ファックスが嘆く時

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化した民家に放置された家庭用ファックスがあった。
 この家庭用ファックスは感熱ロール紙を使用しており、変色しやすく、保存には向かなかった。
 それでも、その家では大事にされていたのだが、インクリボン型のファックスを購入した事によって事態は、一変!
 『やっぱり、こっちの方がイイ』という事になり、しばらく押し入れの中で、深い眠りについていたようである。
 だが、そのファックスが使われる事はなく、人々の記憶からも忘れ去られていった。
 その場所に小型の蜘蛛型ダモクレスが現れ、家庭用ファックスに機械的なヒールを掛けた。
「ファックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したファックスが、耳障りな機械音を響かせ、廃墟と化した民家の壁を突き破り、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)さんが危惧していた通り、都内某所にある公園の散歩コースでダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある廃墟と化した民家。
 ここにあった家庭用ファックスが、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、家庭用ファックスです。家庭用ファックスはダモクレスと化した事で、ロボットのような姿をしています。今のところ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われてしまうでしょう」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)
 

■リプレイ

●都内某所
「……ファックスのダモクレスか。ファックスも今やそれに代わる新製品も多く出回っているから、破棄されるのも自然の流れなのかな。ちょっと悲しい話だけど……」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)は複雑な気持ちになりながら、セリカから渡された資料を参考にしつつ、仲間達と共に地図の印の付けられた場所にやってきた。
 その場所は廃墟と化した民家で、庭は荒れ、雑草に覆われていた。
 そのため、何やら近寄り難い雰囲気が漂っており、まるで見えない結界が張られているようだった。
 だからと言って、ここで回れ右をして、逃げ帰る訳にはいかないため、ライトを照らして、廃墟と化した民家に足を踏み入れた。
 その途端、大量の埃が舞い上がり、カビのニオイがケルベロス達に纏わりついた。
「電話の延長線上で、図を伝えたいときなんかに便利だけど、交わした言葉と同じですぐに消えてしまうようだね」
 そんな中、オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、事前に配られた資料に目を通した。
 資料を読む限り、感熱ロール紙は変色しやすく、保存に向かなかったようなので、どうして利用されるようになったのか、疑問であった。
 しかし、インクを必要とせず、手間を省く事が出来るのが、利点であったため、必要とされていた理由を何となく理解する事が出来た。
「今はパソコンと連動してプリンターもありますから、需要も少なくなってきているのでしょうね」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)が、何やら察した様子で答えを返した。
 理由は何であれ、家庭用ファックスの所有者が、必要としなかった事は間違いない。
 その事に激しいショックを受け、ダモクレスを呼び寄せるキッカケを作った事は間違いない。
 それが原因なのか、ダモクレスが確認された押し入れが近づくにつれ、禍々しい気配が強くなってきた。
 そのためか、紅葉も警戒した様子で、なるべく足音を立てないようにしながら、ゆっくりと慎重に歩いていた。
「やっぱり、インクリボン型の方が便利なのかな。古いタイプは捨てられるのは、電化製品の運命みたいな物かもね」
 四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)が足元を警戒しつつ、深い溜息を漏らした。
 おそらく、感熱ロールを使ったファックスでなくとも、捨てられてしまうのは、ある意味で運命……。
 だが、その存在を持ち主にも忘れられ、家族にも気づかれず、肝試しにやってきたカップルにもスルーされ、この場所を溜まり場にしていた不良達にもガン無視された事で、余計に傷ついてしまった可能性が高かった。
「ファックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したファックスが、卵の殻を破るようにして、押し入れを突き破って姿をあらわした。
 ダモクレスはロボットのような姿をしており、ケルベロス達を威嚇するようにして、感熱ロール紙を吐き出した。
 そこに書かれていたのは、『殺す』の二文字。
 その上、毛筆書体で力強かった。
「もしかして、炎めっちゃ効いたりする? あ、でも、ダモクレスと化したのは、ファックス本体だから、だめかー」
 山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が、ダモクレスをマジマジと見つめ、ションボリと肩を落とした。
 上手く行けば楽にダモクレスを倒す事が出来ると思ったが、単なるヌカ喜び。
 ライドキャリバーの藍も、何やらションボリムードであった。
 しかし、ことほが定命化した頃は、もうすでにファックスが下火だったため、『スマホで画像送ればいいのにね?』とデジタルネイティブ的な考えに至っているようだ。

●ダモクレス
「ファックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 そんな空気を察したのか、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、文字の形をしたビームを放ってきた。
 その文字は『殺』、『死』、『呪』など、どれも不吉なモノばかり。
 それがビーム状になって、ケルベロス達に襲い掛かってきた。
「悪いけど、言葉だけで、僕らは殺せないよ。まあ、そのビームが当たれば、状況は変わるかも知れに行けれど……。そんなに殺気を撒き散らして放ったビームに当たるほど、僕らも愚かではないからね」
 オズがウイングキャットのトトと連携を取りつつ、ダモクレスの注意を引いた。
 幸いダモクレスの放ったビームに当たった者はいない。
 だが、ダモクレスによって放たれたビームは、壁に焼印を押すような形で、禍々しい文字がいくつも痕が残っていた。
 おそらく、それは一般人からすれば、トラウマモノ。
 ケルベロスであっても、ドン引きレベルであった。
「ファァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァックスゥゥゥゥゥウ!」
 それでも、ダモクレスは諦めておらず、数撃ちゃ当たるの精神で、滅茶苦茶にビームを放ってきた。
 それは先程よりも強力で、避ける事が困難なビーム。
 あえて狙わず手当たり次第に攻撃しているため、気を付けているだけでは避ける事が出来ない程、危険なモノだった。
 その上、ダモクレスが放ったビームのせいで窓が割れ、壁が崩れ、襖に大きな穴が開いた。
「真に自由なる力よ、癒しの時間を与えなさい」
 すぐさま、紅葉がジョブレスオーラを発動させ、傷ついた仲間を『真に自由なる者のオーラ』で包み、癒しの時間を提供した。
 それは、見るからに快適空間。
 痛みとは無縁の場所であり、心安らぐ一時であった。
「ファァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァックスゥゥゥゥ!」
 しかし、ダモクレスにとっては、屈辱以外のナニモノでもなかった。
 自らの怒りを爆発させ、再びビームが放たれた。
 それは手当たり次第ではなく、余計な事をした紅葉を狙って……。
「あなたの好きにはさせないわ。これでも喰らって、大人しくしていなさい!」
 その事に気づいた悠姫がプラズムキャノンを発動させ、圧縮したエクトプラズムで出来た大きな霊弾をダモクレスにブチ当てた。
「ファックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
 その影響でダモクレスがバランスを崩し、体内に収納されていた文字型のアームを幾つも伸ばして、何とかバランスを保った。
「随分と器用な事をするものだね。だからと言って、こちらが困るほどのレベルではないけれど……。でも、あれか……。それで攻撃されたら、焼印を押されたような痕が残っちゃうか。だったら、警戒しておかないとね」
 司が何やら察した様子で間合いを取りつつ、ダモクレスに螺旋氷縛波を仕掛け、アーム部分を凍らせた。
 だが、ダモクレスのアームは、一本だけではない。
「ファックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 ダモクレスは残りのアームを振り回し、殺気立った様子で司に迫ってきた。
「うわあ! 何だか危ない事になってない!? でも、藍ちゃんなら大丈夫……って、何で逃げるの? ボディに押されたら、ちょっと格好いいかも知れないよ? え? 嫌だ? 絶対に嫌って……。ま、まあ、私も嫌だから気持ちはわかるけどね。……って、来るよ、藍ちゃん!」
 その事に危機感を覚えたことほが、ダモクレスの攻撃を避けるようにして飛び退いた。
 それに合わせて、藍がデットヒートドライブを繰り出し、ダモクレスを牽制した。
「ファックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 しかし、ダモクレスは諦めていなかった。
 ケルベロス達に負の刻印をつけるべく、殺気立った様子で、アームを何度も突き出した。
「どうやら、諦める気はないようね。だったら、魔導石化弾で、石と化してしまうと良いわ!」
 悠姫が深い溜息を洩らし、ガジェットを拳銃形態に変形させ、魔導石化弾を発射した。
 その弾丸はダモクレスのアームに命中し、瞬時に石化させて動きを止めた。
「ファックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その事でダモクレスが、さらに怒りを爆発させ、ファックス型のミサイルを飛ばしてきた。
 そのミサイルは家の屋根を破壊し、大爆発を起こして、大量の破片を雨の如く降らせていった。
 それが鋭い刃となって、ケルベロス達の身体に、ザクザクと突き刺さった。
「花びらのオーラよ。仲間を癒してあげて下さい」
 すぐさま、紅葉がフローレスフラワーズを発動させ、戦場を美しく舞い踊ると、仲間達を癒やす花びらのオーラを降らせた。
 その途端、仲間達の身体に花びらのオーラが漂い、傷ついた身体が癒されていった。
「ファックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 だが、ダモクレスは耳障りな機械音を響かせ、再びファックス型のミサイルをぶっ放そうとした。
「もう一度、撃つだけの余裕はないよ。さあ、これで終わりにしよう。もう二度と動く事が無いように……」
 次の瞬間、司が薔薇の剣戟を繰り出し、幻の薔薇が舞う華麗な剣戟で、ダモクレスを幻惑し、無防備なコア部分を破壊した。
「ファックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが断末魔にも似た機械音を響かせ、ミサイルを発射する事さえが出来ず、完全に機能を停止させた。
「ミサイルのせいで、酷い事になってしまったね。既に廃墟と化しているから、いっそ壊してしまうか、ヒールすべきか悩んでしまうところだけれど……」
 オズがホッとした様子で、ゆっくりと辺りを見回した。
 ……辺りはボロボロ。
 天井は壊れ、壁が崩れ落ち、床には大きな穴が開いていた。
 それをヒールするのは、一苦労。
 しかし、この場所は、廃墟。
 故に、このまま放っておいても、文句を言われる事はない。
「だからと言って、このまま放っておくのも良くないと思うよー。また別のダモクレスが発生しても面倒だしー。こういう廃墟って何とかならないのかなー? とりま近所迷惑にならない程度に片づけておこう」
 そう言って、ことほがヒールを使って、辺りを修復し始めた。
 それに意味があるのか分からない。
 だが、何もせずに放っておく事が正しいとは思えなかった。
 そして、ことほは瓦礫の山と化した廃墟を、根気良くヒールで修復するのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月19日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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