カボチャ頭が踊る時!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化した工場の跡地に、電池式ジャックオーランタンがあった。
 それは去年いらなくなって、捨てられたモノ。
 だが、時は来た。
 来るべき日が……!
 いざハロウィンの舞台へ……と思ったものの、迎えに来る者は誰いない。
 『えっ? なんで!? いまこそ、ボクの出番でしょ! えっ? えっ? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』と悲鳴を上げた。
 その場所に小型の蜘蛛型ダモクレスが現れ、電池式ジャックオーランタンに機械的なヒールを掛けた。
「ジャックオーランタァァァァァァァァァァァァァン!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電池式ジャックオーランタンが耳障りな機械音を響かせ、廃墟と化した工場を飛び出すのであった。

●セリカからの依頼
「山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)さんが危惧していた通り、都内某所にある工場で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある工場。
 この場所は既に廃墟と化しており、不気味な雰囲気が漂っているようだ。
「ダモクレスと化したのは、電池式ジャックオーランタンです。電池式ジャックオーランタンはダモクレスと化した事により、ロボットのような姿をしているようです」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
モヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)

■リプレイ

●都内某所
 電池式ジャックオーランタンにとって、ハロウィンは特別なモノだった。
 ハロウィンの時だけ、輝く事が出来る。
 ハロウィンの時だけは、主役になる事が出来る。
 だからハロウィンが大好きだった。
 故に、ハロウィンが近づけば、必ず誰かが取りに戻ってくると思っていた。
 それは単なる思い込みであったが、それでも誰かが来ると信じていた。
 だが、誰も来なかった。
 いくら待っても……。
 誰ひとりとして、現れる事が無かった。
 それでも、電池式ジャックオーランタンは、その事実を……現実を受け入れようと無かった。
 そして、電池式ジャックオーランタンの言葉に耳を傾け、その場に姿を現したのは、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
「一年に一度の出番だから大切にしてあげたいけど、一年に一度なら使い捨ててしまう、という考えもあるのだね。どうせなら、きっちり分別したほうが良かったのかも……」
 そんな中、オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)が、仲間達と共にダモクレスが確認された工場にやってきた。
 工場は既に廃墟と化しており、何とも言えない不気味な雰囲気が漂っていた。
 それはまるで、沼。
 何かネットリとしたモノが両脚に絡みつき、引きずり込まれそうになった。
 それが何なのか分からないが、単なる錯覚。
 この場の何かがそう思わせているだけ。
 その事を理解していても、両足が重く感じてしまう程、空気がどんよりと淀んでいた。
「ジャックオオオオオオオオオオオオオオオオオランタァァァァァァァアン!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電池式ジャックオーランタンが、耳障りな機械音を響かせ、ケルベロス達の前に降り立った。
 ダモクレスは電池式ジャックオーランタンがロボットになったような姿をしており、両目から怪しげな光を放ちつつ、唸り声を上げていた。
 どうやら、両目から放たれているのは、単なる明かり。
 例え、光が当たったところで危険はないものの、反射的な避けてしまう程、禍々しい感じであった。
「……何だかゲームで見た事のあるような姿のようだな」
 嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)が、警戒心をあらわした。
 ダモクレスの身体は、幾つものカボチャが集まっており、大小様々なカボチャが恨めしそうに、ケルベロス達を睨みつけていた。
 そのため、妙な威圧感を帯びており、身体が押し潰されるような錯覚に襲われた。
「アスガルドにも、似たような形のゴーレムが居たような……。いやあれは、今思えば違ったかねぇ……」
 ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)も同じように、ダモクレスの様子を窺った。
 ダモクレスはカボチャの集合体であったが、何から何までカボチャという訳では無く、中身は機械で出来ているようだ。
 そのため、身体を動かすたび、ガシャンガシャンと、独特な音が響いていた。
「何やら思いのようなモノガ伝わってきたような気もしましたガ……。例え『気持ち』があってもレプリカント化しなかったのであれば、それはきっと、疑似的な感情であり、心としては不完全なものだったのデス。不完全というだけで排斥するほど心が狭くありたいわけではないのですが……。人々に害をなすと予知されたのであれば、殲滅致しマショウ」
 モヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)が、何かを悟った様子でダモクレスの前に陣取った。

●ダモクレス
「カ・ボ・チャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、カボチャ型のビームを放ってきた。
 そのビームは、超強力ッ!
 幸いケルベロス達には命中しなかったものの、工場の壁を貫き、カボチャ型の跡が残った。
「あんなビームに当たったら、一溜りもないね。それじゃ行くよ、トト。うっかりビームに当たって、怪我をしないように気をつけてね」
 オズがウイングキャットのトトと連携を取りつつ、ダモクレスの攻撃を避けるようにして間合いを取った。
 それに合わせて、トトが清浄の翼を発動させ、辺りに漂う邪気を祓った。
 そのおかげで先程までどんよりとしていた空気が浄化され、新鮮な空気がケルベロス達の肺に流れ込んできた。
「カ、カ、カ、カボチャァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、カタカタと頭を鳴らし、再びビームを放ってきた。
 それは先程よりも強力で、驚くほどカボチャ型。
 万が一、当たるような事があれば、一生消える事のないカボチャ型の跡が残りそうな感じであった。
「戦況の解析を開始。レイテンシを補正し同期シマス」
 次の瞬間、モヱがenlighter(エンライター)を発動させ、部屋のあちこちに小型の魔法陣を設置し、自分を中心に連動して情報を統合する大型魔法陣を展開した。
 幸い、ダモクレスの放ったビームは当たらなかったものの、代わりに傍にある壁にカボチャ型の穴が開いた。
「カ、カ、カ、カ、カァァァァァァァァァァァァァァ!」
 だが、ダモクレスは諦めておらず、再び超強力なビームを放とうとした。
「遠き宙より来たるものに、重力に引かれし終末を……。魂は蒼穹に戻らず、大地は骸を優しく抱く」
 その事に気づいたディミックが覆滅の鉄隕石(コンプリートデリート・カンポ・デル・シエロメテオ)で、ダモクレスを攻撃した。
「ハ、ハ、ハ、ハ・ロ・ウィィィィィィィィィィィン」
 その一撃を喰らったダモクレスが、真っ黒なオイルを吐き捨て、今にも崩れ落ちそうな勢いでフラついた。
「言の葉の重み、軽んじてはならぬ」
 その隙をつくようにして、槐が無易由言(ムイユウゲン)を発動させ、相手の声や仕草などの表現方法を通じて『言霊』を形成し、ダモクレスを戒める事で足止めした。
「ジャ、ジャ、ジャアアアアアアアアアアアアアアックゥゥゥゥゥ!」
 しかし、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせながら、あちこちからオイルを撒き散らし、半ばヤケになりつつ、カボチャ型のアームを振り回した。
 そのアームが何かに当たるたび、カボチャ汁が飛び散り、異様なニオイを漂わせた。
「……愚かな」
 槐が素早い身のこなしで攻撃を避け、バスターフレイムで『人体自然発火装置』を装着したインペリアルスピア(セントールランス)で突きを繰り出し、ダモクレスを突如燃え上がらせた。
「ガガガガガガガガガガガ……ァァァァ……」
 その途端、パンプキンパイに似たニオイが、辺りにもわんと漂った。
「なかなか強烈な一撃のようデスガ、当たらなけれバ、どうという事はありまセンネ」
 その間に、モヱがミミックの収納ケースと連携を取りつつ、スパイラルアームを発動させ、肘から先を内蔵モーターでドリルのように回転させ、威力を増した一撃をダモクレスに与えた。
 それに合わせて、収納ケースがガブリングを仕掛け、ダモクレスに食らいついた。
 そのため、収納ケースの口元は、カボチャ汁でベチャベチャ。
 そこに何か特殊な効果はないものの、収納ケースの見た目が、ホラーチックな感じになっていた。
「カ・ボ・チャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
 ダモクレスが大量のカボチャ汁を撒き散らし、殺気立った様子で機械音を響かせた。
「……この汁は少々厄介だねぇ。早めに倒してしまおうか」
 ディミックがハウリングフィストを仕掛け、音速を超える拳で、ダモクレスを吹き飛ばした。
「そうだね。すぐに倒してしまおう。こちらが被害に出る前に……」
 オズが仲間達に声を掛けながら、幻夢幻朧影を発動させ、ディミックに妖しく蠢く幻影を付与し、ジャマー能力を高めた。
「カ、カ、カ、カ・ボ・チャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 それと同時にダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、カボチャ型のミサイルを飛ばしてきた。
 カボチャ型のミサイルが落下と共に爆発し、大量の破片をケルベロス達めがて飛ばしてきた。
 それは鋭い刃と言うより、ガボチャ汁まみれのネットリ系。
 痛いというより、『うわっ!』と悲鳴を上げてしまうモノだった。
「この程度のダメージでならバ、問題ありまセン」
 その隙をつくようにして、モヱがエレキブーストを発動させ、生命を賦活する電気ショックを飛ばし、戦闘能力を向上させた。
「ハロウィンは初めてだけど、あなたの無念を胸に、楽しんでくるよ」
 オズがポイズンテイルを繰り出し、大蛇の尾に毒のオーラを纏わせ、ダモクレスを激しく打ち据えた。
「カ・ボ・チャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 それがダモクレスの身体を蝕み、毒していった。
「ハロウィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイィィィン」
 次の瞬間、ダモクレスが断末魔を響かせ、崩れ落ちるようにして動かなくなった。
「それにしても、工場にこんな遊び心のあるものが捨てられていたなんて、少し不思議な心地だね。子供達が遊び場にしていたのか、不法投棄物なのか……。別の製品のダモクレス化や二次災害を防ぐため、内部をある程度片づけてヒールしておこうかねぇ」
 そんな中、ディミックが何かを悟った様子で、辺りをヒールし始めた。
 よく見れば、他にも遊び道具と思しきモノが転がっていた。
 もしかすると、ここでハロウィンパーティを行っていたのかも知れない。
「しかし……因果なものだな。悪魔をだまして地獄へ行けなくなり、現世を彷徨うことになった霊を模した玩具が、このように処分されずに朽ちようとするなか動き出してしまったんだから……。今回のコギトエルゴスムは、案外風流を解していたのか」
 槐が複雑な気持ちになりながら、深い溜息を漏らした。
 おそらく、電池式ジャックオーランタンがダモクレスと化したのは、単なる偶然。
 だが、運命的なモノを感じずにはいられなかった。
 そして、ケルベロス達は、その場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月30日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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