懐中時計は、時を刻まない!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 とてもオシャレでレトロな懐中時計があった。
 この懐中時計は、装飾が非常に凝っており、文字盤には数字の代わりに星座のシンボルマークが刻まれていた。
 それが原因で時間を確認しづらかったため、思ったよりも売れず、あっと言う間に製造中止になってしまったらしい。
 それでも、マニアの間では高値がついていたのだが、その懐中時計を所有していたコレクターが亡くなってしまい、親族によってリサイクルショップに売られてしまったようである。
 しかも、同じような懐中時計が大量に持ち込まれてしまったため、全く価値のないものだと認識されてしまい、特売品としてダンボールの中に放り込まれていた。
 そこに小型の蜘蛛型ダモクレスが現れ、懐中時計に機械的なヒールを掛けた。
「カイチュウドケイィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した懐中時計が、耳障りな機械音を響かせ、まわりにいた人々を襲って、グラビティ・チェインを奪うのであった。

●セリカからの依頼
「雪城・バニラ(氷絶華・e33425)さんが危惧していた通り、都内某所にあるリサイクルショップでダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるリサイクルショップ。
 ここで売られていた懐中時計が、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、懐中時計です。懐中時計はダモクレスと化した事で、無数の懐中時計を融合させたロボットのような姿をしています。今のところ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われてしまうでしょう」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)

■リプレイ

●都内某所
 親族にとって、亡くなったコレクターの趣味は、まったく理解できないモノだった。
 単なるゴミ。粗大ゴミ。
 すべて、いらないモノ。
 コレクター自身は、宝の山だと言って、決して考えを改めようとしなかったが、部屋を埋め尽くすほどの懐中時計を眺めても、親族達はまったく価値があるとは思えず、とにかく邪魔と言う印象しかなかった。
 それでも、金になるかと思って、持ち込んだのは、町中にあったリサイクルショップであった。
 『これを売って、美味いモノでも食べよう』。
 そんな気持ちで売った懐中時計は、予想していた金額の半分以下であった。
 それでも、帰りに食べた焼肉は、美味しかった。
 『あんな人でも、人の役に立つ事をしてくれた』。
 それが亡くなったコレクターに対する親族が抱いた最後の気持ち。
「何だか凄い場所に、凄いモノが眠っていたんだね! 星座シンボルの文字盤とか激エモじゃん! 地球語覚えたての異星出身種族あたりターゲットにしたら、普通に売れるんじゃないかなー……ってか私が欲しい!」
 そんな事情を全く知らぬまま、山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認されたリサイクルショップにやってきた。
 リサイクショップは、廃業してからしばらく経っているらしく、大量の埃が何層もミルフィーユ状になって積み重なっていた。
 そのため、床を踏むたび、それがフワッと舞い上がり、カビのニオイと手を取り合って、軽やかにダンスを踊っているような感じであった。
 しかも、店内は荒れ放題。
 廃墟と化してから、不良達の溜まり場になっていたのか、店内が完全無敵のウェーイスタイルになっていた。
「……懐中時計か。星座のシンボルマークを使うのは斬新で良いものだと思うけど、それで逆に時間が分かりにくくなるなら、問題よね」
 雪城・バニラ(氷絶華・e33425)が複雑な気持ちになりつつ、殺界形成を発動させた。
 どうやら、メーカー側はオシャレを優先したため、実用性をガン無視してしまったようだ。
 それが原因で使い勝手が悪く、クレームの原因になっていたらしい。
 それでも、メーカー側は『オシャレに勝るモノなし!』と考えを改める事なく、自らのスタイルを貫き通してしまったようである。
 幸い、その心意気に惹かれた者達のおかげで、根強い人気があるものの、それは一般には知られておらず、知る人ぞ知る逸品だったようである。
「ひょっとして、これ? かっこいい! これって持って帰ってもいいんだよね? だってダンボールの中にいっぱいあるし! こっちのデザインもいいなー。何だか時の支配者になった気分!」
 一方、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)はダンボールの中に入っていた懐中時計を手に取り、瞳をランランと輝かせた。
 さすがオシャレを重視しただけあって、どの角度から見ても、オシャレ。
 オシャレ男爵が舞踏会に誘ってくるレベルで、オシャレだった。
 そのため、レイの気持ちは、ウキウキ。
 思わず踊り出してしまいそうな勢いで、ハイテンションであった。
 しかも、土地の所有者からすれば、どれも要らないモノ。
 そう言った意味でも、例え持ち帰ったとしても、誰かに文句を言われる事はない。
 つまり、どれでも好きなだけ、持って帰り放題であった。
「おそらく、ここの店主は懐中時計の価値が分からなかったのかも知れないね。まあ、これだけ数が多いと、店にとっては邪魔なだけだったのかも知れないけれど……。ひょっとして、地球人は星辰に馴染みがないとか、そんな訳じゃないよね? だとしたら、やっぱり使いづらかった事が原因……だったのかな……」
 オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)も、同じように懐中時計を手に取り、不思議そうに首を傾げた。
 見た感じ、安っぽい感じはしないものの、オシャレ過ぎるため、使う人を選ぶ感じであった。
「カイチュウドケイィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した懐中時計が耳障りな機械音を響かせ、山積みにされたダンボールを弾き飛ばし、ケルベロス達の前に現れた。
 ダモクレスは沢山の懐中時計が融合したロボットのような姿をしており、動くたびにガシンガシンと音が響いた。

●ダモクレス
「さすがに店内で戦うのは気が引けるから、場合によっては他の売り物に影響が出ないように、店外で戦うのも視野に入れる必要もあると思うけれど……。この様子だと難しいかな……?」
 オズがウイングキャットのトトと連携を取りつつ、攻撃を仕掛けるタイミングを窺った。
「カイチュウドケイィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それと同時にダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、星座のシンボルマーク型のビームを放ってきた。
 それは牡羊座、牡牛座、天秤座、蠍座、魚座等の形をしており、星座によってそれぞれ色が異なっていた。
 それが何を意味しているのか分からないが、とにかくカラフル。
 思わず見とれてしまうほどキレイであった。
 だが、破壊力は抜群。
 辺りにあったモノが、一瞬にして吹き飛んだ。
「……って、ちょっと! 言っている傍から、大被害なんだけど! あなたも、ちょっとは空気を読んでよ! 『……あっ、みんなまわりに気を使って、戦っているんだ。だったら、俺も気をつけないと……』って思うのが普通だから!」
 ことほがダモクレスのビームを避けながら、桜の樹の下(ブラックボックス・チェリー)を発動させ、大地に宿る癒しの力を桜の樹に変換させ、エクトプラズムの桜吹雪で仲間を癒し、花の舞いと共に武装を強化した。
 それに合わせて、ライドキャリバーの藍が、デットヒートドライブを繰り出し、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
「カイチャウドケェェェェェェェェェェェェェィィィィィィィィイ!」
 次の瞬間、ダモクレスが怒り狂った様子で、秒針型のアームを伸ばし、辺りにあるモノを壊し始めた。
 それはまるで『うるせぇ、黙れ! 俺が、やりたいようにやっているんだから、誰にも文句は言わせねぇ!』とばかりにブチ切れている感じであった。
 そのたび、辺りにあったモノが壊れ、ガラクタの山が築き上げられた。
 しかも、ダモクレスには罪悪感のカケラもない。
 それどころか、『これで分かっただろうが! 俺に逆らったら、こうなるんだ!』と言わんばかりに我が物顔。
 むしろ、『文句があるなら掛かってこい!』とばかりに、自信満々であった。
「あなたが星の力をかりるなら、こっちだって星の力で対抗するんだから!」
 すぐさま、レイがゾディアックブレイクを仕掛け、獅子座の重力を剣に宿し、あらゆる守護を無効化する重い斬撃を放った。
 それに合わせて、オズがスターゲイザーを繰り出し、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させ、ダモクレスの機動力を奪い取った。
 続いて、ことほがプラズムキャノンを仕掛け、圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾を作って、ダモクレスを攻撃した。
「カ、カ、カイチュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
 そのため、ダモクレスは一歩も動く事が出来ず、悔しそうに耳障りな機械音を響かせ、ガックリと膝をついた。
「少し調子に乗り過ぎてしまったようね。いまさら謝ったところで、許してあげるつもりはないけれど……その様子じゃ、まだまだヤル気のようね」
 バニラが警戒した様子でヒールドローンを発動させ、自らのグラビティで小型治療無人機(ドローン)の群れを操った。
「カ、カ、カイチュウドケイィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それと同時にダモクレスが最後の力を振り絞り、耳障りな機械音を響かせながら、懐中時計型のミサイルを飛ばしてきた。
 そのミサイルは床に落下すると、コロコロと転がりながら、ケルベロス達の傍で爆発を起こし、大量の破片を飛ばしてきた。
「……最後の悪あがきって感じね。そんな攻撃をしたところで、怯む私達ではないけれど……。でも、いいわ。そっちがヤル気なら、相手をしてあげる」
 その事に気づいたバニラがフローレスフラワーズを発動させ、ミサイルの破片を避けながら、美しく舞い踊り、仲間達を癒やす花びらのオーラを降らせた。
「カイチュウドケィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それを目の当たりにしたダモクレスがイラついた様子で、耳障りな機械音を響かせ、再びミサイルを放とうとした。
「十二星座を象った時計には、この星座はないと思うけど……。試しに喰らってみる? さっきのビームとは比べ物にならない程、強力だと思うから……!」
 次の瞬間、レイがスターイリュージョンを仕掛け、へび使い座り形に並べた光からオーラを放って、ダモクレスを攻撃した。
「カイチュウドケィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、断末魔に似た機械音を響かせ、ぶすぶすと黒い煙を上げて、完全に機能を停止させた。
「それにしても、随分と在庫が残っているようだね? どうせ処分するようだから、持ち帰っていいようだけど……」
 ことほがホッとした様子で、壊れたモノをヒールで修復し始めた。
 どれも売り方を変えれば、売れそうなモノばかり。
 おそらく、店主の売り方が悪かっただけで、商品が悪かったわけではない。
 そう思えてしまう程、状態の良いモノばかりが、店内に転がっている印象を受けた。
「せっかくだから、営業再開が出来るようにお手伝いをしたいね。立地的には悪くないから、綺麗にしておけば、買い手がつくと思うのだけれど……」
 オズがヒールを使って、辺りを修復しながら、自分なりの考えを述べた。
 だいぶ荒れ果ててしまっているため、ヒールを使って修復した後で、綺麗に掃除しておく必要があるのだが、それだけの手間をかける価値はあるだろう。
 そんな事を考えながら、オズが店内の壊れたモノを修復するのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月12日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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