パッチワーク最終決戦~夢から追い出せ

作者:土師三良

●復興のビジョン
「飾り付けはこんなもんでエエかな?」
「エエわけあるかい。地味すぎるもんやから、見てて眠うなってきたわ」
「そうそう。思いくそ派手にやらんといかんで。ただのハロウィンやのうて、ケルベロスハロウィンやねんから」
「東京もんは大運動会で盛り上がったらしいけど、こっちはその百倍くらい盛り上げたろうやないか」
「スケール、ちっちゃ! 最低でも一億倍は目指さんとぉ。ほんま、よう言わんわー」
 大阪市某所の商店街。市民たちがハロウィンの準備に奔走していた。
 避難先から戻ってきたばかりの彼らや彼女らにとって、なによりも大切なのは日常生活を整えること……なのだが、全員がケルベロスハロウィンを成功させることを優先している。大阪という町に生きる者からすれば、それこそが『日常生活』に他ならないのだろう。
「なんか、三年前のハロウィンを思い出すわー」
「あの時はデウスエクスが暴れまくりよったなぁ。今年もまたなにかやらかすんとちゃうやろか?」
「やらかすに決まっとるわ。せやけど、ケルベロスがギューンって来て、バァーンってシメてくれるやろ」
「ほな、ますますハロウィンを盛り上げないかんな。ケルベロスの戦勝祝いを兼ねたイベントになるわけやさかい」

 市民たちの予想通り、デウスエクスは『やらかし』ていた。
 再建工事によって昔の姿を取り戻しつつある大阪城。そこから数百人の軍勢が出撃していく。
 兵士の大半は、白い衣服を着た少女だった。
 パッチワークの魔女である。

●音々子かく語りき
「突然の招集に応じていただき、ありがとうございまーす」
 ヘリポートに並ぶケルベロスたちの前ではヘリオライダーの根占・音々子が一礼し、語り始めたの。
「皆さん、『最後の魔女・ドロシー』のことを覚えてますか? ユグドラシル・ウォーの際、『第七の魔女・グレーテル』が築いた迷宮の奥の空間に陣取っていたパッチワークの魔女なんですけど」
 ユグドラシル・ウォーでは相対する機会のなかったそのドロシーが動き始めた。ユグドラシルの根とともに大阪城に舞い戻り、残された全戦力を投入して、町を襲撃するつもりらしい。
「毎年の恒例みたいなものですから、察しはついていると思いますが、ドロシーたちの狙いは季節の魔法――ハロウィンの魔力を奪うことです。奴らにとって好都合なことに大阪はハロウィンの魔力で溢れているんですよ。なにせ、今年のケルベロスハロウィンの開催地ですからねー」
 予知によると、パッチワークの魔女たちは四つの軍勢を大阪市街へと放つという。それらを指揮をするのは『第四の魔女・エリュマントス』、『第七の魔女・グレーテル』、『番外の魔女・サーベラス』、そして、『オズの魔法使い』。首魁たるドロシーは大阪城内に残り、各軍勢が集めた季節の魔法を回収するための儀式をおこなうらしい。
「というわけなので、皆さんの力で魔女どもを撃破してください。このチームが担当するのは『番外の魔女・サーベラス』の軍勢です。サーベラスの他、『量産型・白の魔女』たちで構成されているんですよ」
 量産型の魔女たちはコギトエルゴスム化して温存されていた兵力である。今回の作戦にあたり、ユグドラシルの根からエネルギーを与えられ、ハロウィンの魔力を奪うことに最適化したドリームイーター(コギトエルゴスム化する前の個性などはすべて消し去られたらしい)として復活したのだ。
「魔力奪取特化型ですから、戦闘力は低いでしょうね。ただし、数がめちゃくちゃ多いです。各方面に百体以上は動員されると思われますので、正面からまともにぶつかると、こちらも激しく消耗してしまうかもしれません」
 量産型の群れを突破できれば、幹部のサーベラスと戦うことができる。更にサーベラスを突破して大阪城に向かえば、ドロシーと戦うこともできるだろう。
「もう一つ、重要なことをお伝えしなくてはいけません。今回のハロウィンで動く勢力はパッチワークの魔女たちだけじゃないんですよ。東京焦土地帯のブレイザブリクに死神たちからのメッセージが届いたんです。長ったらしいメッセージだったので、箇条書きにまとめてみました」
 音々子はタブレットを手に取り、そこに表示された箇条書きを読み上げた。
「一、ドリームイーターの残党がハロウィンの魔力を狙って動き出しているので、それを阻止するために我々も軍勢を派遣する。
 二、ケルベロスの攻撃から逃れて市外に抜けてきたドリームイーターを仕留める予定である。
 三、我々が仕留めたドリームイーターがハロウィンの魔力を得ていた場合、その魔力は回収させてもらう。しかし、それ以上のことはおこなわない。
 四、こちらからケルベロスを攻撃するつもりはないが、戦闘を仕掛けられれば、応戦する。
 ……とのことです。ちゃっかりとおこぼれに預かろうって魂胆なんですかねー」
 死神勢は信用できないが、上手く利用すれば、魔女たちとの戦いを有利に進めることができるだろう。もちろん、『おこぼれ』を提供することなく、ケルベロスの力だけで戦う方針を取ってもいい。また、『魔女たちだけでなく、死神勢も倒す』という選択肢もある。
「死神どもへの対応は皆さんの判断に委ねます。でも、パッチワークの魔女たちに関しては――」
 音々子は大きく息を吸い、勇ましい叫びに変えて吐き出した。
「――撃破一択です! 大阪の平和を守るため、完膚なきまでにやっつけちゃってくださーい!」


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
 

■リプレイ

●いざ猟犬走りありかん万聖節
 大阪城にほど近い戦場。
 量産型の白い魔女の掃討を一部の仲間と死神たちに任せ、三チーム――十九人のケルベロスと数体のサーヴァントが番外の魔女サーベラスたちと攻防を繰り広げていた。
 サーベラスの後ろに『たち』がつくのは、モザイクにまみれた複数の攻性植物を彼女が召喚したからだ。
「敵はサーベラスだけだと思っていたが……」
 銀狼の人型ウェアライダーのリューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)がヒールドローンの隊列を敷き、仲間たちの守りを固めた。
「あんまし認めたくないけどさー。他の幹部連中に比べると、あたしの戦闘力はちょびっと低めなんだよね。なにせ、番外だし」
 肩をすくめてみせるサーベラス。
 パンキッシュな出で立ち、頭頂に生えた獣の耳、大きな鍵型の得物などが目につくが、なによりも特徴的なのはその両手だろう。犬か狼の頭部のような形をしているのだ。それが『サーベラス(ケルベロス)』という名の所以か。
「だもんで、利用できるものはなんだって利用させてもらうよ」
「攻性植物に助太刀させるなんて、ロックじゃないデス!」
 開き直るサーベラスにシャウト(グラビティではなく、本来のシャウトである)を返したのはシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)。ギターを携えた人派ドラゴニアンだ。
「そういえば、このサーベラスという輩は攻性植物がらみの事件をいくつか起こしていましたね」
 シャドウエルフの死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)が白い喰霊刀『灰土羅』を振り、毒々しいキノコ型のモザイク攻性植物を斬り裂いた。
 次の瞬間、そのキノコを含むいくつかの攻性植物に炎が浴びせられた。シィカのドラゴンブレスだ。
「確かにあたしは色々とやらかしたけど、あんたらにほとんど阻止されちゃったんだよね」
 燃える攻性植物群の向こうでサーベラスがまたもや肩をすくめた。
「そんな妨害にもめげずにせっせと溜め込んできた魔力を今回の作戦にぜーんぶ注ぎ込んでんのよ。だから――」
 彼女の背後から紫色の瘴気が飛散し、ケルベロスたちを傷つけた。
「――絶対に負けるわけにはいかない!」
「めげずにせっせと活動してきたのが自分だけだとでも思っているのですか?」
 エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)が問いかけた。サーベラスを睨みつける目には激情の炎が揺れている。おんば日傘で育った世間知らずの青年ではあるが、デウスエクスにまで情けをかけるほど甘くもなければ、愚かでもないのだ。
「大阪城の調査、ハールとの戦い、そして、戦争……幾多の犠牲を経て、大阪はようやくここまで復興したのです。だから――」
 エリオットの足下でスターサンクチュアリの守護星座が光り、ケルベロスたちの傷を癒した。
「――必ず守ってみせます! 大阪の町も! そこに住む人々の想いも!」
「僕も守らせてもらうよー」
 レプリカントの風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)が赤いマンドラゴラの攻性植物『パンドラゴラ』の蔓を伸ばした。
「こう見えみても、元・自衛隊衛生官だからね。常に人命優先でいかないと」
 ちなみに『パンドラゴラ』はジャック・オー・ランタンのようなデザインをしており、その蔓で締めつけられた敵の攻性植物はカボチャ型である。実にハロウィンらしい光景と言えよう。
 そして、ハロウィンといえば――、
「えーい! 毎年、私の誕生日に……以下略!」
 ――と、怒りを表明しているオラトリオの大弓・言葉(花冠に棘・e00431)のことを忘れてはいけない。
 自主的に略した本人に代わって説明すると、彼女の誕生日は十月三十一日なのである。つまり、ここ数年、誕生日の度にドリームイーター退治に駆り出されてきたということだ。
「気持ちは判るぜ。ほんと、うんざりするよな」
 と、苦笑を浮かべて頷いたのはブレイズキャリバーの水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)だ。
「毎年毎年、飽きもせずよ!」
 苦笑で口元を歪めたまま、『堀川国広』の銘を持つ日本刀を一閃。『パンドラゴラ』の蔓からなんとか逃れたばかりのカボチャを半ばまで両断した。
 もっとも、『半ば』で済んだからといって幸運だとは言えない。すぐに言葉がスターゲイザーを放ってきたのだから。
「来年こそはまともな誕生日を迎えたいわねえ……」
 カボチャを蹴り潰して(真上から降下したので『踏み潰して』と言うべきかもしれない)言葉は溜息をついた。
 そんな彼女を、熊蜂型ボクスドラゴンのぶーちゃんが見やる。『恒例みたいなもんだから、潔く諦めたほうがいいっすよ』とでも言いたげな顔をして。
「いいえ! 『諦める』という選択肢はないの!」
 ぶーちゃんの意思を読み取り、言葉はかぶりを振った。
「私の誕生日ってだけでなく、皆の楽しいハロウィンでもあるんだから!」
「取ってつけたような理由ですね」
 と、エリオットが半畳を入れた。ずっと厳しい目つきをしていたのだが、久々に表情をy弛めている。
 しかし、すぐにまた真剣な顔をして、番外の魔女サーベラスに向き直った。

●おもしろうてやがて激しきナイトメア
「んー?」
 モザイク攻性植物と戦いながら、錆次郎が後方を振り返り、白い魔女の相手をしている死神の部隊や仲間たちを見た。
「どうしました?」
 と、同じく戦闘を続けながら、エリオットが尋ねた。
「死神たちの様子がちょっとおかしいみたい。アイズフォンがジャミングされているから、死神と一緒に戦ってるチームに正確な状況を教えてもらうことはできないけど……」
「『おかしい』というのは、苦戦しているという意味ですか?」
 エリオットが質問を重ねると、鬼人が話に加わった。
「余裕があれば、加勢に行きたいところだな。死神どもは信用できねえけどよ。ピンチに陥っているのなら、助けてやりたいのが人情ってもんだ」
 とはいえ、彼なりの人情を優先することはできなかった。『余裕があれば』と言ったことからも解るように今はそんな余裕などない。モザイク攻性植物たちはさして手強い相手ではなかったが、サーベラスはそれらと巧みに連携を取り、的確な指示を出し、そして、新たなモザイク攻性植物を次々と召喚している。
「いえ、苦戦しているわけじゃなさそうよ」
 言葉も白い魔女や死神たちのほうを見た。
「むしろ、善戦しているというか、かなりの量の魔力を敵から奪ってるような……」
 死神たちの目的がハロウィンの魔力であることは承知の上だ。しかし、彼らが予想よりも多くの魔力を奪っている(かもしれない)ことにケルベロスたちは不安を覚えた。
「まあ、考えてもしかたあるまい」
 と、リューディガーがその不安を脇に押しやった。
「今回の一件で得た魔力を死神どもが世間に仇成す目的で用いることがあれば……その時は裏切りと見做し、全力で潰すまで」
 仲間たちをヒールすべく、リューディガーはフローレスフラワーズを舞った。『Schutzengel』――ドイツ語で『守護天使』を意味する名の武装白衣が風に翻る。
「そうだねえ」
 錆次郎も気持ちを切り替え、『パンドラゴラ』からストラグルヴァインを放った。背中に大きく『萌え!』と記された革ジャンが風に翻る。
 しかし、モザイク攻性植物の防壁は厚く、サーベラスの攻撃は激しい。人数で勝っているにもかかわらず、ケルベロスは突破口を開くことができなかった。
 別のチームのシャドウエルフがマインドウィスパー・デバイスで念話を伝えてくるまでは。
『みんな……サーベラスに奇襲を仕掛けるよ。その準備ができるまで、こっちで敵を引き付けるからね』
 見ると、更に別のチーム(前述したように三つのチームがサーベラスと戦っているのだ)がサーベラスの後方に移動しようとしている。彼らや彼女らが奇襲を仕掛けるということだろう。
「あっちのチームは人数が少なめですから、ヘルプに行ってくるデス!」
 シィカが仲間たちから離れ、戦場を大きく迂回するようにして奇襲チームのほうに向かった。
 その動きにサーベラスは気付いていない。気付けるはずもない。例のシャドウエルフのいるチームが注意を引きつけているのだから。
「さあ、お料理の時間だよ」
 ある者は薙刀を回転させて飛び込んで。
「どこからでも来い。下ごしらえの終わったやつから、串刺しにしてやる」
 ある者は剣の雨を降り注がせて。
 そして、その隙に奇襲チームは移動を終えた。
「――!」
 奇襲チームの一員のものであろう喚声が聞こえ、サーベラスがよろけながら振り返る様が見えた。
「彼、奇襲に成功せり!」
 鬼人が駆け出し、他の者も後に続いた。
 行く手を阻むモザイク攻性植物はいない。そちらの注意もあのチームが引きつけてくれているのだ。
 そんな仲間たちの奮闘に応えるべく、走る速度を上げる鬼人たち。
 奇襲チームを相手にしていたサーベラスもさすがに気配と足音を察知して再び振り返ったが、時すでに遅し。
「レッツ、ロォーック!」
 奇襲チームに加わっていたシィカがサーベラスの横を素早く駆け抜け、こちらのチームに戻ってきた。
「ハロウィンのライブはテンション上げ上げのまま終わらせるデスよぉーっ!」
「……ぶほっ!?」
 サーベラスの口から呻きが漏れた。すれ違い様に斉天截拳撃を脇腹に叩きつけられたのだ。
 四半秒にも満たないその隙を見逃すことなく、錆次郎が銃弾を撃ち込んだ。
「この距離なら、まず外さないよ」
 硝煙を漂わせるリボルバー銃を手にしてそう言い切る彼の姿は実に頼もしく見える……かもしれない。その銃が萌えキャラ仕様の『痛銃』とでも呼ぶべき代物でなければ。
 すかさず、リューディガーも発砲した(言うまでもないが、彼の銃は痛銃ではない)。
「目標補足……動くなぁ!」
 咆哮を伴ったその銃撃は『Heulende Wolf』なるグラビティ。
 もちろん、『動くな』という警告に素直に従うようなサーベラスではなかったが――、
「無駄に足掻けば、その分だけ苦しむことになりますよ」
 ――刃蓙理が繰り出してきた憑霊弧月は躱さなかった。
 いや、躱せなかった。
『Heulende Wolf』の影響で機動力が鈍っているのだ。

●唐茄子やデウスエクスが夢の跡
「えーい! うっとうしい!」
 次々と攻撃を加えてくるケルベロスたちと思い通りに動かぬ自分の足に対する苛立ちを叫びに込めて放ちながら、サーベラスは鍵型の武器を振り抜いた。
 その斬撃を浴びたのは鬼人。
 だが、後方から漂ってきたオウガ粒子によって、傷口はすぐに塞がれた。エリオットがメタリックバーストを用いたのだ。
「言わせてもらいますが、うっとうしいのは――」
「――キミらのほうだからね! 毎年のように私の誕生日をめちゃくちゃにしてくれちゃって!」
 エリオットの後を引き取り、爆破スイッチを連打する言葉。
「ほっっっんと、いーかげんにしてよね!」
「いや、あんたの誕生日なんか知らないっての!」
 遠隔爆破(怒濤の勢いで連打しようとも爆破回数は一回である)を受けてよろけながら、サーベラスが怒鳴り返した。
「考えてみれば、ハロウィンは数多のドリームイーターの命日でもありますね」
 体勢を崩したサーベラスの側面に刃蓙理が回り込み、戦術超鋼拳で殴りつけた。
「ああ。五年連続で俺たちケルベロスに撃破されているのだからな」
 リューディガーが反対側から拳を叩き込んだ。こちらはハウリングフィスト。
「『数多』という表現でもまだ足りないほどの屍の山が築かれているぞ」
「六年目の正直!」
 と、傷だらけになりながらも果敢に吠えるサーベラス。
「今年はあんたらのほうが屍になるよ!」
 しかし、気合いだけでどうなるものでもない。
 他のチームも攻め立ててきたのだから。
 蹴りを受け、風圧で押さえ込まれ、両腕を鎖で絡め取られた挙げ句に絶空斬で傷を切り広げられ――、
「くぅ……こ、こんなもので……」
「往生際が悪いぞ! いい加減に諦めろ!」
 ――ついには、獣の頭を持つ両手が完全に無力化した。
「頭が一つだけになっちゃあ、もう『サーベラス』とは呼べないな」
 鬼人がニヤリと笑い、二頭/両手を失ったサーベラスに斬りつけた。
「もっとも、私たちも『ケルベロス』とは呼べないかもね。なにせ――」
 言葉が『クリスマスホーリーボウ』を構えた。その名の通り、棘だらけの葉と赤い実で飾られたクリスマス仕様の妖精弓だ。
「――今日は頭の数が十九個プラスαもあるんだからー」
 二箇月ほど時期外れの弓からハートクエイクアローが飛び、サーベラスの喉元に突き刺さった。
 続いて動いたのは『プラスα』のぶーちゃん。矢を受けたサーベラスの真上からボクスブレスを吹き下ろしてジグザグ効果で状態異常を悪化させた。
「ぐあぁぁぁーっ!」
 ブレスが直撃した頭を激しく振りながら、体を反転させるサーベラス。
 その前に錆次郎が立ちはだかり、スパイラルアームを繰り出した。
「おっと! 逃がさないよ」
「誰が逃げたりするもんか! さっき、言っただろ! あんたらのほうが――」
 ドリルに腹を抉り抜かれながらも、サーベラスは紫の瘴気を放射した。
「――屍になるんだって!」
 瘴気の標的となったのは錆次郎と刃蓙理。
 しかし、両者ともに無傷だった。
 リューディガーとシィカが縦となったのだ。
「いや、おまえのほうが『数多』でも足りない屍のリストに加わるんだ」
 と、静かに言ってのけるリューディガーの斜め後方でエリオットが剣を掲げた。
「天空に輝く明け星よ。赫々と燃える西方の焔よ。邪心と絶望に穢れし牙を打ち砕き、我らを導く光となれ!」
 剣の切っ先から光が迸り、サーベラスの顔面に直撃して『邪心と絶望に穢れし牙』を打ち砕いた。
 もちろん、他のチームも攻撃を続けている。
「うぉぉぉーっ!」
 矢継ぎ早に繰り出されるグラビティを一つ残らず受けながら(回避する力は残っていないらしい)サーベラスは吠えた。だが、それは激痛と絶望が生み出した叫びではない。
 鬨の声だ。
「ドリームイーターは、もう本星に帰ることもできないはずですが……頑張りますね」
 立っているのもやっとという状態でなお戦意を燃やし続けるサーベラスを見ながら、刃蓙理が呟いた。
「そうデスね!」
 と、シィカが頷いた。
「敵ながら、実にロックデス! だけど――」
 愛用のギターでグリッサンドを披露しながら、体を仰け反らせて足を勢いよく振り上げる。
「――ボクたちのほうが何倍もロックデェェェース!」
 エアシューズのローラーから生じた小さな火花が一瞬にして烈火に進化し、矢のように飛んだ。
 それを顔面に浴びて、サーベラスもまた体を仰け反らせた。
 そして、ゆっくりと背中から倒れ、地に触れる寸前に無数の光の粒子に変じて弾け散った。
「ロックな散り際デス!」
 シィカがギターの音を止めた。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月31日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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