そこに道があるのなら!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 ラジコンカー専用のサーキットコースがある玩具屋があった。
 この玩具屋は敷地内と、店の2階にラジコンカー専用のサーキットコースがあり、格安の値段でレースを楽しむ事が出来たようだ。
 だが、不景気で利用者が減っていき、廃業してしまったようである。
 その後も壊れたラジコンカーは放置され、大量の埃に埋もれ、深い眠りについた……はずだった。
 しかし、その場に小型の蜘蛛型ダモクレスが現れた事で、事態は一変!
 機械的なヒールによって、ラジコンカーでダモクレスと化した。
「ラジコォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したラジコンカーが、耳障りな機械音を響かせ、玩具屋の壁を突き破って、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「雪城・バニラ(氷絶華・e33425)さんが危惧していた通り、都内某所にある玩具屋でダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある玩具屋。
 この玩具屋に棄てられていたラジコンカーが、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、ラジコンカーです。ラジコンカーはダモクレスと化した事で、無数のラジコンカーを融合させた車のような姿をしています。今のところ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われてしまうでしょう」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)

■リプレイ

●都内某所
 玩具屋が廃墟と化したのは、バブルが弾けてから、すぐの事だった。
 それまでは、金を持て余した大人達が、エンジンを搭載したラジコンカーで、サーキットコースを走らせていたのだが、それもほんのわずかな期間だけ。
 景気が悪くなるにつれて、ラジコンに金を掛ける客が減っていき、廃業に追い込まれてしまったようである。
 それでも、当時の事を忘れられない大人達が、勝手にサーキットコースを利用しているのか、思ったよりも荒れてはいなかった。
 ただし、手入れがされているのは、サーキットコースだけで、まわりにはゴミが散乱しており、異様なニオイが漂っていた。
 そのニオイに誘われるようにして、沢山のハエが群がっており、ケルベロス達を威嚇するようにして、小賢しく体当たりを仕掛けてきた。
 だからと言って、大怪我を負う程のモノでもないのだが、地味にイラッとするため、少なからずストレスが溜まっていた。
「本物の車は扱いを誤ると危険だけれど、遠隔操作のおもちゃなら、疑似的に危険なレースを体験できるんだね。……操る、というのが個人的に少し怖いけれど……そういう技術なのであれば、慣れるようにしておかないと……」
 オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、足元に落ちていたラジコンカーに視線を落とした。
 ラジコンカーは度重なるクラッシュでボロボロになっており、エンジン部分にも損傷を負っていた。
 そのため、ここに捨てられ、野ざらしになっていた。
 さすがに修理をして、再び動かす事は難しそうだが、使えそうなパーツを回収する事なら出来そうだ。
 しかし、それを所有者がしていなかったという事は、それほど価値のないモノなのかも知れない。
 どちらにしても、あちこちが錆びついているため、色々と手入れが必要な感じであった。
「……ラジコンカーか。実際に遊んだことは無いけど、疾走感があって楽しそうよね。まぁ、ダモクレスとなったからには、倒すしかなさそうだけど……」
 雪城・バニラ(氷絶華・e33425)が複雑な気持ちになりつつ、人払いをするため殺界形成を発動させた。
 事前に配られた資料を見る限り、ダモクレスと化したのは、ここで使用されていたラジコンカーのひとつ。
 詳しい事までは書かれていなかったが、何らかの事情で放置され、しばらく走っていないようである。
 それが小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せる結果に繋がったのか分からないが、もっとサーキットコースを走り回りたかったのかも知れない。
 その真意は定かではないものの、ダモクレスと化す事で、サーキットコースだけでなく、街を爆走する事だろう。
 そんな事態を防ぐため、ここで足止めした上で、確実に倒しておく必要があった。
「キャリバー乗りとして、ちょっとライバル心感じちゃうよねー。思えば、スピード勝負なんてする機会無かったし……。ちょっとそれっぽくしてみよっかな。……というわけで頑張ってね、藍ちゃん!」
 そんな中、山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が、ライドキャリバーの藍に気合の眼差しを送った。
「……!」
 そのため、藍が二度見。
 『えっ? 何も聞いていないんだけど……』と言わんばかりに、二度見であった。
 もちろん、ことほも藍に相談もせず、こんな事を決めた訳では無い。
 心の中で何度も藍に語り掛け、ここまで話を纏めたのだから、そこまで驚く事ではなかったはず。
 だが、よくよく考えてみれば、言葉には出していなかったかも知れない。
 そもそも、 藍とは一心同体的な関係であるため、言わなくても分かっているような感じになっていた。
 そのため、妙に気まずくなっているものの、何となく空気を察した愛が、サーキットコースに陣取り、エンジン音を響かせた。
「ラァァァァァァァァァァァァァァァァァァジコォォォォォォォォン!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したラジコンカーが、耳障りな機械音を響かせ、玩具屋の二階から壁を突き破って、サーキットコースに落下した。
 それと同時に藍が火花を散らして爆走し、その後を追うようにして、ダモクレスがエンジン音を響かせた。
「……やはり現れましたか。やはり走りたかったのですね。ここだけでなく、他の道も……。所詮、サーキットも街の道路も舗装された道……。善意で舗装された道というものは地獄へ向かっているということわざもあります。ならば、ダモクレスが向かう先は……」
 伊礼・慧子(花無き臺・e41144)が、何かを悟ったような表情を浮かべた。
 例え、何処に向かうつもりであっても、ここから先に進ませるつもりはない。
 そう言った意味で、ダモクレスが進むべき道の先にあるのは、地獄だけ。
 それ以外の道など存在していない。
 少なくとも、ケルベロス達がいる限り……。
「……!」
 その間も、藍達はデッドヒートを続けていた。
 もちろん、藍も手を抜いている訳では無い。
 しかし、ダモクレスとの距離は開かない。
 それどころか、徐々に縮まっているようだった。

●ダモクレス
「ラジコンカァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、ラジコンカー型のビームを放ってきた。
 そのビームは藍のボディにかすり、壁にぶつかって弾け飛んだ。
「……って、ちょっと! それ反則! さっきまでレースをしていたんじゃないの? それとも、自分が負けそうになっていたからって逆ギレ? そんなの許されないんだからねー!」
 それを目の当たりにしたことほが、ムッとした様子で猟犬縛鎖を仕掛け、精神操作で鎖を伸ばし、ダモクレスを締め上げた。
 おそらく、ダモクレスにとって、勝つ事こそが、すべて。
 ラジコンカーであった頃も、その考えでレースを勝ち続けたのか、まったく迷いが無いようだった。
「……!」
 その隙をつくようにして、飽きがデットヒートドライブを繰り出し、ダモクレスのボディの炎に包んだ。
 だが、ダモクレスは諦めておらず、真っ黒な煙を上げながら、怒り狂った様子でエンジン音を響かせた。
「真面目にレースをする気がないのであれば、黙って見ている必要もないよね。これでも、少しは期待したんだよ。例え、ダモクレスと化しても、レースの時だけは真剣だって……。でも、違うようだね。昔から、そんな感じだったのかも知れないけれど……。まあ、なんであれ、このまま放っておく訳にはいかないな」
 オズが少し残念そうにしながら、「碧落の冒険家」を歌い、仲間達に未来を切り拓く力を与え、ウイングキャットのトトと連携を取った。
「ラジコンカァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 それと同時に、ダモクレスが、ラジコンカー型のアームを伸ばした。
 それはラジコンカーにとって、致命的なモノ。
 アームを伸ばした事で、スピードが激減ッ!
 バランスも取りづらくなっているような印象を受けた。
 それでも、ダモクレスは、おかまいなし。
 左右のアームを駄々っ子の如く振り回し、一気に距離を縮めてきた。
「痛っ! 痛いっ! この攻撃、地味に痛いわね。だから痛いから!」
 その攻撃をモロに喰らったバニラが涙目になりつつ、ヒールドローンを展開した。
 小型治療無人機(ドローン)は、バニラを守るようにして、ダモクレスの行く手を阻む壁になった。
 そのおかげで、何とか逃げ出す事が出来たものの、無駄にスピードが速いため、ダモクレスに近づく事が困難であった。
「ラジコンカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!」
 その間に、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、ラジコンカー型のアームを振り回して、サーキットコースを壊し始めた。
 それは単なる八つ当たり。
 完全な逆ギレではあるものの、ダモクレスは破壊神の如く勢いで、視界に入ったモノを、手当たり次第に壊していた。
「ラァァァァァァァァァァァァァァジコォォォォォォンカァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスがケモノにも似た機械音を響かせ、ラジコンカー型のミサイルを飛ばしてきた。
 ラジコンカー型のミサイルは、サーキットコースを駆け抜け、ケルベロス達の傍で次々と爆発していった。
 そのため、ケルベロス達は爆発の被害から逃れるため、サーキットコースの外まで退避する事になった。
 しかし、それも仕方のない事。
 ラジコンカー型のミサイルが爆発したのと同時に、大量の破片が刃の如く飛んできたため、ダモクレスに近づく事は自殺行為でしかなかった。
「確かに、強力な攻撃ですが、ミサイルを発射する前に動いていれば、大した事のない攻撃ですね」
 その間に、慧子がダモクレスの背後に回り込み、シャドウリッパーを仕掛け、影の如き視認困難な斬撃を繰り出し、剥き出しになっていたコア部分を破壊した。
「ラジコンカァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 それと同時に、ダモクレスが断末魔に似た機械音を響かせ、崩れ落ちるようにして、完全に機能を停止させた。
「……何とか倒す事が出来たようね。思ったよりも被害が出てしまったけれど……」
 バニラがホッとした様子で、深い溜息を漏らした。
 ダモクレスが暴れ回ったせいで、サーキットコースは、ボロボロ。
 このままでは利用する事が出来ない程、酷い有り様になっていた。
 もちろん、ヒールを使えば、修復可能。
 すべて元通りになるはずだが、それも骨の折れる作業であった。
「ところで、ラジコンのコントローラーの側はどうなったんでしょうか? そっちが独立してダモクレス化しても困りますし、ペアで使わないと意味がないので、再生しないよう厳重に処分しなければ……」
 そんな中、慧子が心配した様子で、玩具屋の中に入っていった。
 幸いラジコンカーのコントローラーは、店の棚に並んでいたものの、どれもパーツを盗まれ、酷い事になっていた。
「そう言えば、ここって別のサーキットで活用できたりしないかな? 今でも勝手には行ってくるような人がいる訳だし、少なくとも需要はあると思うんだけど……。ちょっと問い合わせてみようかなー」
 一方、ことほが藍の無事を確認しつつ、考えを巡らせた。
 サーキットコースだけは、普段から手入れをされているため、このまま放っておくのは勿体ない。
 さすがに有料という訳にはいかないかも知れないが、辺りに散らばったゴミ掃除くらいはしてほしいモノである。
「確かに、かつては愛顧されたなら、そんなに辺鄙というわけでもないだろうし、土地の再利用を検討してみないか自治体に聞いてみようか」
 オズが納得した様子で答えを返しながら、ヒールを使って辺りを修復し始めた。
 おそらく、需要があるはず。
 場合よっては、提案に乗って、協力してくれる者がいるかも知れない。
 そればかりは、やってみないと分からないが、物は試し。
 このまま野ざらしにしておく事が正しいとは思えなかっため、その足で交渉に向かうのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月11日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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