激闘7分間-倒せ! 手ごわい武者ロボを!

作者:秋津透

 北海道岩見沢市、深夜。
 中心街に並ぶビルの一つが、突然内側から爆発するように崩れ、全長7m程度の大型ロボット……巨大ロボ型ダモクレスが出現する。
 その姿は、戦国時代の具足に似た日本風甲冑をまとった鎧武者。左右の手に巨大な抜き身の刀を持ち、顔面部分は、甲冑が展示される時によく使われる鉄仮面を思わせる。人間の大きさでも充分禍々しく恐ろしい姿だが、それが全長7mの巨体となると、死と破壊の化身としか見えない。
 そして、出現した巨大武者ロボ型ダモクレスは、気合とともに右手の刀を振るった。
「炎斬!」
 右手の刀が燃え上がり、傍らのビルを焼き焦がしながら両断する。続いてダモクレスは、左手の刀を振るう。
「氷斬!」
 左手の刀が冷たい輝きを放ち、傍らのビルを凍りつかせて両断する。
「ウム」
 巨大ダモクレスは満足したようにうなずき、それ以上の破壊は行わず、月光のもと悠然と佇む。禍々しい姿をした異星の巨大メカニズム生命体にもかかわらず、その静かな佇まいには武人の風格すら感じられる。
 そして七分間、巨大武者ロボ型ダモクレスは虚空に開いた魔空回廊に吸い込まれて消えていくのだった。
「巨大恐竜ロボ型、巨大埴輪ロボ型ダモクレスが出た以上、次に出るのは鎧武者型か歌舞伎役者型に違いないと思ったのですが、どうやら鎧武者が現れたようですね」
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が、淡々とした口調で告げる。ヘリオライダーの高御倉・康は、どうしてそういう予想になるんですか、と問いたげな様子を一瞬見せたが、すぐに表情を引き締めて告げる。
「北海道岩見沢市で、封印されていたとおぼしき巨大ロボ型ダモクレスが復活し、7分後に魔空回廊が出現して回収される、という予知がありました」
 そう言うと、康はプロジェクターで画像を示す。
「出現時間は今夜深夜、出現場所はここ。既に住民の避難は進められており、出現時には近隣には誰もいなくなっています。こちらは出現30分前ぐらいに到着し、待ち構えることができますが、出現する建物の内部等を調べても何もありません」
 そう言うと、康は画像を切り替える。
「予知された巨大ロボ型ダモクレスの形状は、見ての通り、二つの刀を携えた巨大な鎧武者です。隈取とかはしていないので、歌舞伎役者ではありません」
 難しい表情のまま告げ、康は画面を切り替える。
「巨大武者ロボ型ダモクレスは、グラビティ・チェインの枯渇により本来の戦闘力は発揮できないようですが、右手の刀で炎の斬撃、左手の刀で氷の斬撃を放ちます。いずれも単体攻撃のようですが、侮れない威力です」
 そう言うと、康は一同を見回す。
「そしてフルパワー攻撃として、二本の刀を頭上に掲げ、全身を回転させて全力飛翔体当りを、一度だけ仕掛けてくる可能性が高いです。まともに当たったら、かなり高レベルのケルベロスでも一撃で戦闘不能に追い込まれかねない強力な攻撃です。たた、仕掛けた反動で、巨大武者ロボ型ダモクレスもそのあと1ターン動けなくなるようです」
 そして康は、もう一度画像に目をやった。
「今回の敵は見るからに強そうで、実際に強いのですが、オラトリオの記録では、本来は集団攻撃用の爆炎砲なども使うとのことで、回収を許したら大変なことになります。7分間で確実に仕留めてください。新装備『ヘリオンデバイス』での支援も可能になりましたし、どうぞよろしくお願いいたします」
 ケルベロスに勝利を、と、ヘリオンデバイスのコマンドワードを口にして、康は頭を下げた。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
バラフィール・アルシク(黒い噂に惑うた幾年月・e32965)
 

■リプレイ

●命知らずもほどほどに……ね?
「こいつは……」
 北海道岩見沢市、深夜。中心街に並ぶビルの一つが内側から爆発するように崩れ、巨大武者ロボ型ダモクレスが出現したのを見据え、日柳・蒼眞(無謀刀士・e00793)は小さく唸る。
(「これは、ヤバいか?」)
 なぜかわからないが、背中にぞくっと悪寒を覚え、蒼眞は言葉には出さずに続ける。
 そして武者型ダモクレスは、周囲に布陣するケルベロスたちを一瞥すると、身体をぐるんと回して巨大な刀を振るう。
「炎斬!」
「!」
 敵の反対側、氷の刀の側を飛行し、かつ建物の陰に入っていたマルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)めがけ、建物を斬り飛ばしながらの斬撃が襲い掛かる。
 あわや、と、思った瞬間、ディフェンダーの機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が飛び込み、攻撃を肩代わりして受ける。
「!!」
「大丈夫です、マリー。この程度は、想定内です」
 胸元を深く斬られ、かつ傷を炎で焼かれる真理を見やって、マルレーネは息を呑むが、真理は平静な声で告げ、それからダモクレスに向かって朗々と声を発する。
「やあやあ、我こそは地球の守護者ケルベロスの一員、レプリカントの機理原・真理と申すのです! そこなるダモクレス、見たところ武士のようですが、武士なら正々堂々一騎打ちをするですよ! 出し惜しみだって失礼にあたるです! 全力の技を見せるです!」
 言い放つと、真理は愛用の改造チェーンソー剣を振りかざして、ダモクレスに切りつける。刀を持つ腕を狙ったが、相手は身を翻し、胸元を浅く裂くに留まった。
 そして間髪を入れず、ダモクレスの足元に真理のサーヴァント、ライドキャリバー『プライド・ワン』が炎をまとって突撃する。ぐら、とダモクレスがよろめき、具足を模した脚部に火がつく。
(「こっちからは、氷で行くか」)
 言葉には出さずに呟き、蒼眞は高く跳んでダモクレスの正面から斬りつける。びき、と兜の前立てに傷がつき、氷が付着する。
「んう、むしゃむしゃロボか……いや、ぶしぶしロボ? それとも、ずばずば?」
 少々意味不明な呟きを漏らしながら、伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)がオリジナルグラビティ『ポッピングボンバー』を、飛行状態から急降下爆撃のような形で炸裂させる。
「うごくなー、ずどーん」
 無数の小型ミサイルが、ダモクレスの足元で爆発する。そしてマルレーネが、こちらもオリジナルグラビティ『焼霧嵐舞陣(アシッドストーム・ピンク)』を発動させる。
「霧に焼かれて踊れ」
 強酸性の桃色の霧が、ダモクレスの胸元、真理が付けた傷を覆い、装甲を焼いて刺激臭を発する。
 そしてメディックのバラフィール・アルシク(黒い噂に惑うた幾年月・e32965)が、真理に電撃治療を施し、胸元の炎を消す。最後にバラフィールのサーヴァント、ウイングキャット『カッツェ』が前衛三人に清浄の風を送り、BS耐性を付与する。
 すると、武者型ダモクレスは大きく跳び、今度は真理に斬りつける。
「氷斬!」
「まだ出し惜しみするですか! 武士の風上にも置けないです!」
 今度は胸から脇腹にかけて斜めに斬られ、氷を付着させられながらも、真理は強い口調で挑発し、再び改造チェーンソー剣を振るう。一見、一回目と同じ攻撃をしているようだが、実は、一撃目は敏捷、二撃目は頑健の技で、見切りを防ぎながら蒼眞の攻撃をなぞり、氷の付着を増やす。
 そして『プライド・ワン』がダモクレスの足元をスピン攻撃で払い、蒼眞はダモクレスの頭に斬りつける。これまた、一回目と同じ攻撃のように見えるが、真理と同じく、一撃目は敏捷、二撃目は頑健で、見切りを防いで氷を増やしている。
「んう……こちらに、こうげき、こないのか」
 まあいいや、と、勇名はダモクレスの頭を力任せに殴りつける。勇名がダメージを受けていれば、ドレイン回復効果があるのだが、なくても敵にダメージを与えることに変わりはない。
 マルレーネはバスターライフルからグラビティ中和光弾を発射、ダモクレスの攻撃を弱めようと図る。
 バラフィールは再び真理に電撃治療を行い、ダメージを癒す。氷はBS耐性の効果で消えているが、その分、内部構造が露わになった傷口が痛々しい。
 最後に『カッツェ』は、ダモクレスの刀に向けてキャットリングを飛ばす。
 するとダモクレスは、刀を持った両腕を高々と上げた。
(「来るですね。全力攻撃」)
 私以外に行ったら庇うです、私に来て躱せたら最高です、と、真理は淡々と呟く。
 そして、ダモクレスは高速回転しながら宙へ跳んだ。
「……盾に!」
 バラフィールが、建物の陰に待機させておいたレスキュードローンを動かし、ダモクレスの攻撃を妨害しようと試みるが、巧みに躱される。
 そして武者型ダモクレスは、殷々と声を放ちながら真理へと突撃する。
「回転、飛翔斬!」
 ぎりぎり躱したか、と思った瞬間、ダモクレスはわずかに刀を開き、真理を回転に巻き込む。
 比喩でも誇張でもなく、全身をずたずたのばらばらに分解されたが、真理は飛び散りそうになる全身のパーツを磁力で引き留める。
(「……私の、勝ちです」)
 落下していくダモクレスを、視覚ではなく電子的に捉えながら、真理は呟く。
 そして、片膝立ちのような体勢で着地したダモクレスに、腕ではなく即席で作った支柱で保持した改造チェーンソー剣を振りかざして突っ込む。
「真理!」
「大丈夫です。戦闘不能ではないです。戦闘不能に陥っているのは、敵の方です」
 悲鳴のような声をあげたマルレーネに、真理は殊更に冷静な声で告げる。
「今こそ好機です。全力攻撃です。私の治癒など後回しです」
 そして、その指示に応えるように『プライド・ワン』が炎を纏って突撃する。しかし、そのヘッドライトは真紅だ。
(「機理原……ヤバい気はするが、しかしここは攻撃だな」)
 蒼眞は言葉には出さずに呟き、オリジナルグラビティ『巨大うにうに召喚(ギガントウニウニコーリング)』を発動させる。
 謎の存在「うにうに」が武者型ダモクレスの頭上から雪崩落ち、その全身を潰す。
 ダモクレスの身体に付いている炎のせいか「うにうに」は蒸発して消えるが、ダモクレスは見るも無残というか、兜が胴にめりこんで顔がなくなり、全体がかなり寸詰まりになった。
 しかし、その両腕は、しっかりと刀を構えている。
「かたな、おとせ」
 勇名がダモクレスの腕を殴りつけ、腕と肩が妙な具合に歪んだが、しかし刀は落とさない。
 マルレーネはバスターライフルから冷凍光線を発射して、腕を凍らせようとする。
 そしてバラフィールは、もはや機械部品の塊のような惨状を呈している真理に接近し、手術を行う。
「攻撃です! 治癒は後回しに……」
「いいえ、医者として、そしてヴァルキュリアとして、あなたを治癒しないわけにはいきません。あなたは瀕死なのですよ」
 言い募る真理に、バラフィールはいつになく厳しい口調で反駁する。
「私が攻撃したところで、すぐに敵を潰せる状況ではありません。そして敵が動き出したら、あなたを攻撃してきます。治癒を後回しにしたら、確実に死にます」
「いえ、死なないです。戦闘不能になるだけで……」
 更に言う真理に、バラフィールは容赦なく告げる。
「戦闘不能になったあなたを、敵が見逃すとでも思うのですか? もちろんレスキュードローンで後方に搬送しますけど、逃げ切れない可能性の方が高いですね。あ、でも……彼女が暴走する方が先かしら?」
「……彼女が暴走、ですか?」
 真理の声に、初めて動揺のようなものが混じる。一方バラフィールは、淡々と応じる。
「私にはわかります。マルレーネさん、現状でもぎりぎりですよ。あなたが戦闘不能になったら、たぶん……」
「それはダメです。不許可です」
 マリーが暴走……怪物化して行方不明になるなんて、絶対に許容できません、と、真理は口走る。するとバラフィールは、きっぱり言い放つ。
「だったら、回復することですね。私が全力をあげて治癒しても、敵の攻撃に耐えられるかは際どいところです。攻撃はクラッシャーとジャマーに任せて、あなたは自己治癒した方がいいでしょう」
「……わかりましたです」
 呟いて、真理はシャウトを行い自己治癒する。人工皮膚が一部再生し、人間の顔が形成される。
 するとバラフィールが、うなずいて告げた。
「ええ、それだけでも、マルレーネさんの精神衛生上は、かなり違うと思いますよ」

●意地と激情、激突の果て。
「んう……まだ、つぶれないか」
 つぶれなくても、せめて、かたな、おとせ、と唸りながら、勇名がダモクレスの腕を殴りつける。
 めきめき、と音がして、圧縮された胸のあたりに亀裂が入るが、ダモクレスの動きは止まらず、刀を落とすこともない。
 マルレーネは、グラビティ中和光弾を発射する。ダメージがないはずはないのだが、目につく効果は現われない。
 バラフィールは、真理にウィッチオペレーションを施す。共鳴が生じればいいのだが、たまに共鳴が起きないと、回復が間に合わなくなる。
(「……ぎりぎり、ね」)
 言葉には出さずに呟き、バラフィールは溜息をつく。共鳴で回復し、BS効果で敵の攻撃がダウンして、やっと何とか真理が潰れずに済んでいる。
 しかし、スナイパーの『カッツェ』は、列回復で真理を癒すよりもダモクレスを攻撃する方が優先になっている。
 何といっても、七ターンで倒せなければケルベロスの負けなのだ。そして現在は、五ターン目が終わるところ。
「氷斬!」
 もはや意地なのだろうか。変わり果てた姿になりながらも、ダモクレスは執拗に真理へと攻撃を仕掛ける。
 その一撃が、まともに真理を両断した。
「真理!」
 マルレーネが叫んだが、真理は応答しない。いけない、暴走する、と、バラフィールが呻いたが。
「……まだ、です」
 かすれた声とともに、両断された真理の身体が一つにまとまる。凌駕したのか、と、蒼眞が唸る。
 そして真理はシャウトを行い、マルレーネに向かって途切れ途切れに告げる。
「マリー……暴走はせずに……敵を……つぶしてくださいなのです……次にやられたら、私、もちそうにないのです……」
「了解」
 薄皮一枚で平静を保っているような表情で、マルレーネがうなずく。
 その間に、ヘッドライトを真紅に光らせた『プライド・ワン』が炎を纏って突撃する。
(「機理原も……せめてサーヴァントをディフェンダーにしてダメージ分け合えよ……」)
 思ったものの口には出さず、蒼眞は満身創痍のダモクレスへ炎弾を放つ。
「えいやあ、びゅーん」
 勇名が簒奪者の鎌を投擲し、ついにというべきか、ダモクレスの片腕を刀もろとも斬り落とす。
 そしてマルレーネが、その傷口へ『焼霧嵐舞陣(アシッドストーム・ピンク)』を容赦なく流し込む。
「真理は、やらせない。これで、潰れろ」
 ほとんど呪詛のようなマルレーネの呟きとともに、強酸性の霧がダモクレスの体内に浸透する。
 すると間もなく、がらんと大きな音をたててダモクレスの残った腕が落ち、続いて全身ががらがらと崩れる。
(「中身を、全部溶かしたのか?」)
 いやはや、と、蒼眞が唸り、マルレーネは、かろうじて顔だけ人工皮膚が再生した状態の真理に近づいて告げる。
「やったよ……真理……」
「ありがとう、マリー、なのです」
 ちゅっ、と、真理がマルレーネにキスをする。その時、七分が経過したが、魔空回廊は開かなかった。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月23日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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