食欲の秋到来! 秋キャンで祝う、セルベリアの誕生日

作者:そうすけ


 食欲の秋だ。秋に旬を迎える食材は栄養価が高く、美味しいものがたくさん揃っている。豊穣の新米しかり、稔った果実やふるさとの川に帰ってきた秋鮭しかり……。
 ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は、今年は自然の恵みに感謝しながらあの子、セルベリア・ブランシュ(シャドウエルフの鎧装騎兵・en0017)の誕生日を祝おう。大きな戦いが続いている今だからこそ、冬を前にみんなでエネルギーを補給しよう、と計画を立てた。
 見事に色づいた紅葉を愛でながら、うま味の増した秋の旬を食する秋キャンプだ。
 ゼノは紙袋を抱え持ちなおすと、肩で押し挟んでいたスマートフォンを手に取った。
「お待たせ。さっきの続き……クリにカキ、サツマイモ、それから」
 秋の果物を数えあげる。
「あと、カボチャも秋色パンケーキに入れたいな。用意してくれる? 無理なら今から買いに行くけど」
 誕生日祝いのケーキは、秋の果物を乗せて焼くパンケーキにすることにした。キャンプ場には本格的なケーキを焼くキッチンはない。勝手持っていくことも考えたが、せっかくだし、みんなでわいわい言いながら、その場で作れるもののほうがいいだろう。
「紙コップとか紙皿とか、道具はボクが用意しているよ。お米と水もね」
 テーブルの上に紙袋を降ろすと、一枚の写真を手に取った。澄んだ湖の周りを色濃く落葉樹林が覆っている、絵画のような写真だ。
 毎冬、みんなで新年を祝うその場所へ、紅葉の季節に行くのは初めてのことだった。
「用意するテントの数は……参加人数が確定しないと。キミからも誘ってみてよ。セルベリアの誕生日を祝うキャンプに行かないかって。ボクも他の人に声をかけるからさ」


 具体的に何ができるの、と聞かれてゼノはしばし黙り込んだ。ソファーに座って、クッションを膝に乗せ、抱く。
「1、昼にカヤックや釣りを楽しむ」
 湖にカヤックを浮かべて、湖上から紅葉を眺めるのも素敵だ。あるいは爽やかな秋風に吹かれながら、湖畔でのんびり釣り糸を垂れるのもいい。釣った魚は、後で焼いて食べるといいだろう。
「2、夕方にみんなでワイワイ食事を作って食べる」
 火を起こし、肉や魚、キノコなどを料理する。
 例えば、秋鮭の味噌バターピラフとかはどうだろう。定番のカレーもオッケー。きのこがたくさん入った鍋や、クリとベーコンのアヒージョなども美味しそう。デザートは秋色のパンケーキ。クリやカキ、カボチャがふんだんに乗ったパンケーキだ。
 なお、食材のほとんどはゼノが用意しているので安心して欲しい。
 飲み物はノンアルコール飲料を中心に揃えてある。持ち込み可だが、未成年の飲酒は厳禁。大人は未成年に酒を勧めないよう気をつけられたし。
「3、夜にみんなで露天風呂に入る」
 湖の傍に、昨年掘って作った露天風呂がある。野生動物があらしているかもしれないが、多少の手間をかけるだけで十分入れるだろう。星空と焚き火に照らされた紅葉を楽しんでもらいたい。タヌキやサルが湯に入ってくるかも?
 ちなみに、水着着用。
「4、夜、テントで過ごす」
 テントは2人用から大人数用まで、様々なタイプが用意されている。
 テントに籠ってしばらくすると、トリックオアトリート、と言いながらカボチャの魔女に扮したセルベリアが訪ねてくるので、お菓子をあげよう。
 お菓子がもらえなかった魔女は大いに拗ねてテントを強引に没収していくので、飴玉1個でもいいからポケットに忍ばせておくといいぞ。
「……こんなところかな。ほかに思いつくことがあればどんどんやってもらっていいよ。じゃあ、当日はみんなで楽しく過ごそうね」


■リプレイ


 秋も中頃を過ぎると心地よい風が野を抜けて、気温が一気に低くなる。抜けあがった青空の下、陽光をたっぷり浴びた山の紅葉も綺麗に色づいていた。
「わぁ、キレイですね。うーん、空気もおいしい」
「晴れてよかったね。なんだかワクワクしてきたよ」
 防寒用のひざ掛けを小脇に抱えたミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)とリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が、セルベリアとともに坂を上がる。
「うむ。秋に来るのも悪くないな」
 キャンプを張る湖は、ヘリオンを下りた場所からほんの少し坂を上がったところにあった。例年、ここで新年を迎えるセルベリアも、秋の紅葉シーズンに来るのは初めてのことだ。
 三人のあとにやや間を置いて、大きなカボチャを抱えたティアン・バ(絶海の則・e00040)と、ご機嫌で鼻歌を歌うキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)が続く。
「……空気が乾燥している。この分なら火もつきやすいだろう」
「野営は慣れてる。火なら熾すのから番まで任せろ」
 すぐ後ろを歩いていた椚・暁人(吃驚仰天・e41542)が、二人の会話を聞いて声をかけて来た。
「そりゃ頼もしい。二人に火おこしを任せるよ」
「あれ? あきとが火おこししてくれるんじゃないの?」
 からかうようにいうのは、隣を歩く那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)だ。
 二人で秋キャンプデートを楽しむにあたり、事前に役割分担していたようだが……。
「まあまあ、いいじゃないか。それぞれが得意を生かしてキャンプを楽しめば」
 食材が詰まった箱を持って、ゼノとともに最後尾を歩く淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)がとりなす。
 きゃあきゃあ言いてるうちに紅葉の天蓋を抜け、前方に煌めく湖が見えてきた。
「さあ、ついたよ。まずテントをたてよう」、とゼノ。
 テントはあらかじめヘリオンからキャンプ地に投下してあった。
 先についていた三人が、早くもテントの梱包を解き始めている。
「一番大きな荷が三人用のテント、ミリムとリリエッタとセルベリアのだから間違えないでね。他は二人用のテントだからね」


 ミリムは立てたテントの中に荷物を持ち込んだ。足を前に投げ出して座り込んだリリエッタに声をかける。
「広いですね。余裕で立てるし。これなら四人ぐらいは余裕で入れそう」
「そうだね。でも、他の人たちのテントより立てるのが大変だったよ。釣りに行く前に疲れちゃった……って、あれ、セルベリアは?」
「カヤックの用意をしに行きましたよ」
「元気だね。じゃあ、リリたちも行こう」
 セルベリアの分の釣り竿とクーラーボックスも一緒に持って、テントを出た。昼食の準備をする他の仲間たちに挨拶しながら、湖に向かう。
「わぁ」
「素敵」
 燃えるような紅葉がブルーの湖面に映えている。感動の情景に、二人は声をあげた。
「此処に来るのは年末年始以来ですね」
 凍った湖と雪を被った木々の景色もいいが、秋色に染まった湖もまたいいものだ。ミリムはカヤックを湖に押し出しながら、何度来ても心休まる所だと思った。
「ね? セルベリアさんもそう思いますよね?」
 パドルで危なっかしくバランスをとっていたセルベリアに話しかける。
「う、うむ。ここはいいところだぞ……っと、と。今日はいっぱい釣るぞ!」
「お魚釣り、リリ初めてやってみるけどお魚くるまでじっとしていればいいんだよね。んっ、じっとしてるのはリリ得意だよ」
「だところでここは何が釣れるのだ?」
 ミリムとリリエッタは顔を見合わせると、二人同時に吹きだした。湖で釣れる魚のことを、事前にゼノに聞き忘れていたのだ。
「ふふふ、最近トラウトルアーなんてものを覚えたのですよ。とりあえず、湖に注ぎ込む川を探しましょうか。そのあたりにお魚さんがいそうです」
 特に根拠もないが、漠然とルアーを投げ込むよりいいだろう。三人は湖面からの素晴らしい景色を眺めつつ、ゆっくりとカヌーを漕いで移動した。
 湖を囲む森から、キョッ、キョッ、という鳥の鳴き声が聞こえてくる。時々、ひんやりとした風が吹くが、日差しはぽかぽかと暖かい。こうして湖をカヌーで移動しているだけでも十分楽しめていた。
「あ、あそこ。見て、川だよ」
 リリエッタが指さすところに、細い川が湖に流れ込んでいた。カヌーは水深が十センチぐらいでも進むことができるが、侵入するには幅がすこし狭い。渓流釣りは諦めて、注ぎ込みの手前で釣りをすることにした。
「じゃあ、やりますか」
「がんばろうね」
 ミリムは振りかぶった竿をしならせて、ルアーを遠くへ投げた。クルクル、と糸を巻く。
 リリエッタとセルベリアが、見真似て竿を振る。何度も何度も投げ込むが、なかなか当たりが来ない。三十分たって、ようやくミリムがワカサギを一匹釣り上げた。
「……小さいですね」
 といっても十センチ前後ある。ワカサギとしてはまあまあの大きさだ。
「釣れただけでもいいではないか」
「そうだよ。リリたちはまだ……あ、きた!」
 しょんぼりと垂れた釣り糸が、ぐいっと水の中に引き込まれた。
「おお! リリエッタ、慎重に引くのだ。逃すなよ」
 釣れたのは五センチほどの大きさだが、それでも初めての釣果にリリエッタは顔を輝かせる。
 ミリムたちと手を叩きあって喜んでいると、セルベリアにも当たりがきた。
 それからは誘わずとも向こうアワセで勝手に釣れだした。そうなれば楽しくてしかたがない。笑いながら、どんどん竿を振る。
 昼近くになってキャンプ地に戻るころには、それぞれ百を超える釣果をあげていた。


 空気まで紅茶色に染まったような紅葉の醍醐味は、晴れた日でなければ味わえない。
 テントを立てた後、ティアンとキソラは枯れ枝を集めに森に入っていた。
「ん~、オレは芋を焼こうかな。落ち葉もたくさん集めて持って帰ろう。ティアンは何を作る? 折角だしハロウィンっぽいものを作りたくはあるよなぁ」
 そう凝ったものは作れないが、と前置きして、ティアンは腰を伸ばした。
「食材の中に南瓜があるのを見た」
「いいね。それ、使わせてもらおう。小さい南瓜をくり抜いて肉や野菜詰めて焼くっての見た事あるケド、出来そう?」
「南瓜をくりぬくのに力が要りそうだが、そこをやってくれるなら、中に詰める肉と野菜はティアンが何とかしよう」
 キソラはぱちんと指を鳴らした。
「OK、ソレならお安い御用だ。ついでに南瓜に顔を彫ったらソレっぽいな」
 まずは火を起こさないと。頼まれたからには他の人たちが使う窯も、世話をしなくてはならない。
「そう言えばゼノが夜にかがり火を焚くとかいっていたな」
「紅葉のライトアップか。じゃあ、夜まで火を絶やさないようにしなくっちゃ」
 キャンプではたき火も楽しみのひとつだ。調理に必要となるのはもちろんのこと、冷え込む夜には身も心も温めてくれる。
 十分すぎるほどの枯れ枝と落ち葉を集めた二人は、キャンプ地に戻ると、さっそく火を起こした。
 ティアンが枯葉の山にライターで火を点けて、細かく裂いた木の皮を乗せる。
「ここが腕の見せ所……」
 キソラは息を吹きかけて火を大きくした。
 火力をあげるために枝を投入する。しばらくして、火に入れた枝がしっかり燃え始めた。こうなればたき火はほぼ完成だ。あとは火力を安定させるため、囲いを作るように太めの枝を組んでいく。
「よし、熾き(おき)ができた。他のところへ火を移しに行こう」
「ティアンはその間に野菜を切っておく。あ、ちょっとまて」
 ティアンはキソラを呼び止めた。ちょい、ちょい、と手招きする。
「なに?」
「頬と鼻の頭に煤がついている」
 ぐっと背伸びして顔を近づけると、取りだしたハンカチでキソラに頬と鼻の頭についた汚れをぬぐった。
「サ、サンキュー」
「ちょっと強くこすりすぎたか? 赤くなっている」
「そ、そう? ぜんぜん痛くなかったけど……」
 キソラはつい、と空へ視線を逃がすと火種を持ってゼノところへ向かった。
 ティアンは、とんとんと包丁で南瓜の器に入る大きさに肉と野菜を切りつつ、帰りを待つ。あっという間に切り終えてしまった。
 帰って来たキソラが南瓜の器を作っている間、火の番をする。
「ティアン、できたよ」
「顔も彫ったの。ホンカクテキなおばけカボチャだな」
「上手いだろ? さあ、これに肉と野菜をいれて焼こう」
「キソラ、南瓜の中身はどうした? 折角だからセルベリアに渡すお菓子をそれで作りたい」
 ちゃんと取ってあるよ、とキソラはまな板を持ち上げてみせる。
「魔女サンへのトリートだね。どうするの?」
「はちみつと一緒に焼くのはどうだろうか。……キソラ、はちみつの甘いのも苦手? もしそうなら、チップ風の味付けにしてもいいかもしれない。塩とか」
「あ、それイイ! 塩味の超美味しそう!」
 キソラは蜂蜜よりも甘い笑顔をティアンに向けた。


 湖岸のチシマザクラ、ミヤマナナカマドなどが紅く色づき、ソウシカンバのあいだを彩っている。紅葉と黄葉のバランスがよく、織り目も綾に美しい。それが湖の水に照り映えていた。
(「たしかに、暑すぎもせず寒すぎもしない。キャンプには一番向いている季節なのかもね」)
 死狼は水につけておいた杉板をさっと拭いて、グリルに乗せた。皮のある方を下にしてサーモンを杉板に乗せ、塩と胡椒を多めに振る。作るのはプランクサーモンだ。初挑戦だが、作り方が簡単なわりに美味しいらしいので決めた。なにより、広い場所で作る料理としては見栄えがする、というのがいい。
 オリーブオイルをサーモン全体に垂らしてスライスレモンを乗せ、最後に乾燥ローズマリーを散らした。これで下準備は終わりだ。
 キソラが持ってきた火種で火をつけて、焼き始める。
「そういえば、ここで何が釣れるの?」
 小さな鍋で油を温める、隣のゼノに聞く。釣りに行った三人が持ち返る魚を天ぷらにするのだ。
「ワカサギだよ。結構釣れると思うよ、ちょうどシーズン中だし……とか言っていたら、セルベリアたちが帰って来たね」
 死狼は手を振って、セルベリアの気を引いた。
 気づいたセルベリアが、一緒に釣りに行っていた二人と別れて駆けてくる。
「おー、シロー! いま、帰ったぞ。ほれ、土産だ。たくさん釣れたぞ」
「なんだいセルベリア、その言い方は。まるで死狼の旦那さんみたいだよ、それも亭主関白な」
 笑顔のゼノがクーラーボックスを受け取りながらいう。
「む……わ、私はいつもと変わらんぞ……。それより、シロー。それは何だ。美味そうだな」
「プランクサーモンだよ。はい、どうぞ」
 いい感じに焼けたところを皿に取り分けて、箸とともにセルベリアに渡した。
「気に入ってもらえると良いんだけど」
「頂きます……うん、美味い!!」
「よかった。作った甲斐があったよ。あとでゼノとパンケーキも焼くからね」
「楽しみにしているぞ。私が釣った魚も食べてくれシロー。作るのはゼノだが」
 ひどいなぁ、と愚痴ったゼノのしぐさがなんともユーモラスで、死狼とセルベリアは声を上げて笑った。


 暁人は持参した墨を竈に敷き詰め、貰った火種で火をつけた。分けてもらった枝を入れる。すぐに炎が大きくなった。
「こういう昔ながらの手段もいいものだね」
 熱を放ちながら燃える竈の木を見ているうちにテンションが上がって、自然と笑顔になる。
 やはり持ってきた団扇で竈に風を送り込みながら、となりで大きめのワカサギを串にする摩琴に顔を向けた。
「秋のキャンプデート、いいよね」
「うん、中々すてきなデートだよね! 自然の中で食べるごはんも美味しいし♪ 今日は張り切って腕を奮っちゃうね!」
 摩琴は下処理したワカサギにテキパキと串をさしていく。
 残念ながらイワナは釣れなかったようだ。そのかわり、十五センチ前後のワカサギをたくさんを分けてもらった。
 米と栗を入れた飯盒と一緒に、串を乗せたアルミパットを暁人に手渡す。
「はい、あきと。これを火にかけて『番』をよろしくね?」
「了解。ついでに焼き芋なんかも作っておこうか」
「お芋も焼くの? いいね!」
 摩琴は芋を焼きながら火の番をする暁人の隣で、きのこ鍋の用意を始めた。
「ふふ、一緒に作ってる感じがいいね♪」
 秋風に乱された髪を、耳に掛けながら言う。
「ねえ、あきと……残りの門を壊してデウスエクスを締めだすことに成功したら、いつだって、どこででも、安心してあきととゆっくりデートが楽しめるかな」
「楽しめる、楽しめる。俺の予想では、来年、桜が咲く頃には『デウスエクス、なにそれ?』ってみんないっているよ。だからたくさんデートしようね」
「え、ほんと!」
 暁人はパタパタと団扇を扇ぎ、風にあおられて飛んできた火の粉を避けた。
「あくまでオレの予想っていうか、希望だけど。あ、デウスエクスがまだいてもデートはしようね」
「もちろん♪ あきとのために美味しい手料理を振舞ってあげる!」
 そうこうしているうちに料理が出来上がった。栗ご飯はホクホクに炊きあがり、串にしたワカサギはきつね色に焼けてジュウジュウ音をたてている。キノコ汁は白い湯気をあげて、いい匂いがしていた。
「焼き芋は食後の楽しみ。冷めないように新聞紙にくるんでおこう」
「あっちで並んで食べよう♪ あきと、持って来て」
 二人は湖の近くに移動した。焚き火の前に置かれた流木に腰掛けて、小さな折りたたみテーブルに摩琴の手料理を並べる。
「こういう時に和食も風情があって好きだな。何より……俺のために作ってもらえたってのが、すごく嬉しい」
「えへへ、喜んでくれてうれしいよ。あきとの為に和食、すっかり得意になったよ♪ さ、食べて食べて♪」
 頂きます、と手を合わせる。さて、なにから食べようか?
「じゃあ、キノコ汁から」
 ひと口すすると、顔がほころんだ。アツアツの汁が体を内から温めてくれる。
「美味しい」
「えへへ♪ あ!」
 急に摩琴が大きな声を出して立ちあがったので、暁人は驚いた。傾いたキノコ汁の椀から、汁が少し落ちて膝を濡らした。
「どうしたの、急に」
「大変! あきと、タヌキが焼き芋の匂いを嗅いでるよ!」
 え、と言って振り返ってみると、親子タヌキが今まさに新聞紙にくるまれた焼き芋を咥えたところだった。
 こら、というと、走って森へ逃げていった。
「あきと、追いかけよう!」
「……それより、俺は摩琴さんの手料理が冷めないうちに食べたいな。一つぐらい、タヌキの親子におすそ分けしてあげようよ」
「あきとは優しいね♪」
 改めて流木に座ると、二人そろって料理に手を合わせた。
「「いただきます」」


 それぞれで賑やかに食事をとった後、露天風呂の足湯を楽しみ、テントに引き上げていた。
 ミリムはマシュマロを、リリエッタはナノナノ型のベビーカステラを、かわいい袋でラッピングして、ハロウィンの魔女に扮したセルベリアに手渡した。
「お誕生日おめでとうございます」
「はっぴーはろいん&お誕生日おめでとうだよ」
「ありがとう。嬉しいぞ! では、行こう」
 ミリムは全身真っ青のグールに、リリエッタは頭からシーツをかぶってオバケになる。一緒にセルベリアと各テントを回ってお菓子……誕生日プレゼントを集めて回るのだ。
「まずはティアンとキソラのテントを襲う!」
 三人はテントを出た。
 足音を偲ばせて、三角テントを目指す。
 ティアンは夜になるのを心待ちにしていた。キソラと一つテントの中でぬくぬくするのもうれしいし、二人で仮装したセルベリアが訪ねてくるのを待つのも楽しい。
「なんだかんだハロウィンらしくなったネ」
 キソラの言葉にうんと頷いた瞬間、テントの幕が勢いよくまくり上げられた。
「がおー!」
「うばぁぁ!」
 シーツオバケと青いグールがテントになだれ込んでくる。
「「うわっ!?」」
 てっきりセルベリアが一人で来るものと思っていた二人は、この演出に心底驚いた。
「びっくりした!」
「ミリムとリリエッタ……?」
 ほっとしたところで、主役の登場だ。
「トリックオアトリート、お菓子をくれなきゃ倒すぞ!」
 あはは、と笑って昼に作ったカボチャチップスを二人で差し出した。
「ハッピーハロウィン、それで、ハッピーバースデー、セルベリア」
 次に一行が向かったのは、暁人と摩琴のテントだ。
「テントで過ごす夜もいいものだね?」
「風邪を引かないように気をつけて」
 暁人は二人で包まっていた毛布を、摩琴の肩が隠れるまで引き上げた。
「大丈夫♪ こうしてあきとにぴったりくっついてたら寒くないし♪」
 二人で話すことはたくさんある。
 時間がいくらあってもたりないほどだ。
「魔女さんが来るまで、外に出て星でも眺めようか」
 そういってキソラが立ち上がった時、テントがガタガタと揺れ始めた。
「な、なに?!」
「「トリックオアトリート、お菓子をくれなきゃ倒しちゃうぞ!」」
 テントの四隅がまくり上げられ、抱き合う二人をお化けたちが下からみあげた。
 暁人と摩琴から焼きイモをプレゼントされたセルベリアとその仲間たちは、最後に死狼とゼノのテントを強襲する。
「「トリックオアトリート、お菓子をくれなきゃ倒しちゃうぞ!」」
「あはは、三人とも可愛い。では、これをどうぞ、可愛い魔女さん」
 死狼は小さなチョコ数個をまとめてラッピングした袋を手渡す。
「お誕生日おめでとう、セルベリア」

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月1日
難度:易しい
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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