ジュモー最終決戦~between S and G~

作者:そうすけ


 長面浦の湖面に沿ってずらりと並ぶ『幾何学』ゲオメトリアの軍団。その数およそ百体。
 鏡のように凪いだ湖面は鏡のごとく。これから起こることに恐れをなして、鳥も魚も、虫さえも姿を隠して見せない。長面浦は、インペリアル・ディオン軍が総攻撃に打って出る前の、嵐の前の静けさに包まれていた。
 やがて、天のインペリアル・ディオンより号令が下される。
 ゲオメトリアの軍団が放った一斉射撃は物量もさることながら熱量も凄まじかった。轟音が雷のごとくに鳴り響き、辺り一面の空気を激しく叩く。
 同時に巨大な火球が湖面を押しつぶし、熱い水蒸気の波紋を広げた。
 湖水も生き物の死体もすべて、一瞬にして焼き尽くされ、消えたのだろう。深く抉られて湯気の立つ湖底には、ユグドラシルの根が繭のように絡まったジュモーの拠点だけが残っていた。
 さすがにこの攻撃だけでジュモーの拠点を全壊することはできなかったが、それでもユグドラシルの根を大破させ、軍勢を送り込む穴を穿つことができた。
 まずは十分だといえよう。
 だが、ぐずぐずしている暇はない。
 キャタピラの軋む音がしたかと思えば、大きく破損して開いた穴から十数体の暴食機構グラトニウムが出てきた。
 すぐに穴を防ぎ始めたグラトニウムを排除すべく、インペリアル・ディオン軍は即時、十数体の『天文学』スファイリカを落下させる。
 割れた繭の前で激しい激突を繰り広げた末に、スファイリカはグラトニウムの一部を拠点内へ押し返すことに成功。穴を半ば制圧し、突破口を切りひらいた。

 ――いまが好機!

 三度目の号令が下される。
 『整数論』アリトメティカ、『音楽学』ムシュケーの部隊が乾いた湖底に降下、裏切り者ジュモーが立てこもる拠点内部へ突入していった。


「みんなの頑張りによって、屍隷兵の製造が完全に停止する時も近い。デウスエクスの脅威がまた一つ、取り除かれた。ほんと、キミたちケルベロスはすごいよ!」
 心からの笑顔と賛辞でケルベロスたちを迎えたゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)だったが、それも長くは続かず、すぐに表情を曇らせた。
 実は、と切りだす。
「こちらよりも早く、機界魔導士ゲンドゥルがジュモー・エレクトリシアンの拠点を見つけてしまったんだ。いま、ダモクレス軍が拠点への攻撃を開始したという情報が入った。このままでは、ダモクレス軍にジュモーの研究成果と、ジュモーのコギトエルゴスムを奪われてしまう」
 ジュモー軍の研究成果をダモクレス軍に奪われても、直接的な被害はただちには出ないだろう。
 しかし、ジュモー軍の研究成果はいずれ確実にダモクレス軍の戦力を高める。それは人類に、さらなる試練をもたらすはずだ。
「だからこれから宮城県石巻氏の長面浦に向かって、インペリアル・ディオンとジュモー勢力との戦いに介入して欲しいんだ。ジュモーの研究成果と、ジュモーのコギトエルゴスムを破壊するのが本作戦の目的だよ」
 ダモクレス軍側は、ダモクレスの十二創神、アダム・カドモンの近衛軍の軍団長の一体『インペリアル・ディオン』に率いられた精鋭軍だ。インペリアル・ディオンの撃破までは難しいかもしれないが、配下の精鋭部隊を撃破する事ができれば、ダモクレスの力を削ぐ事が出来る。
「この作戦に参加するのは全部で十四チーム。五つのミッションをそれぞれ受け持ち、作戦を成功に導くんだ。ボクたちのチームは、他の三チームとともに『退路確保』を担う」
 拠点に開けられた穴の回りで行われている、スファイリカとグラトニウムの戦いに介入し、『ジュモー撃破』と『研究成果破壊』を担うチームの内部突入を支援。
 さらに彼らが無事脱出するための退路の確保、が自分たちと他の三チームに課せられた任務だ。
「特に重要なのは、グラトニウムがスファイリカに撃破されて退路が遮断されるのを防ぐこと。スファイリカは『耐久力』と『自己回復力』に秀でているから、うまくグラトニウムを利用して戦ってね。そうすれば、スファイリカの撃破も不可能じゃないよ。なんたって『退路確保』に、最多の四チームが当てられたんだから」
 ヘリオン到着時点では、まだグラトニウムもスファイリカも、数十体いる。スファイリカたちにダメージを与えて体力を削ると同時に、自分たちの力は温存しつつ、グラトニウムの数も減らして行かなくてはならないだろう。
「ダモクレスの十二創神であるアダム・カドモンが近衛軍を投入してきたという事は、ダモクレス軍にも大きな動きがあるのかもしれないね。あ、そうだ」
 ゼノは真っ直ぐ、強い光を放つ目をケルベロスたちに向けた。
「不利になったら躊躇わず撤退して欲しい。退くのも勇気だとボクは思うよ」


参加者
伏見・万(万獣の檻・e02075)
イピナ・ウィンテール(剣と歌に希望を乗せて・e03513)
華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)
アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)

■リプレイ


「……下は牡蠣の養殖が盛んだったらしいな」
 戦いの真っ只中にある戦場へ落ちていきながら、伏見・万(万獣の檻・e02075)は腰のベルトに吊るしたスキットルへ手を伸ばした。
 キャップを外してウイスキーをあおる。
 周囲を山や森に囲まれた長面浦は、植物プランクトンを豊富に取り入れることができ、一年ほどで食べ頃の、雑味の少ない牡蠣が育ったという。それが――。
 手の甲で口元をぬぐって万がぼやく。
「くそ、酒のあてを丸ごと燃やし尽くしやがって」
 高度が下がるにつれて、ユグドラシルの根が繭のように絡まった、球形のジュモー基地の詳細がはっきりと見えて来た。
 同時に、基地を攻撃する『天文学』スファイリカの量産型と、基地を守ろうとする巨大ダモクレス『暴食機構グラトニウム』たちが戦う音が大きくなる。
「そろそろですね」
 華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)は、光を乱す気流を発生させて仲間を包み込んだ。気流を作りだせる他の仲間も灯に倣う。
 一人が作る気流は隠せる範囲もたかが知れているが、束ねればそれだけ隠匿範囲も広くなる。自分たちだけでなく突入班たちの姿も、ギリギリまでデウスエクスに見つからないほうがいい。
 灯の横を飛んでいた翼猫の『アナスタシア』が前足を伸ばして、グラトニウムの腹から突き出るクジラの頭を叩く振りをした。
「にゃん」
「シア、しーっ……!」
 ほどなくデウスエクスたちに見つかることなく、焼けただれた地に降り立つことができた。さすがにスファイリカと出入口で踏ん張るグラトニウムたちの真ん中には着地できなかったが。
「思っていたよりも、ずっと大きな穴が開けられているのじゃ」
 球状の外壁にぽっかりとあいた穴を境に、四十体近い巨大ダモクレスが攻防を繰り広げている。量産型スファイリカのやや後に一回りも二回りも大きなスファイリカ本体がいた。
(「本体撃破は難しいかもしれん……しかし、他と協力し合って、半分ぐらいはここで倒しておきたいものじゃ」)
 端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)はさっそく『マインドウィスパー・デバイス』を起動して、一緒に着地した他の退路確保班と連絡を取り合った。
 それぞれの班が、どこでどれだけのデウスエクスを釘付けにするか、素早く割り当てを取り決めた。決まったことはヘリオンデバイスのおかげで仲間たちに素早く共有されているが、自分の声できちんと報告する。
「わしの一存で決めて申し訳なかったのじゃが、当チームは大穴の中央からやや左にいるスファイリカ四体とグラトニウム四体の相手をすることに決まったのじゃ」
 それを聞いたイピナ・ウィンテール(剣と歌に希望を乗せて・e03513)が、土の上に守護星座を描きながら楽し気に笑う。
「その取り決めで異存ありませんわ、任務成功に全力を尽くしましょう。ですが、まずは突入班を安全確実にジュモー基地内へ送り込まなくてはなりませんね」
「うむ。しかし――」
「皆の帰り道を守るのも大事な役目だ」と、クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)が括の言葉を引き継いだ。
「むしろ、退路を確保することのほうが難しいだろう」
 同意の印にイピナたちが頷く。クローネの獄犬『お師匠』も白くてモフモフした尻尾を振った。
「皆で帰るまでの大仕事だ。気合を入れて臨むよ、お師匠」
 『お師匠』には、素早い移動の要アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)の盾となって守る、という大事な役目が与えられていた。戦場からの素早い離脱は、アリッサムが装備する『靴型』のヘリオンデバイスが鍵となる。
「よろしくお願いしますね、お師匠さん。では、参りましょうか。みなさん、私についてきてください」
 大気の流れを操って仲間の姿を隠しつつ、スファイリカたちの下を素早く走り抜ける。ついでに、というのも変な話だが、アリッサムは括とともにスファイリカの真下を通過する際に雷をお見舞いした。
 ピリッとしたのだろう。木の根に包まれたボディの光モジュールが緑から赤に変色して激しく瞬く。スファイリカが体に起きた異変を把握、分析し、敵を探し始めたときには、ケルベロスたちはすでにグラトニウムたちの後に回り込んでいた。


「こっちだ!」
 万はゴーグル上に表示される味方の位置と数、流れを逐次把握しつつ、大きく腕を振って突入組を誘導する。
 すぐそばで複数の巨大なダモクレスたちがぶつかり合っている。少しでも誘導する。
 先を間違えれば、巨体の下敷きになったり、流れ弾が当たったりと、巻き添えを食らいかねない。仲間同士がぶつかりあって、渋滞を引き起こす危険もある。
 だが、万の誘導は常に完璧だった。
「行け、行け、どんどん行け! 事を成し遂げるまで振り返るんじゃねぇぞ。帰り道のことは心配いらねぇ、ここはオレたちが体を張って死守するからよッ!!」
 ダッシュを促す号砲よろしく、竜頭砲で球機体――スファイリカを次々と狙い撃ちする。一度か二度当てた程度では、耐久性が異常に高いうえに、自己修復能力までもつダモクレスを倒すには至らない。だが、わずかとはいえ、後退させるには十分だ。
 果たして砲撃をうけた球機体は、パラパラと邪悪に染まった木片を焼け焦げた大地に落としながら、大穴の縁から退いた。
「やりますね。シア、私たちも頑張りましょう!」
「ニャン!!」
 灯は敵の攻撃をまともに受けてアームを大破させたグラトニウムに助太刀し、前に出る。不本意だが、『アナスタシア』には産廃寸前になった暴食機の回復を支援させた。
「ここから内側には入らせない! ちょっとそこで待っていなさい」
 暴食機が復帰するまでの時間を稼ぐためにフェアリーレイピアを振るい、幻の薔薇の花びらを吹雪かせて、追撃を試みたスファイリカの目を惑わせた。
 自己修復のためグラトニウムが後方へさがったことで空間ができた。動きを止めた球機体のすぐ脇を、突撃班の面々が基地内部に向かって駆け抜けていく。
 なおもレイピアを振るいながら、灯は祈るような気持ちを込めて突撃する仲間たちに声をかける。
「信じてますけど、帰ってこないのは、絶対……絶対ダメですから、ね!」
 『アナスタシア』も、にゃんと鳴いて翼を震わせ、死地に赴くたちケルベロスたちに清らかな風のエールを送った。
 クローネはスファイリカとグラトニウムの双方に、竜の咆哮を浴びせてバランスをとっていた。ゴーグルに映し出される味方の位置を確認したのち、万と視線を合わせて頷き合う。
 もういいだろう。
 基地の修復を優先する暴食機に女神カーリーの幻影をけしかけて、戦いへ引き戻していた括に話しかける。
「突入チーム全員、中にはいった。ここから持久戦に切り替えよう。一旦、戦場を離脱して様子を見るんだ」
「わかったのじゃ」
 二人のやり取りはヘリオンデバイスを通じて瞬時にチーム内で共用された。大穴付近でともに戦う他の班にも、時差なく伝わったようだ。
 同時に、他班のキャスターからの情報も入ってくる。中にはすでに、デウスエクスの間引きに手をつけ始めた班もあったが、ここはクローネの提案に従うことにする。
 括は熊耳かついた飛行帽に手をやって、これは便利なものなのじゃ、とあらためて感心した。
 だが、情報をただやり取りするだけでは価値は半減する。得た情報を有意義に活用してこそ、『マインドウィスパー・デバイス』の真価……いや、己の真価と言えよう。
(「わしは、皆がきちんと仕事を終えられるように、わしにできうる限りを尽くすばかりじゃ」)
 仲間とともに流れ弾が飛んでこない物陰に身を潜めて短い休憩を取ったのち、括は目まぐるしく変化するグラトニウムとスファイリカの位置を、己の目から得られる 情報と他班から入ってくる情報とを組み合わせ、万とクローネから得られる味方の位置と照らし合わせた。
 どちらか一方の軍勢が有利に傾かないように、攻撃の指示を飛ばす。
「イピナ、左斜め前のスファイリカがグラトニウムに『吸引』されて大穴の中に入り込みすぎているのじゃ」
「私の左横にいるグラトニウムを攻撃して、『吸引』をやめさせればいいのですね?」
「ほどほどで頼むのじゃ」
「お任せください。全力で殴り倒したいところですが、そこはグッと堪えます。いまグラトニウムを壊してしまったら、インペリアル・ディオン軍が有利になっちゃいますものね」
 どちらかと言うと、先に間引くべきはスファイリカである。暴食機たちにもどんどん攻撃させて、固い球機体の体力を削らなければ倒せない。
 イピナはスファイリカへの攻撃を中止すると、拳を握り締めながら身体を反転させた。腕を振り上げたままグラトニウムに駆け寄って、口を開くクジラ頭に音速の拳を叩き込む。『ぶちのめす』という言い方はよく耳にするが、まさにその言葉がぴったりくるパンチだ。
 肉を叩いた小気味のよい音が衝撃波に乗って広がり、大穴の縁に当たって揺らす。クジラの頭には、イピナの掌の形がくっきりと、赤く浮き上がっていた。
「あら?」
 ゆっくり、ごくゆっくり、グラトニウムの巨体が傾いていき、ついには横倒しになった。
 土煙とともに、アームが壊した基地の破片が飛ぶ。
「ガルルルッ!」
 獄犬の『お師匠』は、アリッサムに向かって飛んできたサッカーボール大の鉄くずを、口にくわえた剣でまっぷたつにした。
「あら、あら、あら……手加減したつもりだったんですけど。デウスエクスを憎む気持ちがストッパーを外しちゃったようですね」、とイピナ。
 倒れた暴食機を見てチャンスと思ったのか、二体のスファイリカが飛んできた。
 そのうちの一体を、頭上に差し掛かった瞬間に、アリッサムが半透明の御手を伸ばして捕まえる。
「ドンマイですよ、イピナさん。これをボコボコにしてしまえば釣りあいますから。……ということで、万さん、クローネさん、やっちゃってください」
 アリッサムは球機体を御手で鷲掴みにしたまま、ぐいっと引っ張り回した。それ、と声をだして手放す。
「こりゃ、絶好の的だな!」
「ど真ん中を狙うよ!」
 大穴の外へ飛んで行く球機体を、スナイパー二人がそろって狙い撃ちにした。炎に包まれた球機体が、天中でぱっと爆発四散する。
「お見事」
 アリッサムは睡魔を封じた矢を、倒れたグラトニウムにトドメを刺し終えた直後の球機体に向けて射った。
 イピナも流星の蹴りを見舞って、球機体の動きを止める。こんどはちゃんと手加減した。
「ところで、みなさん。この辺りでもう一回、休憩を挟みませんか?」
「いいね。他のスファイリカはぼくと括で足止めする。その間にさっき休憩した場所に逃げ込んじゃってよ。お師匠、灯の『アナスタシア』と協力してみんなを援護して。ぼくたちもすぐ行くから」
 アリッサムたちが暴食機たちをかわしながら先刻の休憩場所へ向かうと、クローネは南風の王を召還する呪文を詠唱し始めた。
 直後、暗く哀しげな音を鳴らしながら、乾いた風が大穴に吹き込む。
 南風は哀歌の鎖となって、灯とクローネを追いかけるスファイリカを縛りつけた。
「もう一体。わしに任せるのじゃ」
 括は球機体の天地に霊振りの巫銃を向けて、要石となる霊弾を発射した。天と地が縁で結ばれる。
『ひふみよいむな。葡萄、筍、山の桃。黄泉路の馳走じゃ、存分に喰らうてゆかれよ』
 言霊で増幅させた縁に捕らわれた球機械体は、『食べ物を食する』という摩訶不思議な夢――バグの発生でプログラムが暴走、フリーズした。


「さすがの長丁場ですが、まだまだ戦えます! 皆さん、気を抜かずに戦い抜きましょう!」
 戦場にイピナの檄が飛ぶ。
 あれから更に二回の休憩を挟み、ケルベロスたちは余裕を持って戦場をコントロールしていた。
 他の班でグラトニウムに防具を破壊され裸同然に剥かれた者が出た一方、こちらはほぼ無傷でいる。これならば、割り当てられたデウスエクスの撃破はもちろん、『天文学』スファイリカ本体にも手を出せるかもしれない。
「……とはいっても、遠いぜ、少し」
 万が量産型を蹴り上げながら、悔しさをにじませた声で呟く。
 本体はグラトニウムとの戦いには参加せず、少し下がった位置で量産型の指揮を執っていた。ケルベロスの参戦に気づいていてもおかしくはないのだが、なぜか動かず、状況を見守り続けている。大穴からの攻撃は届かない。
 インペリアル・ディオンが、ジュモーの討伐とその研究結果の強奪を目的としているからだろう。ケルベロスに先を越されるなど、露ほども思っていないに違いなかった。
 ひねくれたこの状況に、自然とクローネの顔に笑いが浮かぶ。
(「裏切り者として粛正されるのか、縁のある人に送ってもらえるのか。ジュモーの最期も気になるところだけれども……」)
 パズルを開き、体力に劣る小さな友人たちにちょっかいを出そうとした暴食機のキャタピラに、竜の稲妻を走らせた。
「ジュモーの研究成果は手に入れたのか?」
「まだのようじゃ。いや、待て――」
 括は帽子の狸耳に手をやった。当てたところで聞こえが良くなるわけではないのだが。
「ジュモー撃破じゃ! 研究成果を取りに行った班も量産型ムシュケーを蹴散らしながら戻ってきておるのじゃ!」
 灯は歓喜に身を飛びあがらせた。
 大きな成果を手に撤退してくる仲間たちはかなりの深手を負っているが、とりあえず命は無事なようだ。
 ジュモーの死はグラトニウムたちにも伝わったようで、目に見えて動揺し始めた。闇雲にアームを振り回し、ところかまずクジラの口をあけてなんでも吸い込もうとする。
 戦場はたちまち大混乱に陥った。
「帰り道を塞がんとする狼藉者には、黄泉路の馳走を差し上げねばの!」
 括の一声で、退路を確保するために全員が全力攻撃に転ずる。ターゲットを絞って集中砲火を浴びせ、球機体と暴食機を一体ずつ焼けの野に沈めた。
「「出て来たぞ!」」
 万とクローネが同時に叫ぶ。
 灯は『レスキュードローン・デバイス』を起動させた。
 脱出してきた仲間の中に知り合いの顔を探しつつ、グラビティの花と羽で編んだ輪を広げて、優しい香りで傷を癒していく。
「混沌とした戦場でこそ、癒しのえんじぇりっくが輝かねばです! 私がいる限りは誰一人、倒れさせませんから!」
 イピナもまた、撤退する仲間たちの中に愛しい人の姿を懸命に探していた。
(「――見つけた!!」)
 安堵からこみ上げる涙を堪えつつ、アームドアーム・デバイスを伸ばして、愛しい人を抱きあげる。
 アリッサムは前方を塞ぐスファイリカに竜の稲妻を撃ち込んだ。
 光放つ靴の踵で大地をとんとんと踏みつける。
「さあ、みんなで帰りましょう。あとはデウスエクス同士、好きに潰しあえばいいのです」
 なおも続くグラトニウムとスファイリカの戦いをしり目に、アリッサムは降下してくるヘリオンに向かって駆けだした。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月23日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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