ビルシャナは可愛い下着こそ至上と説く

作者:紫村雪乃


「女性の下着は?」
 闇に沈む倉庫の中。響きわたる声が問うた。
 声の主。どうやら男であるらしい。らしいというのは、男が人の姿をしていないからで。
 男は汚れた羽根に覆われていた。鳥怪である。ビルシャナであった。
 そして、彼の前には異様な雰囲気を持つ十数人の集団があった。年齢は様々であるが、全員、男である。
「可愛いもの!」
 男たちが叫んだ。
「そうだ。女性の下着は可愛いものに限る! それ以外は不要!」
 ビルシャナが喚く。そして命じた。
「可愛い下着こそ至高! それ以外の下着を身につけてうる者に天誅を!」
「おお!」
 信者たちが叫び声をあげた。


「鎌倉奪還戦の際にビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はいった。
「悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事が、今回の目的。このビルシャナ化した人間が周囲の人間に自分の考えを布教している所に乗り込む事になります」
「どのような考え?」
 問うたのは黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)であった。
「女性の下着は可愛いものこそ至高。それがビルシャナ化した人間の考えです」
「可愛い下着?」
 訝しげに紫織は眉をひそめた。以前、白の下着が至高というビルシャナが現れたことがあったからだ。
「今度は可愛い下着にこだわりのあるビルシャナが現れたのね」
「ええ」
 うんざりしたようにセリカは溜め息を零した。
「ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、ほうっておくと一般人は配下になってしまいます。ここで、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が配下になる事を防ぐことができるかもしれません」
 セリカはいった。ビルシャナの配下となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのようになってしまう。そうなれば厄介であった。
「インパクトのある主張……」
 紫織は思った。可愛いものではない下着を見せつけて説得すればいいのではないかと。
「ビルシャナさえ倒せば一般人は元に戻ります。配下が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 紫織の思惑など知らず、セリカはいった。
「ビルシャナの戦闘方法は?」
「破壊の光を放ちます。さらには炎も。そして経文を唱え、相手の心を乱します」
 周りにいる人間の数は十ほど。配下となった場合、多少は強化されるようであった。
「教義を聞いている一般人はビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得することは出来ないでしょう。重要なのはインパクトになるので、そのための演出を考えてみるのが良いかもしれません」
 セリカはいった。やはり下着を見せつけ、挑発すればいいのだと紫織は思った。
「先日と同じように襲われてしまうかしれないけれど」
 紫織は呟いた。


参加者
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)
黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)
ルティア・ノート(剣幻・e28501)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)
火之神・陽大(流離の復讐者・e67551)
 

■リプレイ


 深夜の倉庫。
「かわいい下着を」
 声高に男は叫んだ。ビルシャナである。
「かわいい下着を」
 狂気をはらんだ目で信者たちもまた叫んだ。刹那である。
「いいや」
 静かな声がその場に響いた。
「……誰だ、お前らは?」
 視線を転じたビルシャナは見た。五人の男女の姿を。
「火之神・陽大(流離の復讐者・e67551)。ケルベロスだ」
 声の主がこたえた。
 男だ。ぼさぼさの髪にだらしない服装。が、その瞳には煌めく光があった。誇り高き男のみ持ちうる光が。
「可愛い下着だけが素晴らしいとは限らないぜ」
「好みはそれぞれでいいのですが…自分の好み以外は不要、とまで言ってはいけませんよね」
 ケルベロスの一人、ルティア・ノート(剣幻・e28501)が、薄暗い倉庫内においても鮮やかなプラチナブロンドの髪を揺らしながらいった。
「可愛い下着、ねぇ」
 ふふん、と娘が笑った。紫髪紫瞳の幻想的な雰囲気をもった美しい娘である。名を黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)というその娘は、笑んだまま、しかし紫瞳は冷たく光らせ、続けた。
「子供とか、可愛い子が着けるならそれでもいいかもしれないけれどね?」
「可愛い下着もふわりは大好きだけどー、エッチな下着で男の子とかおじさんが夢中になってくれるのも大好きなのー♪」
 四人めのケルベロスである盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)が信者たちに微笑みかけた。蕩けるような微笑みである。数人の信者が慌てて股間を手でおさえた。
「邪魔する気か?」
 甲高い叫びをあげ、ビルシャナが躍りかかろうとした。すると、その前に一人の女が立ちはだかった。
 整いすぎた冷たい美貌といい、白磁の肌といい、どこかマネキン人形を思わせる娘である。名をリティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)といった。眼鏡に黒のナース服といういでたちである。
「そっちこそ邪魔はさせないわ」
 リティはいった。そのリティの瞳には、しかし一抹の翳りがある。
「かわいいって……受け手の主観で大きく変わる曖昧な基準だね。これは結構……やり辛いかも」
 けれど、やるしかない。瞳に浮かぶ不安を払拭すると、リティはビルシャナを睨みつけた。


 ふわりが進み出た。そしてまとったコートをはだけてみせた。現れたのは下着のみの輝く裸身である。
 おお、と信者たちが歓声をあげた。ふわりのパンティが紐状であったからだ。さすがに秘肉は隠されているが、ピンク色の恥毛は倉庫の光にさらされていた。
「可愛い下着も良いけど、こういうエッチな下着で女の子の魅力を見せるのも、ふわりは良いなーって思うの」
 ふわりは腰をくねらせた。秘肉が見えそうになるが、見えない。
「可愛いだけの下着だと、こういうのも出来ないの♪」
「可愛い下着もいいけど…オトナな下着、見たくない?」
 紫織がいった。そして、焦らすかのようにゆっくりと衣服を脱ぎはじめた。信者たちは固唾を飲んでその様子を見つめている。
 現れたのは、細身ではあるがしなやかな肉体であった。身につけているのは艶やかな深紫の下着である。猫を思わせる紫織の美貌とあいまって、それは凄まじく扇情的な姿であった。
「……下着もいいですけど」
 ルティアが恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
「はいていないのもいいのではないでしょうか。つまり、私は今、下着を着けていません」
 耳朶まで赤く染めながら、ルティアはドレスアーマーのスカートの裾を少し持ち上げてみせた。
「やめろ! やめないと殺す!」
 ビルシャナが叫んだ。するとリティが冷然と告げた。
「あなたの相手は私よ。説得の邪魔はさせない。内蔵兵装ロック解除……グラビティフィールド展開。放電ユニット起動、逃がしはしない」
 リティの手から放電しつつ、綱のようなものがのびた。雷でつくられた鞭である。
 紫電を散らしながら雷鞭が疾った。縦横無尽に舞う鞭を避けることはデウスエクスたるビルシャナにも不可能だ。撃たれたビルシャナが羽毛を舞い散らせながら苦悶する。
「くそっ!」
 ビルシャナの目から怪光が迸り出た。浴びたリティが吹き飛び、倉庫の壁に激突する。
「くっ」
 リティの端正な顔がゆがんだ。さすがはデウスエクス。恐るべき威力であった。一撃で体力の半分ほどがもっていかれている。
 治癒なしに後二度続けて攻撃を受けた場合、待っているのは確実なる死であろう。スーパーコンピューターを凌ぐリティの計算能力は冷徹に結果を導き出していた。それでもーー。
「仲間の邪魔はさせないわ」
 リティは地を蹴った。ドラゴニックパワーを噴射、加速させた巨大な戦斧ーー重力鎖集束破城超鋼槌をビルシャナに叩きつけた。
 咄嗟にビルシャナは腕を交差し、ガード。ビキリッとビルシャナの腕の筋肉がひしゃげる音がした。
「ええい、面倒な」
 ビルシャナが紅蓮の火球を放った。


 おお、と信者たちが声を発した。ふわりが紐状の下着をずらしたからだ。すでに濡れそぼった秘肉が露わとなる。
「えへへ、見えちゃったの! ねぇねぇ、エッチな下着のふわりと遊びたくなってくれたら、ふわりは嬉しいのー♪」
 ふわりは自ら秘肉を、にちゃあといやらしい音をたてて指で開いてみせた。
 隣では紫織が右手で胸を揉みしだいている。左手はパンティの中に差し入れ、秘肉内に指を潜り込ませていた。
 パンティの上かはでもわかるほど紫織の指が蠢いている。くちゅくちゅと湿った音がした。
「ふふ、好きなだけみていいのよ。見るだけじゃなく手を出してしまってもいいわよ?」
 寒気のするほどただれた笑みを紫織は綺麗な顔に浮かべた。
 またその隣。
 おずおずと、伏し目がちにルティアは信者たちを見た。全身を震わせ、恥ずかしさと罪悪感で今にも卒倒しそうに見える。スカートが持ち上げられ、股の付け根付近が覗いているが、まだ秘肉は見えていない。
「…確認してみますか?」
 泣きそうな声でルティアがいった。
 その後ろで、陽大はそろそろかと思っている。言葉だけより、信者を誘惑している女性と絡みながら信者を煽った方がいい、というのが陽大の考えであった。
 同時に陽大はビルシャナの様子も窺っている。その視線の片隅、倒れたリティにとどめを刺すべく駆け寄るビルシャナの姿が映じた。
 陽大の胸を悔恨の思いが駆け巡った。
 通常、デウスエクスに対するに、ケルベロスは最小で四人は必要だ。それほどの大敵を相手どるに、たとえ牽制とはいえ一人に任せたのが間違いであった。
「そうはさせるか!」
 振り向きざま、陽大は人差し指をビルシャナにむけた。
 ロックオン。
 まるで銃口のように陽大の指先から火が噴いた。唸り飛ぶ炎弾がビルシャナを直撃する。
 爆発。凄まじい衝撃に、ビルシャナが仰け反った。
「くそっ!」
 ビルシャナが怪光を放った。灼熱の光を浴びたケルベロスたちが悲鳴をあげる。
 そのケルベロスたちの悲鳴に驚いたか、それともビルシャナに恐れをなしたか、信者たちがケルベロスたちから離れた。洗脳から解かれたわけではなさそうだが、命に従うつもりもなさそうだ。説得がきいているのだろう。
 ルティアもまた振り向くと、剣を掲げた。彼女の身体より巨大で肉厚な剣ーー煉獄の魔剣を。
「コード申請。使用許可受諾。天地創造の力の一端、見せてあげましょう」
 ルティアは煉獄の魔剣で空間をかき混ぜた。剣には、一時的にではあるが天地創造の鉾の権能を宿らせてある。
「なにっ!」
 ビルシャナが呻いた。手足が動かない。空間そのものが凍結してしまっているのだ。
「かみさま、かみさま」
 ふわりの声がした。乙女のように天を仰いでいる。
「わたしのきらいなものぜんぶ、ぜんぶ、こわしてほしいの。わたしのかみさま、わたしだけのかみさま……おねがいなの」
 瞬間である。ふわりを中心にして、まるでガラスが砕けるように周囲の景色がひび割れていった。
 後に暗黒だけを残し、亀裂がはしる。それがビルシャナにまで到達した瞬間ーー。
「ぎゃあ!」
 ビルシャナが絶叫をあげた。他者からはわからないが、ビルシャナは自身が砕け散った幻に苦悶している。
「お、おのれ」
 激痛な歯噛みしつつ、ビルシャナは死の光を放った。ケルベロスたちの肉体を構成する細胞が滅殺される。リティもーーいや、陽大の。リティの前で陽大が立ちはだかっていた。
「たいした威力だ」
 陽大はニヤリとした。ビルシャナの怪光は範囲攻撃であるのに絶大な威力を秘めている。リティが浴びた場合、死亡は確実であった。
「もう一度だ!」
 陽大の指先から炎弾が放たれた。が、それはむなしくビルシャナをかすめて過ぎた。
「ちっ、しくじったか」
「いいえ」
 すれ違いざま陽大の頬にキスし、リティは駆けた。一瞬で肉迫し、抜刀。たばしる対デウスエクス高周波ブレードの刃が迅雷の速さでビルシャナを切り裂いた。
「もう終わりよ」
 紫織の蕾のような唇が声を紡いだ。それは禁じられた黒の呪だ。
「終わるのはお前たちだ!」
 ビルシャナの目がぎらりと光った。が、その目から怪光が放たれることはなかった。ビルシャナの顔が消失してしまったからだ。紫織が放った虚無空間に喰らわれてしまったのだった。
 首を失ったビルシャナがばたりと倒れた。


 戦いは終わった。ビルシャナは滅び、信者たちの洗脳も解けたようだ。
 倉庫を修復しながら、リティは辺りを見回した。説得役であった者たちの姿は見えない。興奮が冷めやらず、どこかにいってしまったようだ。
「あとでラボで臨時メンテしよう」
 薄暗い倉庫の中、寂たるリティは呟いた。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月4日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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