富士樹海魔竜決戦~其は破壊を哮る

作者:黒塚婁

●母よ
 富士樹海の奥地。ケルベロスと邪樹竜クゥ・ウルク=アンとの戦いの傍ら。或いは果てと呼ぶべきか。
 樹母竜リンドヴルムの抱えた卵は、急激にグラビティ・チェインを吸い上げて成熟する。
 ――贄を捧げ、命を捧げ、邪樹竜が成し遂げた儀式。
 めりめりとひび割れるのは卵ばかりではない。卵を抱える母体もまた、裂けていく。
 内側より食い破られながら、次々禍々しきドラゴンを産み出し、それは満足げな表情を浮かべて逝く。
 産声は咆哮。雷鳴の轟き。
 黒き鱗、屈強なる爪をもち、されどその身体は何処か枯れた大木の如く。太い尾を大仰に振り薙いで、それは身を捉える全ての殻を破る。
 かくて、魔竜ワード・ブレイカーは再誕した。

●救援
 急を要す一件となる、と雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)は厳しい表情でケルベロス達に切り出した。
「富士樹海にて、邪樹竜クゥ・ウルク=アンは無事討たれた――が、魔竜が不完全ながらに孵化するという事態に陥っている」
 魔竜。その言葉は充分すぎるほどの緊張を、この場にもたらす。
 一瞥した辰砂は、説明を続ける。
 ――不完全ながら、孵化した魔竜は十七体。
 それらが未だ樹海に残るケルベロス達にとって、どれほどの脅威かは、敢えて聴かせるまでもない。
「この一戦の目的は、魔竜の討伐及び、ケルベロス達の撤退支援――以上である」
 極めてシンプルに辰砂は告げると、標的の説明に移る。
「貴様らに倒して貰いたいのは、魔竜ワード・ブレイカー――まあ、ドラゴン・ウォーより存在は確認されている存在だな。これも、攻性植物と融合し、孵化した一体だ」
 魔竜ワード・ブレイカーは猛々しい、破壊の化身である。雷を纏い、全てを灼き尽くす凶悪な有り様。
 その技もフォルムも、元のワード・ブレイカーのようであるが、鱗や尾が全体的に枯れた巨木がごとき植物めいたものに変貌している。
 魔竜は強敵だが、孵化したばかりなこと、攻性植物と融合した状態に慣れていないことから、戦闘開始直後は本調子ではないようだ。
 ただ、それも時間経過と共に変わる。
 短期決戦の望ましい相手だろうと、辰砂は忠告を向ける。
「強力な敵だ。しかし、貴様らであれば、可能であろう。そして、これほど相応しき言葉はなかろうな――疾し殲滅を」
 デバイス発動のためのコマンドコードを送って、彼は説明を終えるのであった。


参加者
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
朧・遊鬼(火車・e36891)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)

■リプレイ

●不退転
 樹海の複雑な木々のうねりを破壊しながら、それはケルベロス達の前に顕現した。力の予兆、破壊の衝撃を近く受けた一人として、
「やれやれ、格好良く警告だけして撤退し損ねた」
 櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)はのんびりと言った。いっそ格好良く足止めでもしてやろうかなと柄でも無い英雄気取りを醸して、須臾、いや冗談でも流石に無理だと距離を測る。
 獲物を見つけたのか、まだ新たな躰に慣れぬのか。魔竜ワード・ブレイカーは巨大な黒き躰に稲光を走らせ不格好に低空飛行した。
 しかし周囲にとっては災いに変わりない。地を抉り、削るような移動により、薙ぎ倒された木々の合間から、駆けつけたか、或いは前作戦より移動中であったケルベロス達が姿を現す。
「ここだっ」
 威勢のいい声をあげて、七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)が跳び込んでくる。その色の違う双眸は蔭りに輝いていた。
「よぉ、デカブツ。遊んでいこうぜ――美女の誘いだ、断らねぇよな?」
 彼女と挟み込むように立ち塞がったハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)が不敵に笑う。唇に挟んだ煙草を惜しみつつ落として、踏みしめると拳を固めた。
 彼方、金属の擦れ合うような音がして、見逃しようもない焔が揺らめく――。
「竜の追加ですか――いいですよ、ちょうど温まっていたところでございます――せっかくうまれたところを悪いですが、リスキルといきましょう」
 巨大な弓と共に現れたラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)が、ほくほくと言う。兜よりこぼれ、赫赫と燃ゆる炎がその戦意の高さを示している。
「でかいな――吹き飛んじまわないよう油断するなよ、ルーナ」
 鎌を手に駆けつけた朧・遊鬼(火車・e36891)の警句に、彼の傍らで浮かぶナノナノのルーナは凛々しい眼差しを向ける。彼はそれを横目で確認すると、黒き鬼面に触れた。
 ひょっこりと草木の間から、艶やかな狐の尾が覗く。
「仲間を贄として復活するなんて、泰山府君祭じゃあるまいし……にしても、ドラゴンって仲間犠牲にしてとか好きよねー正直、自己陶酔もいいとこっていうか」
 こぼした吐息は呆れを含み。遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)は狐耳をぴんと立てて、微笑んだ。
「ドラゴンより呪いのほうが強いって、ばっちり見せつけてあげるんだから!」
 もやもやとした呪いの気配を纏いながら、意気込む声音を耳に、よし、と千梨は頷いた。
「其方は寝起きが悪くて不機嫌かも知れんが……此方だって、疲れた所を残業なんだ。短時間労働で切り上げよう」
 低く構えれば、視界の端で、にっこりゴリラくんが揺れている。そうだ、早く帰って土産話をせねば――いけない死亡フラグだ、忘れよう。
「毒を食らわば皿まで。竜を狙わば魔竜まで――お代わりがない事を祈ろう」
 吹きつける風に前髪揺らし、千梨は言い換える。それも良くない言霊であるような気が篠葉にはしたが。
 正面より、草木を堂々と踏みしめながら、駆けつけるは軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)――生まれつきの悪人面で、より凶悪そうな睨みを利かせ、それの前に堂々と立ち塞がる。
「熊本で目覚めてから長々と生き残りやがって。俺達ケルベロスを砕けると思うなよ」
 胡乱な視線がこちらを向く。己を捨てた一族が、さんざ警戒してきた竜災だ。
 その眼光に射竦められたとして、恥じる事もなかろう――然し、彼は睨み返す。
 敵は魔竜。強敵なのは重々承知している。マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)の耳元に、戦術AIが数値化した戦力差を伝えてくる。
「だから殺られる前に殺る。SYSTEM COMBAT MODE」
 仲間達を庇えるように、前に立ち。マークは機械的に告げるのだった。

●不撓
 地を揺らすような低音で、魔竜は哮る。その口の端から雷が零れ、身を伝って迸る。だがその勢いは見目ほど強くはなさそうだ。古木のような躰に変化したため、加減が難しいのか。
 さりとてケルベロス達に先行して、竜は雷を吐き出した。
 ――覚悟は出来ている。なんの備えも整っていないが、ハンナもマークも、その雷撃を後ろに通さぬと前へ出る。
 爆ぜる雷光が視界を染める。周囲の木々が分解されていくように溶けた。彼らは其処まで柔ではないが、駆け抜ける風に膚が傷付く。焼けつく熱が痛みを呼ぶ。だが、耐えられぬほどではない。
 静かに、千梨は細かに水を散らし、それらに雷を呑ませ凌ぐ。ブラックスライムに溶かした力は何処へ行くのか。そのまま御業を繰り、エクトプラズムを集約させた大霊弾を放つ。雷光を割って、霊弾は魔竜の鼻先へぶつかる。
 無限に似た刹那が途切れる。すぐさま、左目をより強く黄金と輝かせ、瑪璃瑠が治療と同時に攻撃の布陣を整える。
「――ユメは泡沫、ウツツも刹那。全て燃え落ち灰となる……」
 悪夢を吉夢へ。
「其は有り得た未来の断片……使わせてもらうんだよ、今を守るために!」
 地獄の如き炎と共に、彼女が仲間達に力を与えると、受け取った篠葉が流星の輝きと共に宙に躍る。
 重力と共に飛来する彼女と同じく、気合いを発しながら、双吉はルーンを発動させた斧を叩き込む。正面から躍った彼らに対し、側面より跳んだラーヴァが重力の蹴撃を更に重ねた。
「その鱗を削ぎ落としてやろう!」
 遊鬼が猛々しく発して、鎌を手放す。
 もうもうと上がる土煙を裂くは、回転する死の刃――それは木々を迂回し、魔竜の背を削っていく。
 引かず、出過ぎず。元の位置取りの儘、重心を下げながらマークはライフルよりエネルギー光弾を放つ。うっすら見えるハート型のバリアはルーナが施したものだ。
 片やハンナは少し距離を縮めた。とはいえ、周囲を見渡せるよう、計らいながら両の拳を胸の前に掲げた。
「先ずは軽く行こうか」
 風を斬る、拳の音。軽やかな身のこなしから放たれるジャブは衝撃波を生じ、魔竜の腹を連続で刻む。
 ケルベロス達の攻撃は魔竜に引き込まれるように当たる。だが、それが綻びを産んだかまでは見えなかった。身を起こした竜の体躯はあまりに大きく、一挙一動の余波が、ケルベロス達を容易く翻弄する。彼らはその程度で負傷はせぬが、攻撃の隙を産みかねない。
 気は抜けぬ――身に覚えた浮遊感に、皆、本能的に抗う。魔竜が素早く身を翻した、そう認識したのは転回を見届けた後。それの四肢が獣のように跳ねていた。
 来る――マークは踵のパイルバンカーを地面に刺して踏みとどまり、肩のシールドで爪を受ける。機体の身すら引き千切られそうなほど斥力を思えば、固定せず受け流した方が良かったかもしれない――だがそんな思考は一瞬何処かへ飛んだ。
 彼と大自然を霊的に接続し、瑪璃瑠がその名を呼んで引き戻す。
「おっかねぇな!」
 舌打ちひとつ、双吉が歪んで斃れた幹を蹴る。その軌跡には流星が続く。
 直撃を食らい、あの屈強なマークでさえ相当に削られならば。自身で想像すれば真っ二つもあり得るか――やはり、早々に決着をつけねばなるまい。
「不完全でもドラゴン……使う技も強大だな……――だが、強大故に遊び概があるなぁ?」
 そっとひとりごち、遊鬼がうっすら笑った。ぽつぽつとその周囲に青い鬼火が浮かび始める。触れなば凍る炎と共に、彼は地を蹴った。
「まだ眠いだろう? ならばまた眠らせてやろう」
 ――誰一人、怯むこと無く。次々と、挑みかかる。

●不抜
「ほらほら、こっちもご注目~」
 五芒星の紋を空に刻んだ篠葉の腕より、変幻自在な黒き魔物が、撓って斬りかかる。薄闇を巻き付けて、毒をもたらす。いわく、ちょっとお腹が痛くなる呪いは、じんわりと竜に纏わり付いて離れない。
 のたうつように頭を振って、魔竜は猛る。身を返しながら放つ、雷の奔流が如き爪の一閃。オーラを纏った拳を叩きつけながら、ハンナは下がる。正確には、押し込まれる。
 あっという間に灼けていく。脳裡を占める雷霆の痛みを言葉に言い表すのは難しい――まあ尤も、出来たところで、言うつもりはない。
 苦痛の中でハンナは笑んだ。立っていられるなら、走れるはずだ。走れるなら、殴れるはずだ。
 ――だから、折れぬ。
「ハンナさん!」
 客観的に己がどんな状態かはわからなかったが、刹那も待たせず、瑪璃瑠が癒しを繋げた。
「いつかはきっといなくなる。けど、そのいつかは今じゃない!」
 彼女の言葉に、答えるように笑みを深め――全くその通りだと肯定して、身構える。ルーナがすかさず新たな加護を付与してくれたが、反撃よりも態勢の維持を選び、ハンナは気合いを放った。
「まだいけるでしょう」
 笑い声に似たラーヴァの煽動に、当然だとハンナは紅眼で竜を見据えた。
「逃げはしねぇし、逃がしはしねぇよ」
 それでこそ、彼は軽やかに答えると天に射掛ける。
「我が名は熱源。余所見をしてはなりませんよ」
 地獄の炎を絡めた矢が滝の如く注ぐ。中天より落ちる火の雨が、魔竜の背を次々貫いていく。肝要なのは、矢の付けた疵よりも、その炎。
 傷口より潜り、内部よりケルベロス達が刻んだ呪い食んで拡大し、魔竜を苛み続け――それが痛みを厭うように暴れれば、はらはらと鱗のように身が削げていく。これぞ、守りを徐々に削いでいる証ではないか。
 マークが、アームドフォートの主砲から掃射する――斬り込む流れに乗って、遊鬼も鎌を放った。
 表面で爆ぜた砲弾がその前肢の表面を削り、弧を描く刃が遅れて薙いでいく。風を斬り上げていくような気流に紛れ、双吉が両斧を高く掲げて跳び込んだ。
 クロスした斬撃で、更に疵を掻き裂いて、広げる。
 ――魔竜の体躯は大きく、彼らの攻撃が与えた綻びなど、極めて小さいように思える。反面、気を抜けば、その息づかいが其処にある。低い嘶きは、雷の前兆の如く。ケルベロス達に警戒と緊張を呼ぶ。
(「眼前には畏怖すべき敵――背に迫るは死の気配」)
 だが、と千梨は半透明の御業を走らせて、ひそかに嘯く。
「不思議だな――此れは悪くない」
 ――迷い無く、生きよう、と思えるものな。
 再び空より霊体を掻き集め大霊弾を纏めながら、灰の双眸は何処までも穏やかに、敵の一挙一動を見極める。
 今度は、身に迫る迅雷を貫くように。目を逸らさずに射込む。篠葉もまた尾を逆立てながら、黒きものを纏めながら耐えている。
 支えきってみせる――矜持を元に、瑪璃瑠は癒やしの風を巻き起こす。
「君が破壊の雷を轟かせるなら、ボクたちは優しき風を呼ぶんだよ!」
 負けない。盾と奮う二人を守りきって見せる。それがボクの戦いだから、と。

●言砕く竜災
 絶えず仕掛け、追い込んで――いよいよ、その時が来た。
 魔竜ワード・ブレイカーが大きく顎を開く。轟き渡るは、空間すら裂くように擘く咆哮。その瞬間、竜の肉体に変化があった。腕や尾の一部が削げ落ち、一回り細くなった。
 傷付いた全身を満たすように雷鳴が行き渡り、魔竜は輝く――それは禍々しき、破壊の化身と呼ぶべき姿。鋭い睥睨に空気が凍るようであった。
 然れど。
「強大な敵――良いですね。やりがいがあるというものでございます」
 此処に至って、ラーヴァは愉しそうに炎を揺らした。
「しかし、本当に本調子と呼べる状態でしょうか?」
 揶揄の通り――一見、無駄を削いだ魔竜の全身には力が漲り、凶刃に加え俊敏さまで得たようだ。だが、その身は既に呪いで縛られきっている。
 軽やかな跳躍で倒木の狭間を駆けると、遊鬼は星型のオーラを叩きつけた。
 見計らい、きりりとラーヴァの指先で金属の弦が震える。身の丈を越える機械仕掛けの脚付き弓を引く彼は、砲台と化す。解き放たれた巨大な空の霊気を纏わせた一矢は、竜の胸に深々穴を穿つ。
 見やり、千梨が拍手をひとつ。しゃんと魔竜を包む空間が切り替わる。
「散ればぞ誘う、誘えばぞ散る」
 相手の周囲に巡らせた結界に下ろした御業――其が成すのは咲き誇る桜。幽玄を再現する季節外れの桜は、風と水を招く。花があらば嵐が起こり、散華を招くのは条理であると――定命の儚さが、抗う魔を苛烈に責めた。
「思えば、アンタも何らかの植物だったな」
 ならば枯れるのは必然だ、と千梨が告げる。魔竜が身を低くして嵐に耐えるところへ、何やら蠢くものたちが駆け上る――。
「もうばっちり、弱点なんてお見通しなんだから!」
 ふふん、と胸をはり篠葉が差し向けたのは――。
「さぁ、みんなで突撃よ!」
 愛らしい子狐、子狸であった。それらは巨躯にも雷も意に介さず、竜の躰へ飛びついていく。愛らしい光景であるが、ひとつひとつが濃厚なる――彼女曰く呪いの――グラビティの顕現。
 重い一撃一撃が、巨躯を揺るがす。躰の亀裂が更に伸びて、頸まで深く枝を伸ばす。
 その疵目掛けて、跳び込んできたのは、ライオンラビット――瑪璃瑠の四肢は、柔らかな毛並みに包まれながら。獣らしいしなやかな跳躍と鋭い一閃で、魔竜の首筋を強か撃つ。
 更に、実直な鋼の一閃が斜めに走った。
「こいつはサービスだ。釣りは気にするな」
 鋭く斬り込んだ、ハンナの手にはナイフ。飾り気の無いそれは、技巧によって輝く。微笑んだ彼女の挑発を受けたか、魔竜は地を叩いて、纏わり付くものを振り払う。
 巨大なる顔が。巨大な牙が、縫い止めるように垂直に食らいついてくる。衝撃に地が震える――それに挑んだのは、黒き機兵。両肩は既に盾と呼べるほどの面積を残していない。それでもバンカーを打ち込んで耐えられるよう。そして、更に。
「重力装甲展開」
 特殊防御機能を発動させたマークの周囲を、ぎりぎり凌ぐよう雷流が避けていく――それでも、完全とは呼べぬ。無数の牙が彼の装甲を突き破っている。噛み砕かれるまで、数秒と保つまい。
 防禦フィールドを展開したまま、彼は声を掛けた。あくまでも凪いだ、平常の音声で。
「行け、軋峰」
 わかってる、怒鳴るように答え、双吉は双翼に纏わせたブラックスライムを、捕食モードに解き放つ。黒翼が大きく広がって、羽ばたくように蠢いた。
「文明破壊の竜災相手だ、ならよー、こっちは野蛮に行こうじゃねぇか!」
 にっと笑う貌は凶悪な輝きをもっていた。彼が踏み込むと同時、スライムは魔竜を左右から掴みかかる。のし掛かるスライムの質量は竜に比べて貧弱であるが、それは幸い顔を突き出している。首根に爪を立てるように潜り込んで、自分の躰を引き寄せる。
 そして、双吉は二対の斧を思い切り掲げながら最後の一歩を切る。
 出鱈目な、力任せの斬り込みだ。腕を撓らせ、その頭蓋へと次々に振り下ろす。彼は何か叫んでいたかもしれないが、誰にも聞き取ることはできなかった。

 人の叫びを掻き消すほどの、禍々しき断末魔――世界を呪うような咆哮を上げながら、額から雷を解き放つ。
 血潮に似た白閃の中――魔竜は砕け散った。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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