クゥ・ウルク=アン樹海決戦~樹海の邪樹竜

作者:寅杜柳

●魔竜擬きの樹海
 富士山の麓の樹海は日中でも薄暗い。
 本来は人の気配もなく虫や小動物の姿が時折見られる程度のその地に、奇妙な色合いの生物がこんもりと身を伏せていた。
 南方の密林に居る両生類のような毒々しい、見る者に対して警告を発しているかのような鮮やかな色彩の鱗とその両目に咲いた花。植物と一体化したようなそのドラゴンの数は非常に多く、それでいてまるで眠っているかのように一様に静かに待機していた。
 それらマリュウモドキの間を槍持つドラグナー、そしてそれによく似た武装の配下達が巡回していく。色鮮やかな竜の身体、或いは枝々を足場に薄暗い樹海の隙間を縫うように移動していく彼女らは騎士のような統率を以て、計画通りに襲撃者を警戒している。
 ――今や富士の樹海は植物化したドラゴンの群の拠点と化していた。

「調査を進めてくれたケルベロス達のおかげで、富士の樹海周辺にドラゴン勢力が集結している事がわかったよ!」
 ヘリポート、集まったケルベロス達に雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)は説明を始める。
「先に富士の樹海周辺の探索を行ってくれたケルベロスは植物化したドラゴン、マリュウモドキの群を発見してくれている。おそらくその群の中心は邪樹竜クゥ・ウルク=アン、こいつをどうにか撃破できれば樹母竜リンドヴルムの拠点に手を届かせる事もできるはずだ」
 攻性植物の寄生を受け入れた大阪城残党のドラゴン達が引き起こしている事件は記憶に新しい。新たな事件の発生を防ぐ為に戦ってほしいのだと、白熊は言う。
「マリュウモドキ達の実力はそれなりだが数がとても多い。その上、統率するドラグナーもいるから注意は必要だろうね。……難しい戦いになるだろうけども、できるだけこいつらを倒しつつ奥地に居る邪樹竜を撃破してきてほしい」
 そして知香は資料を広げ、具体的な戦場についての説明に移る。
「今回の目的はマリュウモドキの駆逐と樹海の奥地に居る邪樹竜クゥ・ウルク=アンの撃破になる。マリュウモドキは戦意と知能が低く、隣にいる同類が攻撃されても自分が攻撃されなければ戦闘に参加しないくらいだ。この習性を利用できれば各個撃破で多数の竜を倒す事が出来るんだけども、そこをドラグナーが補ってくる。指揮官のドラグナーがマリュウモドキとの戦闘に参加した場合、指揮官に従って積極的に仕掛けてくるから何らかの対策を打った方がいいだろうね」
 ドラグナーには指揮官と配下がいるが武装はほぼ同じ、けれど何となく量産型の雰囲気がするのが配下なのだと知香は付け加える。
「マリュウモドキとドラグナー達は大群だけれども指揮官の数はその中でも少ない。その上指揮官は陽動の可能性を考えて周囲のマリュウモドキ以外を集めようとはしないみたいだ。だからうまく多方向から侵攻して向こうの警戒の目を掻い潜る事で邪樹竜を攻撃できるはずだよ」
 そこまで説明した知香は顔を上げてケルベロス達の表情を窺う。
「魔竜を量産しようとする樹母竜リンドヴルムはとても厄介で、当然それを守護する邪樹竜クゥ・ウルク=アンは絶対に撃破しなくてはならない。だから一つでも多くのチームが辿り着けるよう頑張って欲しい」
 難しい戦いになるけれど皆なら何とかできる。頼んだよ、と知香は期待に満ちた瞳をケルベロス達に向けて話を締め括った。


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
エレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027)
瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)
ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)
霧崎・天音(星の導きを・e18738)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
ルティア・ノート(剣幻・e28501)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)

■リプレイ

●樹海を往く
『起きろ! ヘリオンデバイス!』
 ヘリオライダーの言葉と共に、光線がヘリオンより降下中のケルベロス達を包み込む。
 そして樹海に着地したケルベロス達は実体化したヘリオンデバイスの具合を確認。
 鈍色のバケツ兜から地獄の炎を漏らしているラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)が履いている靴のデバイスは地に食い込む獣爪のようなスパイク付き。
 逃走時、或いは警戒を広げぬ為の確実な殲滅には重要となるものだ。
 確認を終え出発するその前に、レプリカントの青年がコインをトスし手の甲で受けて表裏を見る。
「やっちゅんいつものです?」
「ああ、どうやらいい結果になりそうだ」
 未来を占うそれはギャンブラーである卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)のいつもの儀式のようなものだ。
「じゃじゅりゅうだろうと見事狩り取って見せるのです!」
 地面に引きずりそうな長さの黒髪の少女――ではなく小柄な青年、平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)はえっへんと何故か自信満々な様子。
 そして小型通信機型デバイスを装着し地図を広げているのは瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)。この富士の樹海でもスーパーGPSは効果的に機能する。
「樹の海というより、竜の海ですねぇ。壮観です」
 その地図にゴーグルのデバイスを装着したルティア・ノート(剣幻・e28501)が大量の点を描き加えていく。それは彼女の視界に映る、全ての敵味方の位置。
 敵の配置を把握できるその能力はこの樹海では大きなアドバンテージだ。
「おとぎ話の物語みたいでワクワクフワフワしちゃいます」
 どこかうっとりとしている千紘は新しモノ好き、当然新技術の効果を体感してこの世の春のような上機嫌。
 そしてケルベロス達は森林用の迷彩服と隠密気流を纏い、予め地図に記していた七つのルートの一つを通り侵攻を開始した。

 先頭を歩く赤髪のレプリカントは霧崎・天音(星の導きを・e18738)。彼女の前方の樹々が左右に分かれ、全員が通り過ぎた後には元通りになるため、樹海という複雑な地形の中でもスムーズな行軍が可能だ。
 そんな彼女に続く機械腕を装着したレプリカントはエレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027)。
 いつも肩に乗せている翼猫のラズリは戦闘になればすぐに飛び出せるようにしているけれど今は出番なし。もっふもふの毛並みも心持ちしょんもりしているように見える。
 そして彼女達に続く白くふわりとした毛並みの竜の青年はラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)。
 猫好きの彼としてはもっふもふの仔猫も少しだけ気になるけれども、それよりも。
(「瀧尾さん元気だな~」)
 同時通訳の要領で他班と状況を共有している後ろの千紘に興味が向いている。
 今の彼は寝不足、なぜなら二人で徹夜で壮絶な鑑定眼特訓をしていたからだ。
 降下前の太陽の輝きが目に痛かったけれども、特訓の甲斐あって地図に描かれた敵の動きから何となく違和感のある敵がわかる、ような気がする。
 幸いそれらがこちら側の進路に来る様子はない。視認できないのは残念だけれども今回の目的は邪樹竜退治、だから問題はない。

 五等分にされた侵攻工程の三に差し掛かった頃。
「ん、少し隠れた方がいいかも」
 ゴーグルを装着したルティアが呟けば、泰孝と天音がジェットパックで仲間達を牽引して鬱蒼と茂る木々の枝へと飛び上がる。
 そして身を隠して周囲を確認すれば、遠目にドラグナーの姿が見えた。
 少しの間ドラグナーはきょろきょろと哨戒していたが、すぐに別の場所へと向かい始めた。
 ふう、と息を吐いて音もなく着地したケルベロス達は再び歩み始める。

 そこから少し進んだ辺り、他の班が交戦を開始したと思念が届く。
 だが足を止める訳にもいかない。一チームでも多く目標地点へと辿り着く事が重要だ。
 交戦している班の無事を祈りつつ、ケルベロス達は注意深く交戦を避け、樹海の奥へと歩みを進めていった。

●樹海の儀式場
 そして終着地点。樹海の中異様に拓けたそこには極彩色の翼を持つ仮面のドラゴンと大量のマリュウモドキがいた。
 邪樹竜クゥ・ウルク=アン――、一心に集中し何やら奇怪な儀式を行っている彼の竜に、周囲に対する警戒は認められない。
「やっと本命のお相手でございます」
 まだまだいけますねと慇懃に問うラーヴァ、当然応えは一つだ。
「んじゃたっきん頼んだぞ」
『はーいこっちも見えてます』
 他にも二班が同時に到着しているようだ。他の班と思念で千紘がやり取りしつつ、音もなく速やかに邪樹竜を取り囲むように布陣を整える。
 準備を整えた後、静寂。カウントダウンの思念がやけに響く。
 そして、開戦合図の思念。
「こんにちは! さようなら!」
 うずうずしていた千紘の掛け声は思わぬ挨拶、それが竜の聴覚に届く前にタイラントレディ――螺旋機関砲より爆炎の魔力を込めた弾丸を邪樹竜に向けて放つ。
「おやすみなさい……ああいやなんでもない」
 千紘の言葉に思わずラギアが反応。徹夜の特訓の後遺症でそんな言葉が口を突いて出てしまう。
(「大丈夫、しっかり起きてる。帰ったら速攻で寝るんだ、俺」)
 一瞬の思考を振り払うように飛び出した彼は、冷気宿す鴨頭草の剛斧のルーンを発動、守りを切り砕く斬撃を見舞うと同時、ラーヴァが巨大なる機械弓より放った銀矢の粒子と和の守護の鎖陣が加護を与えれば、その直後に天音が彼女の宿敵の翼を模したデバイスの翼をスパークさせつつ飛翔、切り裂くような飛び蹴りを邪樹竜に見舞った。
 タイミングを合わせた三班からの攻撃の多くは、景気よく邪樹竜の巨体へと突き刺さった。
 矮小な野鼠が、と傲慢な響きを帯びた言葉を口にした邪樹竜が、一方向を睥睨した後ぐるりとこちらを振り向きながら一つ眼より光線を放つ。
 太陽の顕現のような強烈な光――肉と土、木々の焼ける臭気が一瞬鼻腔に届くが、それすらも膨大な熱量に分解されてしまう。
 邪悪なる輝きの消えた後には攻撃手を庇い飛び出した二人と一匹の姿。
 庇い守ってくれたラズリとエレに端的な礼の言葉を継げると同時、飛び出した泰孝がジャンクパーツで構成された左腕にねじ込んだ武器の一つである大鎌を構え強烈な斬撃を刻み込む。
 そしてラズリの清浄なる羽搏きの風とエレの優しい青の星の煌めき宿すオウガメタルの粒子とが前衛を包み込むと、彼女らに呼吸を合わせルティアが鉄塊剣を構え、
「コード申請。使用許可受諾。天地創造の力の一端、見せてあげましょう」
 国造りの鉾の権能の一端を宿せしその浄化の鉄塊剣を振るえば邪樹竜周囲の空間が攪拌されそして固定、動きを拘束する。
 苛立ったように邪樹竜が吠える。するとそれを合図としたようにマリュウモドキ達の巨体が持ち上がる。
 此方に突撃する竜は三体、周囲には伏せたままのものもいるが――、
「おおっと、そうはさせませんよ」
 竜共が飛び出す前、ラーヴァの出鼻を挫くような弾丸の嵐と千紘の螺旋手裏剣の雨が抜群の精度で突き刺さる。
 出足の鈍った竜共を白き竜の息吹が焼き、弱った個体に泰孝のジャンクの左腕より放たれたファミリアシュートが命中。
 それら攻撃の重圧により千紘を狙った竜の爪の動きが僅かに鈍り、金色狐の毛すらも掠らず空を切る。
 そのタイミングで仔猫が清浄なる風を、エレがエクトプラズムを周囲に広げ傷をの残滓を消し去った。

 竜達が動き始める中、天音は胸の奥からじくじくと湧き上がる恐怖を抑え込んでいた。
 かつての熊本市での惨劇を後悔している彼女は、命を理不尽に奪うドラゴンという種に抱く感情はトラウマに等しいもの。
(「……それでも負けるわけには行かない……」)
 だが戦わねば多くの命が奪われる。もうあらゆる命を失いたくない彼女は竜達を見据え、真紅のブーツを履いた右脚を形作る地獄の炎を燃え盛らせると、
「地獄の刃……華となって……奴の命を攫え……!」
 強烈な蹴撃。桜の花弁の形をした炎が帯のように連ね衝撃波の如くマリュウモドキを焼き払う。
 その炎は見た目とはかけ離れたおそろしきもの。思考力の低い擬きにも効果を発揮したようで苦悶の声を漏らした。
 擬き竜に降魔の力を宿す拳を叩きつけ距離を取った千紘がふと視線を上に向ければ此方を――正確には前衛を睨む邪樹竜。
 頭上より睥睨するようなおそろしき仮面の瞳。思わずたじろぎそうになるけれども、護り手達がその光線を後方に通さぬように阻んでくれる。
 だから千紘も狐の本能に負けて逃げるなんて訳にはいかない。
(「ラギアちゃんがいるから千紘は怖くても戦えるし立ち向かえるのです!」)
 そして彼女は竜達を攪乱すべく戦場を駆けていった。

●異変
 邪樹竜の光線が幾度も前衛を焼き、マリュウモドキ達が次々に襲い掛かってくる中、ケルベロス達は優勢に戦いを進めていた。
「じゃず……邪樹竜! なんか前ばっかり狙ってきてる!」
 邪樹竜クゥ・ウルク=ルアン、その名は言い難いようで、うっかり噛んだ事に憤慨する和。
 実際のところ邪樹竜自体の攻撃は前衛に集中している。しかし、邪樹竜が咆哮を上げるごとに周囲の擬き竜が三体ほど参戦してくる。
 擬き竜の息吹が二つ重なり後衛を狙うが護り手が割込み防ぎきる。
「この世への未練を焼き切ってあげましょう」
 反撃に千紘が印を組めば、擬き竜の脚元より紅色鮮やかな珊瑚のような逆さ雷が空へと奔る。
「調子に乗るなよ!」
 強烈な電撃に足を止めた竜に暴風を纏いしラギアが突撃、青白い燐光を纏わせた冷気の剛斧を横薙ぎにし強烈な衝撃波と斬撃を叩きつける。
「…清浄なる力を秘めし、空の石よ。…神聖なる輝きで穢れを、祓い賜え!」
 その隙に天青石の力を借りたエレが空色の煌きを以て翼猫の不浄を払いその傷を癒す。癒しきれぬ傷の重なりが早い、長期戦は不利だろう。
 けれどもエレは苦しい顔を見せない。この程度の苦境でへこたれるような信念ではないのだ。
「まだまだいくよー!」
 元気よく和が鎖陣の癒しと加護を前衛に与える。仲間達の消耗具合を見極めつつ的確に鎖の陣と守護星座、そして自由なるもののオーラを使い分けて戦線を維持している。
 そうして擬き竜を仲間が食い止めている間、バケツ兜のレプリカントは冷静に狙いを定め機械弓から邪樹竜のガードを抜くような光弾を命中させる。
 苛立ったような邪悪なる仮面の瞳の怪しく凶悪な輝きが戦場を奔る。庇いは間に合わなかったものの、耐えきった泰孝がゆらりとその廃材の腕を構え、
「命をチップにすんのが戦いのテーブルだろ?」
 じゃ、くれよ。ディーラーの如く告げた泰孝が邪樹竜の懐に飛び込み廃材腕の先端の針を邪樹竜の胴にねじ込む。デバイスの加速もあって深々と突き刺さり、チップ代わりの生命力を邪樹竜より奪い取る。
「やっちゅん、特別ご褒美なのです」
 すれ違いざまに尻尾をもふっと当ててから満月に似た光球を泰孝に押し付けマリュウモドキをおちょくるように千紘が戦場を駆ける。
 彼女に釣られ爪や尾を叩きつけようとするけれども、彼女の動きは速く正確。攻撃を誘いつつ回避し隙を見切って致命の一撃を喰らわせる、そんな千紘の戦い方をラギアは青龍意匠の如意棒で竜の爪を防ぎつつ見ていた。
 それは狐の狩りのよう、じっくり見ていたいけれども――今は無理だと前に出て。
 竜達の連続攻撃、運悪く捌ききれなかった千紘を狙った擬き竜の尾を白竜がしっかと受け止める。
「……もてあます大きな図体は小柄な獣を隠すにはもってこいだな」
 少々気にしている図体を自嘲しつつ、背後の金狐の毛並みが血に汚されていない事に安堵する彼。
「無事に帰れたなら、俺にもモフモフさせろよ」
 それはちょっとした対抗心かもしれない言葉、それに千紘は妖艶な笑みを返す。

 そして、邪樹竜が突然何事かを口にする。
 今こそマリュウモドキを捧げて魔竜軍団を作り出す――聞き捨てならぬその呟きと共に、交戦していた竜の体がボロボロと砂のように崩れてゆき、後にはその存在たる宝石が転がる。
 空気が変わったように天音は感じた。まるで樹海中から力をかき集めているかのような濃密な気配。
 これではまるで生贄――だが今は考察している場合ではない。マリュウモドキがいなくなった今こそ絶好のチャンス。
「邪樹竜、山ほど弾丸召し上がれ!」
 千紘の爆炎の弾丸、そして泰孝のファミリアが正確に邪樹竜の胴体に炸裂。続いて仔猫の割に鋭い爪が邪樹竜を切り裂くのに合わせドリルのように変形したエレの腕が植物上の竜の体を抉りとり、さらにラギアのルーンを輝かせた斧がざっくりとめり込む。
 そんな連撃の中渾身のー、と声が響き、
「てややー!」
 直後、一冊の分厚い辞典が邪樹竜の頭上に出現、その落雷の如き速度で襲い掛かりその胴体に突き刺さると同時、ルティアが恐るべき精度の緩やかな月弧の斬撃で体の蔦を切り払い動きを鈍らせる。
「我が名は熱源。余所見をしてはなりませんよ」
 悠々と狙いを定めたラーヴァが空に地獄の炎を纏う一矢を放てば、バケツをひっくり返したかのような滝の如き火炎が邪樹竜の呪縛を喰らい燃え盛る。
 そしてそこに、両腕のパイルバンカーより螺旋力を噴出し、更には激しくスパークするデバイスの翼の噴出力を乗せた天音が痛烈な一撃をねじ込んだ。

 その直後、邪樹竜の首が氷炎二つの剣技を狂いなく束ねた剣撃により斬り落とされる。
 ここに邪悪なる儀式の担い手は崩れ落ちた。

●災厄来たれり
 邪樹竜の頸が落ち戦いは終わり。
「……周囲のマリュウモドキも反応がすべて消失しています」
 強化ゴーグルの能力を発動したルティアが呟く。恐らくは森中に竜の残骸たる宝石が転がっているのだろう。
 だが大気に満ちる不穏な空気――どことなくかつての熊本市のように天音が感じる気配は増すばかりだ。
「何かまずくなーい?」
 普段気楽な和も不安を少し表情に滲ませ、毛並みを逆立てたラズリと同じようにエレも不安を感じている。
 とにかく、ここにいるのは危険だ。
『あいあいさー! 撤退しますわよ!』
 撤退する、別班の青年の思念に千紘が応える。
「足元にご注意を」
 声色は丁寧に、ラーヴァがチェイスアート・デバイスのビームで仲間達を繋ぐ。
 彼の役割は戦線離脱補助、今の場では非常に重要な存在だ。
 ラーヴァに導かれるように駆け出すケルベロス達。
 どうやらもふもふを堪能するのはまだ先のよう、寝不足のラギアの思考はけれど前向きで。
 ふと、泰孝の脳裏に家で待つ少女の顔が浮かぶ。
(「ワリィな、カヤ。もう少しかかりそうだ」)
 心の中で謝って、そして泰孝は走り出す。
 サレンダーにはまだ早い。勝負は最後まで分からないのだから。

 かくして邪樹竜は滅び、そして次なる厄災が訪れる。
 それを振り切るようにケルベロス達は只管樹海を駆けるのであった。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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