ジュモー最終決戦~白銀の騎士

作者:椎名遥

 宮城県石巻市長面浦。
 八景島を対岸に臨む汽水湖のほとりに、無数の影が並ぶ。
 人型、蛇型、球体……多様な姿でありながらも、統一された規格の鋼の兵団。
 その先頭に立ち、指揮官――ダモクレス『インペリアル・ディオン』は手を掲げる。
「砲撃準備」
 命に応え、蛇型――『幾何学』ゲオメトリアと配下が、泉を包囲するように展開する。
 続けて、全ての機体が唸りを上げ、大気を振るわせるほどのエネルギーをその身の中に収束させて、
「撃て!」
 響くのは、短く、強い声。
 それに合わせ、撃ち込まれる100にも届こうかと言う光条。
 湖を埋め尽くすほどの光の雨が突き刺さり、轟音と衝撃をまき散らす。
 そして――、
「第一フェイズ、完了」
 砲撃によって湖水が蒸発し、露になった湖底のさらに下。
 そこにあるのは、巨大な植物の――ユグドラシルの根に包まれた繭のような球体。
 それを確認すると、インペリアル・ディオンは剣を抜き放つ。
「反逆者ジュモーの拠点を確認。これより第二フェイズに移る」
 振り下ろす剣に導かれるように、球体――『天文学』スファイリカの部隊が、繭を修理しようと現れた暴食機構グラトニウムを押し返し。
 開かれた突破口を通って、人型――『整数論』アリトメティカ、『音楽学』ムシュケーの部隊が拠点の奥へと侵入する。
「行け。奴を討ち、研究成果の全てを手に入れるのだ」


「ジュモー・エレクトリシアンの拠点が判明しました――ですが、ダモクレスもまた拠点への攻撃をかけています。急いで現地へと向かってください」
 集まったケルベロス達を見つめると、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は深々と一礼する。
 先日行われたジュモーの屍隷兵製造拠点への強襲。
 これによって、屍隷兵製造拠点は破壊され、ジュモーによる屍隷兵の製造は完全に停止することになるだろう。
 また、この際に遭遇した機界魔導士ゲンドゥルから得た情報によって、ジュモーがダモクレス勢力から裏切り者とみなされている事も判明した。
 これがただの内輪もめであれば、ダモクレスが拠点を襲撃してジュモーを滅ぼすに任せることも手なのかもしれないが……。
「ジュモーが持つ研究成果はダモクレスにとっても貴重なもの。それを奪われれば、ダモクレス勢力に新たな力を与えることになりかねません」
 故に、その戦いに介入し、ジュモーの研究成果とコギトエルゴスムを、ダモクレスに渡さないように破壊する必要がある。
「ダモクレスには後れを取ることになりましたが――調査の結果、ジュモーの拠点の場所は判明しています」
 宮城県石巻市は長面浦。
 それが、ジュモーに関わる最終決戦の舞台となる。
「今回ダモクレスの軍勢を率いるのは、ダモクレスの十二創神、アダム・カドモンの近衛軍の軍団長の一体『インペリアル・ディオン』です」
 ディオンの作戦は、一斉砲撃によって湖の水を蒸発させたうえで部下を突入させ、ジュモーの撃破と研究成果の回収を成し遂げ、再度の一斉砲撃によってジュモー基地を完全破壊するつもりのようだ。
 その為、ケルベロスの作戦もまた、それに応じたものとなる。
 ジュモーの撃破、研究成果の破壊、退路確保、再度の砲撃の妨害、そして指揮官『インペリアル・ディオン』の妨害。
 その上で、
「皆さんには、インペリアル・ディオンへの攻撃をお願いします」
 そう言って、セリカは一度目を閉じて大きく深呼吸をする。
 インペリアル・ディオンは、護衛部隊と共にスファイリカとゲオメトリアの中間付近から指揮を執っている。
 それぞれの戦闘に巻き込まれないように動けば、攻撃は難しくは無いだろうが……。
 相手は、十二創神アダム・カドモンの近衛軍の軍団長。
 質実剛健にして清廉な武人にして、指揮能力、白兵戦能力共に卓越した実力を有するインペリアル・ディオンと、その配下の精鋭兵。
 容易な相手のはずもない。
 戦力を整え、作戦を練り、最善を尽くし――それでもなお、撃破は難しい。
 だが、指揮を執るインペリアル・ディオンに攻撃をかけ、指揮を邪魔することができれば、それだけ全体の動きを鈍らせて他の場所で戦う仲間の支援をすることができるだろうし、うまく撤退まで追い込むことが出来れば敵の混乱はより大きなものとなるだろう。
 また、相手の動きや言葉からダモクレスの方針などの情報を得られる可能性もある。
 十二創神であるアダム・カドモンが近衛軍を投入してきたという事自体が、ダモクレスに何らかの動きがあることの予兆とも取れるのだから。
 だから、
「危険な戦いになります。ですが、危険を冒すだけの価値もまた、確かにあります」
 ケルベロスへの信頼を胸に、セリカは彼らを送り出す。
「皆さん――御武運を」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)
ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)

■リプレイ

「本陣がいよいよお出ましか……」
「最近なりひそめていたのは、これが理由だったのかな?」
 物陰に身を潜め、周囲に視線を走らせるソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)に、シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)も小さく頷く。
 空を埋め尽くす機蛇、湖水が蒸発した湖底で戦いを繰り広げる巨大兵器、そしてその争いの脇を抜けて湖底の施設へと向かう無数の人型。
「数が多いなァオイ。ったく、クッソ面倒くせェ……」
 刀で肩を叩いてジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)がぼやくも、顔に浮かぶのは翳りの無い闘志。
「じゅんびできたよ」
「こっちも――大丈夫っ」
 デバイスを通して周囲の状況を確認していた伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)に、シルも一度目を閉じて左手を胸に抱くと頷き。
「目的は撃破ではなく妨害です。指揮系統乱して他戦場に優位をもたらしましょう」
「ええ。では――」
 確認するように呼び掛けるミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)に頷き、セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)は剣を抜き放ち。
 同時に、神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)が竜頭を模した錨を、タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)は仮面装飾の形をしたオウガメタルを――己の得物を構え。
「ゆくぞ!」
「いくんだぜ!」


 狙うは、多種多様な機兵の中にあって唯一無二の白銀の騎士――指揮官『インペリアル・ディオン』。
 無論、周囲に控える護衛がそれを許すはずも無いが、
「まずは小手調べってね」
「おじゃまじゃま~、だな」
 シルの呼び出す氷河期の精霊。勇名とソロが顕現させる星座の輝き。
 吹雪と光熱が戦場を覆い、続けて晟が投げ放つ青龍戟が無数の槍へと分裂して護衛へと降り注ぐ。
 それによって護衛の動きが乱れたのは僅かな間。
 ディオンに剣を届かせるには、足りないけれど――。
「お願いします!」
 割り込もうとする護衛を、別の班の仲間達が抑え込み。
 ミリムが放つ月光に背を押され、生まれた空隙をセレナは駆ける。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士として、貴殿に挑みましょう!」
「我が名はインペリアル・ディオン。挑むというなら応じてやろう!」
 視線を交わし、言葉を交わし。
 セレナが放つのはアデュラリア家に伝わる剣術の奥義の一つ。
 様子見より駆け引きより、今必要なのは渾身の一撃。
 一瞬の内に肉体に魔力を巡らせ、瞬間的に運動能力を限界まで向上させ。
「アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月!」
 高められた能力全てを使い、閃光の如き速さで突き出す一撃は――しかし、大剣に受けられる。
 アダム・カドモン近衛軍軍団長。その力は、戦ってきた敵の中でもトップクラス。
「こんなものか」
「――ああ!」
 だが、決して届かない高みではない。
 鬼神が如きオーラを身に纏い、ジョーイが刀を大きく振りかぶる。
 繰り出す刃は鬼神の一太刀。
 悪鬼羅刹すら一撃で倒す一閃が大剣を打ち据え。
「セット……咲誇れ愚者の華! 晶華ァ!」
 重ねてタクティが放つ結晶の弾丸の爆発がディオンを包み込み――、
「こんなもの、だぜ!」
 爆風が晴れた後、ディオンの姿に揺らぎはなく。
 しかし、胸甲に刻まれるのは十字の刀傷。
「ほう」
「――っ」
 楽し気なディオンの声に、ソロは小さく息をのむ。
 向けられる威圧感は数舜前の比ではない。
 それは、指揮の片手間ではなく明確に敵として相対する意思表示。
(「近衛軍の軍団長……不謹慎ながら、強敵との戦いは心が躍りますね」)
 全力を尽くして届くかどうかの強敵に、セレナは小さく笑みを浮かべ――飛び退いた直後、熱閃が彼女がいた空間を焼き払い。
 続けて飛び込む護衛のハンマーを、晟の錨が打ち返す。
「突破されたか」
 他の班が抑えていた護衛。
 数と質を備えた12体もまた、立ちふさがる障害だが、
「問題ない」
「はい。理不尽を打ち壊しに頑張りましょう」
 呟く晟に、ミリムも頷きを返す。
 相手の意識は引き付けた。
 後は、仲間が目的を果たすまで戦い続けるのみ。
「さあ、続きといこうか」


「オラァ!」
 気合とともにジョーイが繰り出す刃が、忍者型の刀とぶつかり合う。
 振るう刃が切り込む短刀と打ち合い、押し返し。
 さらに踏み込む刃は、飛びのく護衛を掠めて空を切るも、
「逃がさない」
 ソロのミサイルが追撃し、
「やらせないん、だぜ!」
 巻き起こる爆炎を切り裂く機蛇の熱線を、タクティのブレスが迎撃する。
 威力において上回るのは機蛇。
 だけど、わずかでも拮抗できれば、
「合わせろ、ラグナル」
 晟の手の中で錨が形を変え、作り出されるのはミニサイズの軽巡洋艦隊。
 砲塔が動き、照準を合わせ、
「――撃て!」
「どーん」
 晟の命に応え、艦隊が撃ち出す蒼龍の頭部を模した砲弾。
 それに重ね、勇名が撃ち込む轟竜砲に晟のボクスドラゴン『ラグナル』のブレスが機蛇へと撃ち込まれ。
 退く機蛇の穴を埋めるように、突撃する球型をセレナの鎖が牽制するとともに、ミリムが大地から呼び出す魔力が傷を癒す。
 護衛の力はケルベロス2人分かやや上か。
 それだけならば、3班24人のケルベロスと五分。
 だが、
「私を忘れるとは、いささか寂しいな」
「そっちこそ、無視できないくらい大きいのを一発行かせてもらうからね!」
 迫る剣風を寸前で捌き、反撃にシルが精霊魔術を撃ち込むも――切り払うディオンから漏れるのは、楽し気な笑い声。
 護衛だけなら五分。
 だが、ディオンを無視することは自殺行為。
 なにより、その指揮を乱すことこそが目的だ。
 故に、
(「みぎ、おさえて」)
(「わかったっ!」)
 ゴッドサイトデバイスで周囲を把握する勇名の声を受け取り、シルがマインドウィスパーで伝える情報は、漏れもラグも無く戦場全ての仲間達と共有されて。
 戦況を把握し、護衛の進行方向に回り込んでは押し返し。
 その先へ――仲間達が切り込む道を作り出す。
 無論、それで抑えきれるほど護衛の数も質も低くはない。
 ハンマーとタクティの拳がぶつかり合い、横合いからのナイフを晟が受け止め。
 回り込むセレナとジョーイを熱線が退かせた隙に、ソロの射撃の隙間を縫って幾体もの護衛が奥へとすり抜けて――、
(「けど、こんどはぼくたち!」)
(「いくよ、みんなっ」)
 攻め込み、支援し、妨害し。
 状況に合わせ、ケルベロスの動きもまた変化する。
 あらゆる武器、あらゆる手段。
 刃に魔術、銃弾――そして、言葉。
「あなた達、ジュモーの研究とドレッドノートで何考えてるのよ。マキナクロス再臨でもまだ狙ってるの?」
「ジュモーか。地球に毒された哀れな女だ。あの御方の理想に異を唱え、共存を求めるとはな」
 言葉とともにシルが繰り出す蒼穹棍の連撃を、その場から動くことなく受け流しながら、ディオンは語る。
「だがその成果は役に立つ。お前たちも狙っているのだろう? あの地に集った有機体を解析して得られた情報を」
(「裏切者の始末だけではなく研究成果は有効活用する。無駄の無い作戦――ですが!」)
 その言葉にセレナは胸中で呟き――踏み込むと同時に、握る剣を全力で突き出す。
「あのような命を軽んじた悪辣な研究、決して誰にも渡しはしません!」
「あの御方が攻性植物と融合した紛い物など頼りにするはずもない。ジュモーの研究成果が、地球をマキナクロス化する上で有用というだけだ」
 突き出す刃は受け流され、返す刃を受け止めてセレナは飛び下がり。
 続けて振るう刃が、迫る護衛達を牽制する。
 刃を交わし、言葉を交わし。
 攻撃と支援を切り替えて。
 目まぐるしく変わる戦況の中、生まれる隙間を縫ってケルベロスはディオンへ肉薄する。
「身内には裏切られ、お前のような使いぱしりを今頃寄越すとは。アダム・カドモンも大したものではないな」
 短刀を舞うようにかわし、相手を足場に球体型の突進を回避して。
 護衛を翻弄しながら、ソロは挑発混じりのにディオンへ御霊殲滅砲を撃ち出す。
「これから残り少ない戦力で地球を攻めるのか? ゴミ掃除の手間が省けて助かるよ」
「いいや、違うな」
 応えるのは、周囲を薙ぎ払う烈風の一閃。
「グラビティ・チェインを生み出す地ではあるが、地球という存在は毒なのだ。だからこそ、派遣兵力のみで片をつけようとしたのだ」
(「毒……定命化か?」)
 仲間を癒しながら、聞こえる内容にミリムは考えを巡らせる。
 かつてドラゴン勢力を追い込むことになった定命化。
 そのリスクを考えれば、要人や側近の派遣を避けたいのにも頷ける。
「お前たちを見誤ったのは認めよう。六指揮官機に加え、五大巧まで壊滅させるとはな……故に、我らが出たのだ」
(「そういうことだったか……いや、だが」)
 錨を振るって護衛を牽制しつつ、語られる中身に晟は胸中で頷き――ふと、気付く。
 近衛軍、軍団長の一機を務める程の者が――内情を敵に語る?
(「迂闊な相手ならいい。だが、そうでないなら――」)
「――そういうことだ」
「っ!」
 弾かれたように振り返る晟を、ディオンの視線が見据える。
「私が何か機密を口走るとでも思っていたか? 今まで語ったことは、知られたところで構わぬことのみ」
「なるほどー」
 その言葉に、勇名は大きく息をつく。
 知られても構わない――隠す必要のない情報。
 それをあえて語るのは、
「宣戦布告のつもりか?」
「まあ、面白いものを見せてもらった返礼でもあるがな」
 ジョーイに軽く応えると、ディオンは地下基地へと視線を向け、
「内部での戦いも終る頃合いか」
 柄を握りしめた直後、大剣が変形して溢れ出る炎がその身を包み込み。
 それまでを凌駕する威圧感とともに、ディオンは剣を突き付ける。
「もう少しばかり、見せてもらおうか」
 吹き付ける圧力は、体を吹き飛ばさんばかり。
 けれど、ジョーイは、勇名は、得物を握り前に出る。
「望むところだぜ!」
「かえるばしょを、まもるんだ」


 閃く熱線、振るわれるナイフ、叩きつけられるハンマー。
 疲れを知らぬように襲い来る無数の攻撃を、かわし、受け止め、受け流し、
「ちっ!」
 ――横からのハンマーがジョーイを捉えて跳ね飛ばし、直撃こそ防いだものの着地した膝からガクリと力が抜ける。
 20分に届くほどの長時間の戦いの消耗が、ケルベロスの背にのしかかる。
 だが、
「この程度の傷がなんだってんだ……! 気合で塞がれやゴルァァァーーー!!」
 空を仰ぎ、戦場に響き渡る咆哮と共にジョーイは立ち上がり。
 振り上げる刃が、追撃をかける忍者の刃を跳ね飛ばす。
 限界は近い。息も上がっている。
 ――それがどうした。
 大の字で倒れるのは、全て終わってからだ。
「ッシャァ! いくぜ!」
「例え肉が抉れ、骨は砕けても、心は折れはしません!」
 再度振るう刃が忍者の体勢を崩し、続くセレナの刺突がコアを貫き爆散させ。
「決めるんだぜ、ミミック!」
 球型が動くよりも早く、タクティのボクスドラゴン『ミミック』が先んじて体当たりをかけて動きを乱し。
 続くタクティの拳が装甲を砕いて地面へと叩きつけ、
「うごくなー」
 勇名の放つ小型ミサイルが地面でバウンドした球型の下へと撃ち込まれ。
「ずどーん」
 カラフルな火花と共に、巻き起こる爆発が球型を消し飛ばす。
 消耗があるのは、ケルベロスだけではない。
 連携によって転戦を強いられた護衛の消耗は、ケルベロスを上回ってすらいる。
 そして――、
「さあ、越えて見せろ!」
 響き渡るディオンの声。
 同時に、手にした大剣――否、炎の魔剣の一閃が衝撃波となって襲い掛かる。
 空を裂き、大地を穿ち、触れる全てを砕く衝撃波。
「ぐ、っ!」
 破壊の波を受け止めた晟の口から声が漏れる。
 アダム・カドモン近衛軍、軍団長『インペリアル・ディオン』。
 その本気の一撃は、受けきるにはあまりに重い。
 ――けれど、
「まだだ」
 歯を食いしばり、一歩踏み出し。
「聖者の癒す教えを授けます、耐えてください!」
 ミリムの描く伝説の施療院の紋章から、治癒の力を受け取って。
 力を込めれば、青龍戟は応えるように蒼く雷を宿し。
「砕き刻むは我が雷刃。雷鳴と共にその肉叢を穿たん!」
 突き出す超高速の刺突は蒼雷を纏い、衝撃波を切り裂きディオンへの道を切り開く。
「乗り越えたぞ。次は私達の番だ!」
 倒れこむ晟をミリムに任せ、巻き上げられた瓦礫を足場にソロは宙へと駆け上がる。
 高所から見下ろし、巨体全てを視界に捉え、ソロはわずかに歯噛みする。
(「本当はこの場で倒したいところだがな……」)
 自分から全てを奪った『ダモクレス』。
 眼下に立つのは仇ではないけれど――怒りと恨みを向けない理由などありはしない。
「戒めよ、その驕り。宿した罪を糧に束縛せよ、夢幻・万華鏡」
 渦巻く怒りを込めて、ディオンを包囲するように生成するのは数多の蒼白の蝶。
 対象者が宿した罪の数だけ呪いを招き寄せる羽ばたきが舞い踊り。
「……ちっ」
 直後、縦横に閃く剣閃が、舞い踊る蝶の全てを切り払い――、
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ……混じりて力となり、全てを撃ち抜きし光となれっ!」
 切り払われ、消滅する蝶の残光を貫いて光が走る。
 それは、シルが放つ精霊収束砲。
 火・水・風・土の属性エネルギーを一点に収束させた砲撃は、大剣に受けられながらも全てを逸らしきることは許さずディオンの肩装甲を貫き――。
「――」
 そのまま、ケルベロスとディオンは互いに相手を見据えて刃を向け合い――そして、同時に刃を降ろす。
 視界の端に見えるのは、脱出してくる仲間達の姿。
「互いに、任務はここまでのようだな」
「……ええ」
 そっと息をつき、セレナは剣を収める。
 未だ実力の底が見えないディオンを討とうとするなら、ケルベロスも少なくない被害を覚悟せねばならず。
 同時に、そのリスクがあるから、ディオンもまた任務を危険にさらしてケルベロスを追い込むわけにはいかない。
 故に、
「今は、ここまでだぜ」
「ああ、今は、な」
 『今は』と前置きをして笑うタクティに、ディオンも頷きを返し。
 マントを大きく翻すと戦場に届かせるように宣言する。
「覚えておけ。全てを均一な合理で統治する機械郷こそ、ダモクレスの理想。最初から隠してなどいない」
 それは、改めて行われる人類への宣戦布告。
「我らがアダム・カドモンは地球の毒を浄化する為、全地球のマキナクロス化を行うだろう……また会おう、番犬ども」
「……ん」
「決着は次会った時、だな」
 疲労からふらつく勇名をミリムが支え。
 拳を打ち合わせるジョーイと並び、ソロは彼方の空へと視線を向ける。
 近衛軍が動き、ジュモーが倒れた。
 次は、いよいよダモクレスの本隊が来るだろう。
 そして、その時こそ宿敵との決着の時。
(「決着の時は近い」)

作者:椎名遥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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