コイツ、喋るぞ!? スイカ狩り事変

作者:芦原クロ

 とある農園では、完熟したスイカ狩りが実施されている。
 9月頃にスイカが出荷される地域の為、物珍しさに惹かれて、地域外から訪れる観光客も多い。
 スイカ狩りを楽しもうと、1人の男性が受付を済ませた直後だった。
 畑に実っていた1つのスイカが、謎の花粉にとりつかれ、動き出したのだ。
 巨大化したスイカが、まるで頭のように中央に配置されて、そこから下は多くの太いツルが伸び、巨大スイカを支えている。
 普通サイズのスイカがツルに絡めとられ、あれよあれよという間に、スイカの化物の誕生だ。
 異形は巨大スイカを真っ二つに割り開くと、水鉄砲のような勢いでなにかを飛ばし、一般人を真っ赤に染める。
「ぎゃあああ! ……あれ? 甘い」
 全身真っ赤に染まった一般人だが、それは血では無く、スイカの果汁だった。
『スイカー! クエ! モット! クエヨー!!』
 異形が叫ぶと、呆然としていた一般人も恐怖に駆られて逃げ出し、現場はパニックに陥った。

「天司・桜子さんの推理のお陰で、攻性植物の発生が予知出来た。早速だが、急ぎ現場に向かって、なんとかして欲しい。……討伐的な意味も含めて、なんとかして欲しい」
 同じことを2回繰り返す、霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)。
「スイカを沢山食べれば、いいんだね♪」
 天司・桜子(桜花絢爛・e20368)は前向きに捉えているが、おおむねその通りだ。

 敵は1体だけで、配下は居ない。
 一般人の避難誘導は警察などが迅速に対処するので、ケルベロスたちが現場に到着する頃には、避難は完了している。
 ケルベロスたちは無人の現場に到着後、現れる攻性植物を、なんとかすれば良い。

「スイカを食べろと強要しているあたりで、分かると思うが……天司・桜子さんの言う通り、なるべく多くの人数で、スイカを嬉々として食べまくっていれば、弱体化してあっさり倒せるようになる筈だ」
 弱体化すれば、一気に攻撃が出来るチャンスが訪れる、という話だ。
「被害が出る前に、攻性植物を倒してくれ。それと、ここの農園のスイカは、かなり甘くて美味いらしいぜ」


参加者
オイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)

■リプレイ


 無人の現場に到着すると、辺りは静まり返っていた。
(「スイカって美味しいわよね。だけどちょっと高いのよね」)
 どのスイカが攻性植物と化すのか分からず、畑に実っているスイカへ視線を移す、ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)。
 どれも食べごろで、美味しそうだ。
 これらが、すべて食べ放題だと思うと、無意識にゴクリと喉を鳴らしてしまう。
(「高くて普段はたくさん買えないのに、向こうから食べ放題を仕掛けてくるなんて……これは食べるしかないわ!」)
 瞳を輝かせる、ローレライ。
「スイカを好きなだけ食べれるなんて、とんでもない贅沢なのです!」
 彼女の気持ちが分かると言うように頷くのは、オイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033)。
 突如、異形の気配を感じ、メンバーはスイカ畑に注目する。
 ツルを使い、多くのスイカを絡め採った異形が、ケルベロスたちに気付く。
『スイカ! クエヨー!』
(「まさか、桜子の危惧していた攻性植物が本当に現れるとは驚いたよ」)
 天司・桜子(桜花絢爛・e20368)が敵を眼前にし、思案する。
(「まぁ、楽しい依頼になりそうだから、ちょっと楽しみかな」)
 率直に言えば、スイカを沢山食べまくれば良いだけだ。
「あんたを食べるのは、このあたしよっ」
 食べると書いて、倒すと読む、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)。
 レイは先手必勝とばかりに、早速攻撃を仕掛けるが、敵は恐るべき素早さで回避。
「!? ま、待ちなさーい!」
 もう一度攻撃しようとするレイだが、敵の動きは、目にもとまらぬほどの、猛スピード。
 このまま逃げられてしまっては、元も子もない。
「レイちゃん、まずは、皆でスイカの食べ放題を楽しもうよ!」
「そ、そうね! ……当たらないから諦めたんじゃないわ、食べる余裕を見せつける為なんだから!」
 明るく元気いっぱいの桜子に促され、レイは敵に向かって指をビシッと差し、強気に言い放った。


「桜子は、氷と塩を用意したよ。氷水でキンキンに冷やすね。皆も良かったら塩を掛けて食べてみてね」
 敵から収穫した普通サイズのスイカを数個、氷水に浸し、楽しそうに冷えるのを待つ、桜子。
「お塩降ったら甘くなるって、本当ですかね? 試してみるのです」
 オイナスは早速、行動に出る。
「えっ、塩? 塩をスイカに掛けるの?」
 レイは目を丸くし、美味しいのかどうか気になり、オイナスの反応を観察。
「塩を掛けると、甘みが更に増したように感じるんだよー」
「甘み増強なのです」
 桜子の説明に、オイナスが深々と頷きながら答えた。
「スイカにも色んな食べ方が有るのね……すごいっ、ほんとに甘いわ!」
 レイも試しに食べてみると、甘いスイカが更に甘みを増していた。
 瞳を輝かせ、夢中になってスイカを食べる、レイ。
「まずはシンプルにいただくわ……!」
 ローレライは、大きめに切ったスイカに思いっきり、かぶりつく。
「わぁ、美味しそうなスイカの香りが漂ってくるね、とっても美味しそうだよ!」
 スイカの、みずみずしく涼やかな香りが広がり始め、桜子はご機嫌だ。
「凄い濃厚な甘み、それにとても冷たくって美味しいなぁ」
 塩を振り掛けてから、スイカを食べた桜子は、あまりの美味しさに口元が緩む。
「キンキンに冷えたスイカが欲しい人は、自由に持って行ってねー!」
 人懐っこい性格の桜子は、メンバーに対してフレンドリーに話し掛ける。
『モット! クエー!』
「いま食べてるでしょー!」
 グイグイとスイカを押し付けて来る敵に対し、レイが飛びあがり、巨大スイカを如意棒で叩く。
 巨大スイカが真っ二つに割り開き、ジェット噴射の如く果汁がレイに迫る。
 それを容器で上手くキャッチしたレイに満足したのか、巨大スイカは開いた部分を大人しく閉じた。
「果汁甘くて美味しー! これ追いシロップに最適ね♪」
 一口、試しに飲んでみると、しっかり完熟したスイカの甘みが、これでもかという程に、感じられる。
「追いシロップ? なにに使うのー?」
「いい感じの食べ方を思いついたから、やってみるわね♪」
 尋ねる桜子に、レイは自信満々な様子で、グラビティを展開し、スイカを凍結させた。
「ひえっひえにして、小さく砕いてシャーベット!!」
「わぁ、美味しそうだねー!」
 思わず拍手を送る、桜子。
「時間があるならシャーベットとかゼリーにしてみるとかどうですかねぇ? って、もうシャーベットになっているのですー」
「佐竹さん、私にも作って貰えないかしら」
 驚くオイナスと、元気良く片手を挙げて見せる、ローレライ。
 レイは快諾し、メンバー分のスイカを凍結した。

「まだ続きがあるわ。これに、さっきの果汁を追いのせして……はぁぁ、ため息でちゃうくらい綺麗ね」
 シャーベット状にしたスイカに、更にスイカの果汁をたっぷり掛ける。
 なんとも贅沢な一品だろうか。
「いつもは小食なボクも、今日は張り切るのです!」
 少し休憩していたオイナスが、スイカのシャーベットを食べ始めた。
 小食なのと、この少人数で、スイカがどれだけ食べられるか。
 ふと現実を考えるが、心配はしていない、オイナス。
「なぜならこっちにはローがいるのだから!」
 大食い性質のローレライに割と全部託している、オイナス。
「飽きてきた頃にソフトクリームを乗っけるわ!」
 緊張感など無く、自由に食べ放題を満喫中の、ローレライ。
「アイス乗っけるのも、おいしそう。やっぱ定番はバニラですかね? チョコとか合わないかな?」
 スイカのシャーベットとアイスを組み合わせたり、シャーベット状になっていないスイカとアイスを組み合わせたり、と。
 オイナスは試行錯誤している。
「後は……焼いてみるとか? いろいろ試すのです。あ、試すからにはちゃんと完食しますよ?」
 小食だが、そこはきちんと決めているようだ。
「ふっふーん、スイカ割りと食べ放題、両方体験できるなんて嬉しいわね♪ どんどん割っていくわよーっ。山盛り食べて弱体化させてやるんだから♪」
 メンバーに当たらないよう、少し離れた場所で、レイは現場に有ったシートの上にスイカを並べた。
 目隠しをし、如意棒を振り回して遊んでいる、レイ。
 そんなレイに、仲間たちはスイカを食べつつ、右だ左だと声掛けをしていた。
 スイカが中心の、楽しそうな光景。
 敵はそれに満足しているのか、スイカを食べろと荒ぶっていた当初の頃より、静かになっている。
 なにかを思いついたローレライが、きんきんに冷やしたスイカの頭部を切り、そこから果肉だけを掬い取った。
「西瓜ランタンを作っても面白いかも」
 ローレライはそう言いながら、果肉が無くなったスイカを器にし、スイカや他のフルーツと炭酸飲料を入れ、フルーツポンチを作った。
「ローのフルーツポンチも美味しそうなのですー」
 興味津々なオイナスに、ローレライはフルーツポンチを食べさせる。
 いわゆる、あーん、である。
 仲むつまじい二人を見て、微笑む桜子。
「わー、こういう食べ方も、凄く美味しく食べれて良いねー!」
「スイカ割りを終わらせてそしてまた食べる……っ!! んー、美味しいわね♪」
 桜子とレイも参考にしてフルーツポンチを完成させ、シャリシャリしたスイカの食感と合う食材に大喜びだ。
 スイカを沢山味わっていると、不意に、ズシンっと大地が揺れる。
 なにかと思えば、敵の姿が変化していた。
 ツルは消え、普通サイズのスイカが転がってゆく。
 巨大なスイカは眠りに入ったかのように、うなだれる姿勢のまま、動かない。
 弱体化したのだろうと察し、スイカを食べるモードから、戦闘モードへ切り替える。

「全力でお見舞いするわ!」
 影の斬撃を浴びせ、敵の急所を掻き斬る、ローレライ。シュテルネは凶器で敵を攻撃する。
「修行の成果……見せてやるのです!」
 日本刀を二刀構えて飛び出し、舞うように斬れば、炎と氷が星のように輝いて舞い散ってゆく。プロイネンも加わり、敵にダメージを与えた。
「戦いでカロリーを消費よー!」
 攻撃され続けても動かず、無反応な敵を目掛け、レイの如意棒が伸びる。
 真っ直ぐに敵を突くと、その衝撃で敵は後方へ吹っ飛ぶ。
「桜の花々よ、紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ」
 敵に向かって桜の花弁が飛び、敵を囲む。
 花弁は炎に変化し、敵が大地に倒れる前に空中で焼き払い、その存在を消滅させた。


「もう、数年分は食べた気がするのです……しかも激しい運動もしたから……うっぷ」
 戦闘時の動きがトドメとなったのか、オイナスは弱々しい声音で呟く。
 が、丁寧に手を合わせ――。
「ご馳走様なのです」
 と、挨拶するのは忘れない、オイナス。
 桜子が周囲をヒールで修復している間に、一般人が戻った。
 お礼にと、農園のスタッフがスイカを更に追加して来る。
「有り難く、スイカはお持ち帰りしましょう! 多分これが今夏最後のスイカだものね!」
 ローレライはオイナスの背中を優しくさすりながら、元気いっぱいだ。
「あとで美味しく食べるわよー」
 レイも、貰ったスイカを土産にして、帰り支度をする。
「皆と楽しく過ごせて良かったよ」
 桜子が満面の笑みを浮かべ、感想を素直に、仲間たちへ伝える。
 夏の名残の風が、静かに吹き、桜子の、桜の様なピンク色の長い髪を揺らした。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月12日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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