空気は入れても、爆発するな!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化したビルの裏庭に、電動空気入れが棄てられていた。
 この電動空気入れは、アタッチメントを取り換える事で、自転車だけでなく、浮き輪やエアーベッドまで、自由自在に空気を入れる事が出来た。
 だが、使っているうちに不都合が発生し、自転車のタイヤを幾つもパンクさせ、廃棄処分になってしまったようである。
 その場所に小型の蜘蛛型ダモクレスが現れ、電動空気入れに機械的なヒールを掛けた。
「クウキイレェェェェェェェェェェェェェ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した電動空気入れが耳障りな機械音を響かせ、廃墟と化したビルの裏庭から街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「霧矢・朱音(医療機兵・e86105)さんが危惧していた通り、廃墟と化したビルの裏庭で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、廃墟と化したビルの裏庭。
 ここにあった電動空気入れが、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、電動空気入れです。電動空気入れはダモクレスと化した事で、ロボットのような姿をしています。今のところ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われてしまうでしょう」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)
霧矢・朱音(医療機兵・e86105)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
 ただ空気をいれればイイ。
 何も考えず、程よい感じで……。
 それは、実に単純。
 まったく難しい事ではない。
 誰でも出来る事ではないが、電動空気入れには、それが出来た。
 何故なら、それが電動空気入れのやるべき事であり、果たすべき役目。
 だからこそ、容易に出来る事だった。
 しかし、それが出来なかった。
 それは電動空気入れが、意図した事ではない。
 ただ運が悪かった。
 何らかの不都合が生じ、出来る事が、出来なくなった。
 簡単に言えば、それだけの事。
 だが、電動空気入れにとって、それは屈辱的な事だった。
 それでも、捨てられた。
 電動空気入れの意志に関係なく……。
 必要とされなくなり、ゴミとして……。
「今回の相手は電動空気入れのダモクレスですか。私は電動よりも手動派なので、あまり馴染みはありませんが……」
 肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認されたビルにやってきた。
 そのビルは廃墟と化してから、しばらく時間が経っているらしく、まるで巨大な墓標のようだった。
 以前までそこには、沢山のオフィスがあった。
 日本がバブル景気で浮かれ、それが弾け飛ぶ、その時までは……。
 しかし、バブルが弾けて、事態は一変ッ!
 幾つものオフィスがビルから撤退していった。
 ダモクレスが確認されたのは、廃墟と化したビルの裏庭。
 そこには、オフィスで使われていた電子機器などが捨てられており、それが山積みになって行く手を阻んでいた。
 それは沢山のオフィスが、ビルから出ていった時に放置され、処分に困ったモノばかり。
 本来であれば、廃棄処分しなければいけなかったものだが、誰も費用を出さなかったため、放置されたモノだった。
「……電動空気入れか。力加減を間違ったら破裂してしまいそうな代物ね」
 霧矢・朱音(医療機兵・e86105)が、事前に配られた資料に目を通した。
 資料を読む限り、ダモクレスと化した電動空気入れは、危険なシロモノ。
 何らかのトラブルで、リミッターが外れてしまったため、空気がパンパンに入っていても、途中で止まる事が無かったようである。
 そのため、バァァァァァァァァァァァァン!
 激しく音を立てて、大爆発ッ!
 そのショックは大きく、使用者に消える事のないトラウマを植え付けてしまう程だった。
「……と言うか、破裂させるほど空気を入れる道具って、どれだけ強力なのかしらね。まぁ、欠陥品は破棄される運命にあるのは、いつの時代も変わらないけど……」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、複雑な気持ちになりながら、手に持ったライトで辺りを照らした。
 ビルの裏側と言うだけあって、辺りは薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
 もしかすると、そこに捨てられた電子機器の嘆きと苦しみと悲しみによって、その雰囲気が生み出されているのかも知れない。
 そう思わせてしまう程、裏庭は電子機器で溢れ返っていた。
 しかも、どれもまだ動きそうなモノばかり。
 例え、電動空気入れがダモクレスと化す事が無かったとしても、他の電子機器がダモクレスと化してしまうのではないかと心配になってしまう程、不気味に感じてしまう程だった。
「まあ、手軽に空気を入れられるのは便利だけど、お店ならともかく、ご家庭ではそうそう出番のある機械でもないよね」
 オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、何やら察した様子で山積みされた電子機器を退けた。
「クウキイレェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 その拍子に電子機器の中に埋もれていた電動空気入れが眩い光を放ち、ダモクレスと化して耳障りな機械音を響かせた。
 ダモクレスは電動空気入れで出来たロボットのような姿をしており、禍々しい力を放ちながら、ケルベロス達に対して敵意を剥き出しにした。
 それはまるで巨大な悪魔。
 漆黒の闇を纏った禍々しい存在であった。
 それ故に、危険で、凶悪ッ!
 その場にいるだけで、嫌悪してしまう程だった。

●ダモクレス
「デェェェェンドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ、クウキイレェェェェェェェェェェェェ!」
 次の瞬間、ダモクレスがケルベロス達を威嚇するようにして、耳障りな機械音を響かせ、超強力なビームを放ってきた。
 それはまるで圧縮した空気をビーム状にしたようなモノ。
 幸いケルベロスには当たらなかったものの、廃墟と化したビルに風穴を開いた。
 それは隣の景色が丸見えになるほど、大きくポッカリと開いていたものの、ビルが崩れ落ちるほどの威力はなかった。
「まだダモクレスになって間もないから、ビームが当たらなかったのかな? 随分と強力な攻撃のようだけど、当たらなければ意味がないね。だからと言って、練習している暇はないよ。ここで僕らが止めるからね。さあ、行こうトト。ダモクレスがビームを扱う事が出来るようになる前に……」
 オズが覚悟を決めた様子で、ウイングキャットのトトに声を掛け、警戒した様子で間合いを取った。
 それに合わせて、トトが清浄の翼を使い、羽ばたく事で邪気を祓った。
 そのおかげで、辺りに漂っていた不気味な気配が、ほんの少しだけ消えた。
「ク、ク、クウキイレェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 だが、ダミクレスは諦めていなかった。
 先程よりも慎重に、ケルベロス達に対して狙いを定め、再び超強力なビームを放ってきた。
 そのビームはまわりにあった電子機器を破壊し、まっすぐケルベロス達に迫ってきた。
「上手く行くか、どうか分からないけど、やるしかないわね」
 朱音が超強力なビームに狙いを定め、プラズムキャノンを発射した。
 それと同時に、圧縮したエクトプラズムで出来た大きな霊弾が放たれ、超強力なビームとぶつかって、勢いよく弾け飛んだ。
 その拍子に行き場を失ったエネルギーが、雨の如くケルベロス達に降り注いだ。
 それ自体に殺傷能力はなく、綺麗な光の塊で、思わず見とれてしまう程、美しかった。
「クウキイレェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせ、電動空気入れの形をしたアームを振り回した。
 その行く手を阻むようにして、大量の電子機器が山積みになっていたが、気にする事なく弾き飛ばしていった。
 それはダモクレスの怒り。
 怒りそのものが形になって、大量の電子機器にぶつけられていた。
 それでも、ダモクレスの怒りは収まらない。
 もちろん、消える事も無い。
 ダモクレスにとって、電子機器は単なる障害物。
 故に、いくら壊したところで、怒りが消える事はない。
「真正面から突っ込むのが、ダモクレスの御約束なのかしら? でも、残念ね。そんな攻撃、効かないわ」
 それを迎え撃つようにして、リサがスターゲイザーを仕掛け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させ、ダモクレスの機動力を奪い取った。
「クウキイレェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 その影響でダモクレスがバランスを崩し、電子機器の山に突っ込んだ。
 それはダモクレスにとって、屈辱的な事。
 故に、怒りが収まらない。
 むしろ膨らみ、ケルベロス達を飲み込む勢いであった。
「どうやら、途中で諦めるつもりはないようですね。こちらも戦いを止めるつもりはありませんが……」
 すぐさま、鬼灯がスターサンクチュアリを発動させ、地面に描いた守護星座が光って仲間達を守護した。
「クウキイレェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 そのため、ダモクレスが苛立った。
 先程と比べ物にならない程、激しくて、荒々しく!
 その気持ちを爆発させながら、電動空気入れ型のミサイルを飛ばした。
 それはシューッと不気味な音を立てながら地面に落下し、大量の破片を飛ばしてきた。
 その破片はケルベロスだけでなく、まわりのモノすべてを傷つける刃となって、すべてを切りつけた。
「なかなか強力な攻撃ね。でも、この爆発に耐えられるかしら?」
 朱音が傷ついた身体を庇いながら、ボルトストライクを仕掛け、自らの拳でダモクレスを殴りつけた。
 それと同時にダモクレスの身体が爆発し、大量のパーツが弾け飛んだ。
「クウキイレェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 だが、ダモクレスは諦めていなかった。
 無防備なコア部分が剥き出しになっても、決して諦めようとしなかった。
 それは意地。
 半ばヤケになっていたが、気合と根性だけは、ケタ外れであった。
「いくら足掻いても無駄よ。この呪いで貴方を動けなくしてあげるわ」
 その行く手を阻むようにしてリサが陣取り、尋常ならざる美貌の放つ呪いによって、ダモクレスの動きを封じ込めた。
「クウキイレェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 それでも、ダモクレスは諦めない。
 動きを封じられても、なお……動こうとしていた。
 その気持ちに反して、ダモクレスはアームひとつ動かす事が出来なかった。
「これは避けられない運命なんです。例え、それを望まなかったとしても……。ダモクレスと化した以上、僕らも放っておく事なんて出来ませんから……」
 次の瞬間、鬼灯が合一閃(キアイイッセン)を発動させ、「背負い太刀・星辰」にグラビティを流し込み、渾身の一撃でダモクレスを切り伏せた。
「クウ……キ……イレ……ェ……」
 その一撃を喰らったダモクレスが膝をつき、地面に突っ伏すようにして、完全に機能を停止させた。
 その身体からは真っ黒な煙が上がっていたものの、ダモクレスが動く事は二度とない。
「それじゃ、爆発で散った破片を片付けておこうか。このままにしておいたら、近所の人が怪我をしてしまうかも知れないしね」
 そう言ってオズがヒールを使い、辺りを修復し始めた。
 その事に気づいた仲間達も、同じようにヒールを使い、辺りを修復するのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月20日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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