秋の薔薇

作者:芦原クロ

 バラ園では、秋に咲く四季咲きのバラが、見頃を迎えていた。
 どれも蕾が開き、格別の美しさを誇る。
 特徴的な色合いの、ブルーリバー、ブルーバユー、イントゥリーグ、栄光、朝雲、ムーンスプライト。
 爽やかな秋空に映える、明るい色のアイリッシュミストや、ゴールドバニー、秋月、シカゴピース、メルヘンケニギン……など、種類も多く、楽しめる。
 花形も美しく、大輪花に中輪花、そしてミニバラなど、沢山の秋バラが花を咲かせていた。
 広場でレジャーシートを敷き、ゆっくりとバラを眺める人々。
 バラの高い香りに包まれる、贅沢な時間を過ごしていたが、その時間は長くは続かなかった。
 攻性植物と化した1本のバラが、動き出したのだ。
 パニックに駆られる一般人を次々と殺め、現場は無残な光景と化した。

「薔薇園の薔薇が、た、大変なことになってしまいます……!」
「兎波・紅葉さんの推理のお陰で、攻性植物の発生が予知出来ました。急いで現場に向かって、攻性植物を倒してください」
 焦っている兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)を宥めつつ、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が説明を続けた。
「薔薇園には、来園者が居ます。避難誘導を担当する者と、避難が完了するまで攻性植物の注意を惹き付けておく者とで、分担する必要が有ります」

 この攻性植物は1体だけで、配下は居ない。
 広場が戦場として、最適な場所となるだろう。
 戦闘中は、少しばかり気をつけていれば、他の植物への被害も無くなる。

「放っておけば、多くの死者が出てしまいます。皆さんの力が必要です。どうか、討伐をお願いします」


参加者
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)
 

■リプレイ


 到着時、バラは既に攻性植物と化し、一般人はパニック状態になっていた。
 降下の際、オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)は翼を広げて空を飛び、雨の翼を展開。
 先ずは、一般人を落ち着かせる。
(「……僕の見た目だと、一目で分からない人もいるだろうし……」)
 オズは思考を巡らせ、声が届く範囲まで、一般人たちに接近。
「ケルベロスだよ。安全な場所まで、僕が案内しよう」
 穏やかな口調で、一般人が聞きたいであろう頼もしい言葉を紡ぐ、オズ。
 腰を抜かしたり足が震えて動けない者は、素早く抱え、避難誘導を始める。
 敵はそれを見過ごさず、捕えようとツルを伸ばした。
「あんたが見るのはあたし。そっちには行かせないんだから♪」
 すかさず、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)がそれを阻む。
「あこはバラを抑えるほうなのです!」
 八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)も戦闘態勢になり、敵が一般人のほうへ向かわないよう、間に割り入る。
 いざとなれば、一般人を庇う構えだ。
(「薔薇の花は、綺麗ですから好きですけど……それが一般人に害を為す存在になるなら、倒すしかないですね」)
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)は戦場を駆けつつ、真剣な眼差しを、敵に注ぐ。
「他の植物にも被害を出さないように、気を付ける事にするよ」
 陽月・空(陽はまた昇る・e45009)が、無表情で淡々と仲間に伝えた。


 1人での避難誘導は、楽では無い。
 仲間たちが敵の意識を惹き付けていても、敵が放つ攻撃が、避難中の一般人を巻き込む可能性も無いとは、言い切れない。
 思っていたよりも一般人の数は多く、その中で歩みを停めて泣きだす子供たちまで居る。
 オズはどう対応するべきか分からずにいると、トトが「にゃあ」と一鳴きし、子供たちの周りをゆっくり飛び、くるりと回った。
 愛らしいトトの仕草に、子供たちは泣くのも忘れ、トトについてゆくように進み出す。
「ありがとう、トト……トトが居てくれて、良かった……」
 オズ独りではないのだと、トトが教えてくれた。
 気を取り直し、オズはトトと一緒に、一般人を安全な場所まで誘導し続けた。

 一方、敵を惹き止めている側は。
 レイがラクガキの怪物を描いて攻撃し、敵を怒らせていた。
 不意に地面が揺れ、侵食された大地が後衛陣を飲み込む。
「美しい薔薇にあたしが惹かれるように、美しいあたしに薔薇も惹かれたのよね!?」
 怒りを受けたから、レイを狙ったのだということに、気付いていないレイ。
 空は完全に、巻き添えである。
「催眠がついたから、回復を待つよ」
 それでも淡々と冷静に告げ、敵を回復しない為に行動を見送る、空。
「この一撃で、氷漬けにしてあげますよ!」
 紅葉が敵の懐に飛び込み、強烈な一撃を食らわせた。
「とにかく回復をしまくるのです! レイちゃんは無茶したらダメなのです!」
 あこが急いで音楽を通じ、レイと空を癒やし、状態異常を取り除く。ベルは翼で清らかな気を送るように、味方の耐性を高める。
「今の所、一番負傷している人は僕みたいだね」
 完全に治癒出来ていない事態も、把握済みというように空は呟き、シャウトする。
 その間に、敵は光を集め、破壊光線を放った。
 狙われたレイに直撃し、熱い炎がその身を焦がす。
「すまない、遅くなった。戦況は……レイを回復、だね」
 合流すると、オズは迅速に見極め、輝く掌をかざす。トトは、まだ耐性が付与されていない前衛陣に、翼を羽ばたかせた。
「オズさんお疲れ様なのです!! お帰りなさいなのです!」
「わー、オズさんトトくんお帰りー♪ 回復ありがとー!」
 あことレイが、油断はしないまま、オズとトトをねぎらう。
「そろそろあこも、攻撃したりするのです!」
 敵の頭上へと高く跳躍し、超重量の木槌で思いっきり敵を叩く、あこ。ベルも事前に指示されていた通り、敵を攻撃する。
「前列の命中が、ちょっと心配だね」
 空の全身が輝きを放ち、粒子となったオウガが、前衛陣を覚醒させる。
「助かります」
 紅葉は短く感謝の意を述べ、周囲の薔薇を荒らすことのない立ち位置で、緩やかに刀で弧を描く。
 刹那、斬撃を敵に浴びせ、斬り裂いた。
「あたしという薔薇に潜む棘。存分に味わわせてあげる! いくわよートルネード投法!!」
 声高々に、宙へ舞い上がり、デリンジャーを敵に投げつける、レイ。
「他の植物に余波があるといけないからね」
 オズはトトと共に攻撃を繰り出し、毒のオーラが纏った尾で、敵を激しく打つ。
「全体の攻撃と回復のバランスを見て、無駄にならないように気を付けるのです!」
 相次ぐ攻撃を食らった敵が、怯んだ隙にあこは仲間たちの状態を確認し、攻撃の姿勢に入る。
 獣化した手足で、重い一撃を高速で叩き込む、あこ。
「薔薇を氷で包み込むなんて、ロマンチックだと思わない?」
 レイは、凍結の光線を発射し、敵を凍らせる。
「さあ、終わりにしよう」
 空の全身が、文字となった無数の呪詛に包まれてゆく。
 繰り出したのは、呪詛の力を乗せた、美しき一閃。
 連携したオズがエネルギーの矢で、敵を射る。
 オズの攻撃により、催眠状態になった敵は、動けない。
「貴方の命、頂きますね!」
 怪力を発揮し、敵の胴体を素手で引き裂く、紅葉。
 生命エネルギーを奪われ、敵は霧散して完全に消滅した。


 戦場の跡が残った広場で、ヒールや後片づけを終え、一般人の避難も解除する。
 人の生死には興味無いものの、仕事だからと割り切り、過酷な戦闘を頑張って終えた空。
 バラを目にしても、空は花にあまり興味が無い為、なにか飲食出来るものは無いかと探しだす。
「バラのお花なのです!」
 平和が戻ったバラ園で、あこは猫のようにクンクンと、バラの香りを興味深そうに嗅いでいる。
「初夏だけなく、秋にも咲くんだね」
 オズは柔らかな微笑みを浮かべ、あこに話し掛けてから、深呼吸。
「何とも言えない独特の香りは香水などで知っていたけれど、本物はとても柔らかい……」
 目を閉じ、自然の香りを堪能する、オズ。
「薔薇……高貴さのなかに潜む棘、あたしにピッタリな花ね♪」
「トゲ!? バラを買ったらちくちくするのでしょうか!?」
 レイの言葉に、ビクッと体を揺らしてから、フルフルと震える、あこ。
「販売所で、薔薇の花をお土産に買っていきましょうか」
「おっかないので、あこは、トゲのないのにするのです!」
 紅葉が提案すると、あこは余程トゲが怖いのか、必死に主張。
「カフェスペースも有ったんだね。僕はお茶会を楽しむとしようかな」
 飲食出来るものが無ければ、さっさと帰宅するつもりだった空が、仲間たちと共に販売所まで足を運び、カフェスペースに気づく。
 ローズティーやローズスイーツ、バラの形をした焼き菓子などが揃っていることを知ると、花には目もくれず、真っ先にカフェへ向かう空。
「い、いろんな名前が札に書いてあって……種類がいっぱいなのです……!」
「そうですね。色んな薔薇があって迷いますね」
 落ち着きなく、目が回りそうになっている、あこ。
 紅葉はどれを買おうかと、順番に見てゆく。
「薔薇って、種類が豊富なんだね」
「色んな姿で魅了するってことよね! あたしみたいに♪」
 販売所のバラを眺めていたオズは、自信満々なレイの発言が可愛いとばかりに、僅かに笑う。
「何か、赤色の薔薇の花を買いたいですね。品種はお任せします」
 紅葉は店内のスタッフに声を掛け、品種には特に拘らず、赤いバラを注文。
「折角だし、薔薇園を散策していこうかな……」
「あたしも薔薇園をまわってみたいーっ。あこちゃんも一緒に!」
「レイちゃん、そんなに引っ張ったらダメなのです!」
 販売所を出ようとしたオズの呟きを耳にし、レイは急いで、あこの腕を引っ張った。
 まだ花を買っていないあこは、慌てまくっている。
「カフェスペースから、美味しそうな匂いがするわね。オズさん、先にカフェに行きたいわ!」
「レイちゃん!? 自由過ぎるのです!」
 唐突な無茶ぶりに、あこは驚くが、オズは仲の良い友達の案ならと、付き合うことにする。
「休憩してから、のんびり散策するのも良いね。陽月さんもまだ居るだろうし……兎波さんも、どうかな?」
「賛成なのです! 紅葉さんも一緒だと楽しいのです!!」
 オズとあこに誘われ、特に断る理由も無い紅葉は、承諾する。
「決まりね♪ 美味しいスイーツ食べまくるわよー!」
 レイは嬉々として、トトとベルを抱え、モフりながらカフェスペースへ向かうのだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月24日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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