浮世は夢

作者:四季乃

●Accident
「ほら、よく言うジャン? ”疲れたときには甘いもの”って」
 ぽぉんと蒼穹に大福が舞う。弧を描いたそれは、あんぐりと開かれた男の口に吸いこまれた。サメみたいな鋭い歯が大福を噛み潰して、二、三も噛めばあっという間に喉を滑り落ちて胃に消えていく。
 そんな風に、大男は和菓子を次から次へと、際限なく食べていた。
 それもそうだろう、男の身の丈は町家造りの町並みがおもちゃの家に見えるほど大きく、ゆうに三メートルは超えている。常人の胃袋ではないのだから、この日のためにとせっせと職人が作った大量の和菓子がまるで掃除機に吸い込まれたみたいに食されていくのも、無理はない。
「この大福とか饅頭とか食べやすくてイイね。でもあんこばっかりってのも、ちょい厭きるかと思いきやカスタード入りってのは最高だわー。え、チョコレートもある? イイねイイねー」
 和菓子職人たちは縮み上がっていた。なんとか老舗菓子司の大旦那が菓子の説明や味などについて話してくれているおかげで、大男の意識が逸れているといったところだった。若手たちは使い物にならない。腰が抜けて座り込んだ者など、今にも駆けだして行ってしまいそうで、それが怖い。
(「アレは、たったひと薙ぎで吹き飛ばしてしまった……」)
 どこからか現れたあの大男、まるで人間をちいさな羽虫か何かのように払って殺してしまった。にも関わらず露とも気にした素振りがなかったということは、それがあの大男にとっての「普通」なのだ。何か不快なものが目に入れば、あの大きな槍がまた振るわれるかもしれないと、そう思うと恐ろしくてたまらない。
(「誰か……誰か助けてくれ……!」)

●Caution
「ずいぶんと秋めいてきましたねぇ」
 そう言ってセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が広げたのはとある古都のチラシであった。見出しには「秋の和菓子市」の文字が綴られている。
「こちらの和菓子市、古都を見下ろせる丘の上で開催されているらしく、三方を山に囲まれていることもあり、紅葉の美しさも相まってそれはそれは賑やかな催しだそうですよ」
 なんでもこの丘には老舗の菓子司が一軒建てられているらしく、和菓子市の主催であるという。まるでお屋敷のような店舗は庭付きで、山を臨める縁側、庭を見渡せる大座敷、町を見下ろせる濡れ縁回廊と様々な場所が利用できるのだとか。
 すこし声を弾ませたセリカの言に、目尻を柔和にゆるめたシャーリィン・ウィスタリア(千夜のアルジャンナ・e02576)は、腕の中のネフェライラを優しく撫でながら望月の双眸をケルベロスたちに寄越してみせた。
「そんな和菓子市だけれど、罪人エインヘリアルの出現が予知されたそうよ」
 嘆かわしいわねと頬に手の平を当てて、ほうっと溜息を零したシャーリィンに、セリカの表情もしゅんとなる。
 まだまだ送り込まれてくる罪人エインヘリアル。その虐殺の血で和菓子と紅葉が穢されぬよう、皆で食い止めてほしい。今回はそういう次第であった。

 敵は一体、武器はゲシュタルトグレイブに似た大槍を所持していることが分かっており、攻撃方法も突き、薙ぎ払い、槍の雨といったものだそうだ。
「屋敷前の広い敷地には和菓子屋が集まって、それぞれ仮設テントを立てています。どうやら敵は地球に着いた最初の場所が山であったため、山からほど近い丘の賑わいに目をつけたようです」
 賑わいの正体が菓子だと分かり、大の甘党であるエインヘリアルは大勢の人々が邪魔だったので払い除けた――そういう感覚で殺しを行うような男だ。
「咎人が和菓子に気付く前に食い止めるのが良いのではないかしら」
 職人たちが和菓子市のために作った菓子を、みすみす食べさせるわけにはいかない。
 幸い和菓子市には警備が配置されているため、避難誘導などを一任することができる。一般人は和菓子屋の屋敷に避難する手筈らしいので、そちらに意識や攻撃が向かぬようくれぐれも注意してほしい。
「このように危険な罪人を野放しにするわけにはいきません。どうか皆さん、撃破のほどよろしくお願いいたしますね。和菓子市のためにも!」
「天気も快晴、日和もあたたかな善い日になりそうだわ。美味しい和菓子を、ぜひ頂いてらして」
 疲れたときには甘いもの、と言うそうよ。


参加者
シャーリィン・ウィスタリア(千夜のアルジャンナ・e02576)
隠・キカ(輝る翳・e03014)
ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)
サイファ・クロード(零・e06460)
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)

■リプレイ


 槍の穂先が水平を薙いだ。
 それは一陣の風となって鬱蒼とした木々を切り開いただけでなく、展望の丘で甘味を楽しんでいた矮躯に迫りゆく。
 あわや、と思われたそのとき。
 聞こえたのは何がしかの物体を引き裂く衝撃音、次いで大きく羽ばたく翼のそれ。そして。
「っと、間一髪」
 サイファ・クロード(零・e06460)が発した安堵の一声、だった。
 抱えた両腕の中で目を真ん丸とさせている女の子に、笑みを浮かべてみせたサイファは、宙返りをして地面に着地。唖然としている父親に子を託し「ほら」背を押して促してやる。
「罪人の分際で美味しいスイーツを食べようなどと、その考えがまず大福よりも甘いな?」
「……空腹の所悪いが。腹を満たす事なく退場して貰うぞ」
 ちょうど背後で、ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)とゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)が続けざまに攻撃を仕掛けたところであった。
 ペルの喰霊刀・藤裏花にて腹を刺し貫かれたエインヘリアルは、刀身を素手で掴んで引き抜こうとする。そこへ放たれたのは音速を超えるハウリングフィストの拳。胸部へと真っ直ぐと振り抜かれたゼノアの一発によって、巨体が後方へ大きく傾けば、ずるりと腹部から抜かれていく刀身が鮮血を引きずり出す。
「そんなに甘いものが欲しいなら、はやくその罪を償ってしまいましょう……? わたくしの導く天国は、とっても甘くてよ?」
 シャーリィン・ウィスタリア(千夜のアルジャンナ・e02576)は、夜纏う髪を秋風に遊ばせながら、煌めきを帯び放つ蹴りを差しこんだ。そこへすかさず隠・キカ(輝る翳・e03014)が玩具のロボ「キキ」を抱いたまま、天に向かって手を掲げる。
「もしかして、きぃ達の相手ができないくらい、もうすっかり疲れてる? あなた、そんなに強くないんだね」
 彼女の指先から溢れた光は、眩い閃光のような幻覚となってエインヘリアルの脳内へと侵入。それは無数の光の槍が己の手足を刺し貫く妄想を見せる、幻痛となり苦しめた。
「凝ったものかはわからないけど、きぃの技、きれいでしょ」
「いってェェ! お前ら急に何なんだよ、これが地球の歓迎なわけェ!? いや、きれいだったけどさァ!?」
 尻もちをついて喚く巨体、手に握られた大きな槍、倒れた木々に地面を濡らす真っ赤な血――そんな光景を目の当たりにして、男性はようやく事態を把握したらしい。
「み、皆さんどうかお気をつけて……!」
「おにいちゃんたち、がんばれー!」
 聞こえてくる避難の呼びかけに向かって、ぺこぺこ頭を下げながら逃げていくという器用な真似をする男性と、父親の肩越しからのんきに手を振る女の子を見送って、サイファは改めて罪人エインヘリアルと向き合った。手のひらでロッドを回転させ雷の壁を構築する。
「オマエ和菓子好きなの? ふは、気が合うな、オレもだよ」
 エインヘリアルは一般人なぞ眼中にないようだったが、放置された菓子に視線が吸い寄せられている。
「オレたちと遊ぼーぜー。運動の後の甘いものは格別だよ」
「ふぅん?」
 地面に槍を突いてゆっくりと起き上がる巨体に警戒していると、足元に突如として魔法陣が展開された。
「耐性のほうはお願いします、ね」
 そう言って、前衛たちの異常耐性を一絡げに高めていたサイファのライトニングウォールに、黒鎖の守護を重ねたオリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)は、若葉のような瞳を微睡ませるように微笑んだ。彼の足元には、サイファに向けて応援動画を流している地デジが左右にぴょこぴょこと飛び跳ねていて、その隣に金色の装飾を煌めかせながらせっせと属性インストールに励むネフェライラも居る。どうやら手厚いヒールを施してくれたらしい。
「ありがとね」
 肉と骨が断たれたような痛みを発していた背中の裂傷が、ゆっくりと塞がっていく。呼気するのもひどく億劫になるような傷口は、瞬く間に癒えていったようだ。エインヘリアルの扱う穂先は鋭く、深く肉を抉り取るような無慈悲と残忍さを極めていた。これを何の思考もなく揮うというのだから、恐ろしい。
「エインヘリアルも、甘いものすきなんだね」
 誰も傷つけないなら、和菓子、一緒に食べられたかもしれないのに、とキカの言葉には悲痛な吐息が交じっている。
「流されてくる連中にも色々いるものだ。ただ甘味好きというだけなら、分かり合えたかもしれんが……そうならんから、エインヘリアルなのだろうな」
 ゼノアは敵の動きを注視していた。敵の意識が自分たちに向いているのが幸いしてか、三角耳に届く悲鳴も幽かなものになっている。
「疲れた時にはあまいもの。うんうん、よく解る、ですよ。だからちゃんとお仕事終えて、晴れやかに。甘いものを楽しみたい、ですね」
 オリヴンののんびりとした言葉にキカがほんの僅かに瞠目した。それから大槍を片手で振り回しているエインヘリアルを見て。なるほど、得心した風に頷いた。
「甘いものは、ひとり占めするより、作ってくれた人に感謝して、だれかと一緒に食べたほうがおいしいんだよ。あなたは、それを知らないんだね」
「誰かと一緒に食べると自分の取り分が少なくなるジャン?」
 瞬間。
「それって勿体ないよねェ!」
 エインヘリアルが天に向かって槍をぶん投げた。それは瞬く間に空中分裂すると、一つ一つが意志を持った生き物のように、真っ直ぐケルベロスたちの躯体目掛けて落ちてくる。真上から苛烈に降り注ぐ槍が、肩口を、腿を、腕を、背を貫き、赤い血液を奔らせる。火が付いたような熱さすら覚えた。
 覆い塞がるようにして身を呈したネフェライラが、わが身を顧みず仲間のヒールに入る傍ら、オリヴンが花びらのオーラを降らせ傷付いた前衛たちをやさしく包み込む。ペルは己の傷をちらと一瞥しただけ気に留めた様子もなく、己の拳に白き魔力で生み出した強力な白雷を宿すと、
「痺れるような刺激のある拳の味を受けるといい。お代わりもあるぞ」
 エインヘリアルの懐に潜り込んだ。
 華奢な身体がしなやかに跳ねて飛び上がると、白く眩い雷光の災拳が心臓の真上を真っ直ぐ撃ち抜いた。それは巨体に雷を奔らせ、脳髄まで痺れるような衝撃を齎した。強烈な一撃にエインヘリアルの息が止まる。
 カハッ、と吐血したエインヘリアルが胸を押さえて数歩後ろへよろけたのが分かり、追い打ちを掛けるようにキカがドラゴニックハンマーを振り被る。凍結の一撃は、しかし打ち崩すには一歩及ばず。
 ならばとドラゴニック・パワーを噴射して、加速した原初還すタドミールにて背面からシャーリィンが叩き潰すと、今度は酔っ払いのように「おっとっと」と巨体が片足で前に飛ぶ。ゼノアはその無防備な横顔を見、空に向かって高く飛び上がった。くるりと軽いみのこなしで空中回転したゼノアは、獣化した片足に重力を集中させると一気に降下。差し出すように曝け出されたうなじへと獣撃拳を叩き込んだのだ。
「ぐえ」
 顎から地面に叩きつけられたエインヘリアルは少々涙目だ。ぐぬう、と喉の奥を震わせて片手を突く。そのままぐいっと上体を持ち上げようとしたとき。
「あ……?」
 違和感を覚えた。
 まるで泥の中をもがくような、あるいは砂に足を取られて溺れるような。まるで自分だけ薄い空気の中で呼気するかのように、増した粘度。は、は、と犬のように繰り返す息すら重く、時の流れに置いて行かれたような不快な感覚。
 視線を持ち上げる。交差したのは金色の瞳。ゆっくりと細められる双眸に、これがサイファによる仕業なのだと察したエインヘリアルは吼えた。獣のような猛りであった。膚をビリビリと刺すような咆哮、次いで襲い掛かるは一陣の風。
 覚えがある攻撃を目にした地デジが咄嗟に前に出た。庇いに出るのと同時に、少しでも勢いを削ごうと糸切ばさみで太い丸太のような腕を斬り付けてみたが、勢いは止まらない。振り抜かれた大槍が大気を裂いて、そのまま至近に居たゼノアたちを等しく斬り付けた。皮膚を裂く音が、耳の奥に木霊する。
「まるで手負いの獣、ですね」
 オリヴンはさっと仲間たちを見渡してその負傷度合いを瞬時に見極めると、積極的に前に出るペルに向かって手のひらを翳す。
「ゆら、ゆら。揺らいで」
 言葉と共に掌の上で揺らめく光が、翡翠のような和らぎとなってペルを包み込む。ペル自身のピンク色に翡翠の鮮やかな色が交わりあって、蒼穹の下で輝く陽の光のなかにある姿は目にも眩い。
 けれど。
「甘党という可愛らしい味覚の罪人が見るトラウマは、さぞや苦いものだろう。堪能するといい」
 跳ね上がったペルは、下から凶太刀を刺しこんだ。刀身はあばらをすり抜け、まとわりついた呪詛を身の内に残して汚染する。藤裏花を引っ掴みペルを引き剥がしたエインヘリアルはゼノアにヒールするネフェライラを見つけた。手頃なものへと穂先を滑らせたエインヘリアルであったが、その後方から姿を現したシャーリィンの蹴りによって槍が弾かれる。ぎろり、と己の倍以上もある身の丈をした男に睥睨されても真っ直ぐとその瞳を見止めたシャーリィンは、口端に笑みを刷くと僅かに首を傾げてみせた。
「あまり……わたくしにばかり構っていると。ふふ……黒猫さんが睨んでくるかもしれないのだわ」
 急速に接近する気配に息を呑む。咄嗟に構えた槍で防御を取るが、しかしゼノアの気咬弾はそれらを掻い潜り罪人の喉元に喰らい付いた。オーラの弾丸に急所を射抜かれ、苦し気に咳き込むエインヘリアルを一瞥し、ゼノアは振り返る。
「……やれやれ。油断して倒れたりしたら承知せんぞ」
「あれ、それもしかしてオレも含まれてる?」
「もちろんだ」
 黒色の魔力弾を撃ち出していたサイファにしっかりと頷きを返すゼノアたちを見て、シャーリィンは小さく微笑んだ。
「あー!!」
 傷付いたネフェライラに向かって、応援動画でヒールしていた地デジが、エインヘリアルの突然の大声にビクリと飛び上がる。先ほどまで見せていた苛立ちは多少失せたのか表情は最初に見たものに戻っていたが、きゅっと眉根が寄って唇がへの字に曲がっているのは何だか駄々っ子のようにも見える。
「腹が減ってイライラするー!」
 目と鼻の先にたんまりと和菓子があるのにたったの一つも口に出来ぬのが相当つらいらしい。その気持ちだけはちょっとだけ分かる、と内心頷いているキカは、靴を履いたように足だけ黒い真っ白なフェレットをぽーいと射出。元気いっぱいなフェレットはケルベロスたちの肩や頭を足場にしてエインヘリアルに向かっていくと、その鼻っ面に思い切り噛み付いた。反射的に槍が跳ね上がる。下から掬い上げるように振り上げられたそれは、
「具現せよ、執金剛神。守護の力にて魔を打ち払う」
 ゼノアの鬼の腕によって弾き返された。
 強大なエネルギーを集約し肥大化させた片腕にて、容易く巨体を大地に引き摺り倒す。空を仰ぐように倒れ込んだ巨体に飛び掛かったサイファは、がなり立てるチェーンソーを一気に振り下ろした。
「きっと気持ちのいい食べっぷりだったんだろうなーオマエ。あーんなに美味しそうなものを一口も食えないなんて、残念だねー」
「イッデェェェ! それ振り回しながら言うことォ!?」
「お前が口にするのは地に伏した時の泥と自分の血だけだ。よく味わえ」
 そこへ胸部に乗り上げたペルが白雷を宿した拳を振り下ろすものだから、エインヘリアルとしてもたまったもんじゃない。高火力の一撃によって、呼気が止まるほどの衝撃を喰らい、だがそれでもまだ停止しない巨体。オリヴンはその生命力の強さに半ば感心を見せていたのだが。
「光をあげる。まぶしいかもしれない。これは、あなたをこわすための光だよ」
「ひとつ、ふたつ……甘やかな聲で数えるのは、蝕み苛む軌跡。――はやく、償ってしまいましょう? ……今、此処で」
 それは沈黙の閃光であり、天国への代償。
 キカの光とシャーリィンの言葉の魔力が狂気を手繰る。ただ痛みと音だけが響く世界に落ちた罪人は、薄れていく意識の中で己の腹がぐうと鳴ったのを耳にした――気がした。


「疲れた時には甘いもの。ああ、一理あるな。実に美味い」
 少し背伸びして屋台に並べられた和菓子を買い求めたペルは、今ごろ歯噛みして悔しがっているであろう罪人の無念な表情を想像しながら、苺大福をぺろりと平らげた。
「この苺入りの大福など餡の甘みの中にある甘酸っぱさがたまらない。クク……もっと巡るか」
 何せ和菓子市。まだまだ魅惑的な菓子はたくさんあるのだから。罪人の分まで食べてやらねばならない。

「大福ももちもちでおいしいね、キキ」
 紅葉が見える屋台の床几に、あんことカスタードとチョコが詰まったたい焼きが並んでいる。その隣に小皿に盛った動物の練り切りをそろりと並べて、キカは夏空の青い瞳に太陽を煌めかせて目口を下げていた。
「つぶあん、栗あん、抹茶白玉あん、カスタード! んふふ、いっぱいで嬉しいですね」
 聞こえた声に振り返ると、ちょうど真横の床几にオリヴンと地デジが腰掛けたところであった。どうやら彼らもアツアツのたい焼きを購入したらしく、全部半分こにして食すようだ。
「独り占めするより、こうして分けっこした方が美味しいですよ、ねー?」
 オリヴンがあんまりやさしく笑うので、キカはなんだか嬉しくなった。

 こんもりと盛られたフルーツ大福の大皿を物珍しそうに眺めているシャーリィン。話には聞いていたけれど、こんなにも種類があるものだとは思いもよらず。ネフェライラもふんふん鼻を鳴らして興味津々のようだ。
「これは、みかん大福ね。もちもちの大福に、みかんの甘さと酸味が新鮮ね」
「……なるほど。こっちは中にマスカットが丸ごと入っている」
 普通の餡よりさっぱりしていて食べ易いとゼノアが咀嚼していると、どこからか迷い込んできた紅葉がシャーリィンの前髪に引っ掛かったのに気が付いた。
「ふふ、……綺麗な紅葉ね」
 口の中に広がる上品な味わいに秋に色付く山の景色を眺めていると、尾鰭がご機嫌に揺れてしまう。ご機嫌ついでに黒猫さんのお口に大福をぽいっ。
「むぐ、こっちは苺か。齧った瞬間苺の果汁が口一杯に広がるな……」
 自分を見てほっこりしているシャーリィンの口にも大福をぽいっ。
「油断は禁物だな……ふふふ」
「やり返されちゃったわね」
 むむーと拗ねたように大福を頬張る横顔を盗み見て、控えめに薄く微笑み尻尾同士をきゅっと絡ませる。

「いやぁ、甘いねぇー。この白玉入りお汁粉より甘い。あんなの見たらアイツも胸やけしてたんじゃ?」
 漆の椀に口を付け、甘い汁を啜りながらシャーリィンとゼノアたちの背後を通り過ぎていったサイファは、やっぱり地団駄踏んで悔しがる罪人の顔を思い浮かべて口端に笑みを滲ませたのだった。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月5日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。