チョコレート・コスモス

作者:四季乃

●Accident
 その日、古都はチョコレートの香りに満ちていた。
 石畳の町並みを彩るは黒紫色をした一分咲きのコスモスで、チョコレートの香りがすることから「チョコレートコスモス」と呼びならわされる。
 花の開花に合わせてチョコレートを売り出したところ、観光客の食いつきが良く例年よりも菓子の売り上げが多かったことにあやかり、各店舗で競うようにチョコレートを使用したスイーツが売り出された。この町で「チョコレートは二月のバレンタインより夏の終わり」そんな風に地元の人たちに根付いた頃、ついに今年から「チョコレートの市」なるものが開催される運びとなったのだ。
 発足のきっかけともなった菓子司「秋月」の若旦那も、それはもう朝から大忙しで休む暇もありはしない。若旦那自ら店先にアンティーク調のリヤカーを引いてチョコレートコスモスをたっぷりと乗せると、その隣に並べた長椅子に赤い毛氈を敷き、和傘を広げる。赤い傘の下から蒼穹を仰いだ若旦那は目口を和らげた。
「ああ、いいお天気ですねぇ。良い日になりそうだ」
 その時だった。
 さわ、と背後で何かが動いた気がして、誰ぞ挨拶にでも来たのだろうかと振り返った。百七十を少しばかり超える若旦那よりうんと背の高いそれは、風にそよぐたびにチョコレートの甘い香りを棚引かせ、呆気に取られる間もなく”ぱくり”と呑み込んだ。

●Caution
「目の前で人が食べられてしまったことに周囲の人々は大わらわ。蜘蛛の子を散らすように逃げ出していき、古都は一転して閑散としてしまいました。無人の古都を練り歩くチョコレートコスモスの攻性植物は、さぞ恐ろしかったことでしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はそう締め括った。ふぅ、と小さく嘆息したのが聞こえた気がして、隣で静かに佇んでいたマロン・ビネガー(六花流転・e17169)はセリカの物憂げな横顔から、集まったケルベロスたちの方へ視線を巡らせると「ですが」「ある意味幸いかもしれません」口を開いた。

「チョコレートコスモスの攻性植物は、和菓子屋さんの若旦那を宿主として取り込んでしまいました。そのため、彼は攻性植物と一体化してしまい、普通に倒してしまうと共に命を落とすでしょう」
 神妙な面持ちで頷く皆を見渡し、マロンは続ける。
「ですが、相手にヒールを掛けながら戦うことで若旦那を救出できる可能性がうまれるのです」
「そうですね。ヒールグラビティを敵にかけても、ヒール不能ダメージは少しずつ蓄積していきますから」
 そのため、ケルベロスたちは攻性植物と付きっきりで対峙する必要性が出てくるのだ。現場から一般人が逃げ出してしまったのであれば、それは避難誘導などのひと手間が省かれるということ。戦いに専念できるという視点においては、かえってこちら側に好都合となる。
「敵は一体のみですが、各店舗に配置される予定だったリヤカー十台分のチョコレートコスモスが一斉に攻性植物と化してしまった影響か、それらは合体したように身の丈三メートルほどの巨大なものに変質しているようです」
「細い茎が鞭みたいにしなって巻き付いてきたり、花が群集となって手裏剣の雨みたいに降ってきたり……あと光を吸収して光線を撃ち込んできたりといった攻撃を仕掛けてくるみたいですので、くれぐれも気を付けてくださいね」
 そう強い敵ではないだろうが、なにぶん現場は石畳の古都。町家の屋根上から攻撃を仕掛けるのも考慮して臨んでほしい。
「どうか皆さん、可能であれば若旦那さんの救出をお願いします」
「攻性植物を倒して若旦那を救い出す。それから疲れた体を甘い物で癒すというのは、どうでしょう?」
 両手を合わせてふんわりと微笑んだマロンの相好に、ケルベロスたちは釣られたように笑みを零した。


参加者
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
隠・キカ(輝る翳・e03014)
レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)
パンツ・ミルカ(鈴蘭の癒乙女・e38019)
ティニア・フォリウム(小さな鏡・e84652)

■リプレイ


 蒼穹を瞬く一条の光が、秋風にそよぐ黒紫色のコスモスを貫いた。
 小さな羽ばたきを起こして飛び上がった光のごとし白き鳩は、散りゆく花びらを掻い潜り飛翔する。美しい旋回ののち己の左肩で両翼を休めるに至った白鳩の幻影を一瞥し、町家造りの屋根上から攻性植物を見下ろしていたレンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)は口端を吊り上げた。
「オレはSchokoladeに目がなくてね。あの魅惑の香りに誘われちまったぜ」
 はらはらと花びらを零す攻性植物は、まるで血の涙を流しているようにも思われたが、石畳に儚く散る姿は桜のそれのようで美しい。
「こういう香りの植物もあるんだね」
「わ、コスモスってこんな色もあるんだ。こんな所で頂くチョコは美味しいだろうな」
 石畳にゆるりと着地したアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)と小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)の二人は、花びらを攫って行った秋風に孕む甘い香りに、思わずと言った風に双眸を和らげる。しかし細かく裂けた小葉を茂らせる蔓のような茎が、ざわりと不自然に揺れたことに気が付いた。
「……と楽しむのは後回しだ。まずは人助け、行ってみようか」
 アンセルムの言葉が聞こえ、パンツ・ミルカ(鈴蘭の癒乙女・e38019)は自分の心臓がことりと跳ねたような感覚を覚えた。自覚すると、急に拍動が姦しくなってくる。
「はじめてのいらいがんばるなの。です」
 緊張を抑えるように、両手でアニミズムアンクを握りしめて深呼吸を繰り返したあと、まず皆の様子が良く見える後衛に退き、己の精神を安定させる鋼の意志を発動。
 エクトプラズムの具現化力を高めるパンツの一方。
「楽しい楽しいチョコレート市と秋月さんになんて事してくれてるんですか……少しだけ我慢してくださいね。助けますから」
 不気味に蠢くチョコレート・コスモスの挙動にいち早く反応したエルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)が魔法の光線を撃ち込むと、勢いを殺された蔓茎が石畳の上で魚のように跳ねた。
「あまいにおい。すてきな街も秋月も助けるよ」
「人気が出るのも頷けるけど……攻性植物まで出て来ちゃうのは困っちゃうね」
 隠・キカ(輝る翳・e03014)は、お友達の攻性植物irisを収穫形態に変じさせ、聖なる光を膨らませてゆく。涼香は指先一つの動きで黒鎖を巧みに操り、螺旋を描くように魔法陣を展開。
 身体をあたたかに包み込む二人の守りを受けたセレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)は、その真っ直ぐとした青き瞳で敵を正視すると、ゾディアックソード・星月夜を高々と突き上げる。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、必ず救うと誓いましょう!」
 刹那。地を蹴ったセレナの躯体が閃光のように掻き消えた。
 宣誓とともに魔力を巡らせた彼女の身体能力は限界を突破、高められた能力全てを放出するかのごとく勢いで真一文字に敵を引き裂いたのだ。懐に潜り込まれた攻性植物からパッと黒紫色の花びらが一斉に散る。
 しかし。
 天に向かって跳ね上がったそれらは空中で静止したかと思うと、次の瞬間、地面に吸い寄せられるように落ちてきた。その激烈で人工的な動きに気配を察したウイングキャットのねーさん、そしてセレナと涼香たち盾役が仲間の前に飛び出すも、身を貫き裂く痛みは思わず眉根が寄るほどの苛烈さを極めている。
「皆、大丈夫かい?」
 ウィッチオペレーションで敵へのヒールを施していたアンセルムの問いに、しっかりとした返事が寄越される。彼の傍らを大きな翅を翻してひらり舞うように抜けていったティニア・フォリウム(小さな鏡・e84652)は、体勢を整えたねーさんが清浄なる風を起こして回復に当たったのを見、敵を振り返るとゆるやかに笑んだ。
「お菓子の名前をしたお花かぁ。いいね、甘い香り大好きだよ」
 総身を小刻みに揺らして光を収束するさまに目を細め、レイピアの切っ先で宙を掻く。
「チョコはほろにが味もあるって言うけれど」
 未だ見えぬ宿主――秋月の命を救い出す、そのために。
「……苦い結末は迎えさせたくないね」
 風を切って描かれた癒しのルーンは、昼日なかにも関わらず眩い光を帯び放つ。その輝きの中に躊躇いなく飛び込んでいったレンカは、空中で回転しその遠心力を利用して真上から石火の蹴りを繰り出した。ズン、と圧し掛かるような重力を受けて、大きく凹んだ攻性植物が、反動で光を吐き出す。
「おっと」
 だがレンカは寸前で半身を引いてそれを交わすと、入れ違いで前に出たセレナが光線を剣で受け止めながら片手で猟犬縛鎖を放った。黒鎖に縛り上げられたひと塊が、根元から千切れて地に落ちる。ティニアのタイタニアルーンが攻性植物を包み込んだのは、その時だった。
「あ」と小さく声が漏れた。それは大きく凹んだ攻性植物の”頭”がポコンっと盛り上がったからでも、千切れてえぐれた箇所から新しいひと塊が生えたからでもなく。
 歪に再生するチョコレート・コスモスの奥で、生気を失った男性の青白い横顔がほんの一瞬、見えたからだった。
「あなたのこと、きぃ達が絶対助ける。だから負けないで――あきらめないで」
 玩具のロボ「キキ」を抱きしめながら声を上げたのはキカだった。彼女は仲間たちへのヒールに集中する一方で、ずっと若旦那の姿を探していた。irisがアンセルムとティニアを聖なる光で照らし出すのを視認しながらも、懸命に呼び掛ける。
「秋月が準備をがんばったチョコレート市、一緒に楽しもう!」
 ぴくり、と薄い瞼が僅かに動いた――そう見えたと思った瞬間、蔓のように蠢く茎たちが秋月の姿を覆い隠してしまった。エルムは咄嗟に禁縄禁縛呪にてそれらの塊を鷲掴みにしてみたが、敵の背後から伸びた別のひと塊が大きな鉤爪のように襲い掛かってきた。
「……これはずいぶんと、手厳しいですね。おもちゃを取り上げられそうになった駄々っ子のようです」
 淡い吐息交じりに零れたエルムの独語に、アンセルムが笑みを零す。
「なるほど、ひとり占めしたいんだね」
 ウィッチオペレーションでヒールすると、深い黒紫色の花びらがどす黒いものに変わる。意識して見れば紫の一滴を落としこんだように見えるはずのコスモスは、癒すたびに気高さを失っていくように思われた。

 光が弾ける。
 蒼穹にかかる太陽を奪ったような、瞼すら焼き切る強烈な光線が、まだうら若き躯体を無慈悲に貫いていく。
「若旦那殿を救うまで、この私……いえ、盾は倒れませんよ」
 石畳に剣先を突き立て上体を起こすセレナ。屹然として立ち向かう背中へと、パンツが大自然の護りを付与。
 ずっと、何か取り返しのつかない事をしていたのではないかという不安と罪悪感に苛まれていた。だからこそ、誰かを助け癒す事が心の影を払拭できる方法だと――古都の自然と己を、そしてセレナを繋ぐこの不可思議なあたたかさを信じている。
「いまは、あたしにできることを」
 失った自己を埋める存在証明――そのためのヒールを。パンツは懸命に取り組み、ひたすら臨む。そんな想いが腹の底からじわじわ昇ってくるような、ひだまりのようなやさしさにセレナはもちろん、涼香とねーさんたちも感じていた。
 だからこそ、各々が自分の役割に徹することが出来るよう。
「ねーさん、お願いね」
 ペトリフィケイションで敵の意識を逸らしている涼香の言葉にゆっくりと瞬きしたねーさんは、身を翻すと天高く飛び上がった。自分たちを癒してくれる、そして援護してくれるキカ、エルム、パンツらに邪気を祓う羽ばたきを起こし相互に支え合う。
(「花も甘味も大好き」)
 コスモスだって攻性植物じゃなければ愛でたかった。
 ティニアはそう憤慨しながらも、敵を癒すルーンの手を決して抜くことはない。ひらり、ふんわり。まるで花びらが揺蕩うように軽やかに宙を巡り翅を魅せる。ティニアの瞬きにチョコレートの甘い香りが折り重なって、なんだか不思議な気持ち。ほう、と小さく吐息を漏らしたキカは、ふるふるっとかぶりを振ると、釣鐘の友達が貸してくれる、癒しの力をキキと共に天に掲げて請う。
「みんなに届いて――幸せなひかりの彩、思い出の声」
 黒紫の大人の色。コスモスが犠牲になるのは悲しいけれど。
(「きっと、秋月が死んじゃうほうが、コスモスだって悲しいから」)
「Schokoladeの香りがする花とか世の中には珍しー花があんだな。色合いもシックで中々オレ好み」
 思考に重なった言葉に、そろりと視線を巡らせれば、ちょうどレンカが左手を振り払ったところであった。優雅に両翼を拡げて飛び立った白鳩は、真っ直ぐと攻性植物に向かってゆく。
「ま、デウスエクスに憑りつかれてンなら、もうただの化け物、屠ってやるだけさ」
 その軌道は、ためらいなく攻性植物を打ち破ると、ゆるやかな弧を描いて天へと抜けていった。すかさずエルムのガネーシャパズルから放たれた稲妻は竜となり、攻性植物を更に削っていく。
「あっ……みえた、よ」
 たどたどしいパンツの言葉に視線が集中する。ちいさな指先が指し示す先にあったのは、ぐったりと絡め取られた若旦那・秋月の上体であった。下肢は未だコスモスに深く呑まれてはいたが、だらりと零れそうな体勢で内から出てきた宿主に攻性植物は”焦り”を見せる。
 わたわたとバタつくたびに甘い香りが漂うが、それは初めて遭遇した際に香ったものとは比べ物にならないほど、質が落ちていることが分かった。仲間へ放たれる花びらの雨もどこか気迫に薄れている。アンセルムは敵へのヒールを優先して動いたが、決着がつくのもそう遠い話ではないだろう。涼香もそうと感じ、回復不可ダメージの蓄積具合をよく観察しながら、猟犬縛鎖にて攻撃に回る。
 くるくると舞い踊るパンツからフローレスフラワーズのオーラが降り注ぐ。コスモスの花びらも相まってそれは華やかで、傷付いた者たちの心まで支えるようだった。ねーさんはするりとそれらの雨を縫うようにくぐって敵の背後に位置取れば、死角と思しき方向よりキャットリングを撃ち出した。それは若旦那の身体を繋ぐ蔓を叩き切るに至ったのだ。ぐぐ、と更に身体が前面に押し出されたところをセレナの冴え冴えとした銀閃月が奔る。かろうじて細い蔓に支えられているといったところで、ティニアがヒール。
「あともう少しですよ、若旦那殿!」
「がんばって……!」
 セレナとキカの呼び声に、秋月の口元が苦く引き結ばれる。それは悪い夢にうなされているようにも、仕事で疲れて泥沼に落ちるような表情にも見えて複雑だ。
 けれど、まだ希望はある。
 そう確信したエルムはファミリアロッドを掌でシマエナガに戻すと、ちいさき白きふわふわは魔力を胸いっぱいに含んで飛翔。どちん、と全身でぶつかって秋月の首に絡みついた蔓茎を攻撃すると、援護に回ったねーさんの爪が漸う引き裂いた。
「好機!」
 ぐんっと前に出たセレナは閃光の如く冴えわたる一閃にて敵を両断。irisを放ったキカのストラグルヴァインは、空中で真っ二つに分かれた残骸に絡みついて一瞬で花びらの残滓と化した。
 はらはらと乱れる花びらの下、レンカが秋月に絡む塊を蹴り抜くと、吹き飛んだそれらが最後の足掻きとして不穏な気配を見せたので即座に涼香がペトリフィケイションにて焼き切った。
 天から降り注ぐチョコレート・コスモスの雨の中で、アセルムとティニアは視線を交わす。次瞬、大事を取って敵のヒールを施すアンセルムの一方、ティニアはレイピアを跳ね上げる。剣先から放たれる美しき花嵐。
「いわゆる贐というやつだね」
 幽かな音が立つ。
 それは攻性植物が蒼穹に還る足音であり、囚われた宿主が古都に帰ってきた音でもあった。


「どうぞごゆっくりお楽しみください」
 飲み物を配り終え、柔和な目口をいっそう和らげた若旦那・秋月は微笑した。パンツが一生懸命ヒールをしてくれたので、彼の顔色はずいぶんとよいものになった。
「大福にチョコレート……和菓子と洋菓子のコラボですか。意外な組み合わせですが、とても気に入りました。クリスマスに和菓子のケーキのような物もありかもしれませんね」
 食べることも甘いものも好きなため、至福そうに表情を綻ばせるセレナの隣で、レンカは黒文字楊枝を刺したチョコ大福と睨めっこしている。
 ぱくり。
「……もちっとした食感にトロッとしたSchokoladeの食感……」
 大福にかぶりついたレンカは、カッと双眸を見開いた。
「この組み合わせは……アリ! だな! クセになっちまうかも!」
「気に入って頂けたようでうれしいです。そういえば、こういうのもありますよ」
 秋月がショーケースから取り出したのは、ピンクの肉球が愛らしいお饅頭であった。目ざとく反応したのは、ねーさんを共に床几に並んで座っていた涼香だ。
「猫の手まんじゅう? わ、それください!」
 黒地や白地、三毛模様まであってずいぶんと猫好きのことを分かっているようだ。選ぶのも楽しくって心が浮き立つように姦しい。
「お茶と一緒に楽しんだら、後はコスモスみにいこうか? ねーさん」
 元通りになった古都の町並みを彩るコスモスは、きっと美しいだろうから。

「rakastan suklaata♪」
 馴染みのない、けれど知っている声が風と共に通り抜けていった。
 幸福そうな顔でケーキを頂いていたエルムがふと視線を上げると、年相応に目を輝かせて店のひとつ一つを見て回るパンツの姿を見つけた。どこの国の言葉だろうか、早口に口走っている言葉は聞き取れなかったが、きっとこの町の文化を、チョコレートを楽しんでいることだけは、よく分かった。
「美味しいですね、シュネー」
 膝の上に乗せたファミリアもぱくぱく啄んで嬉しそう。珍しい変わり種ばかりを選んで食していたアンセルムと、二人のご相伴にあずかるティニアもその光景には顔がゆるんでしまう。そのとき、脇に置いた持ち帰り用のチョコレート大福が目について、ティニアが肩を竦める。
「カロリーは高そうだけど甘い香りには勝てなかったよ……」
「でも、三人で話しながら食べるともっと美味しいね」
 アンセルムの言葉に「確かに」笑いを含んだ言葉が重なった。

 夏空の青い瞳に太陽を煌めかせ、キカはロボのキキをぎゅうっと抱きしめる。秋月自ら作ったという菓子と彼とを何度も交互に見て、ほうっと甘い溜息を零す。
「おいしいお菓子を作る魔法の手。あまいアイデアでいっぱいの頭の中。ファンになっちゃうね、キキ」
 キキを目線の位置まで抱き上げて、キカはきらきら瞬く。微笑ましそうに表情を緩めていた秋月を振り返り、キカも眦をやわらげる。
「これからも、すてきなお菓子を作ってね」
 秋月はゆっくりと芽吹く花のような笑みを浮かべて、ひとつ頷いた。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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