黒の明滅

作者:崎田航輝

 まるで夜と暁、そして逢魔が時が入れ替わるような色彩の揺らめく異空間。
 明滅する景色の中で長い長い影を伸ばし──漫ろ歩くように、或いは彷徨うようにゆらりゆらりと歩む影がある。
 誰に聞こえるでもない呼気を零し、当て所無いように、けれど護る場所を決して退かず行っては帰る漆黒の巨躯。
 ──『門』。
 死しても蘇り、朽ちても再生する。
 未だその機構は潰えず、名に違わぬ存在としてそこに在り続ける嘗ての戦士。
 過日、一個のエインヘリアルであった頃の記憶も心も今は朧に。
「幾人も、只の独りとて、通さぬ──」
 我は門。
 侵入者が居るのならこの鎧と剣を以て退けようと、ただその目的意識と共に。狂気の守護者は只管に、光陰が過ぎゆく空間の中を揺蕩うように歩んでいた。

「集まって頂きありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
「磨羯宮ブレイザブリクの探索が進められたことで、隠し領域より死者の泉に繋がる転移門を発見する事に成功したことは、ご存知かと思います」
 この隠し通路は、双魚宮「死者の泉」に繋がっていることが確認されている。
 ただこの通路は、死者の泉を守る防衛機構『門』に今なお護られている。
「撃破は続けられていますが、門の再生は未だ絶えていません」
 これを突破しない限りは、死者の泉に向かうことは出来ないだろう。それでも、討伐は確実に進んでいる。
 この戦いもまた、その大事な一戦となるだろうからと、イマジネイターは続ける。
「この領域に侵入し『門』の撃破をお願いします」

「戦闘は魔空回廊のような異次元的な通路で行うことになるでしょう」
 この内部では『門』の戦闘力は数倍に強化されている。敵の強さには変わらず警戒を、とイマジネイターは真剣な面持ちを見せる。
「戦いの際には、回廊に侵入して正面からぶつかり合う形となるでしょう」
 ただ空間は広く、上方に距離を取ることも出来る。
「ヘリオンデバイスなどを使って空中と地面に分かれるなどして攻め入れば、敵の不意をつくことも出来るかも知れません」
 適宜作戦を考えてみて下さい、と言った。
「『門』を42体撃破すれば、死者の泉に転移が可能になると予測されています」
 死者の泉に直通するルートが開けば、エインヘリアルとの決戦の火ぶたが切って落とされるだろう。
 ただ、攻略に時間が掛かり過ぎればなんらかの理由で察知され、このルートを潰されてしまう可能性もある。故にこそこの一戦は大事なものとなるでしょうと言った。
「健闘をお祈りしていますね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
スウ・ティー(爆弾魔・e01099)
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187)
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)
ノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)

■リプレイ

●混濁の空
 空のレプリカを思わす、移ろう色彩の異空間。
 宵を描くグラデーションは歪で、何処か平衡感覚を狂わせるようで。
 けれどその中でも、通路に降りたメロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)の視界は明瞭。モノクル型のデバイスを通して既に敵の位置を捉えていた。
「居たよ。『門』──さほど遠くないね」
「門……防衛機構、ねぇ」
 鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)は腕を組みながらその方向を見据える。
 幾度も蘇り、尚強靭な力を以て後背を護る。
 面倒なもの作り上げやがる、と。
 それでも踏み込んだからには、迷いはなく。
「死翼騎士団との同盟もあるし、きちっと正面突破といこうじゃねぇか!」
「じゃあ、始めるよ」
 ノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615)はチェイスアート・デバイスを起動。こつりと靴を鳴らし、アステリズムの如き光で皆を繋ぐ。
 それを機に道弘も外套を靡かせて。自身の鱗にも似た、青緑色のアウトドアリュック型ジェットパックで飛翔していた。
 そのまま仲間を牽引すれば──ふわりと浮かぶメロゥはハットに触れて道弘に目礼。
「ありがたく受けるよ」
「ああ、助かる」
 応える緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)も地を蹴って宙へ昇っている。
 偽りの空へ、本物の空と紛うほどの高度まで。上がるその姿を、スウ・ティー(爆弾魔・e01099)はさて、と下方から一瞥していた。
 敵が幾度と命を繰り返す、常識外れの策を採るなら。
「こっちも悪巧みするとしますかな」
 顔を戻し、地上組と共に一気呵成に前進を始める。
 合わせて道弘も加速。その黒騎士──門へと距離を詰めていった。
 此方に気付いた門は、刃を握り闘争の姿勢を取る、が。
 警戒したのは眼前の番犬の姿だけ。一瞬遅れて上方の気配も察知するが──既に遅く。
「行くぞ!」
 道弘が槌から砲撃、烈しい爆炎を見舞った。
 直後には地上側から高速で疾走する影。ライドキャリバーの藍に乗って迫る──山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)。
「藍ちゃん、今だよー!」
 ことほが跳躍すると、駆動音を高らかに鳴らした藍はそのまま疾駆。焔を纏って突撃を敢行する。
 ことほは同時に着地しながら手を伸ばし。癒やしの力を濃密な光に変換させて樹木の形を取らせていた。
 結実するのは『檸檬の果実』。光が弾けるよう、エクトプラズムから生まれた酸を噴出させて生命力を蝕んでいく。
 一歩下がる門は、面前と上方、どちらに対応するか判断が遅れる。
 その一瞬に、結衣が零距離へ入っていた。
 敵を見据える緋の瞳には、冷えた怜悧さを湛えながら。
 ──この戦いも所詮は前哨戦でしかない。
 故に長引かせても無意味だと知るから、手心なく、躊躇いもなく。元より、ただ能力が高いだけの敵など今更驚異ではないのだから。
「全力を以て排除する」
 脚装にビームの刃を閃かせ、縦に廻って光の流線を刻み込んだ。
「上下からの強襲──荒々しいのも悪くないね」
 涼やかに言いながら、続いて降下するのはメロゥ。鮮やかに躰を翻し、鋭い蹴りを叩き込んでいく。
 後退した門は自然上方へ意識をやるが、脅威は下方。
「こっちだよ」
 スウが手元で遊ばせたスイッチを押下すると、足元に転がっていた機雷がちかりと閃光を奔らせていた。
 瞬間、爆轟。直上へ強烈な爆風と炎を噴き上げたそれが、漆黒の鎧を間近から灼いて消えぬ痕を焦がし付けてゆく。
「次はどこかな?」
 スウの言葉にも、門の対応が僅かに遅れるその間隙に──真正面から奔るのがヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187)。
 門はとっさに剣を付き出そうとするが──。
「させないよ」
 一歩先んじて、ヴィが二刀を袈裟に振り下ろす。斜め十字を描いた斬閃は鋭くも重く、鈍い音を立てて獄炎の痕を刻み込んだ。
 門が僅かに吹き飛ばされる、その間に塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)は鎖に淡い光を纏わせていた。
「じゃ、こっちは守りを整えておくかね」
 ふわりと花の香りを揺蕩わすそれは、大振りに振るうと光の花園を描くように目映い魔法円を広げてゆく。
 仲間の足元を覆ったそれが、清らかな加護を齎してゆくと──ノチユも細指から凪の中へと、煌めきを流していた。
 流星雨が逆廻しに天へ招かれるように、空間へ昇るそれは魔法の粒子。
 紛いの宵に星をまぶし、本物の夜穹を顕すように。瞬くそれが心を澄ませて仲間の超感覚を励起させていく。
 ここまで奇襲に滞りなく。ただ、門も斃れずゆらりと刃を構え直している。
「何人も……通さぬ──」
「……門、かぁ」
 低く反響する声音、間近にする威容。それに対しヴィも剣を握りながら呟きを零した。
 こんなものに姿を変えて。ただひたすらに、文字通りの門として存在し続けている。それは何処か気の毒にも思えたけれど。
「でも、俺たちは戦って勝たなきゃだもんね」
 だから唇を結び、真っ直ぐ踏み込んでゆく。
 門も剣を振り抜き、衝撃波を飛ばしてきた。が、ヴィを中心に盾役がしかと受け止めてみせれば──。
「シロ、行くよ」
 翔子が腕に巻き付いていた白竜を飛び立たす。
 畝りながら宙へ上がったシロは、白光する癒やしの光を雫のように落として治癒。同時に翔子自身も再び鎖を波打たせ、光を重ねるように前衛の体力を保っていった。
 その頃には、ヴィが敵の面前。
「退かないよ」
 柔らかな声音に澄んだ意志を乗せて。
 閃く一瞬の光芒は『White flame』。視界を灼くほどの閃光を伴って、放たれたメーザーが鎧を深々と穿ってゆく。

●闘争
 藍と濁った橙が空間を明滅させる。
 ノチユはそんな空とも言えない空を少し、仰いでいた。
 何度目かに訪れて思ったのは、此処は時間が捻じくれたみたいだということ。
 宵闇も朝焼けも混ぜたようで。
(「なにひとつ、美しくない」)
 そして双彩の瞳を下ろせば──闇を吸収した黒い鎧姿も相変わらず、命の匂いがひとつもしない。
 門は微かによろめきながら、それでも苦悩も懊悩も見せず。ただ静謐を湛えて機構の役割を全うしようとしている。
「容れ物にされたお前の中身は、いつ、どこで終わったんだろうな」
 返ってくるのは、一歩一歩と鎧を鳴らす音。
 我は門と、その在り方だけを示すように。
 翔子は微かにだけ息を吐いた。
「こうして心は朧に、ただ『門』となって……か。ゾッとしないねェ」
「かつては戦士として存在していたはず、なのに」
 今となっては無機物のような存在に成り果てて。
 そこまでして守るもの、守りたいもの。ヴィはそれが理解できないようで、でも何処か共感できる気もして。
(「俺もかつては無機物のような存在だった、みたいだから」)
 自身の過去の記憶はないけれど。
「君と近いといえば近い、のかな」
 それでも心を持つ自分は、きっとこの敵とは違う道へ別れた。
 だからこそ、ヴィは刃を下げずに。
「この戦いは負けられない」
 キアイ入れていくぞ、と。純な戦意を新たにすれば──。
「もちろん!」
 明朗な声音と共にことほも真っ直ぐに奔り行く。
 瞳に映る黒騎士にことほがが抱くのは、憐れみの感情でもあるのだろう。ただそこには解放の為の闘志も燃えている。
 元よりオウガに相応しい好戦的な嗜好もあればこそ、死を賭して連続で戦うことは全く苦ではなく。
(「ついでに鍛錬だって、できるしね!」)
 剣を振り上げた門の、その懐に入り込んで牽制の掌打。
 僅かに傾いだところへ、更に握り込んだ拳で──獰猛な肉食獣をも凌駕する裂帛の一打を与えた。
 発破音にも似た衝撃を響かせ巨躯が下がると──。
「うん、やっぱこれが一番しっくりくるー!」
 ことほは自身の拳を見て満足げな声音だ。
 門はそれでも剣撃を返そうと目論む、が。
「赦すと思うか」
 風が生まれて影がかかる。頭上に空中を滑り降りる結衣の姿があった。
 まずは魔剣を振るって門の刃を弾き下ろしてみせた結衣は──そのまま体勢を直されない内にバレルロールの軌道で横合いへ。
 三次元の剣閃に焔を宿し、桜火<消えぬ傷痕>──刻む剣撃の記憶を空間に留めて鎧を抉り続けていく。
 無論、結衣が複雑な動きをしてみせたのはその為だけではない。敵の視界を十分に塞いだ上で、真上に飛び退くと──開いた射線の奥に道弘がいた。
 空間全てをフィールドに使った連携。
(「大運動会のものとの、この性能差……素晴らしいな」)
 それを可能にする技術に、託された人の思いに、改めて感心も覚えながら。
 道弘は視線の先に捉えた門へとショートアイアン型の鉄梃を振りかぶる。膂力を以て、強烈な威力で投げつけると──。
「よっ、と!」
 跳ね返った軌道を計算。先んじて飛翔した先でぴたりとキャッチしてみせる。
 揺らぐ門はそれでも踏み留まり、次撃を狙うメロゥを警戒するが──。
「とくとご覧あれ」
 姿を見られていても惑わすのが、奇術師の業。
 流麗に廻って舞い降りるメロゥは、ばさりとスカーフを翻す。するといつしかその手に無骨なチェーンソーを握っていて。
 一瞬だけ門の視界が塞がれたその間隙に、メロゥは至近にも迫り。次には片時のいとまも与えず縦横に斬撃を見舞ってゆく。
 鎧の破片を零しながらも、門は刃を薙いで霧を放った。
 が、ことほや藍が前面で庇い受ければ──。
「待ってな、すぐに何とかするよ」
 翔子が緩く白衣の袖を捲り、そっと腕を伸ばす。
 すると、ぽつりぽつり。
 宙から零れてくるのは澄明な雨滴。
 その清廉な冷たさと、翠を薫らす仄かな香りに、宿るのは恵みの慈悲。『翠雨』──命を潤すように、魂を濯うように、ことほの意識を明瞭に保ってゆく。
 シロも追随して光を注ぎ藍を治癒すると──ノチユもまた地へと一度踵を奏で、反響する音を空へ届かせる。
 ──ひらり。
 そこへ降りてくるのは、星を浴びたように淡く耀く白の花弁。香りは柔く、触れる感覚は優しく。曇りを祓うように霧を消滅させて皆へ健常を齎した。
「これで問題ないよ」
「なら、こっちの番だね」
 スウは軽く触れた帽子の下に、変わらぬ飄々とした笑みを垣間見せる。
 門は連撃を狙い、既に攻めの体勢に入っているが──それを目の前にしても尚揺らがずに、スウはただ一歩だけ後ろに下がった。
 門はそれを追おうとする、が。
 こつん、と。宙にある何かが鎧に触れる。
「根競べというか、悪知恵勝負かな?」
 悪戯に言ってみせながら、スウが尚も撒いているのは──透明な機雷。
「ま、派手にいこうか」
 知らぬ間にそれは空間を満たしている。
 瞬間、スウのスイッチで起爆した一つがその全てを誘爆させた。『悪神の狡知』──巨躯を包んで余りある、巨大な爆発が鎧へ亀裂を生んでゆく。
 煙を零しながら、門はそこからよろめき出る。けれどそこには既にヴィが肉迫し一閃。苛烈な斬撃を加えれば──。
「次をお願い出来るかな」
「了解、と」
 応える翔子が二本一対の杖へと光を湛え、強烈な稲妻を奔らせる。突き抜けた雷光が門を穿つと──ふらつく門の直上に結衣がいた。
 炎が、降ってくる。
 視界を染めるその紅蓮を脚に湛え、結衣は宙で斜めに躰を捻った。刹那、螺旋を象る灼熱の蹴撃が、鎧の一部を気化させながら門を大きく吹き飛ばす。

●夜へ
 倒れ込む門へ、メロゥは容赦を与えず手を翳す。
 漂う陽炎は『慰撫呪術:自因自果さえ揺らめいて』──血に籠る『呪い』を慰撫し顕現する特異呪術。
 溢れ渦巻くそれは蠢くように門を覆い、生命を更に汚染していた。
「これで癒やしも、儘ならないさ」
 門はそれでも己を治癒するしかない。
 だが蝕まれ続けた生命力は、その回復力を十分に保たない。能力こそ、引き上げられるものの──。
「させんよ。自由にさせたら恐いからね」
 スウが至近に迫って素早く拳を打ち込み、加護を砕いてみせていた。
 門は僅かに残った意志で、苦痛の残滓を見せる。
 結衣はそこへ刃を構えていた。
 癒し手も単独ではその強みを最大限には活かせないのだろうと。
「自らを癒す事に執着するか、命を繋ぐ事を放棄するか。いずれにしても結果は同じだ」
 それを証明してみせるように。炎の斬撃を無数に与え、門を衝撃の檻へと閉じ込めた。
 身動きも出来ぬ門へ、ことほは再び煌めく果実を具現。エクトプラズムを閃かせて漆黒を溶解させてゆく。
 門は足掻きながらも剣を突き出すが──。
「負けないよ!」
 ことほ自身が杖で衝撃を抑えて受け切れば、直後には翔子が迸る雷光を注ぎ込み、生命を賦活させて万全とした。
「後は頼むよ」
「うん」
 小さく応えるノチユは静かに門を見据える。
 最後まで、そこに個としての命を感じ取ることは出来なかった。
 死者への祈りを捧げ続けた拳士の一族として、ノチユはそれが故に「死者の泉」を許すことが出来ない。
 だから拳を握る。
 この歯車以下の、何処にも逝けなくなった骸がこれ以上汚されないように。
「冥府は在る。正しく、墜としてやる」
 放つ一撃は『冥府に消ゆ』。墓標を刻むよう、鋭い一打で門の心臓を貫いた。
 斃れゆく門へ、ヴィも風を巻き込んだ打突。真っ直ぐの衝撃で鎧を粉砕すると──。
「最後は、任せるね」
「ああ」
 道弘がそこへハンマーで一撃。澱んだ空ごと叩き割るように、跡形も残さず門を霧散させていった。

「通路自体には、何もなさそうだねぇ」
 スウは周囲にヒールをかけて痕跡を消しながら、軽い調査も兼ねていた。
 無論、成果がないと見れば深追いはせず踵を返す。
 道弘も早々と武器を収めていた。
「とにかく、敵が再生する前にちゃっちゃと撤収だぜ」
「そうだね。長居をする必要は無い」
 結衣も歩を踏み出せば──翔子もまたそれに続く。
「行こうか。次へは繋いだ筈さ」
 頷く皆も帰途へと急ぎ始めていた。
 その中でことほは一度だけ、振り返る。
「続きはまた今度ね!」
 と、そう言ってみせながら。
 今はまだ、何も蘇ってはいない空間。
 メロゥもそこを暫し見つめている。戦いは一体で満腹だし、続けて相まみえるつもりはないけれど。
「君は『門』として何回目の、君だったんだろうね。……初めてかな? それとも……」
 もう知る機会もないだろうけれど。
(「知りたかったよ、割と」)
 後は静かに出口へ向いて進み出す。
 ノチユももう、振り返りはしない。
 次に此処に来た時に、自分達を『門』として迎えるのは──また、あいつじゃない誰かなんだろう。
 だから消えたあの黒騎士だけを心に残し、去ってゆく。
 またここに戻るとしても、この歪な空を見ることはないかもしれない。ただ、それは道が着実に進んでいるということだと思うから。
「うん、だいじょぶ。だよね」
 確かな戦果を胸に、ヴィも外にある本物の夜を目指す。
 ほんの短い時間の静謐。ただそれだけが、色の混じり合う路に残っていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。