シロツメクサの奇譚

作者:芦原クロ

 とある公園。木の下に有るベンチに、老齢の男性が座っていた。
 木の影が直射日光をさえぎり、ベンチは良い休憩スペースとなっている。
「昔は、四葉のクローバーを探している子供がたくさん居たんだよ。でも最近は見ないねぇ。これも時代なのか、少し寂しいねぇ」
 男性は足元に咲いている、小さな白い花に向かって話し掛けていた。
 園内で遊んでいる子供たちは、スマホや携帯ゲームに夢中だ。
「妻は良くここで、まだ幼かった娘と一緒に、四葉のクローバーを探していたもんだ。独りになった今は、四葉のクローバーを探している者を見て、想い出に浸りたいと思ったけど。寂しいねぇ」
 溜め息交じりに呟く男性の正面には、白く小さい花が一面に咲いているスペースが有る。
 そこへ、謎の花粉のようなものが漂って来て、植物にとりついた。
 シロツメクサは、攻性植物化して巨大化する。
『サビシイ、サビシイ』
「そうだね、寂しい……うん?」
 不意に聞こえた声に、男性は怪訝そうに正面を見た。
 目の前の異形に驚き、大慌てで男性が逃げてゆく。
 騒ぎに気づいた園内の人々も、悲鳴をあげて逃げ惑う。
『サガシテ、ヨツバ、ドコ、ヨツバ』
 異形が伸ばしたツルが、乱雑に、辺り一帯のシロツメクサをむしり取る。
 つい先ほどまで、可憐に咲いていたシロツメクサのスペースは、メチャクチャに荒らされてしまった。

「ティリア・シェラフィールドさんの推理のお陰で、攻性植物の発生が予知出来た。シロツメクサ……クローバーとも呼ぶな。それが攻性植物になる。急ぎ現場に向かってくれ」
「これって四葉のクローバーを探してあげたほうが良いの?」
 霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)は、ティリア・シェラフィールド(木漏れ日の風音・e33397)の問いに頷いた。
「いつ一般人を殺戮するものに変わるか分からん。少し難しいが、この攻性植物が動かないように引きとめる者と、四葉のクローバーを探す者とで、分担したほうが良いかもな」

 配下は居らず、敵は1体だけ。
 一般人の避難誘導は警察などが迅速に対処するので、ケルベロスたちが現場に到着する頃には、避難が完了している。
 ケルベロスたちは無人の現場に到着後、現れる攻性植物の相手に専念すれば良い。

「なるべく多くの人数で、シロツメクサを好きだとか、褒めたりしていれば、コイツは動かない。その間に、別の者が四葉のクローバーを探し出せば、弱体化してあっさり倒せるようになるだろう」
 弱体化すれば、一気に攻撃出来るチャンスが、訪れる。
「被害が出る前に攻性植物を、倒して欲しい。……園内には、動物と触れ合う施設が有る。ラマやハムスター、ハリネズミやウサギやカピバラなど、エサやりも可能だ。どいつも人懐っこいらしいぜ。討伐後に寄ってみたらどうだ?」


参加者
ティリア・シェラフィールド(木漏れ日の風音・e33397)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)
 

■リプレイ


(「私が危惧していた攻性植物が本当に現れるとは。まぁ、被害が出る前に対処できるのは不幸中の幸いかな」)
 現場にて、攻性植物を見上げながら、ティリア・シェラフィールド(木漏れ日の風音・e33397)は思案する。
『ヨツバ、ドコ、ヨツバ、サガシテ』
「任せなさーい! 四つ葉のクローバー探し隊、いざ出発よー!」
 背の低さを活かし、膝をついて早速探し始める、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
「幸運のお守りというぐらいだから、そう簡単には見つからないと思うけれど……善処しよう」
 オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)は早速、四葉のクローバーを探しにかかる。
 下半身が蛇のような姿の為、地面を這えば見つかり難いだろうと判断し、翼でふわりと宙に浮く、オズ。
(「四葉のクローバーって、なかなか見つからないけど……偶に見つけた時って、なんだか嬉しい気分になるわよね」)
 探すメンバーを見送りつつ、胸中で思いを並べる、リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)。
「踏みつけられた後にできやすいって聞いたから、そのあたりを探しましょう」
 なるべく早く探そうと、ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)も、探しに向かった。


「私は四葉のクローバー、大好きだよ」
「シロツメクサか、花も可愛いけど、やっぱりその葉っぱが私は好きね」
『ウレシイ!』
 ティリアとリサは、攻性植物を褒めて惹き付ける役を、担っていた。
 好きと言われただけで、攻性植物は大喜びしている様子。
(「できれば5本ぐらい探したいわ!」)
 必死に探していたローレライが、不意に口を開く。
「誰が沢山見つけるか、勝負しても面白そうね! シュテルネ、頑張ろうね!」
「勝負か、面白そうだね。僕らも頑張ってみようか、トト」
「勝負をするなら無論参加するわ!」
 ローレライの言葉に、オズが穏やかな口調で、レイは自信満々な口調で、それぞれ応じる。
 が、レイは気づいた。
 自分には、サーヴァントが居ないことに。
「……えっ、一人で探すのってあたしだけ!? 圧倒的に不利ね」
 レイは探すのを中断し、トトに向けてクッキーを見せつつ、もう片手には猫じゃらしを振って。
「あたしを手伝ってくれたら美味しいお菓子があるわよー」
 トトを誘惑する、レイ。
「良かったね、トト。行っておいで」
 少し悩んでいるように、オズを見つめるトトに対し、オズは優しく声を掛けた。
 促されたトトは、レイの元へ一目散。
 じゃらしで遊びまくるトトを、全力で構う、レイ。
 勝負の事も、今は忘れているようだ。
「一般的には、日陰になったり踏まれて傷つくことで、強く成長するために葉を増やし四つ目の葉が出来ると言われているので……」
 せっかくなら全員分の四葉を探したい、と目標を持っているオズは、群生地を見つけようと頑張って探し回る。
「見つけると幸せが訪れるとか、願いが叶うとか言われているから、とっても幸福な象徴にもなっていて素敵だよね」
 攻性植物を褒める役の、ティリアの言葉。
 ただ探すだけなのは退屈なので、仲間たちの言葉を聞いていたレイが、ピクリと反応する。
「四つ葉のクローバーって幸運の証なわけよね。見つかったら、イケメンの兄貴がダース単位で押し寄せてきたりしてっ!!」
「ダース単位? レイさんの兄は多く居るんだね」
 レイの呟きを拾い、真に受ける、オズ。
「オズさんもかっこいいから、兄貴にしてあげてもいいわよ!」
「……ああ、そうか。義兄妹ってことかな」
 レイの強気発言に多少、押され気味のオズは、少し遅れて思考を巡らせ、回答に辿り着く。
「見つけたよ! もっと探すわね」
 どう回答するか、オズが考えていた矢先に、ローレライが四葉のクローバーを1つ見つけ、大きな声で主張。
 そしてまた、次の四葉のクローバーを探し始める。
 なるべく他のクローバーを踏まないよう、注意しながら。
『ヨツバ、ミツケタ? マダ、サガス? ウレシイ』
「四葉のものは、幸せを運んでくれるらしいけど、苦労してでも探す価値はあると思うわ」
『ヨツバ、ホメテ、クレルノ、シアワセ』
 リサがタイミングを見計らい、褒め言葉を紡ぐ。
 攻性植物は嬉しそうに、頭頂部を左右に揺らしている。
「僕も見つけたよ。ちゃんと四枚、葉が有るね」
「遊んでる場合じゃなかった! あたしも1つぐらいは探さないと!」
 次はオズが発見すると、レイは猫じゃらしを放り、慌てて探すのを再開。
「とはいっても、案外見つかんないのよねー、四つ葉のクローバー。……こうなったら作り出すしか……!!」
 接着剤を取り出し、割と手段を択ばないレイだが、いかんせん、クオリティが低い。
『ソレ、チガウ』
 即バレである。
「んー、分かったわよ! ダメ出し食らって、俄然やる気になっちゃった!」
 オズとローレライが次々と見つけ、リサとティリアは攻性植物を褒めて足止めする。
 順調な状態だが、自分だけ1つも見つけていない事に、やや焦るレイ。
「お洋服が汚れるのなんて気にしないわ、絶対に見つけてやるんだからーっ」
 目を凝らし、沢山のシロツメクサの中から、葉が四枚揃ったものを見つけるのは、骨が折れる。
 それでも諦めず、レイは懸命に探していた。
「あ、有ったわ! 見つけたわよー!!」
 顔や服にところどころ、汚れをつけながらも、満面の笑みを浮かべて。
 四葉のクローバーを1つ、ようやく見つけ出したレイ。
『ヨツバ、イッパイ、アリガトウ』
 汚れてまで頑張って見つけてくれた、その姿が最後の一押しとなり、攻性植物は礼を言い終えると、静かになった。
 まるで休眠するかのように、うなだれ、ツルには力も入っていない。
 逃げる気配も見えない為、一気に攻撃する機会だと判断する、ケルベロスたち。
「これで永遠に、大人しくしてなさーい!」
 真っ先に攻撃を仕掛ける、レイ。
「全力で決めてやるわ!」
 影の斬撃で敵の急所を斬り裂く、ローレライ。シュテルネは、顔のテレビから閃光を迸らせる。
「私はメディックを担当して、仲間の回復に専念するわね」
 リサは仲間たちに声を掛け、ダメージを受けた者は居ないか確認している。
「炎の螺旋よ、敵を焼き尽くせー!」
 敵の周りに黒き炎が渦を巻いて出現し、炎が敵を焼き払う。
「トト、攻撃を当てていこう」
 オズの声掛けに反応し、トトは攻撃に出る。
「止めを刺すね」
 オズはトトの攻撃に続き、大蛇の尾へ毒のオーラを纏わせ、敵を苛烈に打つ。
 オズの宣言通り、敵は霧散して消滅した。


 荒れた箇所をヒールで修復し、一般人も戻って来た、園内。
「動物と触れ合いにゴー! あたしのお目当ては、イケメンラマくん!!」
「せっかくだから、ふれあい動物コーナーにも寄っていこうか」
 レイとオズに促され、メンバーは動物と触れ合える施設を訪れた。
「あー、もふもふは正義だし、もふもふは最高で至福なのよね。たくさん癒されましょう!」
 もっふもふな毛並みを持つウサギを抱きかかえ、存分にその感触を楽しんでいる、ローレライ。
「ここで暫く、のんびりとしようかな。カピバラに餌をあげたりしてみたいなー」
「エサやりも出来るのよね。私はハムスターを可愛がりたいわね」
 ティリアと仲の良いリサが、愛らしい動物たちについて、会話を弾ませている。
「わぁ、カピバラさん可愛いなぁ。結構大人しいんだねー」
 膝の上に大人しく座っているカピバラを、珍しそうに眺める、ティリア。
「ハムスターも、小さくて可愛いわ。ヒマワリの種とかって、食べるのかしら?」
 ヒマワリの種を1つ、リサが試しに与えてみると、ハムスターは匂いを嗅いでから、食べ始めた。
「トト、驚かせたらだめだよ」
 オズはトトがウイングキャットだということや、自分の半身が蛇状になっていることから、草食動物を怖がらせたりしないか、心配している。
 だがオズの心配は、人懐っこい動物たちが集まって来たことで、すぐに晴れる。
 あらゆる動物からエサを求められたり、ちゃっかりオズの手の上へと、乗って来たりするハリネズミも居る。
 警戒していないので、針は寝ている状態になり、触っても痛くは無い。
 ハリネズミの背を撫で、不思議な感触に少し感動気味の、オズ。
「そう言えば……四葉のクローバー、全員分集めたんだけど、要るかな?」
 迷惑では無いかと、やや緊張しながら、オズはクローバーを仲間たちに見せる。
「私は褒める役を担っていて探せなかったから、ぜひ欲しいよ」
「嬉しいわね。大切にするわ」
 ティリアとリサが受け取ってから礼を言い、オズの緊張が和らぐ。
「ありがとーっ! イケメンから四葉のクローバーを貰えるなんて幸せ過ぎねっ」
 レイが元気いっぱいに、はしゃぐ姿は、年相応で愛らしい。
「ゲットしたクローバーは押し花にして、お守りにするわ」
 ローレライが名案を口にし、そういう使い方も有るのだと、メンバーは関心を強めるのだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月19日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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