電動クーラーボックスが流した涙

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 その電動クーラーボックスは、何でも冷えた。
 冷えて、冷えて、冷えまくり。
 そのおかげで、売れて売れて売れまくった。
 だが、無駄に重く、場所を取った。
 それだけでなく、衝撃にも弱かったため、落下させたら、最後。
 あっと言う間に、廃棄処分。
 そのため、すぐに捨てられた。
 使い物にならなくなって、ゴミになった。
 しかも、処分に困るシロモノ。
 故に、小物入れと化していた。
 その場所が廃墟と化した後も、持っていかれる事なく放置され……。
 その場所に小型の蜘蛛型ダモクレスが現れ、電動クーラーボックスに機械的なヒールを掛けた。
「クーラァァァァァァァァアボックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電動クーラーボックスが耳障りな機械音を響かせ、民家の壁を突き破り、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「リンネ・リゼット(呪言の刃・e39529)さんが危惧していた通り、廃墟と化した民家で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、廃墟と化した民家の押し入れ。
 ここにあった電動クーラーボックスが、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、電動クーラーボックスです。電動クーラーボックスはダモクレスと化した事で、ロボットのような姿をしています。今のところ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われてしまうでしょう」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
リンネ・リゼット(呪言の刃・e39529)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)
 

■リプレイ

●都内某所
 電動クーラーボックスは、何でも冷えた。
 キンキンに冷えて、超サイコー!
 運動会でも、キャンプでも、大活躍!
 だが、無駄に重かった。
 シャレにならないほど重かった。
 そのせいで運ぶのも一苦労。
 別売りのカートを使わなければ、持ち運ぶ事が困難になるほど重かった。
 しかも、壊れやすかったため、すぐに使えなくなることが多かったようである。
「まさか、私が危惧していた通りのダモクレスが現れるとは……。正直、驚きましたが、事前に被害を食い止めれる事が幸いでしたね」
 リンネ・リゼット(呪言の刃・e39529)は事前に配られた資料を参考にして、仲間達と共にダモクレスの存在が確認された民家にやってきた。
 この民家は、しばらく前から廃墟と化しており、ほんのりとカビのニオイが漂っていた。
 そのニオイに耐えながら、リンネは警戒した様子で殺界形成を発動させ、廃墟と化した民家に足を踏み入れた。
 その間も、民家の奥から漂ってくるのは、不気味な気配。
 おそらく、その原因は押し入れの中にしまってある電動クーラーボックスから漂う残留思念。
 その残留思念を辿るようにして、リンネが廊下を歩いていった。
「クーラーボックスって持ち運んでナンボってやつだと思うんだけど、まさか繊細だなんてねー。何処で使うのが正しかったんだろ?」
 山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が、不思議そうに首を傾げた。
 何やらツッコミどころが満載のような気もするが、事前に配られた資料を見る限り、繊細だったのは電動部分。
 とにかく、壊れる。
 すぐに壊れる、
 ビックリするほど、脆かった。
 その上、水に弱かったため、雨の日は最悪。
 一瞬にして御陀仏、完全に機能停止であった。
 それ故に、クレームも多発したようだが、なんだかんだ理由をつけて、誤魔化す事が多かったようである。
「電動のクーラーボックスは便利そうだけど、やっぱりそう簡単に使い勝手が良いものの開発は出来ないみたいね」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が辺りをライトで照らしながら、何やら察した様子で答えを返した。
 もしかすると、メーカー側は、こう考えたのかも知れない。
 少しでも軽く、冷えやすく……。
 それは実にシンプル。
 言うだけなら、簡単な事。
 しかし、開発陣は、頭を抱えた。
 今の時点で、結構頑張っているのに、もっと頑張れと言われても、無理な話。
 だからと言って、上には逆らえない。
 故に、電動部分を軽くした。
 一番大切なコア部分を護っていた部分を取っ払って……。
 もしかすると、コア部分を剥き出しにした方が、逆に気を付けるようになるのでは……と淡い希望を抱きながら……。
 それは開発陣にとっては、祈りにも似た願いであった。
 理由は何であれ、間違った方向に突き進んだ結果が、コレである。
「電動クーラーボックスも、中々簡単には高性能の物も開発できないのね。まぁ、欠陥品は破棄される運命なのは仕方ないけど……」
 そんな中、リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、深い溜息を洩らした。
 その事に対しては同情するが、だからと言ってダモクレスになって良い理由にはならない。
 ましてや、街に繰り出し、人々を襲って、グラビティ・チェインを奪う事など許される訳がない。
 だが、ダモクレスにとっては、どうでもいい事。
 人々に復讐さえ出来れば、何の問題もない。
 それ故に、小型の蜘蛛型ダモクレスを引き寄せる結果を招いてしまったのかも知れない。
「デンドウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電動クーラーボックスが耳障りな機械音を響かせ、押し入れを突き破ってケルベロス達の前に現れた。
 電動クーラーボックスはロボットのような姿をしており、かなりゴツイ感じであった。
 それはヒーローものに出てくるロボットと言うより、工業用のロボットに近い感じであった。
「ふと思ったんだけれど……この箱って冷蔵庫と、どう違うんだい? 見た感じ、小さな冷蔵庫のように見えるんだけれど……」
 それを目の当たりにしたオズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、腑に落ちない様子で疑問を口にした。
 一見すると小型の冷蔵庫のようだが、何か違うのかも知れない。
 それが何処なのか分からないが、その可能性が高かった。

●ダモクレス
「クゥゥゥゥゥゥゥゥゥラァァァァァァァァァアボックスゥゥゥゥゥゥゥ!」
 そんな中、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
 それは質問の答えではなく、単なる攻撃ッ!
 そのビームは超強力な上に、超冷え冷え。
 その場にあるモノが、すべて凍りつくほど、冷たいビームであった。
 それはケルベロスにとって、最悪の攻撃ッ!
 例え、避けたとしても、一時的に指の感覚がなくなるほど、強力な攻撃であった。
「さぁ、行きますよ、氷雪。共に頑張りましょう」
 リンネがウイングキャットの氷雪に合図を送り、冷え冷えのビームを避けて、攻撃を仕掛けるタイミングを窺った。
 それに合わせて、氷雪が清浄の翼を使い、羽ばたきで邪気を祓った。
「クゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥラァァァァァァァァァァァ!」
 その事に気づいたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせ、再び冷え冷えのビームを放ってきた。
「自然を巡る属性の力よ、私達を護る盾となりなさい!」
 すぐさま、リサがエナジープロテクションを発動させ、自然属性のエネルギーで盾を形成した。
 そのおかげで冷え冷えのビームを、ギリギリのところで防ぐ事が出来た。
「クゥゥウラァァァァァァァァァァァァァァボックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 それと同時に、ダモクレスが電動クーラーボックス型のアームを振り回し、ケルベロス達に迫ってきた。
 それに加えて、ダモクレスが冷え冷えのビームを放ってきたため、近づく事さえ困難な状況に陥った。
「うう、寒いっ! 物凄く身体が冷えるんだけど! これじゃ、戦う事も出来ないから、藍ちゃんまわりを暖めて上げて!」
 ことほがガタブルと身体を震わせながら、ライドキャリバーの藍に声を掛け、ダモクレスの注意を引いた。
 その間に、藍が一気に距離を縮め、デットヒートドライブを繰り出し、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
「ク、ク、クーラァァァァァァァァ……」
 その途端、ダモクレスが苦しそうに身体を震わせ、ぶすぶすと真っ黒な煙を上げた。
 だが、ダモクレスは諦めていなかった。
 冷え冷えのビームを放ちながら、自らの身体を冷やそうとした。
「何だか、燃えている部分にビームが当たってないような気がするけれど、ダモクレス的には問題がないのかな? それとも、冷やす事が重要なのかも……」
 それを目の当たりにして、オズが複雑な気持ちになりつつ、寒さから逃れるため、ウイングキャットのトトを巻くようにして暖を取った。
 トトも、同じような気持ちになっているのか、頭の上に大きなハテナマークが浮かんでいる様子であった。
「でも、これはチャンスね。自分の事を冷やすのに夢中で、わたし達の存在を忘れているようだから……。霊弾よ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 その隙をつくようにして、悠姫がプラズムキャノンを仕掛け、圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾を作って、ダモクレカの装甲を吹っ飛ばした。
「自分の身体を冷やしている暇なんてありませんよ」
 それに合わせて、リンネがスターゲイザーを仕掛け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りで、ダモクレスの動きを封じ込めた。
「クゥゥゥゥゥゥゥゥゥウラァァァァァァァァァァァァァア!」
 次の瞬間、ダモクレスが怒り狂った様子で、電動クーラーボックス型のミサイルを飛ばしきた。
 そのミサイルは、超重量級!
 天井を破壊し、壁を砕き、床に大きな穴を開けた。
 それだけでは収まらず、大爆発を起こして、大量の破片を飛ばしてきた。
「皆、落ち着いて。大丈夫だからね!」
 リサが仲間達に声を掛け、竜の翼から仲間の心の乱れを鎮める風を放った。
 そのおかげで仲間達の気持ちが落ち着き、冷静に物事を判断する事が出来るようになった。
「クゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウラァァァァァァァァァァァァア!」
 それと同時にダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、再びミサイルを発射しようとした。
「そう何度もミサイルを撃たせると思った? 残念だけど、さっきのミサイルで打ち止めよ」
 その事に気づいた悠姫がガジェットを拳銃形態に変形させ、魔導石化弾を発射し、ミサイルの発射口を石化させた。
「クゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウァァァァァァァァァァァ!」
 そのため、ダモクレスはミサイルを発射させる事が出来ず、イラついた様子でアームを振り回した。
「あれ? ひょっとして、これってトドメをさすチャンス? そうよね、藍ちゃん! こういう時は、どうすればいい? やっぱ、ビシィッと恰好よく決めるべきよね? ……って、話の途中なのに、ビームを放ってきたんだけど! もう、怒った! 許さないんだから!」
 ことほがムッとした様子で、ダモクレスにオウガナックルを繰り出し、コア部分を破壊した。
「クゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥラァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが断末魔にも似た機械音を響かせ、完全に機能を停止させて崩れ落ちた。
「やっぱり、家の中で戦うと、損傷も酷いね。爆発した分の破片は危ないので撤去しておこうか。割れた窓なんかもヒールしたほうがいいね」
 そう言ってオズがヒールを使って、辺りを修復し始めた。
 ダモクレスが暴れた事によって、辺りは酷い事になっており、修復するのも一苦労であった。
 それでも、オズ達は臆する事なく、仲間達と協力し合って、ダモクレスによって破壊された場所を修復するのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月24日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。