永遠のハロウィンを共に。

作者:芦原クロ

 とある洋館に、怪しい集団が揃っていた。
 不気味で愛らしいジャックオーランタンの絵柄が施された、ゴシック調の椅子。
 オレンジ色のテーブルクロスが掛かった、テーブルの上には、これでもかと言う程のカボチャスイーツが並んでいる。
 パウンドケーキ、プリン、タルト、クッキー、モンブラン、シフォンケーキ。
 どれも、カボチャの濃厚な美味しさを、全面に引き出している。
『ちょっと不気味で可愛い! それがハロウィンの魅力だろう!? クリスマスもバレンタインも、大晦日に年越し、その他諸々のイベントには無い魅力だ! そしてカボチャには豊富なビタミン。風邪の予防や、美肌効果まで有る! カボチャが主役のハロウィン! 諸君、ここで永遠にハロウィンを続け、仲間を増やそう!』
 ジャックオーランタンのお面をつけているビルシャナが、声高々に教義を力説。
 10人の信者たちはビルシャナの異形も気にせず、盛大に拍手を送った。

「悟りを開いてビルシャナ化した人間が、配下を増やそうとしています。犠牲者が出る前に阻止し、一般人の救出とビルシャナの討伐をするのが、今回の目的です」
 そう説明するセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)曰く、場所はビルシャナ化した人間の家。
 入り口は多くのジャックオーランタンに囲まれているが、それ程苦労はせずに、入れるようだ。
 その為、好奇心旺盛な子供が、紛れ込む事態も有る。
 セリカが纏めた情報は、こうだ。

 洋館の入り口で、まずは人払いを。
 ビルシャナの言葉には強い説得力があるので、放っておくと、一般人は配下になってしまう。
 倒すと死んでしまうほど、配下は絶望的に弱い為、戦闘になれば攻撃しにくい面倒な敵になる。
 配下は、ビルシャナを倒せば元に戻る。
 だが、死なせる危険性が有る以上、ビルシャナの主張を覆すような、インパクトのある主張を行ない、信者を正気に戻し、配下化を阻止するのが最善だろう。

「インパクトを与える方法ですが……洋館にこもっていたら、ハロウィンのパレードも参加出来ないし見れませんよ、というようなセリフでも、インパクトを与えられます。スイーツを食べていると、ビルシャナの警戒も緩むようです」
 スイーツは美味しい。
 カボチャ好きには堪らないほどに、とても美味しい。
 と、微笑みながら重要な説明も足した後、真面目な表情に戻る。
「ビルシャナとなってしまった人は救うことは出来ません。せめて、被害が大きくならないように、撃破をお願いします」


参加者
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)

■リプレイ


「一般人が迷い込まないようにしましょう」
 洋館の前で、伊礼・慧子(花無き臺・e41144)が殺界形成を展開。
「殺気を放つジャックオーランタン……心理的瑕疵物件の香りになりそうですが」
 慧子は周りを見回し、一般人の気配も無いと分かれば、仲間たちと共に洋館内へ。
「ささっと片付けて変な噂が立ったりしないようにしましょう。心理的菓子物件の方が、楽しいですしね」
「スイーツ沢山食べれるお仕事……良いね」
 慧子の言葉に、待ちきれないといった様子で、頷いている陽月・空(陽はまた昇る・e45009)。
 人の生死には興味無く、仕事ならばしっかりやる、というスタンスの空だが、今回はスイーツを食べまくる予定だ。
「スイーツが食べられると聞いて……! ……いや何でもない、何も言ってない」
 そしてもう一人、スイーツ目的の嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)も居る。
 自身の発した言葉を、クールに隠し通そうとするが、仲間たちの耳にはしっかり聞こえてしまっていた。
「みんなでお菓子を食べまくるわよ! ……あ! も、もちろん説得もね」
 すっかり忘れていたとばかりに、言葉を付け足す、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)。
「ハロウィンなのでトリックオアトリートなのです!! おかしをくれないと……にゃんこっぽく悪戯するのです!!」
 ビルシャナと信者たちを発見し、猫のような威嚇をする、八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)。
『おお! 諸君、見たまえ! ハロウィン仲間が増えたぞ!』
 ビルシャナも信者たちも、嬉しそうだ。
 どのような悪戯をするのかと、興味津々に訊いて来る、ビルシャナと信者たち。
「ティッシュペーパーも全部出すし壁でも家具でも爪をとぐしコードはがじがじに噛むのです!」
 ノンブレスで一気にまくしたてる、あこ。
 可愛い……と、癒されモードのビルシャナと信者たち。
「このモチーフにされているジャックのランタンというのは、天国にも地獄にも行けない彷徨える死者の魂を表しているそうだね。本場の蕪頭を用意したよ」
 オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)が持って来たカブ頭に、癒されモードが一変した。
 まるでリアルなミイラのような、20世紀初期に作られたカブのジャックランタンそのものだ。
 信者たちが悲鳴をあげるのも、無理も無い。
 あまりにも衝撃的過ぎて、2人の子供信者が、泣きだして逃げて行った。
『な、なんということを! ちょっと不気味で可愛いのが、イイんだ! それでは不気味過ぎて怖過ぎるぞ!』
 オズを指差し、必死に主張するビルシャナ。
「色々調べてみたんだ。地球に来て初めてのハロウィンだから」
『は、初めてなのか……それなら、うん、まあ、仕方ないな』
 オズの言葉を聞き、ビルシャナも信者たちも渋々、受け入れた。
 メンバーがケルベロスだということに、全く気付いていない、ビルシャナだった。


「不気味で可愛いといえば、年がら年中ゴスロリの方は、私から見れば年中ハロウィンのようなものなのですが……それは本人の信念があってこそのスタイルです」
 淡々と、考えを述べる慧子。
「他人に強制するのは良くないことです」
『強制? それは違うな! 我々は布教をしているのだ!』
 慧子に対し、胸を張って堂々と答えるビルシャナ。
 信者たちも「そうだそうだ」と、頷いている。
「かぼちゃは……野菜なのです……! 野菜はおにくではないので……年中続くと困るのです……」
 段々と声が小さくなってゆく、あこ。
『野菜が嫌いなのか? カボチャはいいぞ! 野菜だが、甘みが有り、ビタミンも豊富だ! カボチャは野菜、という固定概念を一旦置いて、まずはスイーツを味わってくれ!』
 あこの前に、カボチャのモンブランが出される。
 恐る恐るあこが食べると、濃厚なクリームの甘みが口の中いっぱいに広がった。
「美味しいのです!」
 目を輝かせるあこに、ビルシャナも信者たちも頷き、他のメンバーにもスイーツを配る。
「ハロウィンというのは各家の軒先を回ってお菓子を貰うと聞いたのだが」
 信者たちから勧められたスイーツを、仕方ないといった体で食べつつ、語りだす槐。
「ずっとこの家に居たのではハロウィンにならないのではないか?」
 確信を突いた問いに、信者たちが戸惑いだす。
「あ、鳥さん、スイーツのお代わり。この量じゃ足りない」
 ビルシャナは、暴食の限りを尽くす空に、スイーツを届けるのに忙しく、信者たちの様子に気付かない。
(「ふ、ふーん……スイーツを食べれば警戒されないのね。じゃあしょーがないわね、食べてあげるわ」)
 レイも、カボチャのケーキを食べ始め、まろやかで濃厚な味わいに夢中になる。
「レイちゃんも、お菓子を食べたかったのです?」
「ち、違うわよ! 食べたいわけじゃないわよ! 仕事だからしょーがなく食べるのっ」
 仲間が説得中は、お菓子やスイーツを堪能しているあこの問いに、必死で否定する、レイ。
 口の周りにクリームがいっぱい付いているのが、夢中で食べていたのを物語っている。
 レイの可愛い一面に、あこは、にこにこと微笑んでいる。
「あこちゃん、どうしてあたしを見て笑ってるの?」
「なんでもないのです!」
「クリームが、口についているからじゃないかな」
 あこはかぶりを振ったが、オズが教えると、レイは少し赤面しながら、クッキーをあこの口に突っ込んだ。
「お菓子をくれても悪戯するわよ!」
「むぐっ! ……これも美味しいのです!」
 口内に広がる焼き菓子の香りと、思わず口元がほころんでしまいそうな、甘い味わい。
 3人の楽しそうなやり取りに、ビルシャナは『ハロウィンはこうで無くてはな』と、うんうん頷いている。
 信者たちもほっこりと癒されているいるが、槐の言葉を聞いている信者らは、戸惑ったままだ。
「ハロウィンは、遊園地や商店街など、家の外でのイベントが大半だ。この家でいくら待っても、来れる人には限度があるのだから、それなら出かけたほうが良いと思う」
 正論を並べられて我に返った信者が1人、商店街に行こう、と。信仰を捨てた。
「そーよ。あんたたちー。ハロウィンに家に籠ってるなんてもったいないわよーっ」
 スイーツを食べる手を止めて、レイが説得を引き継ぐ。
「ハロウィンの日ならコスプレが市民権を得るのよ! 好きな恰好をして、“一年に一度”の思い出を作る……子供も大人も一緒に楽しめちゃうんだから♪」
 一度だからこそ、より深く記憶に刻める、想い出なのだと。
 そう捉えた信者は、興味深そうに、レイの発言に耳を傾けた。
「ついでに、彼女や彼氏もつくれるかもしれないわよ」
 にやりと笑みを浮かべる、レイ。
 そのワードに反応する、数人の信者。
「それと、お家に籠ってたら正月太りならぬハロウィン太りになるわよ。お菓子ってカロリーのお化けなんだからねっ! ってあたしも気をつけなくちゃ……」
 太るのは嫌だと、女性信者1名が、逃げるようにその場から去ってゆく。
「此処にずっと居ると、トリック・オア・トリートでお菓子を貰いにいけないけど、良いの?」
 スイーツを食べまくっていた空が、唐突に鋭い問いを放つ。
「カボチャスイーツも美味しいけど、他のチョコとか普通のお菓子も美味しいよ」
 更に、スイーツ好きの心を揺さぶる、空の発言。
「チョコ……もう無理、我慢出来ない! フォンダンショコラが食べたい!」
 またもや、女性の信者が1人、飛び出すように去って行った。
「フォンダンショコラも美味しいよね」
 空は同意を示してから、再びスイーツを口にし、まるでハムスターのように頬を膨らませて食べまくっている。
 一応、配慮は有るらしく、仲間の分には手を出さず、お代わりをビルシャナに求めていた。

「カボチャが主役のハロウィンとは言いますが、発祥の地では蕪だったのですよ」
『それ出すの止めて!?』
 オズが持って来たカブを手に取り、言葉を紡ぐ慧子に、ビルシャナのツッコミが入る。
 だが慧子は気にせず、薄気味悪いカブを平然と見ていた。
「アメリカで蕪の代わりに南瓜を使ったのが、広まったんです。つまり南瓜のすぐれた栄養価については、冬至のほうがそれっぽいイベントになりますね」
 カブの迫力に怯えながらも、慧子の言葉に惹かれる信者が1人。
 それに気付いた慧子が、信者を真っ直ぐに見据える。
「ゆず湯もついてきてポカポカですよ。いかがですか?」
「ポカポカ最高ー!」
 6人目の信者がテンション高く言い残し、去って行った。
「おかしを!! おかしをくれつづけるのです!!」
 いつもよりハイテンションになっている、あこの頬に、ベルが肉球を押し付けて落ち着くようにとツッコミを入れた。
「えっと、あこが言いたいのは……年中これだとけっこう負担な気がするのです! これではお菓子の切れ目が縁の切れ目になってしまうのです!」
 スイーツに夢中で、一番大事なコスト面を考えていなかった信者が、ハッと息を呑む。
「なので、区切って期間を決めたほうがいいと思うのです!」
「確かに。ありがとう、猫の仮装した子!」
 正気を取り戻し、信者が1人、あこに手を振って去る。
「あとの説得は仲間に任せて、もらったお菓子やスイーツをエンジョイするのです! わーい!」
 飴と鞭のような説得を終えたあこは、プリンを食べたり、パウンドケーキを食べたり、と。食べるのに忙しい。
「カボチャのスイーツなら食べられるようですね。野菜嫌いの子供に、お菓子にして食べさせる方法が有りますが、似たようなものでしょうか」
「はっ! かぼちゃは野菜だったのです! でも食べられるのです! どうしてなのです!?」
 あこの様子を見て、スイーツを味わいながら慧子が、淡々と呟く。
 忘れていた、とばかりに、あこは焦り出す。
 口についているクリームを拭ってくれた慧子に、テンション高く尋ねている、あこ。
「まぁしかし、ここに拘るというのであれば、とりあえず、VRハロウィン用の機材を持ってきたので一緒にどうだろうか?」
 スイーツをたっぷり堪能した後で、槐が機材を取り出す。
「自分だけのカスタムアバターを作って仮装アピールも可能だ。モデリング用のハイスペックPCも用意したのでやってみるといい」
 本来の目的から興味を逸らそうと、槐は信者たちに勧める。
「食べ物を用意してくれる鳥さんは良い鳥さん。でも、此処にはスイーツしかない。ハロウィンに因んだカボチャ以外の美味しい料理とかも食べられなくなる……それは凄く残念だと僕は思うよ」
 説得しながらも、スイーツをもぐもぐと食べている、空。
「俺は甘いものじゃなくて、ハロウィンの雰囲気や料理を楽しみたかったんだ!」
 槐が提供した遊びを楽しんでいた男性信者が、空に言われてようやく思い出した、という風に、立ち上がる。
 ここに居続けても、VRだけでは望みが叶わないと分かり、立ち去ってゆく。
「ハロウィンって、興味深いお祭りだね。ハロウィンの最中に黒猫を虐めてはならないそうだ」
 オズの言葉に、トトがしてやったりと言わんばかりの様子で、ふんぞり返っている。
「他にも、うっかり死者に連れていかれてしまったとか、仮装だと思っていたら本物の幽霊だったとか、ハロウィンの不吉な裏の噂には枚挙にいとまがない」
 伝説や噂話に強い興味を持つオズは、民俗学者のように研究対象としている為、かなりの詳細を調べたようだ。
「うらめしや~」
 オズの語りに合わせ、レイがお化けスタイルを見せる。
 可愛く驚かせてコスプレの楽しさを教える筈だったが、オズの言葉と合わせれば、恐怖感を煽るのに最適だった。
 そして、オズのメリュジーヌとしての姿も、仮装だと勘違いしている信者には、迫力満載。
「“楽しい”という側面だけに惹かれて、“悪霊の祭り”という本質を見失ってはいけないよ。一年間、悪霊と接し続けるなんて僕はお勧めしないな」
「怖え!」
「あのイケメン、仮装も怖い!」
 最後に残っていた男女2名が、怯えた声を発し、脱兎の如く逃げて行った。
「僕のこれは……仮装じゃなくて種族特徴なんだけど……」
 オズが打ち明けた頃には、信者は一人も居なくなっていた。
 スイーツを運んできたビルシャナが、ようやく、それを知る。
『誰も居ない!? 折角集まった信者だったのに……』
 見る見る内に衰弱してゆく、ビルシャナ。
 膝から崩れ落ちたビルシャナが、持って来た最後のスイーツを、空がちゃっかり受け取る。
「ごちそうさまなのです! スイーツ美味しかったのです!」
 あことベルが素早く攻撃を仕掛ける。
「皆、頑張って」
 戦闘中もスイーツを食べ続けながら、前衛陣の命中率を高める、空。
「ハロウィンに黒猫を殴れるとは思えないので、神々しく清浄の翼を頼むよ」
 トトに指示してから、オズはレイと連携し、同時に敵を攻撃。
 続いてクラッシャー2人、慧子と槐の強烈な攻撃が加わり、敵は呆気なく消滅した。


「終わったのです! はやく帰ってハロウィンパーティーの準備をするのです!」
 旅団に戻ろうとメンバーを急かす、あこ。
「参加者用の、スイーツも多く用意しないとな。……私が食べたいわけではないからな」
 注意深く、付け足す槐。
「パーティー……」
「陽月さん興味有る?」
 特に深く考えず、呟いた空に対し、素早く食いつくレイ。
「……僕はスイパして眠れれば、それだけで良いかな」
 まさかの、食っちゃ寝体質である。
「それで太らないってすごいわね。……食べて寝るだけの兄貴かぁ。アリかな、それともナシか……どっちだと思う?」
「唐突だね。また連れて帰ろうとしているのかな。陽月さんは簡単に連れて帰れないと思うよ」
 急に話題を振られるが、オズは慣れた様子で微笑む。
「そうだよ。僕を必要とするなら、美味しい料理と快適な寝床が無いとね」
 マイペースに返答する、空。
「自分で言うのですね。……本人もああ言っていますし、諦めましょう」
「今回は諦めて、ハロウィンパーティーの準備を急いだほうが良いんじゃないかな」
 レイを宥めるオズと、慧子。
「この蕪頭もどこかに飾ろうか」
「……それは、止めておきましょう」
 オズが手にした気味の悪いカブ頭を見て、常識人として忠告する慧子だった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月29日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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