紅葉した木も人もぶった斬る

作者:神無月シュン

 とある山の中腹にある自然公園。ここでは最近の冷え込みで木々の紅葉が一気に進み、今まさに紅葉狩りのシーズンを迎えていた。
「見渡す限り紅く色付いて綺麗ね」
「そうだね。けれど……」
 公園へとデートに来ていた男女2人。男性はゴクリと喉を鳴らすと、意を決し口を開く。
「き、君の方が綺麗だよ」
「あ、ありがと……」
 紅葉する木々に負けないくらいに、顔を真っ赤にする2人。見つめ合う2人の横にはいつ現れたのか、身長3mもある大男――エインヘリアルが立っていた。
「あ……あ……」
「い、嫌……」
 恐怖に顔色が変わる間もなく、エインヘリアルの振るった斧は、2人と木々をまとめて斬り飛ばす。
 2人の頭が転がる様子に、近くにいた人々は悲鳴を上げ逃げ惑うのだった。


「詳しい話を聞かせて」
 エインヘリアルによる、人々の虐殺事件が予知された。その知らせを受け、天月・悠姫(導きの月夜・e67360)はいち早く会議室を訪れた。
「自然公園で紅葉狩りをしていた人々が、エインヘリアルによって虐殺されます」
 徐々にメンバーが集まり、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は詳しい内容を説明していく。
 このエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者らしく、放置すれば多くの人々の命が無残に奪われるばかりか、人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられる。
「なるほどね。エインヘリアルを撃破する為にも急いで現場に向かわないとね」

 このエインヘリアルは使い捨ての戦力として送り込まれているため、戦闘で不利な状況になっても撤退することはないようだ。
「予知の通りエインヘリアルは斧を武器にしています。とても凶暴で邪魔であれば人でも木でもお構いなしに切り倒してきます。一般人を事前に避難をさせてしまうと、襲撃場所が変わる恐れがあります」
 エインヘリアルは1体のみだが、こちらが戦闘をしている間に一般人が逃げ切れるとは限らない。近くにいる一般人が狙われない様に注意したい。

「折角の紅葉狩りシーズンです。出来る事ならば木々への被害も最小限に抑えるようにしてください」


参加者
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)

■リプレイ


 秋晴れの空、鮮やかに色付いた木々たちが、太陽に照らされ紅を主張している。
 この自然公園は、山の中腹にあることで他よりも紅葉が進むのが早く、木々も多い事から紅葉の絨毯を歩くことが出来ると、紅葉狩りスポットとしても人気がある。
「ヘリオンデバイスを起動します」
 ヘリオンから光線が発射されケルベロスたちの元へ、光が徐々に形を変えヘリオンデバイスが実体化する。ヘリオンデバイスを装着したケルベロスたちは、自然公園へと足を踏み入れると、エインヘリアルの出現場所に向かって紅葉の絨毯を歩いていく。
「綺麗な景色デスネ」
 パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)は紅葉で出来た紅い道に声をもらす。
「紅葉狩りですか、もうそんな季節なのですね。少し肌寒い時期の方が、紅葉が綺麗ですよね」
 バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)は紅く色付く木々を見つめると、澄んだ空気を肺一杯に吸い込んだ。
「わたくしも毎年楽しみにしていますので、今年はどれだけの紅い葉が見られるか楽しみですね」
 ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)は迎えてくれた紅に、笑みを浮かべた。
「エインヘリアルの脅威は何時になっても終わらないね。まぁ、私たちに出来る事は予知された事件を事前に解決する事だけど」
「紅葉か、わたしも綺麗な紅い葉は好きだし、紅葉狩りは楽しみだわ。でも、殺戮を好むエインヘリアルを倒すのが、先決ね」
「紅葉の綺麗さという風情が分からず、殺戮しか頭に無いエインヘリアルは、迷惑ですのでさっさと倒してしまいましょう」
 シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)、天月・悠姫(導きの月夜・e67360)、綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)の3人は無粋なエインヘリアルに腹を立てる。

 周囲の警戒を続けること数分、デートをしていた男女の前に突如エインヘリアルが姿を現す。
「ちょっと待つデス」
「貴方の相手は僕たちです」
「わたしたちが居るからには一般人に手出しはさせないわ」
「ここはわたくしたちに任せて、玲奈さんとシルフィアさんは避難の方をお願いします」
 パトリシア、バジル、悠姫、ルピナスの4人は予定通りにエインヘリアルと一般人の間に立ち塞がる。
「皆さんこちらに避難してください」
 ルピナスの言葉に頷くと、玲奈は一般人たちに避難を呼びかけていく。
「大丈夫!? 私の背中に乗って、早く逃げましょう!」
 シルフィアは突然の出来事に腰を抜かした男女2人へ声をかけると、手を引いて自身の背中へと2人を乗せた。
「行きますよ。しっかり掴まってて」
 半人半馬の彼女にとって、2人乗せるくらいはどうってこと無く、風の様な速度でこの場から走り去った。


 避難誘導が進む中、残った4人はエインヘリアルの注意を引くべく、攻撃を開始していた。
「御業よ、敵を縛り上げてしまいなさい!」
 ルピナスの言葉に呼応し、御業がエインヘリアルへと掴みかかる。
「僕も手伝います」
 ケルベロスチェイン『束縛する薔薇の蔦』を操るバジル。伸びた『束縛する薔薇の蔦』がエインヘリアルへ絡みつき締め上げていく。
「エクトプラズムよ、敵の動きを止めなさい!」
 悠姫は掌の上でエクトプラズムを圧縮。大きな霊弾を作り出すと、エインヘリアル目掛けて飛ばす。放たれた霊弾は拘束を解くのに手間取っているエインヘリアルの胴体へと直撃した。
 その隙にパトリシアはルピナスのジェットパック・デバイスの力を借りて、上空まで飛び上がっていた。
「この蹴りを受けナサイ」
 虹が落ちてくる――そう表現出来るようなパトリシアの蹴りは、上空から虹をまとっての急降下蹴り。滝の様に垂直に虹がエインヘリアルの頭目掛けて襲い掛かる。
「グアアアアアアアアアアアアッ!?」
 4人の流れるような連続攻撃に堪らず叫びをあげるエインヘリアル。斧が振り上げられると、4人はすぐに上空へと飛び上がる。
「コノオオオオッ!!」
 攻撃が届かない事に、エインヘリアルの斧の矛先は避難途中の一般人へ。
「ッ!? やらせナイ」
 パトリシアが咄嗟に急降下をしてエインヘリアルの前へと飛びだす。振るわれた斧を受け止め……。
「グハッ!」
 踏ん張りのきかない状態で受けた攻撃で、パトリシアの体は軽々吹き飛び樹に打ち付けられると、肺の中の空気が漏れ苦悶の声をあげる。
 その横を避難誘導を行っていたシルフィアが駆け抜け、一般人を背に乗せ離脱する。
「大丈夫ですか?」
 心配そうに駆け寄るバジル。
「マダマダ前戯ヨ、ココでヘバるなんてサキュバスの名に懸けて許されナイワ!」
 治療をしようとしたバジルを手で制し、パトリシアは桃色の霧を放出して自身の傷を癒していく。
「貴方のトラウマを、想起させてあげますよ!」
 ルピナスの『ダンシング・スターナイフ』が煌めき、刀身に映し出されたトラウマが具現化してエインヘリアルに襲い掛かる。
「魔導石化弾で、その身を石に変えてあげるわよ!」
 ガジェット『不思議なポケット』を拳銃形態に変形させる悠姫。引き金を引き、撃ち出された魔導石化弾は、エインヘリアルの左肩を貫いた。


 避難誘導が続いている間、4人は上空から攻撃を加え続けながら、広い場所へとエインヘリアルを誘導していく。その間も一般人への攻撃をパトリシアや避難誘導中の玲奈が身を挺して庇っているおかげで、今のところ怪我人は出ていない。
 苛ついたエインヘリアルは辺りの樹を切り倒していく。
「ああ、紅葉が物理的に狩られていく……」
 樹が倒れるのを見てパトリシアが悲しそうな表情を浮かべる。
「皆さん、お待たせしました」
「避難誘導の方は終わったよ」
 ついに玲奈とシルフィアが合流を果たす。
「さぁ、行きますよネオン。サポートは任せましたからね!」
 玲奈の言葉に彼女のボクスドラゴン、ネオンはひと鳴きすると配置につく。
「このオーラで、治してあげますね」
 バジルは最初に庇い続けてボロボロになっているパトリシアの治療を行った。

「ガアアアッ! オリテコイ」
 上空からの攻撃を受け続け、苛立つエインヘリアル。怒りをぶつける様に辺りの木々を切り倒していく。これで自然公園の1割の木々が切り倒されたことになる。
 これ以上樹を切り倒されるのは避けたい。ケルベロスたちは頷き合うと、総攻撃を開始した。
「ヤー!」
 ルピナスがダンシング・スターナイフを振るい、エインヘリアルを斬り刻む。続いて星型のオーラを蹴り込むパトリシア。
 悠姫は『月光天斧』を構えると上空から急降下。エインヘリアルの頭目掛けて『月光天斧』を叩き込んだ。
「爆破箇所設定、吹き飛んでしまいなさい!」
 玲奈は精神を極限まで集中させると、脳にダメージを受けふらつくエインヘリアルの顔面を爆破した。
「あなたに届け、金縛りの歌声よ」
 シルフィアの金縛りを引き起こす呪われた歌声が自然公園に響く。
「無限の剣よ、我が意思に従い、敵を切り刻みなさい!」
 ルピナスが詠唱を終えると、ルピナスの周りにエナジー状の剣を無数に現れる。剣1本1本が意志を持ったかのように動き出し、エインヘリアルを斬り刻んでいく。
「青き薔薇よ、その神秘なる茨よ、辺りを取り巻き敵を拘束せよ」
 バジルがエインヘリアルへと茨を飛ばす。茨はエインヘリアルへと巻き付いていき、茨に仕込まれた神経毒がエインヘリアルを蝕み始めると、茨についていた無数の蕾が一斉に花開き、青い薔薇が咲き乱れた。
「足技ばかりで退屈してたノヨ! 久々に素手でぶん殴るンダカラ、簡単に死なないデヨネ!」
 パトリシアは虹色に輝く『歪曲の右手』を突き出すと、エインヘリアルの体が右手に引き寄せられていく。続いて『虚空の左手』を突き出すと、エインヘリアルは暗闇へと呑まれていく。
「わたしの狙撃からは、逃れられないわよ!」
 悠姫は『不思議なポケット』を変形させると、麻痺効果のある特殊な弾丸を撃ち込んだ。
「この呪詛で、その身を汚染してあげます!」
 玲奈が身動きが取れないでいるエインヘリアル目掛けて刀を突き刺すと、呪詛を流し込んでいく。
「グ……ア……ア……」
「セントールの蹴りを、受けてみろ!」
 連続で叩き込まれる攻撃に苦しむエインヘリアル。そこへ向かってシルフィアは急降下を開始。空中で体を捻りエインヘリアルへと背を向ける。流星の煌めきと重力を宿した後ろ蹴りがエインヘリアルの顔面へと炸裂し、首の骨が折れる音が辺りに響いた。
 エインヘリアルは地面へと倒れると、二度と起き上がることは無かった。


 戦いが終わり、パトリシア、バジル、ルピナス、悠姫の4人は手分けして周囲の修復に走り回る。
 その間に玲奈とシルフィアは避難した一般人の元へ行き、事件が無事解決したことを知らせた。
 しばらくして、自然公園の中に人々が戻ってきた。
 そして、事後処理の終えたケルベロスたちも、紅葉狩りを楽しんでいた。
「とても綺麗な紅葉ですね。こんなに壮大な景色は貴重だと思いますよ」
 頭上も足元も紅く染まる景色に、ルピナスは魅入っていた。
「わぁ、鮮やかな色合いがとても素敵な紅葉ですね」
「綺麗な紅葉ね、この景色を守れて何よりだったわ」
「こうやって紅葉狩りをしていると、ひと時の平和を実感出来るよねー!」
 玲奈、悠姫、シルフィアの3人は被害が大きくならなかったことを喜んだ。
「わぁ、綺麗な紅葉ですね。折角ですから、皆で紅葉を背景にして、記念撮影しませんか?」
 少し遅れてやってきたバジルは、あまりに綺麗な景色に、記念撮影を提案する。
「写真ですか、いいと思いマス」
 パトリシアが頷くと、皆も同じように頷く。
 バジルは手早く撮影場所を決めると、撮影の準備を進める。携帯端末をカメラモードにするとタイマーセットし配置する。
「さあさあ、撮りますよ。並んでください」
 3、2、1――。
 携帯端末から電子音が流れ、写真が撮れたことを伝える。
「わたくしにも後でデータをください」
「あ、私にも」
「私も欲しいな」
「後でちゃんと、皆さんに送ります」
 それからしばらく紅葉狩りを楽しんだケルベロスたちは、日が暮れる前に自然公園を後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月2日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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