ダリアの花束

作者:芦原クロ

 とある植物園に有る、ダリアのスペース。
 赤、白、黄、ピンクなど、多彩な色が有り、どれも鮮やかだ。
 花弁が多く重なり、華やかで存在感の強いダリアは、見る者の心を癒やす。
 ガーデニングでも人気の花なので、販売所には球根が売られていたり、様々な色のダリアを使って、自分だけの花束が作れるスペースまで備わっている。
 ダリアを見て癒されていた来園者の表情は、突如、驚きと恐怖のものに変わった。
 謎の花粉のようなものがとりついたダリアが、攻性植物になり、動き出したのだ。
 どんどん巨大化し、他のダリアをメチャクチャにしながら、攻性植物はまるで哂うかのように赤い花弁を揺らして。
 一般人を次々と、虐殺していった。

「攻性植物になったのは、ダリアの花です」
「アクア・スフィアさんの推理のお陰で、攻性植物の発生が予知出来ました。なるべく急いで現場に向かい、攻性植物を倒してください」
 アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)の言葉の後に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が説明を続ける。
「何人かの来園者が居ますので、避難誘導をする必要が有ります。攻性植物は、みなさんのほうを優先する為、惹き付ける者と避難誘導をする者とで、分担して下さい」

 この攻性植物に配下はおらず、一体のみ。
 ダリアの展示スペースは広いので、ほんの少し気をつけていれば、他の植物を傷つけず、戦える場所になる。

「死傷者を出さない為に、討伐をお願いします。皆さんもどうか、無事でいてください」


参加者
ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
モヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのガジェッティア・e49743)
柄倉・清春(あなたのうまれた日・e85251)

■リプレイ


 ケルベロス達が現場に急行すると、ダリアの花が、攻性植物化し始めていた。
 見る見る内に巨大化してゆく植物に、驚き、恐怖で硬直する人々。
「ケルベロスだ! これから此処は戦場になる。さっさと逃げろ!」
 ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)が声を張り上げ、身振り手振りで避難先を示す。
「残念な事ではあるけれど……折角の、あの華やかなダリアが罪もない方々を傷付けてしまう前に止めなくては」
 敵と一般人を分断するかのように、間に割って入り、シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)は敵に攻撃を仕掛ける。
「よそ見をしている間はございませんよ」
 穏やかに言うも、仲間が一般人の避難誘導をしている間は、決して邪魔はさせないという決意が、シアから感じられる。
「はいはーい女の子は気をつけて避難してねぇ、ここはケルベロスがなんとかすっからさ」
 隣人力を展開しながら、女性に優しい声を掛ける、柄倉・清春(あなたのうまれた日・e85251)。
 画面に矢印を表示し、誘導先を示している黒電波くんも一緒だ。
「あー、野郎もとっとと逃げとけよ。ククク、素直に従ったほうが身のためだぜ?」
 男性に対しては、ついでにと、いう風な素っ気無い口ぶりだ。
(「犠牲者でんのは後味悪ぃかんな」)
 が、一般人がもしも敵の攻撃にさらされそうになった場合は、男女構わずに庇う気で居る、清春。
(「まさか私が危惧していた攻性植物が本当に現れるとは驚きましたね。まぁ、被害が出る前に対処できるなら幸いでしたけど」)
 その場に居た一般人が、仲間の誘導によって避難してゆくのを見てから、敵に視線を戻す、アクア・スフィア(ヴァルキュリアのガジェッティア・e49743)。
 敵は、逃げてゆく多数の一般人を狙うべきか、それとも攻撃をして来たケルベロスたちを狙うべきか、迷っている様子だ。
「我々はダリアをその場で釘付けに致しマショウ」
 仲間たちが確実に、一般人を安全な場所へ届けられるように、と。
 モヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)は素早く攻撃を繰り出し、敵の意識を完全に惹きつけた。
(「ダリアの綺麗な花が咲く季節がやって来たわね。まぁ、まずは攻性植物を何とかするのが先決だけど」)
 一般人の避難誘導を手伝いながら、雪城・バニラ(氷絶華・e33425)は殺界形成を展開。
 鋭い殺気に怯え、腰を抜かした高齢者や子供を、大急ぎで抱えて運ぶ、ゼノア。
(「ダリアの花は綺麗ですよね、それが攻性植物になるなんて、悲しいです」)
 花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)は一度目を伏せ、胸中で嘆く。
「さぁ、行きますよ夢幻……共に頑張りましょう……!」
 夢幻に呼び掛け、戦闘態勢に入る、綾奈。
「さぁ、この飛び蹴りを食らえー!」
 笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)が飛びあがり、煌めきを描く蹴撃を敵に叩き込んだ。


 敵は怒りに満ちた咆哮を轟かせ、ケルベロスたちと対峙する。
 攻撃しようと動き出した、その一瞬の隙を狙い、シアが放ったのは緩やかに弧を描く、斬撃。
 幾本かのツルを斬り裂かれた敵は、怯む素振りも無く、激昂した。
 アクアは他の植物が傷つかない様、常に気を配りながら戦場を駆ける。
「この飛び蹴りを、見切れますか?」
 敵の機動力を奪う飛び蹴りが、炸裂。
「あはは♪ 貴方を、真っ赤に染め上げてあげるよ!」
 ステップを踏み、踊るようにくるくると回って、手にした武器で敵を斬り裂いてゆく、氷花。
 敵はダメージを負いながら、光を集束し、燃え上がる破壊の光線を放った。
 だが光線は狙った相手へ、命中しなかった。
 戻って来た清春が庇い、代わりに負傷したからだ。
「かわいー女の子は華。枯らすよーな真似を許すわけねーだろ」
 炎に焼かれても、清春は強気に言い放つ。
「データサポートを行いマス」
 時空魔術を展開し、清春をバッドステータスを受ける前の状態に戻す、モヱ。収納ケースは、敵に食らいついている。
「モヱちゃん、さんきゅー。愛してるよー」
 緊張感の無い声が響き、モヱはゆっくりと頷くだけだが、頬がほんのりと赤く染まっている。
「この影の弾丸で、その身を侵食してあげるわ」
 戦闘に戻り、バニラが黒き影の弾丸を撃ち込むと、敵は聖なる光を発して自己回復を行なった。
「破壊のルーンよ……敵の加護を打ち砕きなさい……!」
「BS耐性はブレイクで早めに壊す」
 綾奈が、魔術の加護を打ち破る力をゼノアに宿し、ゼノアは一気に敵との距離を縮めた。
 音速を超える拳撃を食らわせ、しなやかな動きでバックステップする、ゼノア。夢幻は、味方に耐性を付与している。
「ダリアねぇ……ダリアか……」
 戦場を駆ける足は停めず、隙を窺って敵を観察する、清春。
(「歌しか出てこねー」)
 黒電波くんが攻撃している間に、祝福の矢で仲間を射り、敵の耐性を破る力を与えた。

 数分が経過したが、敵はしぶとく、中々倒れない。
 ケルベロス達が与えた状態異常が蓄積され、弱っているのは確かだ。
「音速を超える拳を、見切れるかしら?」
 敵が回復すれば、付与された耐性を、バニラがすかさず打ち破る。
 ゼノア、氷花、シアも加わり、頼もしい。
 敵からの攻撃を受けたら、その都度、回復も欠かさない。
 メディックの綾奈だけに負担を掛けず、各自、治癒を怠らずに、こまめに状態異常の解除も務めている。
 次第に、目に見えて敵が弱りだし、積み重なったダメージと状態異常とに、苦しみだした。
 ここは一気に畳みかける、と。
 各々が判断し、綾奈はこれで最後であろう治癒を、仲間たちに施す。
「周囲を傷つけないように範囲を狭めて戦うよう気を付けマショウ」
 畳みかける前に、重要な言葉をモヱが挟んで。
「もち分かってるよー。しっかし、敵とはいえコイツを枯らしちまうのも……ちょっと惜しい気がすっけどな」
 いかづちを迸らせるモヱに続き、天空高く飛び上がる、清春。
 虹を纏い、急降下での蹴撃を浴びせた。
「さぁ、凍てつきなさい」
「このドリルで、穴をあけてあげるよー」
 氷結輪を射出し、強烈な冷気で敵を凍らせる、バニラ。
 ほぼ同時に、氷花が杭をドリルのように回転させ、敵を貫く。
「炎よ、敵を焼き尽くしてしまいなさい!」
 アクアは炎の蹴りを激しく叩き込み、敵を燃やす。
 連携したゼノアは狙いを定め、弾丸を撃ち込む。
 食らいつく弾丸に悲鳴にも似た声を張り上げる敵へ、最後の一撃。
 シアの武器が輝き、時間を凍結する弾丸が作られる。
 高威力の弾丸が敵を一瞬で貫いて。
 ケルベロスたちは、敵を見事に撃破した。


「周囲をヒールし、避難した方々を呼び戻しマショウ」
 ヒールでの修復をしながら、モヱが仲間たちに声を掛ける。
 メンバーはそれぞれ、ヒール作業を手伝ったり、避難解除を報せにゆく。
 少ししてから、ようやく落ち着き、平和な植物園の光景が戻る。
「折角です、植物園の中を散策いたしましょう! ブーケ作りもしたいですわね」
 花が好きなシアは、花々を見て回り、販売所にも向かう。
「私も販売所でダリアの花を買って、花束を作るわ。皆も、どうかしら?」
 バニラがメンバーを誘い、一行は揃って販売所へ。
 販売所では、色や花形、花びらの数まで違う、沢山の美しいダリアが揃っていた。
(「様々な色のダリアがあるんだね。ここで世界に一つだけの、私だけの花束を作ってみたいなぁ」)
 わくわくと期待を胸に、氷花は早速、花束作りを始める。
「適当にぶらぶらするか。食用の美味い実が生るのなら興味も沸くのだが……花の栽培等俺にはよく分からんからな……」
 ゼノアは花の種や球根を眺め、食用のものは無いかと探し、無いと分かればアクアの元へ。
「明るい色のダリアが良いですね……赤に、ピンクの花束を作りましょう」
 綾奈は思いついた色のダリアを使い、簡単かつデザインの良い、丸型の花束を作る。
「わぁ、とっても綺麗な花束に仕上がったねー。嬉しいな!」
 ダリアだけを使った花束を作り終え、氷花は喜びの声をあげた。
「皆さんは、どんな花束を作ったのでしょうか……?」
 興味津々な様子で、綾奈は花束を作っている仲間たちに視線を向けた。
「私は白色が好きだから、白いダリアの花束を作ってみたわ」
「私はねー、黄色と白を基調とした花束を作ってみたよー」
 バニラと氷花が答え、それぞれ、自分が作った花束を見せる。
 どれも個性が光り、美しく束ねられていた。
「皆さんが作ったブーケ、素敵ですわね! 私は秋感満載でっ」
 おすすめの種や球根を購入してから、スペースに戻って来たシアが、嬉々として褒める。
「ううむ……これで良いのだろうか……?」
 花束作りに挑戦したゼノアだったが、ダリアを中心に色々な花を選んだ為、独特でカラフル過ぎる花束になっていた。
「私も、黄色と白を基調としたダリアの花束を作りました」
 アクアが束ねたのは、色のバランスも良く、ダリアの美しさが映えるものだ。
「女のセンスはやはり良いもんだな」
 アクアや、他の女性メンバーが作った花束と、自分が作った、どことなく落ち着きが無いものとを比べる、ゼノア。
 感心して褒めると、アクアが柔らかく微笑んだ。
「ゼノアさんの作った花束も、とても綺麗で素敵ですね」
「……ふむ、俺のもそんなに悪くないのだろうか。旅団に帰ったら飾っておこうか」
 アクアのお墨付きならば、と。
 ゼノアは花の形が崩れないように気をつけ、褒められたのが嬉しかったのか、尻尾をゆらりと揺らしていた。
「こういうのはインスピ大事だかんな、頭に思い浮かんだ直感で……っと」
 清春は、恋人のモヱをイメージし、合う色を選ぶ。
「淡いピンクに……差し色はワインレッドを数本。おーオレって天才じゃね!? めっちゃイメージ通りだわ」
 ダリアのブーケを作り終え、満足げな清春。
 モヱに視線を移すと、ゆっくりした所作で、モヱは黒いダリアとナデシコを丁寧に、箱の中へ埋めていた。
 気品の有る、小さなフラワーボックスだ。
「モヱちゃんは、黒のダリアなんだねぇ」
「ダリアは……黒い品種が好きで御座いマス。繁栄に不利な色で彩った、不思議と落ち着きのある様相に惹かれるのデス」
 言い終えてから、モヱは清春の服を摘んで、クイッと軽く引っ張る。
 他のメンバーが談笑している最中に抜け出し、二人きりになれる場所へ。
「清春さん、受け取って欲しいデス」
「オレの為に作ってくれたんだ? すげえ嬉しいよ」
 フラワーボックスを大切そうに受け取り、自分もブーケを差し出す。
「花言葉は感謝と華麗。いつも美しき優雅なキミへ」
 清春のストレートな言い回しに、モヱは赤面し、幸せそうに微笑んで受け取った。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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