ツインパワーで真っ白キレイ!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化した工場の跡地に、二層式洗濯機があった。
 この二層式洗濯機は、工場で働く者達の作業着を洗濯する時に使っていたモノ。
 しかし、音がうるさく、旧型であったため、工場が閉鎖されたのと同時に、捨てられてしまったようである。
 その場所に小型の蜘蛛型ダモクレスが現れ、二層式洗濯機に機械的なヒールを掛けた。
「ニソウシキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した二層式洗濯機が耳障りな機械音を響かせ、廃墟と化した工場を飛び出すのであった。

●セリカからの依頼
「オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)さんが危惧していた通り、都内某所にある工場で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある工場。
 この場所は既に廃墟と化しており、不気味な雰囲気が漂っているようだ。
「ダモクレスと化したのは、二層式洗濯機です。二層式洗濯機はダモクレスと化した事により、ロボットのような姿をしているようです」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)

■リプレイ

●都内某所
 二層式洗濯機にとって、洗濯は天職であった。
 洗濯さえ出来れば、それで幸せ。
 他には、何もいらない。
 汚れたモノを、綺麗にする。
 ただ、それだけの事だが、幸せだった。
 だが、工場が閉鎖した事で、その願いは叶わなくなった。
 それでも、二層式洗濯機は、洗濯物を願った。
 その声が届かない事が分かっていても……。
 一枚でも洗濯物を……。
 たった一枚だけでいい。
 それさえあれば、ずっと洗い続ける。
 その願いが届く事だけを夢見て、洗濯物が放り込まれるのを待ち続けた。
 しかし、二層式洗濯機の前に現れたのは、洗濯物ではなかった。
「ぐーるぐーる洗濯機なのです! ぐーるぐる、ぐーるぐる、なのです!」
 八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)は仲間達と共に、廃墟と化した工場の跡地にやってきた。
 二層式洗濯機は、工場の中にポツネンと置かれていた。
 それは、まるでケルベロス達を誘っているようにも見えた。
 おそらく、罠。
 いや、間違いなく、罠である。
 そう思えてしまう程、怪しい配置。
 その事に危機感を覚えたあこが、ピピーッとホイッスルを鳴らした。
 それでも、洗濯槽は魅力的。
 思わず飛び込みたくなってしまう程、ジャストサイズ。
 そのため、ウズウズ。
 一瞬でも油断すれば、そのまま洗濯槽にダイブであった。
「これは、まだ見た目と、やる事がわかりやすくて、扱いやすそうな機械だね。全部一層でやる方が魔法のように不思議に思えるんだけど……。地球の人は、すごいなぁ、まだまだこういう発見は尽きなさそうだ。出来れば、ジックリと見てみたいところだけど……」
 オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)が、感心した様子で二層式洗濯機に視線を送った。
 今となっては、旧世代の洗濯機と呼べる代物ではあるが、色々な発見がありそうな感じであった。
 だからと言って、近づく事は命取り。
 ……何か怪しい。
 嫌な予感しかしない。
 この様子では、近くに小型の蜘蛛型ダモクレスがいるのかも知れない。
 だが、目視をする事が出来なかったため、不安な気持ちばかりが膨らんでいった。
「あれって根本的に二層でそれぞれに機能を分けることで、全自動よりも綺麗に洗濯できるんですよね。業務用は根本的に機械が別ですし……。工場がもっと長続きしたら、まだまだ現役だったのかも。そう考えると、何だか可哀想ですね。別に望んだ訳でもないのに、捨てられてしまったのですから……」
 瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)が、複雑な気持ちになった。
 見た感じ、二層式洗濯機は、何処も壊れていない。
 そう言った意味でも、まだまだ現役。
 電源さえ入れれば、大活躍してくれそうな感じであった。
 しかし、今は動かない。
 工場自体に電気が通っていないから、動く訳がない。
「洗濯は苦手だが、脱水は得意だ。……こう、キュッとするといいんだろう? ……たまに力加減を誤ってしわしわにしてしまうが……雑巾等なら問題あるまい」
 そんな中、嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)が怪力王者感満載で、何かを絞るフリをした。
「セ・ン・タッ・キィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、二層式洗濯機が激しく揺れ、みるみるうちに姿が変化し、ダモクレスと化した。
 その姿は、金属で出来たロボット。
 いつの間にか、何か洗濯物を入れたのか、洗濯槽がグルグルと回っていた。

●ダモクレス
「ニ・ソ・ウ・シ・キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
 そのビームは途中からグルグルと渦巻き、ケルベロス達に迫ってきた。
「ぐーるぐる……ぐるぐーる、回っているのです!」
 あこが瞳を渦巻くビームをガン見しつつ、飛び込むタイミングを窺った。
 だが、そんな事をすれば、それこそ命取り。
 最悪の場合は、ミキサーの中に飛び込んだように砕かれ、バラバラになってしまうのがオチである。
 それでも、いまは飛び込みたい。
 ……本能には逆らえない。
 その衝動に襲われているため、瞳がギラギラ。
 まるで獲物を狙うハンターのような目になっていた。
「……って、あの中に飛び込んだら駄目ですからねっ! 何だか、聞こえていないような気もしますが、とにかく避けて! あんなビームに当たったら、一溜りもありませんよ……!」
 右院があこに対して警告しながら、ギリギリのところでビームを避けた。
 その間も、ビームはグルグルと回り、辺りのモノを巻き込んで粉々にして、大量の破片を撒き散らした。
 しかし、ビール自体はなかなか消えず、工場の壁をガリガリと削って、弾け飛ぶようにして消滅した。
「言の葉の重み、軽んじてはならぬ」
 それに合わせて、槐が無易由言(ムイユウゲン)を仕掛け、ダモクレスの声や仕草などの表現方法を通じて『言霊』を形成し、敵意あるモノに対して戒めを行った。
「ニ・ソ・ウ・シ・キィィィィィィィィィィィィィィィィィィ」
 その途端、ダモクレスの動きが封じられ、洗濯槽だけがイラついた様子でグルグルと回った。
 その事に気づいたあこが、洗濯槽の回転に合わせて、目で追いかけた。
「さあ、行こうか、トト。間違っても、洗濯槽に飛び込まないようにしてね」
 オズがウイングキャットのトトに声を掛け、寓話語り『奇跡の娘』(グウワガタリ・キセキノムスメ)を発動させ、傷ついた仲間の身体を癒した。
「……!」
 続いて、トトが清浄の翼で、辺りの邪気を祓った。
 どうやら洗濯槽には全く興味が無いらしく、ぷいっとそっぽを向いた。
「セ、セ、セ、セ、セ・ン・タ・ク・ソ・ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その途端、ダモクレスが苛立ちを隠せない様子で、小刻みに身体を震わせ、耳障りな機械音を響かせ、狂ったように二層式洗濯機型のアームを振り回した。
 それは巨大で、重量級ッ!
 そのため、アームを振り下ろすたび、床が削れて、大量の破片が飛び散った。
「そう暴れるな。洗濯物があれば……落ち着くのか? 何か持って来ればよかったな。そうすれば、少しは機嫌も……って、怒るな! それとも、私を殺して、服を洗濯するつもりでいるのか。……なるほど。それなら確かに、汚れて……いや、駄目だ。それだけは……駄目だ! 一体、何を考えている! そもそも、血で汚れた服を洗濯しても落ちる訳が……ないだろ!」
 それを迎え撃つようにして、槐が轟竜砲でハンマーを砲撃形態に変形させ、ダモクレスめがけて竜砲弾を撃ち込んだ。
「ニ・ソ・ウ・シ・キィィィィィィィィィィィィィィィ」
 その言葉を否定するようにして、ダモクレスがアームを、ブンブンと振り回した。
「……!」
 そんな中、ベルが猫パンチを繰り出し、洗濯槽をガン見していたあこにツッコミを入れた。
「……って、こんな事をしている場合ではないのです! お仕事をしなければ、叱られてしまうのです……!」
 あこがハッとした表情を浮かべ、メタリックバーストで、全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、仲間の超感覚を覚醒させた。
 その間も、あこの視線は、洗濯槽に釘付け。
 ガン見したら、駄目な事は分かっていても、本能には逆らえない。
 最初はツッコミを入れていたベルも、だんだん洗濯槽の魅力に囚われ、一緒になってグルグルと首を回し、ビクッと身体を震わせ、あこに再びツッコミを入れた。
「とりあえず、これは壊しておきましょうか。このままだと絶対にマズイ事になりそうですし……」
 その事に危機感を覚えた右院が、何やら察した様子で得物砕きを仕掛け、ダミレクスの右アームを破壊した。
 その拍子に、右アームが宙を舞い、床に落下し、ドシンと音を立ててめり込んだ。
「セ・ン・タ・ク・ソ・ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 ダモクレスがケモノにも似た機械音を響かせ、二層式洗濯機型のミサイルを飛ばしてきた。
 落下した二層式洗濯機型のミサイルは、床にドカンと落下し、大爆発を起こして、大量の破片を飛ばしてきた。
 それが鋭い刃物となって、ケルベロス達の身体を切り裂き、壁にザクザクと突き刺さった。
「これは、ぐーるぐーるとは違うから、まったく興味がないのです……! だから、何も怖くないのです……!」
 その事に気づいたあこが素早い身のこなしで、飛び散った破片を避け、ルナティックヒールで満月に似たエネルギー光球を仲間にぶつけ、傷を癒すと共に凶暴性を高めた。
 それに合わせて、槐がバスターフレイムを仕掛け、『人体自然発火装置』を装着した武器を振るい、ダモクレスを突然燃え上がらせた。
「ニ・ソ・ウ・シ・キィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが断末魔を響かせ、真っ赤な炎に包まれながら、真っ黒な煙を上げて、完全に機能を停止させた。
「……何とか倒す事が出来たね。洗濯機と戦った結果、汚れる……という仕方のない事が起きたし、早めにみんなで帰ろうか?」
 オズが複雑な気持ちになりつつ、苦笑いを浮かべた。
 二層式洗濯機にとって、それは望まぬ結果であったが、ダモクレスと化した事で、どうでも良くなってしまったのかも知れない。
「……しまった。今回はヒールの準備をしていなかった。皆、頼んだ……。だからと言って、サボる訳では無いぞ? その分、私は片付けなどの力仕事を請け負おう」
 槐が仲間達に声を掛けながら、テキパキと片付けをし始めた。
 辺りには、沢山の破片が飛び散っていたが、片付けるのはそれほど難しい事ではなかった。
「うちのお店(旅団)の洗濯機も、そろそろ買い替え時かなーって思うんですが……」
 そんな中、右院が周囲をヒールしながら、仲間達をチラ見した。
 だが、今日のメンツは、誘いづらい。
 そのため、右院は家電量販店には寄らず、WEBでレビュー見たり、価格比較をするため、大人しく家に帰るのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月25日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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