パッチワーク最終決戦~番外の魔女と死神勢力

作者:大丁

 商店の亭主に、馴染み客が尋ねた。
「これはまた、おっきなカボチャやね」
「そうやろ。東京もんには負けへんように、用意してん」
 ハロウィンの飾り付けに、カボチャランプのハリボテを吊るしている。
「ケルベロスの皆さんに喜んでもらえるとええね」
 店主は、ニッカと笑った。

 だが、再建中の大阪城では、量産型白の魔女の軍勢が、ユグドラシルの根の小型版とともに現れていた。
 率いるのはパッチワークの幹部たち。
 番外の魔女・サーベラスは、両手からモザイクを垂らして号令する。

「今年のケルベロスハロウィンは、関西市民の熱い要望により大阪で開催する事が決定したのお」
 軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、明るい調子で説明をはじめたが、予知と依頼が伝えられることは、集まったケルベロスたちには、分かっていた。
「けどね。パッチワークの魔女の首魁である『最後の魔女・ドロシー』が拠点であるユグドラシルの根と共に、大阪城に舞い戻り、残された全戦力を投入して、ケルベロスハロウィンを襲撃してくるという予知が判明したのね」
 ドリームイーター残党であるパッチワークの魔女は、勢力として追い詰められていり、この作戦を阻止出来れば、勢力として壊滅状態となるのは間違いない。
「みんなには、大阪城から出撃してくる、ドリームイーターの軍勢と、パッチワークの幹部を撃破し、大阪城内で季節の魔法を集める儀式を行っている、最後の魔女ドロシーの撃破を目指してもらいたいのぉ」
 冬美はそれでも、明るく言った。
「幹部のひとりは、『番外の魔女・サーベラス』。毒性モザイク攻性植物を送り込んできてたヤツね。それが率いる、量産型白の魔女は『コギトエルゴスムにユグドラシルの根のエネルギーを与え、ハロウィンの魔力を奪う事に最適化したドリームイーターとして復活させた』ものなの。コギトエルゴスム化する前のドリームイーターの個性などは全て消して、この作戦を行う為だけに調整したという、パッチワークの魔女の本気度がうかがえる戦力よね」
 大阪周辺の地図を、表示する。
「量産型白の魔女は、ハロウィンの魔力を奪う事ができる能力を持ってるけど、戦闘力は高く無く、現在のみんななら、カンタンにやっつけれるほど。ただ数だけは多くて、各方面に百体以上ずつ配置されているから、まともに戦うと結構消耗しちゃうから、気をつけて。量産型白の魔女を突破した後に、『番外の魔女・サーベラス』と戦える。そして、『最後の魔女・ドロシー』は、サーベラス撃破後に大坂城に向かう事で、戦えるの」
 ちょっとだけ、難しい顔になった。
「死神勢力から、メッセージが届いたのよ」
 内容は、こうだ。
 ドリームイーターの残党が、季節の魔法を狙って動き出している。
 それを阻止し、季節の魔法を奪われないようにするために、我々も軍勢を派遣する。
 ケルベロスが討ち漏らして、市外に抜けてくるドリームイーターの撃破を行う予定だ。
 我々が倒したドリームイーターが得ていた、ハロウィンの魔力は回収させてもらうが、それ以上を行うつもりは無い。
 こちらからケルベロスを攻撃するつもりは無いが、戦闘を仕掛けられれば応戦するだろう、と。
「死神勢力は、信用も信頼も出来ないからねぇ。どう扱うかは、みんなにお任せするよ」
 白のポンチョをひるがえし、冬美はまた明るく言った。
「大阪市民と一緒にハロウィンを楽しまなくちゃね。レッツゴー! ケルベロス!」


参加者
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
神宮・翼(聖翼光震・e15906)
除・神月(猛拳・e16846)
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)

■リプレイ

●仮装行列
「うひひヒ。来タ、来たァ」
 除・神月(猛拳・e16846)は、ジェットパックで浮きながら、獣毛に覆われた手を揉み合わせた。
 大阪城を囲む緑地。
 その木々のあいだから、百を数える魔女のドレスが、白く染み出してくる。
 眼下にて、軍勢に対峙するのは、神月をいれても、わずか6人。神宮・翼(聖翼光震・e15906)は、白い極薄スーツの演算回路と、スーパーGPSを繋いで。
「せっかくみんなが、ハロウィンの準備でがんばってるんだもん。あたしたちもがんばらなくっちゃね!」
 市街地への侵攻を防ぎ、かつ陽動を担っている。地形の把握が肝要だ。
「他の3チームは、『番外の魔女・サーベラス』のもとに辿りつけたです?」
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は、表情を変えない。ラインハルトらは迂回できたと確信している。
 イベントにあわせて仮装もしてきた。
 包帯状のフィルムでグルグル巻きにした、ミイラだ。
 死のイメージといえば、盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)のゾンビは完成度も高い。
 血濡れの服は、あちこちに破れ目がつくってあり、傷口も造形されていた。
 避けた口もメイクだが、顔色の悪さに比して、ぼんやりと微笑んでいるのが、当世風だ。いっぽうで、クラシカルな黒マントに身を包んでいるのは、エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)。
 吸血鬼ということらしい。本人は、いつも通りに鎧を装備するつもりだったのに、ふわりに衣装を選ばれてしまった。
 ミイラにゾンビ、バンパイアと、不死の怪物に扮している背後には、幾ばくかの距離をとって死神が、うようよと回遊していた。
 ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)は、チラとその深海魚らしい姿と動作を見やる。
 奴らは、『倒したドリームイーターが得ていた、ハロウィンの魔力は回収させてもらうが、それ以上を行うつもりは無い』と宣言してきたのだった。
「難しいことはわからないけど、みんなの日常を守るために魔女たちを倒す。それだけだ」
 アームドフォートのモビルディフェンサーを、強化パーツとして靴底にも合体させている関係で、みんなより背が高くなっているが、死体合成怪物のコスプレではない。
 いよいよ、魔女たちの表情も区別がつくほどに、敵軍は迫ってきた。
 小さめのとんがり帽子を、短めツインテの黒髪にちょこんとのせている。幼い容貌が半ベソをかいていて、オタオタとしているものの、子犬ほどの大きさのカボチャ妖怪をリード紐につなぎ、それをモーニングスターのように凶悪に振り回している。
 個体に差は見られなかった。確かに量産型だ。
「やってやるさ」
 ロディの靴底ユニットから、ナパームミサイルが発射された。百の敵に六で挑む。

●連携攻撃
 黒マントをガバッと広げると、なかはタキシードを模したビキニ水着であった。
「ふわり殿は、なんという服を着せるのだ。ますます痴女呼ばわりではないか……」
 格好はともかくエメラルドは、エレキロッドとバイオレンスギターとを操り、仲間たちに防御の加護を与えていく。
 鉄球ブン回し攻撃のようなカボチャ頭は、口の切れ込みでもって、命中と同時に服を破ってきた。
 ゾンビのふわりは、もとからのボロ服を喰われて、服ボロ状態だ。
 メイクを施していない健康なピンクが、早くもチラチラとのぞいている。
「いっぱい噛みつかれてもー、ふわりが沢山倒しちゃうの!」
 創世衝波を呼び出し、放つ。
 混沌の波は、十数体にむけて広がっていったが、威力の減衰がみられる。撃破にまで至ったのはゼロだ。
 白の魔女たちが態勢を戻そうとすると、エメラルドよりも後方に控えていた死神が、殺到する。
 魚類型の攻撃に、魔女のひとりが足元をぐらつかせた。
 その、リボン付きの可愛いブーツの下に、魔方陣が浮かび上がる。ふわりのメイクよりも禍々しい、まさに死神の紋章だった。
「ああああー!」
 白い魔女の形が崩れて干からび、塵となって消えた。
「今のは、なんという……。撃破した死骸から、魔力を吸い取ったところか」
 エメラルドは、戦場を見渡す。
 毛むくじゃらの神月が、ウェアライダーらしく、ハウリングの咆哮を浴びせていた。
 ケルベロスたちがグラビティを命中させると、弱った魔女から優先して、死神たちは集まっているようだ。
 そして、季節の魔力を奪う。
 回収される量が、エメラルドの予想よりも多い。口元を真一文字に噛みしめたので、吸血鬼の牙のおもちゃが、口の中で曲がった。
 真理は、ミイラの包帯をカボチャにちぎられながらも、ライドキャリバーに突撃の指示を出す。
 彼女に加えて、ロディと翼。3人の鎧装騎兵は、一輪車を追う。
 超加速がのると、全員同時にキャバリアランページにはいった。白の魔女の隊列は、くさびを打ち込まれたように割れていく。
 カボチャの鉄球を、ダメ元のように振るわれるが、構うことはない。
 数撃ずつ与えて走り去れば、あとは死神が始末をつけてくれるからだ。
 一団ぶんの幅を突破して、敵の前衛相当を、あらかた深海魚にむさぼらせた。次の隊列が、また緑地帯から木々の間を抜けてくるのが、わかる。
「数が多いからキツそうかと思ったけど、死神は連携してくれるじゃないか」
 ロディは、アーマーのついていない腰部から肌をみせたままで、後続を振り返った。
 フィルムスーツのふたりも、胸元だけ隠れた感じで、頷く。翼は破れ目も気にせず、ロディにくっついて。真理は包帯がほとんど解けたのを、手で引き寄せて。
 空中から攻撃していた神月が、いったん着地した。
 ふさふさとした茶色い毛並みは、近くで見ると作り物だった。もとより彼女は、パンダのウェアライダーである。
「食い残しがあってもいーのは楽だナ。いまのうちにヨ、回復を頼むゼ」
 全身メイクによる、人狼のコスプレイヤーは、前後の敵味方を比べて言う。
 エメラルドは、『紅瞳覚醒』を奏でて、ボロコスのみんなを癒すが。
「死神の宣言なのだがな。そもそも、『量産型白の魔女からハロウィンの魔力を回収』する目的で、発せられたのではないか?」
 歌詞の合間に、自分の考えを挟んだ。
 強力な幹部たちをケルベロスに押し付け、労せずして目的を成し遂げるつもりでは、と。
 次の魔女たちが迫っている。
 傷は治っても半裸のまま、ケルベロスたちは、再び散開した。

●不穏なる動き
 ファミリアロッドが、二振り。
 くるくる回転してから、交差された。ふわりのものは、先端が赤く燃え、翼のものは、全体が金色に輝く。
「えーと、なんか話し合いしてどうするか、あたしたちで決めたんだよね?」
「ふわりはねー、こうやって、ふわりたちだけで沢山の魔女さんをお相手できてるんだから、死神さんとはお互いさまだと思うのー」
 ファイアーボールの力が充填された。赤く燃えてる杖から白の魔女たちへと撃ちこむ。
 隊列の中央で爆発を起こし、リボンやレースが飛び散った。
 ふわりの服といえば、太腿のあたりに巻き付いているだけだが、わき腹からグロテスクにはみ出しているように見える造形は、ある意味では何かを着ていることになるのかもしれない。
 本当にはみ出している、乳房は別として。
 焦げた魔女服に、翼は金色の杖を投げつける。小動物に戻ったそれが、敵のあいだを跳ね回って被害を大きくする。
 魔女もケルベロスも脱げていくのを関知せず、深海魚たちは魔力をついばみにいく。
「死神をやっつけちゃう意見だって出てた気がするし。違ったかな、ロディくんー?」
 翼は、空いた手でそっと、ロディの金のモノの先端に触れる。
「うんん? 難しいこと聞くなよ。というか、もうちょっと間隔とって!」
 モビルディフェンサーを砲台モードに再合体させたために、抑えをなくしてポロリしていた。
「MAX! ぶちかます!」
 回路を直結させた『マキシマグナム』が、残る魔女の後衛陣に照射された。
「んー、これでマックス? いつもはもっとおっきいよ♪」
「だから、翼~。握ってないで、……動きに変化があるぞ!?」
 指摘のとおり、量産型の魔女たちは、死神のとは違う、綺麗な紋章を展開して、カボチャでなく自身が回転を始めた。
 衣装が、リボン型にほどけていく。
「あっちもフォームアップしようってのか」
 ロディは、次弾チャージのあいだにミサイルを用意した。真理の武装から射出された焼夷弾のほうが早かった。
「どこであっても、魔法少女に変身ムーブは既定路線です?」
 おそらく、敵も巻き込んでのスタイルチェンジにより、ドレインをはかっている。リボンだけでなく、真理の包帯も、すべて解かれてしまい、ミイラの仮装でもなんでもなく、ただの裸女となった。
 神月も、全身から毛皮の細工を剥ぎ取られ、バランスを崩した拍子に地上に落ちて尻もちをつく。
 チーム全体にとんだ攻撃を、エメラルドはライトニングロッドからの雷の壁を張って防ごうとする。水着は、タキシードの襟だけになってしまったものの、マントが残ったので裸身は隠せる。
「神月殿! ああ、下は無事だったのだな」
 大股開きの仲間の、毛むくじゃらのそこを見て安堵の息をつく。
「いーヤ。これは天然の地毛なんだゼ。ふふン」
「あ、むちゅ」
 お礼をするかのように、急に唇をすった。
「さっきの死神の話だけどヨ……」
 おもちゃの牙どうしがぶつかる。
「ズル賢い手なラ、使えるナ。協力の宣言が誘導だったりしてヨ。向こうニ、あたしらのやりそーなこト、判ってるヤツがいたらだろーけド」
 こんな、ヒソヒソ話をしているのも、今回のチームにキャスターがいないからだった。
 思考通信に慣れてしまうと、不便さを感じたりもする。ミサイルを撃ち尽くした真理も、そばに寄ってきていた。
「データを検索したのですよ。けれども……」
 白の魔女たちは、帽子のかたちがちょっと変わっただけで、真理やロディたちの攻撃で傷つき、死神によって片付けられそうになっている。
「死翼騎士団との数度の共闘をみても、死神勢力がとりそうな策とは合致しないのです」
「うむ。我々の性格を把握している存在が、死神の指導者にでもならない限り、ありえんか。……白魔女の殲滅に集中しよう」
 エメラルドは、裸に古風なマントを引き寄せる。

●ハロウィンへ
「やっパ、ちゃんとトドメささねート、すっきりしねーゼ!」
 神月が、死神の群れを押しのけるようにして、残っているうちの一体、白の魔女に金の羽でもって体当たりをかました。
「降魔『鳳凰光背武強明王』・鳳凰黄炎光舞翼ゥ~!」
 股から、相手の口元にいって、天然とやらを押しつけ、深海魚が注目するなかで、逝かせた。
 魔女は、最期までアワアワと、焦ったような顔でいた。
 時を同じくして、大阪城から伸びていた光の柱が、消える。『最後の魔女・ドロシー』は倒されたのだ。後に、戻ってきたケルベロスたちから、パッチワークの幹部らも倒されたことをきく。
 どの方面でも、死神と敵対はしなかったらしい。
「それじゃ、ふわりたちは、ハロウィンを楽しんじゃおうなの!」
 ぴょんと跳ねたふわりの、ニセ物器官と実物おっぱいが揺れた。
 マントをぎゅっと閉めたエメラルドも、笑顔をみせる。
「ああ。着替えて仮装しなおせば、大阪の街に繰り出せる。ロディ殿、いつものように準備はできているのだろう?」
「簡易更衣室のことか! 出撃がバタついてたし、ここまで服がピンチになる可能性は想定して無かったぜ。ごめん」
「あれれ? ロディくん、うなだれてるのに、下は上向いてきたよ」
 空振りになることの多い更衣室が、こんな時に限って。翼は、手の中の彼を元気づけた。
 演算による、熱暴走ぎみに、真理が提案する。
「ハロウィンなんですから、私たちの格好も仮装扱いになるです?」
「そうかもナー」
 ジェットパック・デバイスを解除した神月が、棒読みぎみに応えた。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月31日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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