●都内某所
廃墟と化した工場に、ハンディファンが捨てられていた。
夏場であれば大活躍のハンディファンも、この時期では無用の長物。
元々、ワンコインで購入する事が出来る事もあっても、何の躊躇いもなくポイッと捨てられた。
だが、それはハンディファンにとって、死刑宣告にも等しい事。
何処も壊れていないのに捨てられ、頭の中に浮かぶのは、沢山のハテナマーク。
どんなに考えても、自分が捨てられた理由が分からず、苦しみ、悲鳴を上げる日々。
その声が届いたのか、ハンディファンの前に、小型の蜘蛛型ダモクレスが現れた。
小型の蜘蛛型ダモクレスは、カサカサと音を立てながらハンディファンに近づき、機械的なヒールを掛けた。
「ハンディファァァァァァァァァァァァァァァァアン!」
次の瞬間、ダモクレスと化したハンディファンが耳障りな機械音を響かせながら、廃墟と化した工場を飛び出すのであった。
●セリカからの依頼
「オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)さんが危惧していた通り、都内某所にある廃墟で、ダモクレスの発生が確認されました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある廃墟。
この場所は以前まで工場だったらしく、作業員達にとってハンディファンは、無くてはならないモノ。
「ダモクレスと化したのは、ハンディファンです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
ダモクレスはハンディファンがロボットになったような姿をしており、耳障りな機械音を響かせながら、ケルベロス達に襲い掛かってくるようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。
参加者 | |
---|---|
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690) |
柄倉・清春(あなたのうまれた日・e85251) |
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736) |
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471) |
●都内某所
ハンディファンにとって、捨てられた事自体、受け入れ難い現実であった。
これは夢……間違いなく、夢。絶対に夢ッ!
そう自分自身に言い聞かせ、何度も目を覚まそうとした。
だが、それは夢ではなかった。
それでも、ハンディファンは、足掻いた。
……これは現実ではない。
例え、現実であったとしても、許される事ではない、と叫びながら……。
その思いが通じたのか、ハンディファンの前に、小型の蜘蛛型ダモクレスが現れた。
「二日連続で扇風機と戦ってる気がするけど……。この季節、涼しくなって仕舞われる時期だから仕方ないのかな……。それにしても、小物を置いたまま廃墟になっちゃうなんて、よっぽど突然の閉鎖だったのかな?」
そんな中、瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)が複雑な気持ちになりつつ、廃墟と化した工場にやってきた。
工場は廃墟と化してから、しばらく経っており、窓ガラスが割られ、壁には落書きがされていた。
それが原因なのか、ネズミ達の楽園と化しており、まるで競い合うようにして、工場内を走り回っていた。
「どうやら、経営者が給料を払わず、夜逃げしてしまったようですよ? 残ったのは、莫大な借金。その支払いを巡って、かなりモメたようですが……」
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)が、事前に配られた資料に書かれた事を思い出した。
おそらく、会社に残っていても、給料が支払われる事なく、面倒事ばかり押しつけられると判断したのだろう。
そのため、ハンディファンも不要と判断され、捨てられてしまった可能性が高かった。
「ハンディィィィィィィィィィィィファァァァァァァァン!」
次の瞬間、ダモクレスと化したハンディファンが耳障りな機械音を響かせ、壁を突き破ってケルベロスの前に現れた。
ダモクレスはハンディファンがロボットになったような姿をしており、無数の羽根をフル回転させながら、ケルベロス達に対して生暖かい風を送っていた。
それは少し当たっただけでも不快で、ヘドロの中にいるのと同じくらい嫌な気持ちになった。
「おーおー、怨みのこもった声ってのは腹に響くなぁ」
すぐさま、柄倉・清春(あなたのうまれた日・e85251)が、バールをギュッと握り締めた。
「ハ、ハ、ハンディィィィィィィィィィィィィィィィ!」
しかし、ダモクレスは怯まない。
それどころか、興奮した様子で、ケルベロス達を威嚇するようにして、耳障りな機械音を響かせた。
「この耳障りな音は……良くないね。何とか556っていうスプレーを注せば治るのかもしれないけれど……」
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、警戒心をあらわにした。
何となく違う気もするが、試してみる価値はある。
ただし、それは命懸け。
最悪の場合、指の一本や、二本、軽く持っていかれそうな感じであった。
●ダモクレス
「ハンディィィィィィィィィィィィィファァァァァァァン!」
ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
そのビームは妙に生暖かく、背筋に寒気が走ってしまう程、奇妙なモノだった。
「これは……ちょっと近づきたくないね」
右院が身の危険を感じつつ、ダモクレスの放ったビームを避けるようにして、グルリと背後に回り込んだ。
「……とは言え、その寸胴だと動き回んのも楽じゃねーだろ。ククク、遠慮はしねーぞ? まずは脚から、ぶっ潰してやるよ」
それに合わせて、清春が含みのある笑みを浮かべ、素早い身のこなしでビームを避け、ルーンディバイドを繰り出し、光り輝く呪力と共に斧を振り下ろした。
「ハンディィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
その途端、ダモクレスの脚が宙を舞い、切断面から真っ黒なオイルが噴き出し、それが雨の如く降り注いだ。
そのオイルをシャワーのように浴びながら、テレビウムの黒電波くんが応援動画で、清春を応援する動画を流した。
それは清春が大活躍するイカス動画。
ありとあらゆるアングルから、清春が決めポーズで攻撃を繰り出しているため、かなりノリノリな感じの動画であった。
「ちょっと臭うね、このオイル。それとも、オイルではないのかな? とりあえず、浴びないようにしておこうか? 後で何かあっても困るしね」
オズが警戒心をあらわにしながら、ウイングキャットのトトに声を掛けた。
そのため、トトは警戒ムード。
雨の如く降り注ぐオイルを浴びないようにするため、必要以上に距離を取った。
一方、黒電波くんは、降り注ぐオイルの真っただ中。
『えっ? マジで!? 身体に悪いの?』と言わんばかりに、二度見であった。
実際に身体に毒が、どうか分からない。
だが、身体に優しいもので無い事は間違いなかった。
「ハ、ハ、ハンディファァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!」
次の瞬間、ダモクレスが殺気立った様子で、再び超強力なビームを放ってきた。
その攻撃は、先程よりも、強力ッ!
地面をガリガリと削りながら、降り注ぐオイルを巻き込んで飛び散らせ、迷惑この上ない攻撃になっていた。
「それじゃビームと光線……どちらが強いか力比べと行こうじゃないか」
それを迎え撃つようにして、ディミックがグランドロン光線を放ち、独自の構えから、自らに宿る『属性』の魔力を宿した光線を発射した。
その光線はダモクレスが放ったビームとぶつかり、弾け飛びようにして消滅した。
「ハンディファァァァァァァァァァァァァァァァン!」
これにはダモクレスもブチ切れ、ハンディファン型のアームを、狂ったように振り回した。
それと同時に、生暖かい風が渦を巻くようにして、ケルベロス達に襲い掛かってきた。
「……と言うか、よく見たらファンの羽根が剥き出しになっているんだけど……。ファンの羽根ってスライサーみたいなモノだから、まわりにあるモノも……ああ、やっぱり……」
右院が気まずい様子で汗を流しながら、攻撃を仕掛けるタイミングを窺った。
ダモクレスのアームにある羽根は、刃物の如く鋭く、触れたモノすべてを切り刻んだ。
それは、まるでスプラッター。
あれが自分自身だったら……と考えるだけで、全身にぞわっと鳥肌が立った。
「あの回転する中央を部位狙いするのは骨が折れそうだ」
そんな空気を察したオズが、ダモクレスの羽根をマジマジと見つめた。
出来ない事もないが、下手をすれば、ズンバラリン。
あっと言う間に肉塊と化して、辺りに散らばってしまうのがオチなので、覚悟を決めて攻撃を仕掛ける必要があった。
「まぁ、羽根に当たったら、地味に危なそーだが、攻撃は最大の防御っつーしな。気合を入れてブチ込めば何とかなるだろ……! 脾臓打ち……ってわけにゃいかねーが、コイツは痛えぞ」
そんな中、清春が鉄壊(ドラゴニックハンマー)を握り締め、ダモクレスの羽根を狙って、脾臓打ち(ヒゾウウチ)を繰り出した。
「ハンディィィィィィィィィィィィィィ」
その拍子に巨大な羽根がバチンと音を立て、砕けた破片が清春の頬をかすって、ヒビ割れた壁にザクザクと突き刺さった。
「……って、おいおい、マジか! いまオレを狙っただろ? 絶対に殺す気で機変を飛ばしてきたよなぁ? ん? 違うか? オレの攻撃で吹っ飛んできた訳だから、原因はオレか? いや、そんなはずがねぇ。そもそも、なんでオレがオレを狙わなきゃいけねぇんだ……?」
清春がシャレにならない程の危機感を覚え、ダモクレスを叱りつけたものの、途中で訳が分からなくなり、頭の上にハテナマークを浮かべた。
黒電波くんも不思議そうに首を傾げ、頭の上に沢山のハテナマークを浮かべていた。
「ハンディィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
だが、ダモクレスは全く怯んでおらず、壊れたアームの羽根をグルグルと回して、ケルベロス達に迫ってきた。
「さすがに、何度も上手く行くとは限らないからねぇ。少し大人しくしてもらおうか」
それと同時に、ディミックがストラグルヴァインを仕掛け、ツルクサの茂みの如き蔓触手形態に変形すると、ダモクレスに絡みつかせて締め上げた。
「ハンディファァァァァァァン!」
その途端、ダモクレスが怒り狂った様子で、耳障りな機械音を響かせ、ハンディファン型のミサイルを飛ばしてきた。
そのミサイルは次々とアスファルトの地面に落下すると、爆音を響かせて、大量の破片を飛ばしてきた。
それは、ひとつひとつが、鋭い刃物。
そのため、少し触れただけでも、皮膚が裂けてしまう程だった。
「確かに、凄い攻撃だけど、動きを封じられたままじゃ、反撃も出来ないんじゃないのかな? それとも、覚悟の上で攻撃したって事なのかな? 理由は何であれ、壊してしまうけどね」
その間に、右院が一気に距離を縮め、得物砕きを仕掛け、ダモクレスのコア部分を破壊した。
「ハンディィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
次の瞬間、ダモクレスが断末魔にも似た機械音を響かせ、爆発音と共に真っ黒な煙を上げて、完全に機能を停止させた。
「一時はどうなるかと思ったけど、何とか倒す事が出来たようだねぇ。とりあえず、きちんと分別して片づけて行こうかねぇ」
ディミックがホッとした様子で、辺りに散らばったモノを分別し始めた。
そこにあったのは、ダモクレスだったモノの部品。
そして、何かの部品や、歯車だった。
それが何に使われるモノなのか分からなかったが、ダモクレスと化したハンディファン同様いらないモノだった。
「そういえば、ここは何の工場だったんだろう? 改めて調べてみたいな」
オズが壊れたモノを修復しながら、不思議そうに首を傾げた。
右院も、この工場が今まで何だったのか興味を持ったらしく、ヒールで辺りを修復した後、オズと一緒に工場の権利者に話を聞くため、その場を後にするのであった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年10月18日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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