富士樹海魔竜決戦~17体の生まれる魔竜たち

作者:質種剰

●母竜の最期
 樹海の奥地。
 先のクゥ・ウルク=アン樹海決戦において、邪竜の抱いていた『最強の魔竜軍団の結成』という野望は、ケルベロスたちによって阻止された。
 しかし、阻止に至るまでの間、マリュウモドキがグラビティ・チェインを得ていたことも事実。
 樹母竜リンドヴルムはそれらを利用して、多数の魔竜を、不完全ながらも孵化まで漕ぎつけた。
 自らの命と引き換えに——。

 バリバリバリバリバリバリ!
 テラテラとした緑色の樹皮を突き破って、魔竜たちが産声をあげる。
 溶岩流が冷えたかのような赤々とした岩肌を持つ者。
 一角獣にも似た神々しさを宿す者。
 黄金の刃に似た背鰭を持つ者。
 黒く鋼の如き硬さの鱗に覆われし者。
 白虎のような縞模様の体毛と猛々しさを発する者。
 七彩の炎を吐く、粘液塗れで毒々しい毛皮に包まれた者。
 体のあちこちから色とりどりの鉱石を生やした者。
 そして、眩い炎を思わせる鶏冠と獣みたいな鋭い顔つきが特徴的な者……。
 全部で17体にも及ぶ魔竜たちは、色も形も皆バラバラだったが、ひとつだけ共通点があった。
 それは、身体のあらゆる隙間から蔓を伸ばす攻性植物。
 定命化の進行を危惧した魔竜たちは、攻性植物と融合して『生まれ直した』のである。
 だから、魔竜たちは生まれたてであっても何をすべきかよくわかっていた。
「グギャォォォォン!!」
 戦いを終えたばかりのケルベロスたちへ向かっていく17体の魔竜。
 我が子を見送る樹母竜リンドヴルムは、死の床にありながらも満足そうであった。


「まずは落ち着いてお聞き願います。クゥ・ウルク=アン樹海決戦に向かったケルベロスの皆さんが、現在危機的状況に陥っているであります」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー)が、そんな前置きから説明を始める。
「彼らは、クゥ・ウルク=アンの撃破に成功してドラゴンの陰謀を阻止できたのでありますが、不完全ながらも孵化した17体の魔竜によって、今しも撤退を妨害されているのであります」
 17体もの魔竜を一度に相手どるのは無謀なため、こちらも魔竜の数だけ救出部隊を編成した。
「どうか、急ぎ樹海へ向かって彼らの撤退を援護しつつ、孵化した17体の魔竜のうち1体『魔竜・レジカルマ』を撃破してくださいませ。よろしくお願いいたします」
 ぺこりと頭を下げるかけら。
「魔竜・レジカルマはかなりの強敵ですが、孵化したばかりでまだ充分なグラビティ・チェインを得られていないこともあって、充分勝機はあります」
 レジカルマの体は攻性植物と融合しているが、その体に魔竜本人が慣れていないせいか、戦闘開始直後は動きがぎこちなくなるという。
「ですが、戦いが長引いてしまうと今の体に慣れて十全に能力を使いこなしてくるであります。できることならば短期決戦に持ち込みたいでありますね」
 かけらはそう言って説明を締めくくると、彼女なりに皆を激励した。
「ここで勝てれば、ユグドラシル残党の魔竜勢力を壊滅させられるでありますよ。魔竜は強敵ではありますが、皆さんならきっと勝てます。頑張ってくださいね」


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)
愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)

■リプレイ


 樹海の入り口。
「先発隊の皆さんと魔竜・レジカルマは……大体2時の方角で戦闘中、でしょうね」
 フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)がゴッドサイト・デバイスを着用して、敵味方の位置把握に努めていた。
 清楚な雰囲気に違わずとても礼儀正しく、加えて抜群のプロポーションも誇るレプリカントの淑女。
 バイザー型に変形したデバイスが、フローネのしなやかな紫のロングヘアによく似合っている。
「無事に撤退できるように、早く駆けつけて差し上げなければいけませんね。急ぎましょう」
 ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)も心配そうに森の奥を眺める。
 涼やかな碧眼と銀髪から飛び出たトナカイ角が印象的なウェアライダーの美女にして、フローネの恋人でもあるミチェーリ。
 もし自力で逃げられないような負傷者がいればメディックのレスキュードローンで輸送しようと発案する、心優しい性格の持ち主だ。
「生まれながらに、何をすべきかわかってるなんて、羨ましい」
 愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)は、飛行中特有の高い視点で遠くを見渡しながら、いささか皮肉混じりに呟いた。
 銀色のロングヘアと深い藍色の瞳が特徴的なオラトリオの女性。最近電波系アイドルを脱却したとは本人の弁。
「わたしなんか、未だに手探りですも、の!」
 その自信なさそうな笑顔からも、レールに敷かれた運命など良しとしない心意気が見え隠れしている。
 そんなミライは己が翼とジェットパック・デバイスを併用、さらには隠密気流と隠された森の小径も同時に使う、なんとも忙しない先導役を担っていて、
「ではミライさん、着いた時には先発隊の方々の避難先の見極め、お願いしますね」
「はーい♪」
 親友フローネも気兼ねなく彼女と役割分担して、先発隊を確実に保護すべく策を練るのだった。
「んじゃ……現場に急行という事で……」
 と、いつも通りのローテーションながら足取り強く森の奥へズンズン分け入っていくのは、死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)。
 一見ごく普通の女の子に見えるも、その実、決して拭いきれない死の匂いを全身から漂わせたシャドウエルフのブラックウィザード。
 彼女もまた、仲間の負担を少しでも減らそうと隠された森の小径を活用して悪路を減らしているおかげで、8人の行軍はとてもスムーズである。
「ロックにぶちかましてやるのデスよー!」
 シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は楽器型のジェットパック・デバイスを背負って、意気揚々と足を踏み入れる。
 風に靡くほど長い金髪のポニーテールと覇気のある赤い瞳が可愛らしい、人派ドラゴニアンのミュージックファイター。
 先の事件でも彼女は樹母竜リンドヴルムが産み落とした魔竜と戦っている上、死翼騎士団と協力してアルセイデス軍と剣を交えたのは極々最近の話だ。
 それだけ連戦続きでも疲れを感じさせないノリの良さ、テンションの高さがシィカのプロ意識なのかもしれない。
「流石、鳴り物入りの新兵器ね。こんなに装着者に合わせて最適化してくれるなんて」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)は、自前のアームドフォートに取り込まれるかのように一体化したアームドアーム・デバイスを見やって、満足そうに洩らした。
 丈なす黒髪と穏やかそうな灰色の瞳を持ち、白く清楚なワンピースがよく似合う大学生女子。
 元より鎧装騎兵らしい振る舞いに努めている他、ディフェンダーとして戦場に立つことも多いかぐらだからこそ、ヘリオンデバイスも自然と鎧装騎兵の象徴たるアームドフォートに合体したのだろう。
「さて、逃した魚は大きいぞって、まぁ魚じゃないけど……」
 17体の魔竜のうち何体かがドラゴン・ウォーで取り逃した個体であることを思い出しつつ、身軽に走るかぐら。
「あれだけいろいろ集まってたのだし、一つずつ何とかしていくしかないわね」
 強敵との戦いを前に浮かれてばかりはいられないと、気合いを入れ直していた。
 一方。
(「レスキュードローン使うの初めてだけど……ちょっとシリアスな場面にはそぐわないかな?」)
 マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は急いで現地へ向かおうと走りつつも、並走しているレスキュードローンの風貌が少し気になっていた。
 褐色の肌と夜明け色の瞳が異国情緒な空気を漂わせる、オラトリオの女性。
 何せ装着者に合わせて姿の変わるヘリオンデバイスなればこそ、マヒナのレスキュードローンはココナッツを模した形で翼はヤシの葉と南国ムード満載。
 そのあまりに馴染みのある出で立ちから、マヒナも降下してすぐ装着した際には、
「頭上注意……じゃなくて、無事に皆で帰ろうね!」
 と慌てて言い直したものだった。
 ちなみに相棒のアロアロは、魔竜の強大さを肌で感じ取っているのか、森に入ってからずっとプルプル震えっぱなしで涙目だったりする。
 他方。
「ったく、こうも連続でドラゴン退治たぁな」
 卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)は愛用のコインを指で弾いて、いつもの占いに興じていた。
 掌で受け止めたコインは表。
「帰りが遅いってんでアイツにゃあとで散々にどやされるなぁ、コレは」
 泰孝としては同居人に後でどれぐらい小言を言われるのか占っていたようで、気の重そうな溜め息がこぼれる。
 とはいえ、周囲から幼妻と幾度となく冷やかされてもなお、自分では座敷童だストーカーだのとひたすら存在から目を逸らしていた彼女をようやく同居人と認めたあたりに、仲の進展が窺えた。


「グギャアアアアア!!」
 8人が到着した時、魔竜・レジカルマは暴れ回っていた。
 ケルベロスを倒すという使命ももちろんあったが、レジカルマ自身の睡眠欲の不満による怒りが大きい。
「安眠を寄越せ……!!」
 だから、撤退しそびれていた先発隊に向かって、難癖をつけながら体当たりをぶちかましているのだ。
「受け流します!」
 すかさずフローネがアメジスト・シールドを構えて、先発隊の前へ滑り込む。
「退がってください!」
 ミチェーリやかぐらも後に続いて、まずは先発隊を保護するための防戦が始まった。
「みんな、これに乗って!」
 マヒナがヤシの実型のレスキュードローンを展開し、負傷者を中へ収容していく。
 シィカや刃蓙理、泰孝はレジカルマの牽制と負傷者の収容を臨機応変にこなしている。
 レスキュードローンたちの先導は、当初の予定通りミライが務めた。
 8人の奮闘の甲斐あって、何とかこの場にいた先発隊全員を離脱させることに成功した。
「生まれ変わって早々、ごめんなさいね。だけど……わかってるのでしょう?」
 ミライはレジカルマへ寂しそうな微笑を浮かべて謝ると、クッキーちゃんハンマーモードの柄をぎゅっと握り締める。
「だってあなたは、ドラゴンだもの」
 と、力いっぱい振り抜かれた打撃部分より放った轟竜砲は、レジカルマのどっしりした前右脚を容赦なく撃ち貫いた。
「吼えなさい、ダイヤモンド・ハンマー!」
 ダイヤモンド・ハンマーをぶんっと振り下ろすのはフローネ。
 『砲撃形態』と化した金剛石から発射された竜砲弾が、痛みで暴れたレジカルマの前左脚に命中して、爆ぜた。
「それではケルベロスライブ、スタートデース! ロックンロール!!」
 シィカは弦楽器に変形したジェットパックデバイスを、陽気に高らかに奏でている。
 もちろん、ヌンチャク型如意棒で暴れるレジカルマをいなしつつ、手痛い反撃を見舞うことも忘れなかった。
「全員の輸送、終わったよ。戦場を離脱してくれたから、大丈夫」
 そう仲間たちへ報告して、戦いに加わるのはマヒナ。
 まずはエクトプラズムによる疑似肉体をせっせと作って、前衛陣の異常耐性の増加に努めた。
 未だに青い顔をしているアロアロだが、こちらも懸命に勇気を振り絞って神霊撃を繰り出している。
 非物質化した爪はレジカルマの魂を鋭く引き裂いて、かなりの激痛を奴にもたらした。
「生まれ直し……ですか……」
 刃蓙理は心底呆れた風に呟いて、日本刀を素早く鞘から抜き払う。
「だからあなた達は人間に負けるのです……」
 細い三日月のように緩やかな弧を描く斬撃が、レジカルマの後ろ脚の腱を的確に斬り裂いて、その動きを鈍らせた。
「さて、目にもの見せてやりましょうか」
 フェアリーブーツを履いた足で、機敏に天高く飛び上がるのはミチェーリ。
 美しい虹を纏いながら急降下して、レジカルマの脳天へ鋭い蹴りを浴びせた。
「起き抜けで悪いけれど、また眠ってもらうわ。それもずっとね」
 かぐらは経験に裏打ちされた自信を覗かせつつ、精神を極限まで集中させる。
 その集中が極限に達した時、一切手を触れぬままのレジカルマが突如爆発した。
「子供じみた遊びだが……コイツはちっと厄介だぜ?」
 魔力で生み出したトランプを手裏剣の如く投擲するのは泰孝。
 ぶつけたレジカルマに無理矢理付与したトランプの加護が7を示す障壁となって、奴のどんな攻撃でも邪魔をしてくれるだろう。
「チマイ翼じゃ飛んでる相手を追えないか? 直接殴れず残念だなぁ、ウスノロが!」
 また、泰孝はレジカルマが果たして飛べるかどうか見極めるべく、自分もデバイスを駆使して空中から挑発もしていた。
「眠りを邪魔する奴は許さん!!」
 実際のところ、元々寝起きで機嫌など最悪なレジカルマだから、怒りのままに炎を吐きつけていること自体が果たして飛べないからなのか判断できない。
 もしかすると、半分寝ぼけていて飛べることを忘れている可能性もある。
 それならそれで、より一層短期決戦に挑む重要性が増すのだった。


 先発隊から引き継いだレジカルマとの戦いは続く。
「良い加減眠らせろ……!!」
 ところ構わず炎を吐き散らかすレジカルマはまさに怒り心頭に発していたが、ケルベロスからしてみれば八つ当たりにも程がある。
 勝手にレジカルマを生まれ直させて『起こした』のは、邪樹竜クゥ・ウルク・アンと樹母竜リンドヴルムの仕業に他ならないのだから。
 ともあれ、そんな他の16体の魔竜に負けず劣らず個性的なレジカルマを放っておくわけにもいかないので、8人は攻撃の手を緩めない。
(「なんか、さっきより動きが機敏になってきたような……」)
 レジカルマが徐々に本来の力を取り戻しつつあるのでは——と危惧して、刃蓙理は後衛陣へオウガ粒子を振り撒いている。
「紫水晶と青氷壁が共に砕き! 道を拓きます!」
 フローネはアメジスト・ビームシールドを衝角状に展開して、突貫を仕掛ける。
「私達の力で、凍てつく海に進路を拓く!」
 ミチェーリもバトルオーラを片腕に集中させると、衝角にした貫手を叩き込む。
 アメジスト・ラムとледокол(リェダコール)の合わせ技が、まるで砕氷船のような勢いでレジカルマの両前脚を打ち砕いた。
「後先考えない刹那的な生き方がロックデスヨー!」
 と、拳でレジカルマを殴りつけるのはシィカ。
 強烈な打撃のみならず、握りしめていたエレメンタルボルトが属性の爆発で追い打ちをかける。
(「あなたの初めて聞く歌。そして一緒に歌う歌……あなたに最期を届ける歌」)
 ミライは透き通るような声音を力強く響かせて『Fenrir』を歌い上げる。
(「全部受け止めよう」)
 牙を抜かれ、足枷を嵌められても尚、闘志を絶やさない狼——表面上の歌詞にどことなくレジカルマを重ねながらも、それでいて裏の意図たるポンちゃんを想いつつ、可愛らしい音の奔流による衝撃を与えるのだった。
「ナル、力を貸して」
 マヒナは心の中に故郷の波打ち際を描いて、いたずらな波を顕現させる。
 意思を持つかのように自在に動くさざ波がレジカルマの足元に纏わりついて、動きを阻害した。
 アロアロも主の意思に忠実に、物言わぬ祈りで自身の傷を癒しながら決して倒れまいと踏ん張っている。
「死灰復然……もう2度と、燃え上がりませぬように……」
 ぶわっとどこからともなく舞い上がってきた塵を、日本刀へ集結させるのは刃蓙理。
 塵でできた薄い刃は刀身から手裏剣のように空を切って、レジカルマの厚い鬣を斬り裂いた。
(「回復を手伝いたいところだけど、後少しで倒せそうな感触もあるし……」)
 かぐらは自分や仲間たちの負傷具合を気にかけるも、思い切って攻撃を続ける。
 雷の霊力帯びしゾディアックソードの刃先を向けると、レジカルマの喉元目掛けて神速の突きを放った。
「ま、せいぜいあの世で他の奴らと仲良くするんだな」
 トドメとばかりに泰孝が繰り出したのは、エクスカリバールでのフルスイング。
「フゴッ……!」
 釘の生えた鈍器がレジカルマの顔面へ容赦なく減り込んで、それがリンドヴルムの胎で生まれ直したレジカルマの最期となった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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