みんな! スナイパーだよ!

作者:土師三良

●射撃のビジョン
「認めん! 認めん! 認めん! 絶対に認めんぞぉ!」
 怒りの咆哮が谺したのは、和歌山市某所のクレー射撃場。
 クレーの投射機が設置されたフィールドに八人の男が立っている。全員が空手着を纏っているのだが、そのうちの一人――怒声の主はボグシングのグローブまで装着していた。
 今日はこの射撃場の定休日(故に八人の男たちの他に誰もいない)であり、そもそもフィールドへの立ち入りは禁じられている。しかし、そのことで咎める者がいたとしても、八人の男たちは耳を貸さないだろう。彼らに常識は通じない。グローブ男に至っては、存在そのものが常識から外れている。
 ビルシャナ化して、頭部が鶏のそれに変わっているのだから。
「格闘王の名において! 飛び道具なんぞを使う勝負など、絶対に認めることはできん! 近接攻撃のみで戦わずして、男と言えるか!? 戦士と言えるか!?」
 と、自称『格闘王』が問いかけると――、
「言えません!」
 ――残りの七人が同時に答えた。完全に洗脳されているらしい。
「そう、戦士とは言えーん! そんな偽りの戦士たちに自らの過ちを悟らせるため、真の戦士たる我らが全国クレー射撃場打ち壊し行脚の旅を敢行しようではないか! ここが最初の一軒目だ!」
「おう!」
 と、七人はまたも同時に答え、『全国クレー射撃場打ち壊し行脚の旅』なるものの一環として破壊行為を始め……るかと思いきや、そのうちの一人が挙手して、格闘王に確認した。
「銃火器がアウトなのは当然ですが、弓矢もアウトなのでしょうか?」
「アウトに決まってるだろうが! ただし、弓で直にぺしぺし叩くのはセーフだ」
「では、手裏剣は?」
「ギリでアウトだなー。ただし、手に持って直にぶすりと突き刺すのはセーフだ」
「吹き矢は?」
「もちろん、アウト。ただし、筒で直にぐりぐり抉るのはセーフだ」
「ブーメランは?」
「アーウートー。ただし……」
 この後、似たような問答が延々と続いた。

●モカ&ダンテかく語りき
「和歌山県和歌山市のクレー射撃場にビルシャナとその信徒たちが現れたっす」
 ヘリポートの一角。空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)を始めとするケルベロスたちの前で、ヘリオライダーの黒瀬・ダンテが語り始めた。
「そいつは『格闘王』と名乗っておりまして、『飛び道具を使うのは卑怯。近接攻撃だけで戦うべし』みたいな主張をしてるっすよ」
「ふむ」
 モカの目付きが鋭いものに変わった。
「そんな信条を持っているからには、さそがし腕の立つビルシャナなのだろうな」
「いえ、たいしたことないっす」
「えー……」
 モカの目付きが鋭いものではなくなった。
「格闘王とは名ばかりで、実際は素人に毛さえ生えてない感じっすね。ビルシャナ化しているのでグラビティ以外で傷つくことはありませんけど、戦闘能力は高くないっすよ。でも、ちょっと厄介なことがあるっす」
 格闘王は七人の男を洗脳して信者にしているのだ。ケルベロスが格闘を倒したとしても、その信者たちの誰かが(あるいは全員が)新たなビルシャナとなるかもしれない。
「格闘王を倒すことだけでなく――」
 と、モカがダンテに確認した。
「――信者たちの洗脳を解くことも考えなくてはいけないのだな?」
「そうっす。でも、洗脳の影響で理屈が通じにくくなってるっすから、言葉よりも行動で示すべきっすね」
「どんな行動だ?」
「格闘王と同様、信者たちも武道に関しては素人みたいっす。近接攻撃至上主義に染まったのも、たんに『近接攻撃のほうがかっこいいから』と思ったからに過ぎないでしょう。だから、逆に『遠距離攻撃のほうがかっこいい』と思っちゃうような戦い振りを見せればいいんすよ」
「では、近接攻撃を使わずにビルシャナと戦わなくてはいけないのか?」
「そうでもないっすよ。近接攻撃を使う場合、いかにも遠距離攻撃っぽい演出を盛ればいいんです。たとえば、十メートルくらい離れた場所から助走して降魔真拳を打ち込むとか。名付けて『十メートルの爆弾』っす!」
「……」
「面白くなかったっすか?」
「いや、面白いとか面白くないとかいう以前に意味が判らないんだが……」
 当惑するモカをよそにダンテは注意事項を告げた。
「かっこよく戦ってる姿を信徒に見せなくてはいけないわけですから、『視認できないほどの遠距離から狙撃する』みたいな戦術はNGっすよ。そもそも、そんな便利なグラビティはないと思いますけど」
 そして、目をキラキラと輝かせ、ケルベロスたちを見回した。
「期待してるっすよ! 皆さんのかっこいい遠距離攻撃を! もしくはかっこいい遠距離攻撃っぽい近接攻撃を!」


参加者
新条・あかり(点灯夫・e04291)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
ナクラ・ベリスペレンニス(ブルーバード・e21714)
バラフィール・アルシク(黒い噂に惑うた幾年月・e32965)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)

■リプレイ

●空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
 空を行くヘリオンから飛び出したのは、私を含めて九人のケルベロスと四体のサーヴァント。
 しかし、敵が待つクレー射撃場に降り立ったのは三人と一体だけ。私、自称『魔法少女』のシルフィリアスさん、人間形態を取っているメリュジーヌのメロゥさん、バセットッハウンド型のオルトロスのイヌマル。
 他の面々は飛んでいた。ジェットパック・デバイスを使用して、もしくはそれに牽引されて、もしくは自分の翼を使って。
「……って、初っ端から卑怯すぎるだろぉーっ!」
 ボクシングのグローブを装着して空手着を纏った鶏頭のビルシャナ――格闘王が怒鳴った。
「降りてこいや、こらぁーっ!」
 両腕を振り回して飛行部隊に叫び続ける彼に構うことなく、地上組のシルフィリアスさんがくるりと回転して名乗りをあげた。
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす!」
 回転は変身の動作のつもりだったのかもしれないが、外見はなに一つ変わっていない。防具に『プリンセスモード』等の機能が備わっていなかったらしい。
「……え?」
 さすがの格闘王も叫ぶのをやめて、ぽかんと口を開けた。後方にいる信者たちも茫然自失といった有様。
 その虚を衝くかのように――、
「いくっすよー!」
 ――シルフィリアスさんはライトニングロッドから雷撃を撃ち出した。
「ぐあっ!? ぐえーっ!?」
 苦鳴が連続したのは、すぐに二発目のグラビティ――錨の形をした無数の氷を食らったから。それを放ったのは、ジェットパックを装備した猫のウェアライダー……ではなく、猫の着ぐるみを纏ったシャドウエルフのあかりさん。
「近接攻撃のみってことは、飛んで戦ったりしないってこと? 鳥なのに?」
 氷の残滓が張りついたライトニングロッドをバトントワラーさながらにくるくると回しつつ、あかりさんは格闘王を挑発した。
「それとも、飛べないから、近接攻撃のみなのかな?」
「コケーッ!」
 格闘王が悔しげに鳴いた……いや、泣いた?

●シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)
「その怒り、俺が受け止めてやる」
 コケコケ鳴いてる格闘王に向かって、陣内さんが怪しげなグラビティをぶつけたっすよ。
 そのグラビティには怒りを植え付ける効果があったらしく、格闘王は駄々っ子みたいに両腕を振り回し、陣内さんに反撃しようとしたっす。
 でも――、
「いや、受け止める気ゼロじゃん! おまえ、飛んでるじゃん!」
 ――そう、陣内さんがいる場所は駄々っ子パンチの射程外。あかりさんのジェットパックにちゃっかり牽引してもらって、余裕の表情で尻尾をゆらゆらさせてるっす。あ? 尻尾があるのは陣内さんが黒豹の獣人型ウェアライダーだからっすよ。
「この卑怯者ぉーっ!」
「ヒキョウモノ? 聞き慣れん言葉だが、そいつは造語の類か? それとも、おまえの故郷の方言か?」
 陣内さん、めっちゃワルい顔してるっすね。
 その横で白髪赤眼のヴァルキュリアのパラフィールさんが木製のライトニングロッドを構えたっす。ちなみにパラフィールさんは光の翼を展開してカッコよく飛んでいる……ように見せかけて、実はジェットパックを使ってるっす。
「近距離から殴るしか能がないとは……」
 格闘王を蔑みの目で見ながら、ライトニングボルトを発射。
「こういうのを『脳筋』と言うのでしたか?」
「俺は脳筋ではなぁーい!」
 雷撃を食らいながらも、格闘王はなんか言い返してきたっす。
「むしろ、魔法ばかりに頼ってる非力な貴様らのほうが『NO筋』だろうが!」
「うまいこと言ったつもりでござるか?」
 メイド姿のカテリーナさんがあちらこちらに飛び回りながら、スカートの裾に手をやり――、
「めちゃくちゃ寒いでござるよ!」
 ――デコ盛りされた手裏剣を取り出して、しゅぱっと投げたっすよー。

●カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)
 手裏剣が格闘王に命中すると同時に爆発音が轟いたでござる。
 もちろん、手裏剣が爆発したわけではござらぬよ。オラトリオの翼を広げて(アンド、あかりの牽引ビームに繋がって)飛んでいるナクラがブレイブマインを炸裂させたのでござる。
 対象となったのは後衛陣と飛行組。あかりは赤、陣内は黒、バラフィールは白、拙者はピンクといった具合に爆炎の色がそれぞれ違っているでござるよ。
「やれやれ。接近戦を愛する格闘王なら、どこぞの地下闘技場にでも行けばいいもんを……」
 ナクラが肩をすくめているでござる。
「アウェーに押しかけて自分を大きく見せようっていうのはカッコ悪くない? なあ、ヴァオ」
「うんうん。カッコ悪いわー。なはははは!」
 と、大口を開けて嘲笑したのはドラゴニアンのヴァオ。普段ならば、ビビりまくって『俺に振るなよぉ』とか言うところでござるが、今回は敵の攻撃が届かないと判っているので、調子に乗っているでござるな。
 そんなヴァオにメロゥが声をかけたでござる。
「ドローンデバイスでの編隊飛行、どうかな?」
「おう!」
 頷くヴァオの頭上でV字ギター型のドローン(まさにフライングVでござるな)が大きな円を描き始めると、その内側でメロゥのトランプ型ドローンが小さな円を描き始めたでござる。
「よーし、ショーを始めよう。まずはこれ!」
 二機のドローンが軌道を円から直線に変えて左右に飛んでいくと、それに合わせてメロゥは両腕を広げたてござる。
 左右の拳の間にピンと張ったのはケルベロス・チェイン。
「ほーら、なんの変哲もない鎖が勝手に動くよー!」
 その言葉通り、チェインが蛇のように蠢き始めたでござる。いや、精神力で動かせる武器だから、べつに不思議でもなんでもないのでござるが……それでも、なんとなくマジックっぽく見えるのは、メロゥの衣装がタキシードとシルクハットというマジシャン・スタイルだからでござろう。

●ナクラ・ベリスペレンニス(ブルーバード・e21714)
 メロゥの鎖がウネウネと動き、防御力を高める魔法陣を描いた。
 その恩恵を受けたのは前衛のサーヴァントたち。低空飛行しているウイングキャットのカッツェ、地べたで身構えてるイヌマル、そして、俺の可愛いニーカだ。
「ナノー!」
 ナノナノ特有の小さな翼をぱたぱた動かしながら、ニーカはハート型のバリアでカッツェにエンチャントを重ねがけした。
 カッツェはお礼とばかりに清浄の翼でニーナとイヌマルに異常耐性を付与し、イヌマルは神器の瞳で敵を攻撃。
 続いて、サーヴァントの中でただ一匹だけ安全圏にいる名無しのウイングキャット(主は陣内だよ)がキャットリングを飛ばした。
「えーい! この下等動物どもめー!」
 格闘王がまたも駄々っ子パンチを繰り出したけど(見切り対策とかは考慮してないみたい)、空振りに終わった。『下等動物』たるサーヴァントたちを攻撃したかったのだけれど、陣内に植えつけられた怒りが働いて……でも、陣内は攻撃圏外という非情なる現実。
「あー! イライラするぅー!」
 頭上にいる陣内や俺たちを睨みつける格闘王。
 そんな彼に向かって、モカが二本の如意棒を伸ばし――、
「はいはい。ソーシャルディスタンス、ソーシャルディスタンス」
 ――押し出すようにして更に間合いを広げた挙げ句、ダメ押しにマルチプルミサイルを発射した。
「その手の時事ネタはやめーや! ケルブレの世界ではヤバげな病気とか流行ってへんしー!」
 ミサイルの雨に蹂躙されながら、格闘王が抗議の声をあげた。何故に関西弁?
「いや、このタイミングで『遠距離が云々』という事後行動が採用されのは時事ネタを意識したとしか思えないんだが……」
「そういうことを深く追及したらダメっすよ、モカさん」
 首をかしげるモカを注意しながら、シルフィリアスがライトニングロッドを突き出した。髪の先端に口みたいなものが生じて、メロゥの鎖よりも激しくウネウネと動いてる。グラビティの予備動作かな?
「メタなこと……もとい、めったなことは言うもんじゃないっす!」
 ライトニングロッドから光が放射され、格闘王に命中した。

●新条・あかり(点灯夫・e04291)
 僕は遠距離攻撃が得意なほうだから、今回みたいな任務は楽かな。でも、ビルシャナを相手にする時は近距離から捌き……じゃなくて、殴りたいので、ちょっぴりフラストレーションな状態かも。
 それに比べて、カテリーナさんはフラストレーションなんか一ミリも感じてなさそう。元気いっぱいに飛び回ってる。
「トラウマに苦しむがいいでござるぅ!」
 格闘王の後方に回り込み、体を横向きにして射撃エリアのトタン屋根の縁の側面を走るというNINJAらしいアクションを披露しながら、クナイ型の惨殺ナイフをキラリと閃かせたりして。
 それに合わせて、タマちゃん(陣内氏のことだよ)も格闘王の前方というか斜め前方(飛んでいるから、敵との視点の高さがぜんぜん違うの)で愛用の惨殺ナイフをキラリ。はい、トラウマ増し増しの惨劇の鏡像サンドイッチのできあがり。
「よく見ろよ、おっちゃん! ライター、倒れたじゃん! はぁ? 棚から落ちないとダメ? なんじゃ、そりゃ!」
 自分にしか見えないトラウマの幻覚に向かって、格闘王がなにか叫んでる。子供の頃の射的屋さんでの思い出かな?
「……って、イヤな記憶を掘り起こすんじゃねえよ! 本当に卑怯な奴らだな!」
 格闘王は我に返って、睨む相手を幻覚から僕らに変えた。
「確かに戦士としては卑怯かもしれません。しかし、私は――」
 格闘王の視線を無表情で受け止めて、バラフィールさんが懐中から武器を取り出した。
「――戦士である前に医者ですから」
 それは外科用のメスならぬ惨殺ナイフ。『私、失敗しないので』とか言ってほしい。
「拙者たち、失敗しないので!」
 ……なんで、カテリーナさんが言うの?
「二丁撃ちは禁止だとぉ!? なんでだよぉ! インカムが倍になるんだから、ゲーセン側もお得だろうが!」
 また、格闘王があらぬ方向を見て怒鳴り始めた。バラフィールさんの攻撃で新たなトラウマが蘇ったみたい。よく判らないけど……ゲームセンターでのガンシューティングがらみの記憶?
「もっとドラマチックなトラウマはないのかねぇ。盛り上がりに欠けるな」
 ナクラさんが苦笑しつつ、頭を軽く一振りして――、
「せめて、俺の歌で盛り上げようか」
 ――小さな花が咲き乱れる赤い髪を風にたなびかせ、『幻影のリコレクション』を歌い始めた。

●玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
「攻撃というのは近距離から拳で繰り出すものだけじゃないでしょ」
 ナクラの歌声をBGMにして、あかりが華麗に空を行く。タイムの花や葉で飾られたジェットパックがよく似合っている……が、遠目にはランドセル姿の小学生に見えなくもない。
「時には地から! 時には空から! 距離を活用するのは戦闘の基本!」
 小さな掌が振り下ろされると、そこから大きなドラゴンの幻影が現れ、格闘王に炎を浴びせた。
「あぢぢぢぢっ!?」
「飛べない鳥はただのトリだよ」
 苦しみ悶える格闘王を物理的にも精神的にも見下ろすあかりの眼差しはアイスエイジ並みに冷たい。たぶん、『トリ』ってのは『鶏肉』にルビを打ってんだろうな。あれ? そういえば、あかりって、ビルシャナがらみの任務に参加する度に鶏肉をお土産に買ってくるよな。まさか……いやいやいやいや! そんなはずはない。うん、そんなはずはない。
「僕も、飛べない鳥さんに炎のマジックを見せてさしあげようかな」
 メロゥがすぼめた手を口元にやり――、
「派手ながらも、とても簡単なマジックでね。こうして、ぎゅっと酸素を集めるだけで……」
 ――先程のドラゴンのように炎を吐き出した。袖口の辺りに御業を仕込んでいるんだろうが、なにも知らなければ、マジックに見えるかもな。ちなみに後方ではヴァオが『オリーブの首飾り』を演奏している。安直すぎやしませんかねぇ?
「あぢぢぢぢっ!?」
 と、同じリアクションを続けている格闘王を後目にメロゥはウインクしてみせた。雁首を並べてる信者どもに向かって。
「適度に離れているからこそ、映えるものがあるんだ。今のマジックのようにね。ショートレンジ至上主義者の皆様にもそれが判っていただけたら、嬉しいなあ」
 信者どもはメロゥに目を奪われているようだ。マジックとウインクのどちらに魅せられたのやら。

●メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)
 僕を見つめていたはずのマジックショーの観客……じゃなくて、格闘王の信者たちの視線がつつっと横にスライドした。
 そこにいたのはモカ。なんと、服をはだけようとしている。サービスしすぎじゃないかい?
「この技はあまり使いたくなかったが……」
 衆人環視の中、モカは胸を露わにして、コアブラスターを格闘王めがけて発射した。
「ぐわぁーっ!?」
 直撃を受けてのけぞる格闘王の後方で信者たちは……あー、がっかり顔をしているねー。不自然なまでに眩しいコアブラスターの閃光に邪魔されて、なにも見えなかったらしい。
「あの不自然な光は円盤化された時に消えるでござるよ」
 カテリーナがわけの判らないことを呟いてる。
「よく聞け、おまえら!」
 と、正常な流れに戻すべく、信者たちに呼びかけたのはナクラだ。
「恋も仕事も戦いも近距離とか遠距離とか関係ねえんだよぉーっ!」
 叫びとともに撃ち出された気咬弾が格闘王を吹き飛ばす。
「肝心なのは距離じゃない! いかに吹っ切るかだ!」
 うーん……正直、よく判らない。でも、信者たちはナクラの迫力に圧倒されてるみたい。がっかり顔じゃなくなってるね。
 その間に格闘王はなんとか立ち上がったけど――、
「クレー射撃がダメだというなら、アーチェリーも近代五種も流鏑馬もダメってこと? オリンピック、どうすんのさ?」
 ――そう問いかけながら、あかりがドラゴンサンダーで追撃した。
 でも、格闘王はなんとか踏ん張り、悲鳴の代わりに怒声を発したよ。
「アーチェリーは正式種目から除外して、近代五種は近代四種にすればいいんだよぉー! あと、流鏑馬はオリンピックと関係ねーから!」
 流鏑馬のくだりに律儀にツッコミを入れてる点は誉めてあげてもいいんじゃないかな。
 もっとも、その雄姿(?)を信者たちは見ていない。彼らは揃って空を見上げていた。
 光の翼を大きく広げたバラフィールが僕とヴァオのドローンを伴って、航空ショーさながらに舞っていたから。

●バラフィール・アルシク(黒い噂に惑うた幾年月・e32965)
「水の力よ……ここに集いて、我が敵を貫く槍となれ!」
 通常よりも何割り増しかに大袈裟な所作で愛用のライトニングロッドを掲げると、晴天だったはずの空に雨雲が現れ、格闘王に稲妻が落ちました。
 いえ、稲妻のような軌跡を描く氷の槍が。
「ふんぎゃー!?」
「敵に近距離攻撃が届かないなら――」
 情けない声をあげる格闘王めがけて、シルフィリアスさんがライトニングボルトを飛ばしました。
「――パンチの衝撃波で攻撃したり、一瞬で距離を詰めて攻撃したりすればいいじゃないっすか。普通、格闘家はそれくらいするっすよ」
「いや、普通の格闘家はそんなことできねーから!」
「試す前から無理と決めつけるのはどうかと思うな」
 と、ナクラさんがもっともなこと(?)を言いましたが、格闘王は耳を貸さずにパンチを繰り出しました。標的は前衛のサーヴァントたち。
「こらっ! 攻撃が届かないからって、前衛のかよわいサーヴァントばかり殴るな!」
 陣内さんが格闘王を叱りました。まあ、『サーヴァントばかり』と言っても、格闘王がサーヴァントを攻撃したのがこれが初めてなんですけどね。
「自分が勝てそうな弱者に暴力を振るう奴に『格闘王』などと名乗る資格はないぞ!」
「そーだ、そーだ」
 あかりさんが同意の声を上げました。ちょっと棒読みです。
「ナノー」
 ニーカが両目をバツの形にして墜落する真似をしました。陣内さんの説教に正当性を付与すべく、自分が『弱者』であることをアピールしたのでしょう。
 他のサーヴァントたちもそれに倣いました。
「きゅーん」
 地に伏せ、前足で頭を押さるイヌマル。
「んにゃーん」
 両耳を横に倒し、ぷるぷると震えるカッツェ。可愛い。
「ふにゃ!?」
 頭をはたかれたかのように首をすくめる陣内さんのウイングキャット。こっちも可愛い。
「ちょっと待てや! 前衛じゃない奴がさりげなく混じってんぞ!」
「気のせいでござるよー」
 格闘王の抗議を軽く受け流して、カテリーナさんが手裏剣を投擲。
 その手裏剣の後を追って、氷の奔流が走りました。モカさんの螺旋氷縛波です。
「うぎゃあーっ!?」
 格闘王が再び倒れました。今度はもう立ち上がれそうにありませんね。
「ま、まだ……終わったわけじゃ……ないぞ……」
 おや? 捨て台詞を残すだけの力は残っていたようですね。
「俺がここで死んでも……崇高なる思想は……あの弟子たちが受け受け継いで……くれる……はず……」

 格闘王が息絶えると、メロゥさんがシルクハットを取り、信者たちに向かって恭しく一礼しました。
「お楽しみいただけましたでしょうか?」
 信者たちは……いえ、元・信者たちは一斉に拍手をしました。
『崇高なる思想』とやらは誰も受け継いでくれなかったようですね。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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