蒼空の灰

作者:崎田航輝

 闇色の夜空は昏く、静謐に包まれ風音も聞こえない。
 凪ばかりに満たされた静けさの澱──だが。城ヶ島の遥か上方。雲ひとつないその空に、何処からか漂ってくるものがあった。
 それは力を失い干涸らびて、まるで死骸のように成り果てたドラゴン。
 いつかは強大であったその存在も、今は動くことも叶わなかったが──。
 ぶわりと風が吹いて、その躰へ食らいつく無数の影がある。
 ──ニーズヘッグ。
 千々になってゆくまで、ドラゴンを千切り、抉ってゆくと──ばらばらに散ったその骨が、ばきりばきりと音を立てて次々と変化してゆく。
 灰色の人型を取ったそれは竜牙兵。
 まるで霞が生まれるように、数を増やしていくそれは──歪な翼を動かして、研ぎ澄まされた戦意を湛え始めていた。

「集まって頂きありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
「ユグドラシル・ウォー後に姿を消していたデウスエクス達が、活動を開始したらしいことは皆さんもご存知だと思いますが──」
 中でも、今回はドラゴンのニーズヘッグが起こす事件なのだという。
 竜業合体によって本星から地球を目指すドラゴン達のうち──本隊に先行しながらも地球に辿り着けず、力を使い果たして宇宙を漂っていた個体が、ニーズヘッグの集めた力に導かれるように地球上に転移してきたらしいのだ。
「その個体自体は殆ど死体のようなものだったのでしょう。しかし……ニーズヘッグの集めた力が注ぎ込まれた事で、その骨が全て竜牙兵へと姿を変えたのです」
 産み出されたばかりの竜牙兵は強敵とまでは言えないが、数は膨大だ。
 更に『竜業合体でやってくるドラゴン達の為にグラビティ・チェインを集める』という、ニーズヘッグの強い意志の影響を受けて、大挙して町を蹂躙しようとしている。
「これを見過ごすことは出来ません」
 人々を守るため、竜牙兵を迎撃してくださいと言った。

 今回の竜牙兵の大量発生によって、ニーズヘッグの拠点が城ヶ島にあることが判った。
 それ自体は収穫の一つとは言える。幸い、城ヶ島の住人も過去の経験を活かしていち早く避難した為、被害も抑えられるだろう。
「ただ、簡単な戦いというわけには行かないでしょう」
 今回の戦場は、城ヶ島と本土間の東側にあたる海上。
 敵となる竜牙兵は108体で、その全てが歪な翼を使って宙を飛び……やや迂回する形で海上の空から本土を目指してくるようだ。
「ジェットパック・デバイスなどでも対抗出来る高度や速度ではありますが、取り逃がせば本土にたどり着かれる可能性は高いでしょう」
 空中戦の他、海上からの狙撃など戦い方を練っておくといいかも知れません、と言った。
「敵は前衛と中衛の左右、後衛と、ポジションごとに大まかな塊を作る形で編隊を組んでくるようです」
 1つの塊に集中していると、別の塊に隙を突かれる可能性もあるので警戒を、と言った。
「また、各ポジションには司令塔となる個体が1体ずついます。こちらは翼が大きく、戦闘能力も高めなので注意しておくといいでしょう」
 今回の敵は立体的な軌道も取って戦ってくると予想される。場合によっては、翼を狙って攻撃するなどを狙ってみてもいいかも知れないと言った。
「竜牙兵の数は多いですが、無限ではありません。数を減らせば、ニーズヘッグの拠点への強行調査なども実行できるようになるはずです」
 ただ、ドラゴンの本隊が宇宙を渡って地球に到達するまで多くの時間は残されていないだろう。
「その前に竜牙兵の撃破を進め、ニーズヘッグとの決着をつける必要があるかもしれません」
 いずれにせよ、人々を襲わせるわけにはいきませんから、と。イマジネイターは声に力を込めた。
「是非、確実な撃破を。健闘を、お祈りしていますね」


参加者
オペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)

■リプレイ

●蒼
 タラップから青い空へ躍り出ると、眼下に広がるのは蒼の海原。
 雄大な色を見下ろしながらジェットパックを起動した緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)は、小さな白波を立てながら宙で静止していた。
「デバイスは、問題ないな」
「こっちも大丈夫だ」
 と、隣のレヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)も笑みを返す。自身のジェットを吹かしながら──結衣と共に仲間を牽引していた。
 それに肖って浮かびつつ、七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)はレスキュードローンを水面の上に飛ばしている。
「これで足場もバッチリなんだよ」
「ありがとう!」
 言ってそこへ降りたリーズレット・ヴィッセンシャフト(碧空の世界・e02234)は、弓も備えて狙撃の構えも万端だ。
 と、そんなリーズレットの頭から、匣竜の響が……瑪璃瑠の顔面目掛けてもふっと飛びついていた。
「もふっ!?」
「ひびちゃーん!? え、なに!? 『気合一発!』だって? メリリル大丈夫!?」
 あ、でも可愛い……と思いつつ響を抱き寄せると、瑪璃瑠は少々驚きつつも頷いて。
「うん、大丈夫だよ、リズさん。響さんも頼りにしてるんだよ」
 気合を入れてくれた響と拳をこっつんこ。意気充分に、彼方へと視線を向けていた。
 その蒼空に見えてくるのは──霞の如き灰色。
 群れを成し、軍を成す竜牙兵。
 リーズレットは紅鳶の瞳をまんまるにしていた。
「それにしても……めっちゃ多いな!? 煩悩の数位あるな!?」
 事実、その数は百八。
 かちかちと、歪な音を零しながら飛来するその敵影に──オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)は微かな竦みを感じる。
「世界が終わるみたいな光景、だね」
 過るのは、自分達が滅んだ時の事だった。
 抗えぬ程の、殺意の大波。それは希望を飲み尽くす程の暴虐の塊で。
「それでも──」
 オズは自身の体に力を込める。
「阻止するのが今の僕の仕事だ」
 今度こそは護るべき人々を護らなければならないから。ここで、止まってはいられないから。
「行こう」
「そうだね、始めるとしようか」
 涼やかに、笑みのままで応えるのはメロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)。
 タキシードにシルクハット、洗練された奇術師のなりを海風にも崩さずに。ブーツ型のデバイスを起動させ、皆へ追走能力も分け与えながら敵と同高度へ昇ってゆく。
「さあ、皆も」
「──ええ」
 そっと応えて、風を優しく蹴るのはオペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)。海面が離れてゆくと、蒼空の冷たい空気が白妙の髪を靡かせて。
(「これが、空」)
 初めての飛翔に、菫色の瞳を仄かに輝かせる。
 同時にその視線を、空駆く敵へも向けた。
「アナタ達をこの先へいかせる訳には、まいりませんから」
 伸びやかな仕草で風を泳ぐと、特に素早く動く牙達の塊へ肉迫。轟と響く羽音と、がちりと鳴る歯音の嵐の中へ飛び込んでゆく。
 そのまま立体的なピルエットを舞うように、鮮やかな蹴撃。廻りながら靭やかに脚を伸ばし、阻害役の塊へも衝撃を及ぼした。
 同時に芍薬綻ぶインカム型のデバイスで、皆へ思念を共有。
「中程の敵へは、広く攻撃を届かせることが可能のようでございます」
「よっし、こっちも行くぜ!」
 と、丁度逆方向から飛来するのはレヴィンだった。
 ゴーグル越しに阻害役の塊を見据えると、至近から加速して群れへ。槍を構えてオーラを翼の如く噴出し、数十の個体を次々薙いでゆく。
 衝撃に惑う敵の中で、骨の口腔を震わす音が響いた。阻害役の司令を務める個体が、此方へ明確な敵意を向けると共に指示を飛ばし始めたのだ。
 が、その頃には眼前に迫る影。
 微かな火花を棚引かせ、飛翔しながら魔剣を下段に構える結衣。
「無駄なことだ」
 尖兵は死に向かうだけなのだから、と。刃に灼熱の炎を宿して繰り出す慈悲無き一閃が、鋭く司令の腕を斬り飛ばした。
 掠れた声を鳴らす竜牙兵は、風の刃を飛ばして配下にも雪崩を打たせる。
 が、オズの尾から飛んだ翼猫のトト、そして響、更に瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)も強固な壁となって。
「通さないぜ」
 滂沱の衝撃を受け止める。
 無論、傷は軽くないが──。
「すぐに癒やすから待ってて、なんだよ!」
 直後には瑪璃瑠が、混沌揺らめく金と桃色の瞳で見据えて掌を向ける。
 瞬間、海、波、風──自然の只中から引き出された癒やしの力が眩く包んで灰を治癒。
 灰の翼猫、夜朱も撫ぜるように翼を動かし回復を進めると、響も治癒の光を生み、トトもまた羽ばたいて涼風を送り体力を保っていた。
 敵も後衛の司令が動きを見せるが──瑪璃瑠は焦らずリーズレットを一瞥。
 ──信じてる。
 その無言の信頼に、応えるようにリーズレットは海上から既に狙いを定めている。
「……そこだ!」
 歯車仕掛けの弓に番えた矢に、纏わせるのは影の如き光。
 刹那、『黒影縛鎖』──撓る魔力が後衛の司令を縛り付け、違わず飛来する鏃が骨の翼を貫通した。
 破片を散らせながら、竜牙兵は藻掻くように海へ落下する。
「流石!」
 笑みを向けた瑪璃瑠に、リーズレットも頷きを返していた。
 統制を欠いた後衛の配下達が、それでも反撃に動こうとするが──メロゥがそこに手を翳している。
「しっかりと注目していてくれないと、見逃してしまうよ?」
 はらりと宙へ撒くのは、青い紙吹雪。けれどそれはいつの間にか本物の氷の結晶となって、二十六体の牙を互いに接着させていた。
 この間にも、先鋒の群れが攻撃にかかってきていた、が、オズがそれを見逃さない。
「止まっていて貰うよ」
 ハープを奏で、旋律を口遊む。
 海と空の風の中に、響き渡る美しくも勇壮なメロディは──骸の耳朶を震わせ、その魂にまで呼びかけるように心を囚えていた。
「今のうちに」
「ああ、討たせてもらう」
 風を裂いて速度を上げ、結衣は刃を強く握る。
 煌々と耀く炎が、蒼空に長大な軌跡を残していた。その揺らめきが、死出の道筋。瞬間、振り抜く斬撃が阻害役の司令を両断し、灰にした。

●灰
 がちりがちりと、耳障りな音の雨が響く。
 敵中衛は一方の司令を失い、後衛の司令は翼を失った。群れの数こそ保たれてはいるが、牙達は何処か焦燥にも似た戦慄きを聞かせている。
 無論、それを補って余りある殺意を浮かべ、竜牙兵達は雲の如く連なって飛来する。鳥の群れのように、複雑な軌道を取って迫る灰色──だが、オズは下がらない。
「逃げないよ」
 心にその端緒が覗いても、自らを奮い立たせて退かぬと決めて。自身も飛翔の速度に加えて翼で風を掃き骸達の頭上を取ってみせた。
 そのまま下方へ手を伸ばし、瞬かせるのは星辰の光。
 刹那、蒼空から流星雨を降らすように輝きを注がせて、最前の竜牙兵達を穿ち貫いてゆく。
「此方は僕が抑えておくから──」
「ああ、向こうはやっておく!」
 吹き抜ける風に交えて声を返すのは、高速で翔けてゆくレヴィン。大きく弧を描くよう、阻害役の群れへと視線を定めると──握るのは銀のリボルバー。
「纏めて、おとなしくさせてやる。しばらく止まってな!」
 刹那、瞬くフラッシュと共に弾丸が宙を舞う。
 『レインバレット・パライズ』──撃ち尽くす傍から廻るシリンダーへ弾丸を込め、間隙のない弾幕で牙達を押し込めた。
「隣は、よろしく頼むよ」
「ええ」
 その横の群れへは、ふわり。オペレッタが翔んでゆく。
 うなじでリボン結びしたティアードバンドゥビキニと、その柔らかなパレオを淡く揺らがせながら。
 白と淡いブルーグレーを描くグラデーションは、雛から成鳥へ羽撃くみにくいアヒルの子のように。瞬間ごとに美しく──振りまく風の刃で一体、二体と裂いていった。
 敵軍が惑う中、海へ墜ちた司令役は起死回生にとリーズレットへ槍を撃つ、が。
「リズさんは、“ボクたち”が堕とさせない!」
 リーズレットが衝撃に揺らぐ直後、瑪璃瑠は下方へ手を伸ばしていた。
 瞬間、揺らぐ混沌と魔力が世界と己を霊的に繋ぐ。
 大自然に語りかけるように腕を動かす瑪璃瑠は──波の一部を押し止めるように緩ませてリーズレットの体勢を保って。同時に治癒の魔力を飛沫に融かすことで体力も癒やしていた。
「サンキューメリリル! この回復無駄にしないからな!」
 片手を上げてやる気アップの意思表示をしたリーズレットは、視線を下ろし。歯車仕掛けの弓弦を限界まで引き絞り、眼前の骸を捉えている。
「次はこっちの番だ!」
 そのまま狙い違わず、放たれた一矢が骨の躰を粉砕した。
 敵後衛の群れが統制を失ってゆく、と、まるでその衆目を集めるかのようにメロゥが徐にハットを手にとっていた。
「さあ、種も仕掛けもございません──」
 言ってみせながら、軽く投げたそれは宙で独りでに回転を始める。と、緩やかだったそれはいつしか高速になり、鍔が冷気を帯びた戦輪へと早変わりしていた。
 そのまま宙を奔った戦輪は、氷片の轍を描きながら突き抜けて、後衛の個体を次々と斬り裂いて藻屑としていく。
 灰も黒色の波動を重ね、個体数を確実に減らしていく。敵もやられるばかりではないと、先鋒の司令が配下へ命令を下そうとした、が。
「──遅い」
 その頭上から、結衣。
 飛び上がっていた状態から一気に高度を落とし、直下へ向ける刃には紅蓮の炎。
 まるで巨大な焔の柱が生まれるように、一直線に火の粉の残像を残しながら──突き下ろす一刀は苛烈に骸の背を貫く。
 足掻くように竜牙兵は羽ばたいて逃れようとする、けれどそれも無為。オズが氣に触れることで遠隔から躰を掴み──捩じ切るように翼を圧し折った。
「後は、任せるよ」
「了解」
 宙を滑って骸の近くへ迫るメロゥは、しかしその手に武器を持たない。
 鋭い凶器が無くとも、弱った牙を砕くならばこの美貌で充分、と。
 しっかりと作った笑みを見せれば、その美しさが呪いとなって竜牙兵を囚え──魂ごと骨の体を朽ちさせた。

●空
 遠い波の音が聞こえた。
 穏やかな海から、快く反響するそれが耳朶を捉えるのは、骸の鳴らす騒音が如実に減り始めている証左でもある。
 前衛、中衛、後衛と、暇を与えず攻撃をし続けた事によりそれぞれの群れは半壊。中でも中衛は頭数も少なく風前の灯火だった。
 それでも残った司令が、速攻をかけようと配下と共にはためき出す──そこへ結衣。
 飛行を邪魔する個体を一体、二体と斬り払いながら蛇行するように。それでいて速度を落とさず風を縫い、刺突して司令を下方へ吹き飛ばす。
「あと一手だ」
「──それならば」
 と、ひらりとその方向へ躍り出るのはオペレッタだった。
 壁を蹴って泳ぐかのように、手を伸ばしながらゆっくりと回り。頬の涙型、そして背中にハートを描く翼のペイントを垣間見せながら──掌を輝かす。
 ──アナタの『舞台』は、これで、おしまい。
 刹那、昏く冷たい舞台の如き幻想が骸を包む。『CC』──それは“Curtain call”。暗幕の中にスポットライトの如き光が差し込んで、眩さの中に竜牙兵の命を飲み込んだ。
 全ての司令を失った群れは、一気に散り散りに瓦解を始める。
 なれば頭脳の無い大群を相手にするのは難しくなく──リーズレットは眩い光の円環をその手に輝かせていた。
「メリリル、一気に仕掛けるぞ!」
「了解だよ!」
 頷く瑪璃瑠は魔具に継承した双子座の力を巡らせて、自身の輪郭をぶれさせる。
 揺らめく瑪璃瑠の存在は、いつしか二人の分身へと分かれ──耀くアンクと刃を握って宙へと翔け出していた。
「さあ──」
「行くよ!」
 “メリー”と“リル”は円周を描くように飛翔し、美しいまでの連携で敵後衛の群れを誘導していく。
 そうして無防備になったその背中側へ、リーズレットは円環を投擲。雲を裂くように、竜牙兵達を両断していった。
 舞い散る灰色の破片の中、後衛に残る最後の一体へは、メリーとリルが肉迫。『夢現時喰砲』──十字の斬撃と放火で爆散させ、塵も残さない。
 それを確認しながら、結衣の視線は敵中衛へ。
「此方も片付けるか」
「ああ!」
 応えるレヴィンは真っ直ぐに飛びながら、槍を大きく振り回して連撃。間近の敵から一体、また一体と穿ち、砕き、数を減らしてゆく。
 竜牙兵達は、その光景に本能的な恐怖を覚えたか。歯をがちりと鳴らすと、羽ばたいて間合いを取ろうとする。
「逃すかよ!」
 けれどレヴィンは速度のままに、翻っては銃撃を重ねていた。背を貫かれた牙達は体勢を崩し、空中でよろめく。
 その全てを包むよう、結衣は漆黒の業火をドーム状に展開していた。
「──灼け散れ」
 命の根源から、全てを燃やして奪い尽くすように。禁忌<終末具現>──欠片も残さず骸を蒸発させ、その業ごと呑み込んでゆく。
 残る敵は前衛のみ。その群れの内の幾分かは、戦いを諦めたように戦線から逃れようとしていたが──。
 オペレッタがすぐさま捉えて思考を共有すれば、結衣が即座に飛翔。牽引されるメロゥもビームを伸ばして後押ししていた。
「任せるよ」
「ああ」
 結衣は静かに頷き、臆病者の背に喰らいつく。
 最後まで、結衣の相貌に強い感情は表れない。数多斬り裂いてきた他の骸と同じく、ただ斬るべき敵として。
 ──残骸如きが目障りだ。
 屍が得るものなど何も無く。存在していた証すら残さず葬るのだと──振り下ろす刃で容赦なく斬り捨てた。
 逃避も望めなかった牙の群れは、既にメロゥとオズに挟まれている。
「終わらせようか」
 メロゥがステッキを翳すと、ぽんと顕れた造花がはらりと解け──氷の花弁となって舞い散り骸達へ降りかかった。
 触れた零下の温度は冷たく、鋭く──躰を凍てつかせて自由を奪う。
 オズはそこへハープを爪弾いて、終わりの音律を紡ぐ。緩やかな波音と響き合うハーモニーは艷やかに美しく、骸達の命を消し去っていった。

 仰げば、覗くのは曇り無い空。
 澄んだ青色を見上げながら、結衣はゆっくりと高度を落としていた。
「一体残らず、討てたようだ」
「ああ。本土の方にも、異変はないな」
 レヴィンは後方へ振り返り、遠方を望みながらその静けさを確認している。
 守るべきものは、守られた。
 瑪璃瑠は海面近くへと舞い降りて、リーズレットへと手を伸ばす。リーズレットはハイタッチを返して笑みかけた。
「ありがとう、メリリルのお陰で色々助かったぞ!」
「こっちもだよ。響さんもね」
 と、瑪璃瑠が笑顔を向ければ、響も小さく鳴いて応えていた。
 優しい風を感じながら、オズは見回す。
「こうして見ると、いい景色だね」
「そうだね。護ることが出来てよかった」
 メロゥが言えば、オペレッタもそっと頷いて。
「ええ、本当に」
 呟いて、眺める空は美しく。波音と、何処かから響く鴎の声に──オペレッタは暫し耳を澄ませていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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