恨みは風と共に……

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化した工場の跡地に、充電式の首掛け扇風機が捨てられていた。
 この首掛け扇風機は、軽くて、便利。
 そのため、出かける時には、必須アイテムであったが、ひとつ弱点があった。
 駆動時間が短い上に、充電時間が無駄に長い。
 それが原因で捨てられた。
 その場所に小型の蜘蛛型ダモクレスが現れ、首掛け扇風機に機械的なヒールを掛けた。
「センプウキィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した首掛け扇風機が耳障りな機械音を響かせ、廃墟と化した工場を飛び出すのであった。

●セリカからの依頼
「山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)さんが危惧していた通り、都内某所にある工場で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある工場。
 この場所は既に廃墟と化しており、不気味な雰囲気が漂っているようだ。
「ダモクレスと化したのは、首掛け扇風機です。首掛け扇風機はダモクレスと化した事により、ロボットのような姿をしているようです」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)
 

■リプレイ

●都内某所
 充電式の首掛け扇風機にとって、捨てられた事は予想外であった。
 何故、捨てられたのか分からない。
 どんなに考えても、答えは出ない。
 そのため、無駄に時間が過ぎていった。
 だが、充電式の首掛け扇風機には、時間があった。
 潰しても、潰し切れない程の時間が……。
「……乾燥機の次は扇風機か」
 そんな中、ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)は仲間達と共に、工場の跡地にやってきた。
 この工場は、日本がバブル景気で浮かれていた頃は、朝から晩まで人が出入りしていたものの、今では人が近づく事がないほど、不気味な雰囲気が漂っていた。
 そのためか、最近では心霊スポットとして知られているため、念には念を入れて殺界形成を発動させた。
 こうしておけば、ダモクレスと戦闘になっても、誰かが迷い込んでくる心配がないだろう。
「首掛けとか、服に装着されてるとか、最近は扇風機も随分小さくなったよね。猛暑に対しての発明って、極まってて発想自体は好きなものが多いけど……」
 瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)が、事前に配られた資料に目を通した。
 資料を読む限り、首掛け扇風機の値段は、ピンからキリまで。
 その金額によって、様々な違いがあるものの、気軽に使えるというのが、共通した売りだった。
 しかし、気軽に捨てる事も出来るため、このような事態になってしまった可能性が高かった。
「僕たちメリュジーヌだと、雨を降らせて涼んだりしたものだけれど、地球に住む人々はそうも言ってられないようだね。それにしても、風が気持ち良い季節だ。もう少ししたら本格的に寒くなるし、ダモクレス化したのも、偶然ではないのかも……」
 オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、何処か遠くを見つめた。
 ダモクレスと化したのは、小型の蜘蛛型ダモクレスに魅入られたから。
 その考えが一般的ではあるものの、そもそもの原因を作ったのは、他でもない人間達であった。
 彼らが、もっと物を大事に使っていれば、ダモクレスが増える事も無かったはず。
 だからと言って、一般人にその事を訴えたところで、従う者はごく少数だろう。
「まあ、駆動時間が短くて充電長くても、行列待ちくらいでしか活用したことないあたしには、じゅーぶんだけど……それ以外にも問題があったのかしら? 風量ありすぎると髪乱れるし、けっこー重いし、うるさいし……。一般論だけど、色々と捨てる理由はあるかも……」
 佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が、気まずい様子で汗を流した。
 あくまで一般論ではあるものの、捨てる理由はいくつもあった。
「もしかすると、このようなものが必要なほどの無茶をしないほうがいい、という教訓なのかもしれないねぇ。動力がある分、扇風機自体も熱を持つのだから、使いどころはよほど熱い場所なのだろうから……」
 ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)が、何かを悟った様子で答えを返した。
 充電式の首振り扇風機については、いまいちよく分かっていないものの、安くて躊躇いもなく捨てられるモノだという事は、理解する事が出来た。
 だが、捨てられた方からすれば、たまったモノではない。
 何故、捨てられたのかもわからず、ダモクレスと化してしまうのも、仕方がない事なのかも知れない。
「センプウキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した充電式の首掛け扇風機が、耳障りな機械音を響かせ、工場の壁をドカンドカンと壊しながら、ケルベロス達の前に現れた。
 ダモクレスはロボットのような姿をしており、扇風機の羽根が狂ったようにグルグルと回っていた。
 その風は微妙に生暖かく、まったく涼しくなかった。

●ダモクレス
「センプウキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
 そのビームは、竜巻の如く渦巻いており、辺りにあるモノを吹き飛ばしながら、ケルベロス達に迫ってきた。
「これ、イタズラな風って言うより、カマイタチの類じゃない! 死ぬ、死ぬ、絶対に死ぬでしょ、これ!」
 その事に危機感を覚えたレイが、ビームから逃げるようにして、近くの茂みに飛び込んだ。
 あわよくば、イタズラな風で、メンズの服がめくれ、腹筋をチラッと拝みたかったところだが、状況的に考えて、そんな事を言っている場合ではない。
 その事が期待できるほど、風の威力も弱くない。
 むしろ、メンズがいたら、一大事。
 あっと言う間に肉の塊と化して、この場が真っ赤に染まってしまいそうな感じであった。
 そのため、誰得感があったものの、ダモクレス的には、みんな纏めてデストロイ的な考えで攻撃を繰り出しているため、何もおかしな事ではなかった。
「早く、こっちに……!」
 ディミックが仲間達に声を掛け、ライトバスティオンで光の城壁を出現させ、ダモクレスが放ったビームを防いだ。
「セ、センプウ……ギギギギギギギィ……」
 それを目の当たりにしたダモクレスが、悔しそうに機械音を響かせた。
「それじゃ、行くよ、トト。絶対に油断したら駄目だからね」
 その間に、オズがウイングキャットのトトに声を掛け、寓話語り『勇者よ奮い立て』(グウワガタリ・ユウシャヨフルイタテ)を発動させた。
 それに合わせて、トトが清浄の翼を発動させ、羽ばたきで邪気を祓った。
「……状況開始、さっさと倒して終わらせてやろう」
 ハルが仲間達に声を掛けながら、ダモクレスにスターゲイザーを繰り出した。
「センプウキィィィィィィィィィィィィィイ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが激しくよろめき、ブロック塀に倒れ込むようにして土煙を上げた。
「そうだね。このまま一気に壊してしまおうか!」
 それに合わせて、右院がドラゴニックスマッシュを発動させ、ドラゴニック・パワーを噴射し、加速したハンマーを振り下ろした。
「クビカケェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 その攻撃で胸部の装甲にヒビが入り、身の危険を感じたダモクレスが、首掛け扇風機型のアームを振り回した。
 それが風となってケルベロス達に襲い掛かり、辺りのモノがふわりと舞った。
「……と言うか、こっちの方が色々と期待できそうね。これで、何処かにメンズがいれば、最高なのに……」
 レイが複雑な気持ちになりながら、両脚にグッと力を入れた。
 そうしていなければ、吹き飛ばされてしまいそうになる程、風の勢いが増していた。
「そんな事を言っている場合じゃないようだよ。あっちはヤル気のようだからねぇ」
 ディミックがレイに対して警告しながら、ダモクレスの注意を引いた。
「セ・ン・プ・ウ・キィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その事に気づいたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせながら、ディミックめがけて何度も拳を振り下ろした。
 そのたび、アスファルトの地面がヘコみ、大量の破片が飛び散った。
「ほらほら、こっちだよ」
 オズもトトと連携を取りつつ、ダモクレスを挑発し始めた。
「セ・ン・プ・ウ・キィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その挑発に乗ったダモクレスが、狂った様子にアームを振り回した。
 だが、ケルベロス達には当たらず、虚しく空を切るばかり。
 その苛立ちが増しているのか、攻撃がなかなか当たらない。
「動きが鈍ってきている。攻め立てるぞ」
 ハルがダモクレスに死角に回り込み、空の霊力を帯びた武器で、ダモクレスの傷跡を正確に斬り広げた。
「セ・ン・プ・ウ・キィィィィィィィィィィィィィィィィィ」
 その途端、ダモクレスの身体から真っ黒なオイルが溢れ、あっと言うのにアスファルトの地面を真っ黒く染めた。
「これで終わりだと思ったら、大間違いだよ」
 そこに追い打ちをかけるようにして、右院が得物砕きを繰り出し、ダモクレスのアームを破壊した。
「……って、ちょっと! そんな事をしたら、怪我をしちゃうでしょ! まったく、もう! ……少しは、いいかなって思っていたのに……。やっぱり、危険な存在のようね」
 レイがミサイルの破片から逃げつつ、フローレスフラワーズを発動させ、戦場を美しく舞い踊り、仲間達を癒やす花びらのオーラを降らせた。
「セ・ン・プ・ウ・キィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その間にダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、捨て身の覚悟で突っ込んできた。
 おそらく、ダモクレス自身、後がないと判断したのだろう。
 もしくは、突破口を開くため、イチかバチか、勝負に出たのかも知れない。
「……では、こちらも全力で行く。これで……さよならだ」
 次の瞬間、ハルが絶技・天翼崩陽刃(テンヨクホウヨウジン)を仕掛け、具現化した6本の剣を翼のように展開し、全方位からダモクレスを斬り裂いた。
「セ・ン……プ・ウ……キィィィ……ィィ……」
 その途端、ダモクレスが断末魔にも似た機械音を響かせ、ブスブスと真っ黒な煙を上げて完全に機能を停止させた。
「みんな怪我はないかい? もしも何処か怪我をしているようだったら、僕とトトで治療をするから、遠慮なく言ってね」
 そんな中、オズがホッとした様子で、仲間達に声を掛けた。
 トトも誰かが怪我をしていないか、確かめるため、仲間達のまわりを飛び回った。
「しかし、これだけ小型化した充電可能な機械となると、昔の技術ではなく新しい方って事か。流行り廃りによる栄枯盛衰というものは、残酷だねぇ……」
 ディミックが複雑な気持ちになりつつ、ダモクレスだったモノを見下ろした。
 だが、自分もロートルのため、他人事とは思えない。
 その事に対して、少なからず恐怖を覚えた。
「なんか俺も首掛け扇風機が欲しくなったような、そうでもないような……。今買っても出番ないし、また来年かな」
 そう言って右院がヒールで辺りを修復しつつ、何処か遠くを見つめるのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月15日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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