凶気が待つ路

作者:星垣えん

●凶路
 右も左も。天も地も。
 その路は、際限なく揺らいでいた。
 形はおろか色や質さえも、定まることなく不規則に移り変わってゆく。
 異次元の通路――そこをひとつの『何か』が、漫然と歩いていた。
『――……』
 沈黙したまま動くのは、大剣を引きずり歩く騎士。
 歪な黒鎧に身を包んだそれは声もなく、そして自我もなく、彷徨っていた。
『――……』
 獲物を両断するための剣を引っ提げて、黒騎士は通路内を歩きつづける。
 その路は、不穏な色に満ちていた。

●泉への『門』
 ケルベロスたちによる磨羯宮ブレイザブリクの度重なる探索の結果、リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)が『転移門』を発見した。
 ブレイザブリクに秘されていたこの通路は『死者の泉』に繋がっていることが確認されている。同時に、強力な防衛機構――『門』が働いていることも。
「死者の泉によって守護者として、『死を与える現象』そのものに変異させられたエインヘリアル……それが『門』として通路に立ち塞がっています」
 発生している状況を告げたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の表情は、険しい。
 どうやら一筋縄ではいかない事態らしい、と理解するのは容易だった。
「この『門』ですが、厄介なことにただ倒すだけでは止めることができません。もはや命あるものと呼べないこの敵は、倒れるたびに蘇り、転移門を守り続けます」
 侵入を阻むための自動機構――通路を阻む黒騎士は一個の形さえあれど、まさしく死者の泉が備える機能であるということだ。
 が、その機能も万全ではないとセリカは言う。
「幾度も蘇るとはいえ、その数は無限ではありません。予測ではありますが、この『門』を42体倒すことができれば、死者の泉への転移が可能になるはずです」
 積み重ねなければならない42。
 そのうちのひとつが今回の依頼というわけだ。
「『門』は決して油断はできない相手です……それに戦場となるのは死者の泉へと通ずる回廊。この内部では『門』の力が格段に強化されています」
 地の利は向こう、というべきか。
 苦戦は免れないだろう。だが敵の強さを語りながらも、セリカはことさら不安げな顔色は見せなかった。
「敵は強いです。ですが皆さんはそれよりも強いと、わかっていますからね」
 少し柔らかな微笑みを覗かせて、セリカは自身のヘリオンを示した。
「今はまだ、こちらがブレイザブリクから死者の泉へ繋がるルートを見つけたことは、エインヘリアル側に気づかれてはいません。ですが『門』の突破に時間をかけすぎれば、向こうにこちらの動きが察知される恐れもあります」
 そうなれば、せっかく見つけたルートが潰される可能性もある。
 であれば急がねばならない――猟犬たちは異次元の地へ降り立つべく、出発するのだった。


参加者
新条・あかり(点灯夫・e04291)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
ノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
御手塚・秋子(夏白菊・e33779)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)

■リプレイ


 死者の泉へと通ずる路は、異様をもって猟犬たちを出迎えた。
 ひとつ足を踏めば、蠢く床に波紋が浮かぶ。汚泥のような壁は外から潰されたかのように狭まったと思えば、次には風に吹かれた絹布のように拡がってゆく。
 形も持たぬ、虚ろな路。
 けれど、その不確かさなど気にもせず、山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)はライドキャリバーの藍とともに疾走していた。
「今日も今日とて、死合いに励むとしよーじゃん」
「ええ、と。この『門』の攻略も今回の遠征でひのふの……だいぶ進みました、ね」
 快活なことほの声に、隣を並走していたウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)がひとつふたつと指を畳む。その主人の頭上を飛ぶヘルキャットは如何にも退屈そうな顔で腹の駄肉を揺らしている。
 揚々と一団の先頭を行く二人――そこへ後ろから、影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)とメロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)の声が飛んだ。
「みんな、あそこ!」
「お出迎え、のようだねぇ」
 ゴッドサイト・デバイスを装着した二人が敵――『門』の接近を告げる。
 リナもメロゥも路に入った瞬間から捕捉していたそれは、這うようにゆっくりと、奥の闇の中から姿を現した。
『…………』
 剣を引きずり歩く黒き騎士は、声もなく近づいてくる。
 言わば死者の泉の傀儡と成り果てたエインヘリアルの姿に、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)は獣の眼差しを細めた。
「死者の泉……か」
 零す呟きには、僅かな悲傷の色が覗く。
 誰もが聞き逃すような、その程度の陰りだ。しかし新条・あかり(点灯夫・e04291)の尖った耳はそれをすぐさま捕まえて、蜜色の瞳は恋人の顔を見上げた。
「タマちゃん」
「何でもない」
 その首を徐に振り、微笑を返す陣内。
 言葉に嘘はない。かつては死者の泉へ至りたいと願ったこともある。だから路の先に何を感じないというわけではない。だがその足はもう泉へ惹かれることはない。
 隣に立つ小さな彼女の傍から、離れはしない。
「ここは彼岸みたいな場所なのかな」
「さあ。どうだろうな」
 辺りを見回したあかりは、陣内の返事を聞きながら、眼前の黒騎士を見据えた。
 影のように、幻のように、敵は立っているだけだ。
「真っ向勝負を望み、何度も倒されては蘇るあなたに想うところはある。けれど、やることは一つだけだから」
『……』
 細剣を構えるあかりに応じて、黒騎士がぴくりと動く。
 地面に接していた巨大な刀身が浮いた――その刹那。
『――――!!!』
「やっとその気になった、ってところか」
「みたいだね」
「二人とも、ひとまず上へ」
 吶喊してくる黒騎士の剣があかりたちへ振るわれる、その前に、ノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615)がジェットパック・デバイスで飛翔する。ビームで引っ張り上げられた陣内とあかりの体も宙に舞い、黒騎士の剣閃がその足の下を振り払った。
 唐突に加速する状況。
 戦闘開始の空気に、御手塚・秋子(夏白菊・e33779)は武者震いを隠さない。
「今の私がヘリオンデバイスでどれだけ強敵に通用するか! 頑張るぞー! うおー!」
 歓呼とともに、レスキュードローンが四方へと散開する。
 暗き路の狭間にて、戦いが始まった。


「まずは厄介そうな剣をどうにかしないとね」
 ノチユに牽引され、戦域の上方を飛行するあかりが細剣を振り下ろす。瞬く間に嵐のように花弁が吹き荒れ、黒騎士の姿を華やかな牢獄に閉じこめた。
『……!』
「はい、タマちゃん」
「ああ。ナイスだ」
 流し目の合図を受け取った陣内が、滞空状態から急降下。雷光を帯びたゲシュタルトグレイブが花の獄ごと黒騎士の体を貫き通す。
 ――だが。
「……まあ、この程度で堪えてくれる敵ではないよな」
『――!!』
 体を串刺しにされたまま、黒騎士が咆哮じみたプレッシャーを放つ。花嵐ごと陣内を払い飛ばした黒騎士は、猟犬たちへ駆けながら大剣を上段に振りかぶる。
 力の限りの一撃が。
 己の損壊さえ躊躇わぬ一撃が来る。
「なら、私の出番、でしょうか」
『――――!』
 即座に前に出たウィルマが黒騎士の豪断を引きつける。
 眼前に踊り出たものに反射的に落とされる刀身。その重厚なる一刀へ、ウィルマは両手をかざした。間に伸びるは紅き金属糸。それを盾代わりに使うことでウィルマは直撃を、両断を見事に避けた。
 だが無傷ではない。
 止めきれずに肩口まで切り裂かれたウィルマの片膝が、とんと地面につく。
「この回廊内での戦闘はやはり、しんどいです、ね」
「大丈夫、ウィルマさん! いま回復するよー!」
 ウィルマと一緒に前衛を、壁役を務めることほが胸の前に手を組む。その手の間に秘められるものは淡く輝くエクトプラズム。両の手で握りこみ幾重にも折り重ねたそれを、ことほは天へと開放した。
 癒やしの力が、咲く花のように舞い上がり、ウィルマの傷を撫でる。
 流血の止まった其処を見てことほは笑ってピースサインを向けた。
「とりあえずオッケー、だね!」
「ま、まあ、そうですね」
 慣らすように肩を動かし、たどたどしく応じるウィルマ。
 その間にも、黒騎士と猟犬との交戦は続いている。主人を斬りつけた敵へヘルキャットは尾から輪を投げ飛ばし、藍もことほに頼まれるままその機体に炎を纏って突撃を敢行。二体のサーヴァントに攻められた黒騎士は一歩ばかり、後ろへ退く。
 そこへすかさず、ノチユが上空から降下する。黒騎士の背後へ着地したサキュバスは体ごと回転し、力任せの足技で黒騎士の足元を薙ぎ払った。
『……!』
 足をすくわれた騎士の体が、ぐらりとその場で傾ぐ。
 そうして傾く視界に――メロゥが忽然と現れて、派手なシルクハットの下に笑みを作った。
「ここもまた、随分と娯楽の無さそうな空間だねぇ……君、大丈夫? 退屈に呑まれたりしていないかい?」
 戦いにそぐわぬ慇懃な振る舞いで、しかし次の瞬間には、メロゥの体は中空にあった。
 その足に纏うエアシューズが、体勢を崩している黒騎士の頭を蹴りつける。そのままポンと反動で浮き上がるメロゥと対照的に、黒騎士の体が勢いよく激突した。
 後方から仲間たちの援護に努める秋子は、それを見るなり手を突き上げた。
「んーみんな良い感じ! そのままどんどんいっちゃおう!!」
 はしゃぎたてる秋子の手の内で、ポチポチポチと爆破スイッチが押下。まるで秋子の無類のテンションを表すかのような極彩色の爆炎が、路の闇にいくつも咲き誇る。
「これはまた、随分と派手な応援だな」
「すっごいやる気が出てくるー! 秋子さんありがとー!」
「どういたしましてー!」
 振り返るノチユとことほに、ぶんぶんと両手を振り返す秋子。
「この流れなら倒せそうかな……? でも気は抜けないよね」
 微笑ましく秋子たちを見ていたリナが、はたと何かに気づくように前方へ視線を飛ばす。
 伏していた黒騎士がゆっくりと立ち上がっている。猟犬たちのグラビティを叩きつけられた敵は、それでもなお怯む素振りもない。
 表情を引き締めたリナが、その身に魔法の木の葉を降らせる。自身の能力が研ぎ澄まされるのを感じながら、シャドウエルフは一層強い眼差しで黒騎士を見据えた。
「勝負はまだまだ、だね」


 横薙ぎの大剣の上を、ひらりと舞う影。
「そんな意志の無い剣なんかにやられたりはしないよ!」
『…………!』
 中空に翻りながら、リナが斬霊刀を一振り。放たれる魔力が無数の風刃へと変じ、黒騎士が大剣を構えなおす暇もなく猛襲を加える。
 黒鎧に刻まれる、無数の傷。
 一つひとつは小さくとも積み重なるそれは確かに敵の力を削ぐ。黒騎士はたまらず防御姿勢と取り、その足が地面に釘付けになった。
 そして、ノチユはその無防備を見逃してやれるほど温い人間ではない。
「こっちを見ろよ。これが、お前を殺す人間の顔だ」
『――!』
 ノチユの蹴撃が、再び冴える。鞭のようにしなやかな脚は黒鎧の継ぎ目を的確に蹴り飛ばし、その威力でもって電撃を帯びたような麻痺を敵にもたらした。
『――……』
「冒涜されたいのちの彩を、取り戻すことができないなら……叩きのめして、地獄の底へ墜とす」
 崩れ落ちる黒騎士を、冷たくも鮮やかな瞳で見下ろすノチユ。
「二人とも、今だよ!」
「了解だ。的を撃つだけなんて簡単な仕事だな」
「あれだけ動きが止まってるなら、外さない」
 とん、と爪先で着地するなり振り返ったリナが言い終わる間もなく、陣内とあかりが上空から黒騎士へと狙いを定める。
 先んじて、陣内のウイングキャット『猫』の尾に炎輪が灯る。さながら向日葵のように咲き誇るそれから一輪の炎が飛び出すと、陣内はその炎花をケルベロスチェインで受け止めた。
 炎が、鎖上を奔る。
 あっという間に鎖は炎に包まれた。
「おまえも、燃えてみるか」
 炎鎖を投じる陣内。ぐるりと巻きついた炎は黒騎士の鎧へと乗り移り、瞬く間に巨大な火だるまを作り上げる。
 そうして、闇路にて一際目立つ存在となった敵へ、あかりが追撃の一発。砲撃形態のハンマーから射出された竜砲弾が火だるまに炸裂し、辺りを融かさんばかりの焦熱と火柱が生み出された。
『――……!』
 昇る炎の内で、黒騎士の影が揺らめく。
 しかし動きが止まることはない。炎を振り払うように出てきた黒騎士は猛るような覇気を奔らせ、猟犬たち目掛けて疾駆を始めた。
「みんなを斬らせたりはしないよー!」
 真っ向から走っていったことほが、正面から黒騎士の斬撃を受ける。
 正面から袈裟斬りにされたオウガ娘の体が、がくりと傾く――が、鮮血が散ることはなかった。代わりに飛散するのはオウガメタルの輝く粒子。
「あっぶなーい……ちゃんと守れてないとやばかったかも」
「ことほさん、痛い痛いかな? ならこれをどうぞ! びっくりしないでね!」
「えっ? きゃーーっ!?」
 忠告とほぼ同時、というか言うが早く秋子が降らせた赤剣がことほの頭上に降る。
 慌てたことほが反応する間もなく赤剣は彼女の胸を綺麗に貫いてしまうが――当然ながら痛みはない。胸を通った剣は硝子のように鮮やかに割れると、秘められた治癒の力がことほの負傷を治してゆく。
「びっくりした……」
「だからびっくりしないでって……」
「無茶ぶりじゃないかな!?」
「ことほさん、その、ひとまず落ち着いて……」
 悪びれない秋子に抗議することほを鎮めながら、ウィルマが足元へとケルベロスチェインを拡げた。新たに守備力を底上げした壁役二人は改めて、黒騎士の猛攻に備えて身構える。
 そんな二人が見る前で――メロゥはにこやかな笑みとともに黒騎士に近づいた。
「そう熱くならず。良ければ奇術のひとつでも、どうかな?」
 メロゥの手元からスカーフが舞い上がり、黒騎士の片手に覆いかぶさる。
 すると、どうだ。
『――……!』
「おや大変だね。左手はどこに行ったのかな?」
 手首から先が消失した左腕を振り上げて、黒騎士がもがくように暴れる。荒々しく毟られたような傷からポロリと零れるコインを見ながら、メロゥは満足げな笑いを湛えた。


 意志なき凶気との戦いは、その天秤は、徐々に一方へと傾いていた。
『――――!!!』
「そちらの攻撃は、見えてきました、よ。ほかの皆さんへの攻撃は、させません」
 獣のように暴れ、その膂力でもって上空のノチユたちへ斬撃を飛ばそうとする黒騎士の前に、全身に呪紋を刻んだウィルマが立ち塞がる。
 幾度も黒騎士の斬撃を引き受けた彼女の体には、治癒の間に合わぬ傷が無数に残っている。
 だがその痛みを押して、魔人と化すことで押しこめて、ウィルマは敵の繰り出す凶刃を抑えこんでいた。
「猫」
「――!」
 目配せした陣内に呼応して、猫がウィルマへ清浄なる気を送る。そうして彼女へささやかな礼をしながら、陣内はグレイブを携えて黒騎士へ向かう。
「そろそろこんな空間からは出ていきたいんでな。倒れてもらうぞ」
 黒騎士を縦横に斬りつける陣内。刃にこめられた霊力が、黒騎士の体内を奔る。鎧に刻まれた傷が見る間に拡がると、すかさずあかりが中空からグラビティを放った。
「これで、眠ってもらうよ」
 降りそそぐは、氷の錨。蒼白く輝いて美しさすら感じられるそれは、黒騎士の鎧に激突し、無情に食い破る。さらには奥深くまで抉り進むと、強烈な冷気で固め始めた。
『――!!』
 黒騎士の体が、そこかしこで氷結を始める。
 だがそれでも、黒騎士は大剣を握り、猟犬たちを葬るべく、足を進めた。
 けれど、振り下ろした大剣は藍の硬質な機体に跳ね返される。その衝撃で藍の表装も強かに剥がされてしまうが、それと同じぐらいに黒騎士の鎧装も剥がれ落ちている。もはや攻撃に己が耐えられていないのだ。
 飛びながらその有様を眺めていたノチユは、不機嫌そうに眉根を寄せた。
「見たくもない、光景だ」
「そろそろ終わりにしてあげないとだね」
 ノチユの反応を察したか、地上からリナの声が聞こえた。変わらず斬霊刀を構え続ける彼女もまた、幕引きの時を察していた。
「藍ちゃん頑張ったね! ここから帰ったら色々直そー!」
 ダメージからエンジン音も途切れ途切れの藍を労いながら、ことほが黒騎士を鬼神角で突き飛ばす。深々と角に穿たれた胸から、びしりと八方へ亀裂が走る。
 黒騎士が、呻くように止まった。
「今がチャンスだね! いくよメロゥちゃん! 秋子ちゃんは強化お願い!」
「え、え!? あ、わ、わかりましたー!」
 駆けだしたリナの指示に、思わず年上ながら敬語になってしまう秋子。反射で押した爆破スイッチが再び色鮮やかな爆炎を迸らせるのを背景に、メロゥもリナに呼応して走り出す。
『――!』
「本日の公演の仕上げ、きっちりと締めくくらないとね♪」
 こちらの動きに反応して黒騎士が振り上げた大剣に、メロゥの放つスカーフが貼りつく。
 そして彼女が指を弾けば、もう黒騎士の手元に厳かな剣の姿はなくなっていた。
「ご協力ありがとう。今日は良いショーになったよ」
「だから、大人しく休んでね!」
 満面の笑みを浮かべるメロゥの横をすり抜けて、リナの斬霊刀が弧を描く。秋子の強化も受けた剣撃は、目にも止まらぬ神速で黒鎧に一文字を刻みつける。
『――!!』
 黒騎士の全身の傷から、リナの霊力が零れ、迸る。
 猟犬たちからもたらされた負傷が、リナの一撃によって完全に、耐えようもないほどに、拡げられてしまっていた。
 もはや、放置したとて消えるかもしれぬ。
 そんな命の前に、ノチユはドラゴニックハンマーを携え、立った。
『…………』
「わかってる、きちんと殺してやる」
 抜け殻のように静まった黒鎧へ向けて、氷結の一撃を振りかぶるノチユ。

 路のどこまでも響きそうな轟音が、冬風のような冷気とともに迸ったとき。
 死者の泉に踊らされた哀れな命は、跡形もなく消え去っていた。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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