘を尖らせる無数の薔薇が囲んでいるからでもあろう。
 自然に咲くその薔薇は決して鮮やかではなく、花弁も小さい。
 ただ、その長い蔓を幾重にも絡ませて、まるで檻のように建物跡を守っていて。蔓の間の細い抜け道でも知らなければ容易に入れない状態を作っていた。
 だからそこは、子供達の楽園だった。
 探検しにきた小学生や、花々の間を駆け回る女の子、そして家に帰りたくない子供。
 そこにいるときだけは大人の目から離れたように。仄かに漂う薔薇の香りの中で──愉しげな、隔絶された時間を送っていた。
 けれどその茨が切り裂かれ、薔薇の花弁が飛散する。
 現れたのは子供達が仰ぎ見るほどの巨躯──鎧兜の罪人、エインヘリアル。
「こんな場所に、人間が隠れていたか」
 長大な剣を握るその男は、昏い瞳で子供を見下ろす。
「逃げようとも隠れようとも無駄なことだ」
 どこにも安寧などないのだからと、そう言ってみせるように。
 希望も、泣き叫ぶ声さえも斬り捨てるように罪人は刃を振るう。そうして静寂が訪れるまで、時間はかからなかった。

「集まって頂きありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へと説明を始めていた。
「本日出現が予知されたのはエインヘリアルです」
 アスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人だろう。
「現場は林の奥にある建物跡です」
 市街から離れていないところにあるが、周囲に茨が生い茂り、まるで隠れ家か何かのような状態になっている場所だという。
 事件時にはそこには子供達がいるようで──エインヘリアルは容赦ない凶行に出るだろう。
「罪のない人々を、傷つけさせるわけにはいきませんから」
 この敵の撃破をお願いしますと言った。
 こちらは敵が出現した直後に現場に入ることとなる。
「植物を切り裂いて侵入した敵が、現場の中の南側に位置していて……子供達は北側と東西側の三方、さほど距離の離れていない場所に点在している状態です」
 ヘリオンから降下した直後には、こちらは敵の更に南側。丁度敵の後背を望む位置にいることになるだろう。
 敵はこちらを脅威と見なせば、戦闘に集中してくるはずだ。
「攻撃して敵の注意を引いたり、子供達に避難を呼びかけたり……状況を見て判断し、動くようにして下さい」
 何より大切なのは子供達の命ですから、とイマジネイターは言う。
「健闘を、お祈りしていますね」


参加者
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
ヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)
クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)
霧矢・朱音(医療機兵・e86105)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)
九門・暦(潜む魔女・e86589)

■リプレイ

●救う者
 烟るように濃い翠の色と香りが眼下にある。
 密集した木立と、そこに囲まれた茨。
 開いたハッチから林を見下ろすリサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)は、その中に広がる小さな楽園を瞳に映していた。
「薔薇に囲まれた隠れ家かぁ。ああいう幻想的な雰囲気って素敵よね」
 ただ、今は和んでいる余裕もなさそうだけれど、と。
 留める視線の先に見えるのは、そこへ踏み入る罪人、エインヘリアルの姿。
 成程、と九門・暦(潜む魔女・e86589)は仄かな息を零す。
「子ども達の秘密基地に不埒者ですか」
「無力で幼いものにまで、凶行を躊躇わないつもりか」
 故に、灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)は声音に忿怒の炎を滾らさざるを得ない。
「子供達の命を脅かす等──絶対に許さん!」
 征くぞと空へ踊れば──クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)もまた頷き後に続いていた。
 子供を守るのが大人の役目だと、父がよく言っていたことを風の中で思い出す。
(「私も大人としての務め、果たさないとだよね」)
 だからひらりと木々を縫って着地して、すぐに疾駆し始めた。
 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)はゴッドサイト・デバイスで見通した子供達の情報をその背へ伝えていく。
「北側の建物と東西に、それぞれ四人」
「あまりお互いの距離は、離れていないみたい」
 霧矢・朱音(医療機兵・e86105)も同時に言えば、避難役の面々は頷きそちらへと向かい始めていった。
 同時に今しも進まんとする罪人へ──アウレリアは対物ライフルを向けて射撃。爆裂する衝撃で巨体の足元を揺らがせる。
「薔薇を引き裂いて静寂の園に押し入るとは……無粋なものね」
「……、お前たちは」
 罪人はゆらりと振り返り、漸く此方に気付く。
「番犬か」
「ああ──貴様の相手は俺達だ!」
 言葉と共に深く踏み込んでいるのは恭介。覚悟しろと一刀、斬り込んでから零距離に入って痛烈な蹴りを叩き込んでいた。
 よろけた罪人へ、金糸の髪を揺蕩わせて朱音も接近。風に乗るように軽やかに跳躍し、宙で躰を翻す。
「この飛び蹴りを、見切れるかしら?」
 言いながらも、回避のいとまも与えずに。箒星の如き光を刷いて蹴り落としを見舞った。
 衝撃に巨体が数歩下がる。
 その間に避難役がすり抜けて行けば、罪人は自然目を向けるが──恭介が挑発交じりの声音で意識を引き戻す。
「どうした? まさか、ビビッているのか?」
「鎧兜でがっちり身を守って……よほど僕達ケルベロスが恐ろしいのでしょう」
 そう声を連ねるのは、ヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)。
 目を向けてくる罪人へ、景色が歪んで見えるほどにオーラを眩く昇らせてみせながら。歩むその手には、無骨なパイルバンカーを握り込み。
「いい子にしていれば優しくしてあげなくも無いのですが──まずはお花を傷付けたこと、反省なさい!」
 重低音の響く声音で奔り一撃。鎧を貫くが如き、鋭利な杭を打ち込んでいた。
 罪人は相貌に僅かな怒りを滲ませ、刃を振るう。だがヨハン自身が真っ向から受け止めてみせれば──。
「自然を巡る属性の力よ……!」
 景色を映し込んだ螺子から、リサが治癒の緑風を吹かせていた。
 木漏れ日を伴うそれで素早く自身を纏い、継戦に備えながら──それをヨハンへも施して。暖かな感覚と共に傷を癒やしてゆく。
 同時、避難へ向かったオズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)から飛び立った、翼猫のトトも治癒の風を生んで回復と防護。
 アウレリアのビハインド、アルベルトも罪人へ飛来し金縛りにかければ──次には恭介が再びその面前へ。
「大人しく、コギトエルゴスムに戻って寝てろ!」
 煌々と焔を棚引かす蹴撃を、その腹部へと抉り込ませていった。

「古めかしい場所ですね──」
 暦は呟きながら、建物跡へ入っていた。
 屋内と呼べる部屋も中には残っていて、そこで四人ほどの子供達が体を寄せ合っていた。敵を見て、恐怖を感じていたのだろう。
「無事に済みますから、安心してくださいね」
 暦は驚かせぬようにと人型の姿は保ちながら、少し歩いて視線を巡らせて。近くの茨の壁に目をつけてから仲間へ声を響かす。
「こちらへ避難させられそうです。状況はいかがでしょう」
「問題なさそうだよ」
 と、東側から声を返すのはオズだ。
 此方側は朽ちた柱が茨にかかっており、オズはそれをアームドアームで移動。陰に隠れていた子供達も素早くその機械腕に乗せていた。
 オズは尾も翼も出したままで、子供達は少々驚いていたけれど。
「僕らが助けてあげるからね。大丈夫だよ」
 明るい声音で話しかけ、優しく運べば子供達も心を開いて。勇壮なデバイスの姿に心を踊らせてもいるようだった。
 そのまま暦の方へ向かえば──西側のクラリスも拡声器で子供達を導いている。
「真っ直ぐ、あっちへ向かって! 足元にも気をつけてね」
 そして自分も向かいながら、蔦の絡む壁をふと仰ぐ。
「秘密基地か……。私もこういうの、一度作ってみたかったかも」
 見ていると、子供の心に帰る気がする。
 だからこそ、想起する──自身が幼い頃デウスエクスに命を狙われたこと。子供に同じ思いを、させたくないから。
 目の前の瓦礫が有れば怪力ですぐに持ち上げて。
「おぉ……」
 自分がとても大きく強くなったようで、少々の驚きもありながら。しかと子供達が全員通るのを確認してから、二人に合流する。
 暦は森の小路の能力を行使して、茨を広く避けさせていた。これなら茨は傷つかず、避難も迅速に行える。
 子供達が全員、園から離れたと見れば──。
「さて、合流しないと」
 暦の言葉に、二人も頷き茨の檻の中へと舞い戻り始めた。
 木々をさざめかす風音に交じり、剣戟の音が耳朶を打つ。南側の番犬達は──しかと罪人を引きつけ続けていた。
「ありがとう。子供達はみんな、避難してくれたから」
 クラリスは言いながら心を戦いへ。
 花弁の如き白銀の粒子を風に融かし、皆を支援すると──同時に暦も希望の旋律を唄い、皆の体力を癒やすと共に魂を鼓舞する。
 オズもそこに連ねるように、寓話語り『勇者よ奮い立て』。強くその背を押すように物語を紡いで、皆を万全としながら戦闘力を引き上げた。
「これで問題ないよ」
「助かるわ」
 応えた朱音は、改めて眼前の戦いへ意識を研ぎ澄ませて。
「大地の属性よ、その力を爆発させなさい!」
 掌を地へ翳して、足元を炸裂させるように爆破。強烈な衝撃を噴き上げ、巨躯の全身を激しく穿ってゆく。

●闘争
 微かによろめく罪人は、地に剣を刺して浅い息を零す。
 だが未だ瞳には色濃い殺意。静寂の建物跡に目を向けて、愚かさを告げるように呟いた。
「狩るでもない、只の無関係の人間を護り逃がすか。そこに何の意義がある」
「貴方こそ」
 と、静かに返すのはアウレリア。
「不要と廃棄されたジャンクが何処に行き、何を成そうというのかしら。何を、成せるというのかしら」
 その刃こそ、その殺意こそ、空虚なものと言ってみせるように。
「戦おうとも逃げようとも無駄な事よ。この地球に貴方の立つべき場所など──何処にもないのだから」
 細く風が吹く。
 それは跳んだアウレリアが宙で体を返す音。刹那、言葉を体現するように──切り裂くが如き蹴撃で一閃、巨躯の首筋を抉ってみせた。
(「無関係、ですか」)
 そこへふわりと跳びながら、暦も敵の言葉を反芻する。
(「まあ、実際、無関係といえば無関係ですが……子どもを放置して恨まれても、寝覚めが悪いですしね」)
 心に在るのは可憐な見目にそぐわぬ冷静さだろう。
 ただ、今は思うだけ。あまり冷たいことを口に出してしまえば──今の家族が悲しんでしまうだろうと、そう思う心もあるのだから。
(「難しいものです」)
 故にこそ今は、叩くべき敵を叩くだけだと。暦は『魅惑の魔眼』──妖しく耀く瞳で見つめ、罪人の心を囚えて足止める。
 そこで翼を羽ばたかせて飛翔するのがオズ。
 罪人は一瞬遅れて正気を取り戻すが、既にオズは体を捻って尾を撓らせて。
「外さないよ」
 風切り音を伴った一撃。弾くような打力で巨躯を大きく吹き飛ばしていった。
 罪人はそれでも起き上がりざまに氷波を放ってくるが──オズは退かず前面で留まり盾となり、その衝撃を庇い受ける。
 直後にはリサが真っ直ぐに手を伸ばし。
「大丈夫、これで癒やすからね」
 青く艶めく髪が仄かに揺れる。
 枝葉が一層揺れて、さらさらと木立に音が響き渡る。
 吹き抜けるのはリサが招来した癒やしの風。冷気も痛みも、その全てを風の中に消失させてしまうように、余波を受けていた前衛の皆までもを治癒していた。
 その頃には恭介が罪人へと迫っている。
 握るは無銘の刀。その刀身に纏わせるのは、意志の鋭さを具現したかのような、鎌鼬にも似た風の霊力。
「刻み込め!」
 瞬間、連閃。
 腱を断ち、膚を抉り。凶行と殺意、その罪を己が見に知らしめさせるかのように。滾る獄炎も棚引かせて深い傷を無数に刻みつけていた。
「このまま次を頼む!」
「ええ」
 頷く朱音は大地に呼びかけ、足元から盛り上げた土を土台に跳躍。枝の屋根を背景に、巨躯の直上にまで昇っていた。
 罪人は刃を振り上げる。が、朱音は体を捩って剣閃を潜るとそのまま足に炎を宿して。
「この一撃を、受けなさい!」
 灼熱の蹴り落としを脳天へ打ち込んでいく。
 ふらつく罪人は、忿怒を湛えて踏み込んだ。だが標的となったクラリスの──その面前へヨハンが迷いもなく滑り込む。
 甲高い金属音。真っ向から杭を放って剣を受け止めていた。
「通すとお思いですか」
「ヨハン、ありがとう」
「いいえ。さあ、参りましょう」
 ヨハンはクラリスの声に背で応えながらも、片手に眩いオーラを凝集していた。
 そして罪人の次撃よりも疾く、その光を眩く炸裂させて衝撃を与えれば──続いて迫るのがクラリス。
 たたらを踏んでいる罪人へ鎖を奔らせると──絡め取るように縛りつけて。引き絞るように足元を掬い上げ、巨体を地へと叩きつけてゆく。

●楽園
 土煙の中、罪人は這いながら立ち上がる。
 だが薄い視界の中、アウレリアは銃身を既に突きつけていた。
「逃しはしないわ」
 訪れる運命を、酷薄に告げるように。『フルータ・プロイビータ』──狙い澄ました弾丸が血潮を上げさせる。
 罪人はそれでも斃れず刃を横薙ぎに振るった、が、クラリスは片足を軸に流麗に廻って──舞うように鮮やかにその剣閃をいなす。
 ──『氷華輪舞曲』。直後、至近から放つクラリスの蹴撃は無数の氷晶に彩られ、美しくも鋭く巨躯に突き刺さる。
「お願いできる?」
「ええ」
 応えるヨハンはその背を超えるように跳ぶと、一撃。直上から罪人へ杭を突き立てた。
 呻く罪人は苦し紛れに刃を振り回す。だが飛来したオズが身を以て防御すれば──。
「待っててね」
 リサが螺子へ蒼空を映し出し、空より爽風を吹き下ろすようにして。与えた治癒の魔力で傷を薄らがせていた。
 暦も属性の力を顕現。色彩巡る光にあたたかな温度を乗せてオズへ投射し、優しく霧散させることで負傷を消失させていく。
「後はお任せしますね」
「うん」
 頷くオズは反撃態勢。
 希望を謳う物語を詠んで、罪人の魂を蝕むと──苦しむ巨躯へと朱音も跳んで。流星の光を伴う苛烈な蹴撃を加えていた。
 突き飛ばされた巨体へ、恭介が奔って刃を振り翳し。
「最後だ。この世から──消えてなくなれ!」
 『我流剣技・地獄炎葬剣一閃』。獄炎を纏わせた豪熱の剣閃で──罪人を両断し、跡形もなく焼き尽くした。

 風に仄かに薔薇が薫る。
 静けさの戻った空気の中で、皆は場を修復していた。
 アウレリアは敵に斬られていた薔薇を、挿し木にして補修。再生を願い、後は自然の力と時間に託すことにする。
 クラリスはヨハンと共に、建物跡の危険な箇所だけをヒール。ほんの少しだけ美しい色彩に変化した場所を見上げた。
「幻想化した場所、気に入ってくれるかな」
「ええ、きっと……喜んでくれると思います」
 ヨハンは応えて、皆と共に子供達の無事を確認しに向かう。
 林の外に避難していた子供達は、その全員が元気な様子だった。朱音は集まってきた皆を、一人一人見回す。
「皆、怪我は無かったかしら?」
 それに健常な返事を返す少年少女。その皆へ、クラリスも言葉をかけた。
「もう大丈夫だよ」
「ええ。もう安心だからね」
 リサも優しく彼らに言って、園も大きく傷つきはしなかったと伝える。
 すると子供達は戻りたがったので、皆でまた茨の中に広がる景色へと入ってゆく。幻想化した部分も、残った薔薇にも、子供達は嬉しそうな声を聞かせていた。
 朱音はそんな様子と景色を暫し見つめる。
「薔薇に囲まれた建物、やっぱり秘密基地みたいね。子供心としては、こういう事にワクワクするのかしら」
「かもしれませんね」
 ヨハンは言って、薔薇を見ていた。
 ふと、過日を思う。
 戦士の家系に生まれ育ったが花好きであることを、『女の子みたい』と家族に言われたのは悲しい思い出だ。
 厳つい男にも、皆に隠しておきたい心はある。だから殊更に口にはしないけれど。
 ──檻のような眺め、だが此の檻は味方だ。
 鋭い棘と素朴な花を愛でるよう、心の中で暫し幼い自分を遊ばせる。
 ただ、長居はしない。大人の自分には愛しい恋人が居るから……この場所は今を生きる子供達の為に。
「行きましょうか」
「うん」
 クラリスが頷くと、二人は並んで歩み出す。
 恭介もまた子供の無事を見届ければ、静かに背を向け姿を消す。
 子供達には怖い思い出ではなく、楽しい思い出を残してほしい。そんな気持ちだけを、胸に抱きながら。
 オズは少しの間、この不思議な楽園を見ていた。
(「朽ちた思い出を、薔薇だけは護り続けていたのかな」)
 建物は旧い昔に役目を終えて、茨と花だけが今も生きている。
 この薔薇も嘗ては植えられていたものだろう。
 檻として、最後まで見届けたであろう『物語』。そして、今を生きる子供達がここで何を思っていたのか。
 知れるのは、断片だけ。でもこれからも続く無二の営みが、そこにはあると思えた。
 美しい音の粒が、翠の中に聞こえる。建物の上に腰掛ける暦が、降り始める夕陽を眺めて竪琴を奏でていた。
 子供達の声もそこに重なる。外にまでは届かない楽園のメロディーは、いつまでも優しく穏やかに響き渡っていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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