葡萄狩りの奇譚

作者:芦原クロ

 ブドウ狩りを目的に、一般客で賑わう、とある農園。
 定番のものから、種が無いもの、皮ごと食べられるもの、1粒で口の中がいっぱいになるほど大粒のもの、と。数種類のブドウが採り放題だ。
 どれも甘く、瑞々しい。
 他には、モモ、イチゴ、リンゴなど、農園の旬のフルーツを使った、スイーツやジュースが休憩スペースで製造され、売られている。
 訪れる一般客はとても楽しそうに、甘くてジューシーなブドウを味わっている。
『モモニモ、イチゴニモ、リンゴニモ、マケナイ! ブドウガ、イチバン! オイシイ!』
 謎の花粉のようなものが一房のブドウにとりつき、巨大化して動き出す。
 他のブドウをもぎ取り、一般人に無理矢理食べさせようとさせるが、力加減は出来ない様子で、ツルに絞め殺される者が多く出てしまった。

「天月・悠姫さんの推理のお陰で、攻性植物の発生が予知出来た。現場に急いで向かい、討伐を頼みたい」
「農園の葡萄が攻性植物になる。推理通りね。……推理通りなんだけど、ブドウを食べればいいの? ちょっと良く分からないわ」
 多少、困惑気味の天月・悠姫(導きの月夜・e67360)に対し、そうなるのも当然だとばかりに頷く、霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)。
「逃さず、確実に討伐するには、ブドウを沢山食べまくって弱体化させる方法がベストだな」
 そう伝えてから、簡単な説明を付け足す。

 配下は居らず、敵は1体のみ。
 ケルベロスたちが現場に到着する頃には、一般人の避難も完了している。
 無人の現場に到着後、攻性植物を弱体化させてから撃破すれば良い。

「とにかくブドウを食べ、あとは……本当に美味いようだが、美味さのアピールやブドウを褒める、という方法も有るな。そうしていれば、この攻性植物は逃げる気も無くなるほどに弱体化し、一気に攻撃が可能になる」
 つまり、美味しいブドウを、自由気ままに食べていれば良い。
「秋が旬のフルーツはどれも美味いが、コイツはブドウが一番だと言って欲しいんだろうな。……とは言え、避難所まで行かれては困る。被害が出る前に、攻性植物を倒してくれ」
 丁寧に頭を下げ、そう締めくくった。


参加者
セイシィス・リィーア(橙にして琥珀・e15451)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)
 

■リプレイ


(「まさかわたしが危惧していた攻性植物が本当に現れるとは、ね」)
 到着後、直ぐに出現した攻性植物を見て、天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が思案する。
 自分が推理した為、確実に討伐を終えなければ、と。
 責任感のようなものを抱いている悠姫の肩を、仲の良い綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)がやんわりと叩く。
「まずは、葡萄を沢山食べて、敵を弱体化させましょう」
 悠姫をリラックスさせようと、優しい笑みを浮かべて。
 ブドウを好きなだけ味わって良いのだと、思い出させてくれる、玲奈。
(「葡萄か、私も葡萄は大好きだから、沢山食べられるのはとても幸せね」)
 芳醇なブドウの香りが鼻先をかすめ、リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)は自然と口元を緩める。
「まー、みんなでお茶でもしながら葡萄食べましょ」
 ティーセットを用意し、試食スペースを利用して、ブドウのフルーツティーを作り始める、曽我・小町(大空魔少女・e35148)。
(「この時期は果物も美味しいよね~、葡萄狩りも良い感じかな~?」)
 セイシィス・リィーア(橙にして琥珀・e15451)は早速、一房のブドウを切り取る。
(「葡萄もとても美味しそうだし、この際だから葡萄を思いっきり満喫しましょうか」)
 悠姫は前向きに考え、ブドウ狩りを始めた。


「やっぱりキンキンに冷えた葡萄は、とても冷たくて美味しいわね」
 持参したクーラーボックスの中に氷を敷き詰め、ブドウを冷やして食べている、リサ。
 他のメンバーは、どういう食べ方をしているのかと、視線を送る。
「葡萄を食べるのは久しぶりですね」
 房を切り取り、そのままの味を楽しむ、玲奈。
 果肉の柔らかさと、爽やかでジューシーな種類のブドウ。
(「葡萄は大好きですので、葡萄が沢山食べられるとは幸せです」)
 甘みが濃厚なブドウや、渋みや酸味が無くて食べやすいブドウ、と。色々な種類のブドウを味わっている、玲奈。
 玲奈は次々とブドウを食べ、どれも美味しく、食が進む。
 幸せそうな表情で、玲奈はブドウを味わっている。
「こっちの葡萄も美味しいわよ。一粒が大きくて、甘みが凝縮されているわ」
 悠姫が、仲の良い玲奈とリサに話し掛け、自分が採ったブドウを、2人に分ける。
 もちろん、リサが冷やしたブドウもシェアし、仲睦まじく、美味しそうに食べ合っていた。
『ヤッパリ、ブドウガ、イチバン!』
 攻性植物も満足げに言い切り、もっと食べろとばかりに、ブドウを押し付けて来る。
(「なんというかケルべロス的には緩い感じだけど、農家さんには大問題よね」)
 全員分のブドウフレーバーの紅茶を淹れながら、思案する、小町。
(「お陰でおいしい葡萄が食べられるわけだけど!」)
「小町さんの考えていることが、何となく分かるな~」
 同じ旅団の上、仲良しな間柄なので、セイシィスはブドウ狩りをしつつ、小町に向けて呟く。
「この葡萄かな~。種はどうだろ~?」
 そしてブドウを更に採取し、一粒を口の中へ放り込む。
 香りと味が、口の中いっぱいに広がり、種も無く食べやすい。
「良い味わいだね~。この皮の境目の、ジューシー感が葡萄って気がするよね~♪」
 どんどん食を進めてゆく、セイシィス。
『アッ! モモガ、イル!』
「桃? どこに有るのかな~?」
『ソコ! ソコニ! テンテキノ、モモガ、イル!』
 攻性植物がツルで指し示した先は……セイシィスの胸元だった。
 爆乳の為、深い谷間が見えていたのだ。
「これは桃じゃないからね~、安心していいよ~」
『モモジャ、ナイ? ヨカッタ』
 セイシィスが軽く答えると、攻性植物は素直に納得して、警戒を解く。
「はい皆、お茶もどうぞ? 皆の口に合えばいいんだけど」
 カップに注いだ、ブドウフレーバーの紅茶を仲間たちに差し出す、小町。
「お茶で少し甘みを洗い流したら、きっと沢山、葡萄が食べられると思うの」
 小町の説明に、なるほどと納得し、礼を告げて紅茶を飲むメンバー。
「この紅茶はクセになりそうですね」
「葡萄が大好きなので、とても嬉しいわ。こういう味わい方も、有るのね」
 玲奈とリサが二杯目を飲みたがり、リクエストに応える、小町。
「良い葡萄は勿論そのまま食べるのが一番だけど、葡萄づくしって話なら、お茶まで拘っておきたいもの!」
「小町さん、紅茶も美味しいけど、この葡萄も美味しいよ~。皮ごと食べられるみたいだよ~。はい、あ~ん」
 セイシィスは厳選したブドウを一粒、小町の口に運ぶ。
「本当においしいわね。農家の人と、大地の恵みに感謝!」
 躊躇無く一粒食べた小町は、深々と頷いていた。
「この機会にどんどん食べてしまいましょう」
 ブドウをそのまま食すのを、再開する、玲奈。
「この葡萄、甘みが濃厚ですから、とても美味しいですね」
 弱体化させる為、言葉にしてブドウを褒めるのも忘れない、玲奈。
「流石ね、自慢となっているだけあって、甘みがとても濃厚で凄く美味しいわね」
 悠姫も褒め言葉を紡ぎ、攻性植物を満足させてゆく。
「このまま食べても美味しいし、ジュースにしても美味しいと思うわよ」
「葡萄も沢山の食べ方があって、楽しいわね」
 その場に有る機材を用いて、ブドウのジュースを作り始めた悠姫を、楽しそうに見守る、リサ。
 飲みやすいジュースにし、ブドウを効率良く消費する悠姫に、攻性植物は特に不満も無いようで、咎めようともしない。
「梨と林檎とか色々あるけど、ポリフェノールたっぷりで高級感のある葡萄もいいよね~。もう一房食べちゃお~」
『ソウナノ! ブドウ、オススメ!』
 セイシィスの言葉に即座に反応する、攻性植物。
「有難く貰っとくわ」
 小町は自分の手でブドウをもぎ取っていたが、オススメと言われて攻性植物が差し出したブドウも、ちゃんと頂く。
 ブドウを沢山食べ続け、和気あいあいと感想を口にし、楽しげな光景を繰り広げる、ケルベロスたち。
 いつの間にか、攻性植物の声が聞こえなくなったことに、メンバーは気づく。
 満足したのだろう。動く気配は無く、言葉も発しない。
「さぁ、行きますよネオン。一緒に頑張りましょうね!」
 素早く戦闘態勢に入る、玲奈。
「ちょっと可哀想な感じもするけど、このままにはしておけないものね」
 グリの攻撃に続き、小町は精製した凍結の弾丸を、撃ち込む。
(「攻性植物は危険だから駆除しないとね~」)
 セイシィスが連携し、吹雪の形をした精霊を召喚。
「それじゃ、しっかり倒そうね~」
 敵を氷に閉ざす、セイシィス。
 一度連携が途絶えるが、敵は無反応のままだ。
「後は倒すだけね。霊弾よ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 エクトプラズムで作った霊弾を、敵に飛ばす、悠姫。
「自然を巡る属性の力よ、守護する盾となりなさい」
 リサは念の為、盾を形成し、自身の守りを強化する。
「体内のグラビティチェインの一撃を、食らいなさい!」
 攻撃に集中すると決めていた玲奈が、グラビティ・チェインを破壊力に変え、武器を振るって叩きつける。ネオンはサポートに専念。
 一気に畳みかけようと、小町は宙へ飛びあがり、敵に蹴撃を食らわせた。
「この呪詛でその身を滅ぼしてあげますよ!」
 敵を刺し貫き、刃から呪詛を伝わせる、玲奈。
「この弾丸で、その身を石に変えてあげるわ!」
 不思議なポケットを拳銃の形態に変え、石化する弾を勢い良く撃つ、悠姫。
 敵は霧散し、完全に消滅した。


 即興で作ったブドウの歌を口ずさみながら、ヒール作業を行なう、小町。
 他のメンバーもヒールでの修復を手伝っていた為、あまり時間を掛けずに終える事が出来た。
「これで他の果物やスイーツも楽しめるね~♪ 小町さん良かったら一緒にスイーツどうかな~?」
 農園のスタッフや一般人も戻って来た頃に、小町を誘う、セイシィス。
 快諾した後、小町は思い出したように声をあげる。
「……と、ここの葡萄どこから買えるのか訊いておかないと。葡萄のスイーツとかも作ってみたいし!」
 小町は先に買っておこうと、農園のスタッフの元へ急ぐ。
「葡萄、とても美味しかったわね。折角だからもう少し葡萄を食べて行きたいな」
 悠姫はブドウのスイーツを味わおうと、メンバーに声を掛ける。
「葡萄のスイーツ、頂きたいですね」
 玲奈もまだ、ブドウが食べたい様子で、喜んで頷く。
 小町が戻るのを待ってから、全員で休憩スペースへと向かう。
 農園の旬のフルーツを使った、ケーキやムース、プリンにゼリー、タルトなど。
 フルーツの種類だけで無く、スイーツの種類までも多い。
「葡萄のジュースを頂きたいわね」
 渇いた喉を潤すべく、リサは飲料を注文。
「やっぱりこの季節の葡萄は甘みが強くて、絶品よね」
 果汁の味わいは濃いが、後味がさっぱりしている、完熟したブドウのジュース。
 香りも良く、リサは満足げに上品な風味を味わう。
 他のメンバーも、豊富なメニューを見て悩んだり、シェアし合ったりと、フルーツを思いっきり堪能したのだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月12日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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