緑の豊かな林に沿うように、石畳が伸びている。
なだらかな坂を描くその道を進んでいくと、艷やかな朱色の鳥居が聳えていて、参道の続く境内が垣間見えた。
そこは趣のある古式ゆかしい神社──ただ、静寂というよりは少々賑やかだ。
コッコッコッ、と、鳴き声と共に敷地を歩んでいくのは沢山のニワトリ達。
真っ白の羽毛がまぶしいニワトリ。紅の鶏冠が精悍なニワトリ。
そしてぴよぴよと鳴くひよこの列を連れた親ニワトリと……そこは色も歳も様々なニワトリに満ちていた。
境内で餌をもらっているそのニワトリ達は、平素よりここで過ごしている。
雛が戯れたり、雄鶏が勇壮に羽ばたいたり……愉しげな景色は近隣の一種の名物でもあって。訪れる人々は参拝と共に、ニワトリ達を眺め、時に触れ合い、時に写真に収めて……和やかな一時を過ごしているのだった。
──と。
そんな中に、ふと現れる巨躯の男が一人。
「なんだか騒がしいな……一体なんなんだ」
ニワトリの鳴き声に顔をしかめながら、参道を歩んでくるそれは鎧兜の罪人、エインヘリアル。
「まあいい。俺は人間を狩りに来たんだ」
些末な事には目を向けぬとばかりに、巨剣を抜いて境内へ踏み入ってくる。
コケッ、と、ばさばさと羽を動かして、驚いたニワトリ達が四方八方に逃げ去ってゆく。エインヘリアルは飛び散る羽毛を面倒そうに払い除けながら……人々を狙って走り出した。
「ニワトリって、結構可愛いよね」
陽光の暖かなヘリポート。カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)は青空を眺めながらそんな声を零していた。
イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)も頷く。
「場所によっては、沢山のニワトリが敷地を歩いていて……マスコット的な人気になっているところもあるみたいですね」
ただ、そんな場所である神社に、エインヘリアルの出現が予知されたと言った。
現れるのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人だろう。
「放っておけば人々が危険に晒されるでしょう。ニワトリ達の生活の場も荒らされてしまいますから……」
「しっかりと、討伐をしないとね」
カシスが言えばイマジネイターも頷いて、説明を続ける。
「戦場は境内です」
林や砂利道、石畳が長く伸びる参道など、広い敷地を持った場所だ。
敵は既に入口方向からやってきて、境内の中心付近にいる。こちらは人々が襲われる前にそこへ割って入って戦闘を仕掛ける形になるだろう。
「人々については、こちらが戦闘を始めれば自身で避難してくれるので心配は要りません」
戦闘に集中できる環境だ。景観も破壊されず、迅速な撃破も可能でしょうと言った。
ただ、とイマジネイターは提案するよう続ける。
「敵の出現にびっくりしたニワトリ達が、生活圏の外にまで離散してしまったようなので……良ければ、戦闘後は迷子のニワトリを連れ戻してあげるといいかも知れません」
ニワトリ達は普段境内で餌を貰って過ごしているため、帰れなかったら困る筈だ。
「また、野良猫が天敵とも言える相手のようですので……そういった動物とにらみ合いになっている可能性もありそうです」
神社の建物の高台や隙間、物陰、林の中など……戻れなくなっているニワトリを救出してあげると喜ばれるでしょう、と言った。
カシスはなるほどと頷く。
「ニワトリにも暮らしがあるだろうし……ひよこを連れた親とか、番同士とか、それぞれに家族もあるだろうからね」
そのためにもまずは敵をきっちり倒そう、と。
カシスが言えばイマジネイターも頷いた。
「ええ。ニワトリ達と、人々の安全のためにも──是非撃破を成功させてきてくださいね」
参加者 | |
---|---|
ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706) |
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716) |
伊礼・慧子(花無き臺・e41144) |
リィン・ペリドット(奇跡の歌声・e76867) |
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434) |
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488) |
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678) |
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969) |
●急襲
ヘリオンから空へ踊り出ると、眼下にあるのは緑豊かな神社。
その境内に、早速巨躯の姿を見つけて──ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)は風に髪を暴れさせながら息をついていた。
「相変わらず地球がゴミ捨て場にされてんなァオイ」
「エインヘリアル、か」
近づく地上を見据えて呟くのはカシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)。自身が危惧していた事件が起きた事に、驚きは有れど。
「まあ、事前に防げる事を幸いだと考えておこうか」
それは即ち、勝利するという心の表れ。
ジョーイもまた心同じく、冥刀を手に着地すると──。
「不法投棄されたゴミが人様を襲ってんじゃあねーよ!」
真っ直ぐに走り初撃。罪人へと刺突を伴ったタックルを見舞っていた。
巨躯が受け身を取れずよろめくと、ばたばたと羽音が響く。見回せば数多のニワトリ達が四方八方に逃げ惑っていた。
「あの鶏達を回収するまでで、一つの仕事ですね」
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)は軽く息を吐きながら良いでしょう、と前を向く。
「ひとを遠ざけるシャドウエルフの力とは相反する仕事ですが、そういうのも時にはできないといけませんしね。うっかりチキンにしてしまわないように注意しましょう……」
言うとすらりと刃を抜いて。
「まずは、チキン(臆病者)でない者の討伐からです」
「……俺を斬ろうってか。誰かは知らねぇが──」
罪人が剣を握り直す、と。
言葉に応えるように、風に舞う羽の中から歩み出てくる姿があった。
「私は、鶏の守護者」
それはヘルムをかぱりと外し、鮮やかな赤髪を見せるローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)。
逃げゆくニワトリを背後に守るよう、剣を抜いて。
「──平穏を乱す狼藉者よ、その侵略行為見過ごせぬ。無辜の嘆き声に代わって今、貴様を討つ!」
反響するコケコッコを力に変えるように、陣を構築。描いた円の中心に剣先を触れさせて眩く耀かせている。
「これもまた奇縁というもの。この地に意思あらば、我らの戦い見届けよ」
──星空と地の加護を得て、ここに『赤』を顕さん。
瞬間、立ち昇った光が仲間を守り戦線を強固に整えた。
同時にカシスも掌から青く煌めくエナジーを顕現させて──。
「自然を巡る属性の力よ、加護を与えよ!」
己を包み、皆を護る支柱として備えを万全に保つ。
罪人は好戦的な嗤いを浮かべて刃を振り上げた。
「面白え。全員、斬って捨ててやる。人間共は、その後だ!」
「ふぅん、神様の前で悪いことするなんて強気じゃないっ」
と、その頭上に不意に影がかかる。
長く結った二房のブロンドをふわりと揺らしながら──高く跳躍している佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)。
「それならさしずめ、私達は神御使いってやつかしら。悪いことなんて、させないわよ!」
軽やかに翻って流星の如き蹴りを見舞う。
一歩下がりながら罪人も氷波を放つが──そこに唸るエンジン音と棚引く砂煙。
「藍ちゃん、そのままゴーゴー!」
それは声を送る山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)の傍らから奔り出していた、ライドキャリバーだ。
応えるようにうぉんと音を響かせ、吹雪を受け止めた藍は──炎を纏いながら減速せずに巨躯へ体当たりを加えた。
ことほ自身も治癒のエクトプラズムを広げれば──。
「慧子ちゃんもいけるー?」
「ええ」
慧子も大地より『ステルスツリー』を成長させて。その魔法樹から葉を舞わせて治癒と強化を兼ねていく。
「これで体力は問題ありません」
「了解、ならどんどん攻めていくね」
応えてカツッと蹄を鳴らしてみせるのは、猛加速を見せるシルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)。
風を裂く速度は、謂れに違わず黒き閃光の如く。
「さぁ、セントールの蹴りを受けてみろー!」
受け身を取る暇すら与えずに神速の飛び蹴り。稲妻の如き一撃で巨体を吹っ飛ばした。
「このまま行っちゃって!」
「判りました」
静やかに応えてみせるのはリィン・ペリドット(奇跡の歌声・e76867)。シスター服を仄かに靡かせて、永遠の光を灯す聖弓を引き絞っていた。
刹那、放つ矢はまるで星が翔けるように輝いて。
「この一撃で──氷漬けにしてあげますよ!」
言葉に違わず、穿つ一矢が鋭く巨躯を貫き、舞い散る冷気で膚を凍らせてゆく。
●決着
罪人は鮮血を零しながら、絶えぬ殺意で踏み留まっていた。
それは鬼気迫る容貌。だが、そんな中でも遠くから──コケッ、コケッ、コケコッコー!
「いつも通り物騒な相手なんだけど……なーんか気が抜けちゃうわよね」
レイは彼方にいるであろう迷子ニワトリを見遣って呟いている。
リィンもそっと頷きながら、だからこそと敵に向き直る。
「何の罪もないニワトリたちに迷惑をかけるエインヘリアルは、見過ごす訳にいきません」
「ま、要は手加減はいらねェってことだ」
元からするつもりもねェが、と。
ジョーイは刃を上段に掲げて全身にオーラを滾らせる。眩く熱く、揺らめくそれは──鬼神にも似た威容。
「んじゃあ、ゴミ処理といくか………なっとォ!」
瞬間、地を蹴って肉迫したジョーイは一閃、『鬼神の一太刀』で袈裟懸けに肋を裂く。
血潮を零す罪人に、レイも斧で連撃を加えていた。
「塵も積もれば山となる。威力は低くても少しずつ動けなくしてあげる」
「……っ」
罪人は間合いを取ろうとする、が、慧子はその自由を許さない。疾駆して至近に迫ると、剣を鎧の裂け目に突き刺し組み付く。
「逃げることは出来ませんよ。ただ、眼前の敵と戦うのみです」
波のない水面のような、虚ろでさえあるほど静かな表情で。怯まず零距離を保ってくる慧子を、罪人は攻撃せざるを得ない。
無論、慧子は防御態勢で受け切る。そのダメージこそ小さくはないけれど──。
「すぐに治すからねー!」
ことほがぐっと気合を込めて拳を握り、陽の如き眩い輝きを湛えていた。
それは治癒の力を護りの意志で固めた光。拳圧として飛ばすように、真っ直ぐに投射すると──慧子に溶け消えた光が傷を吹き飛ばす。
「俺も施術をさせてもらうね」
カシスも同時、掌の器に冷気を凝集。
まるで小さな雪風を生み出すように、白き輝きを渦巻かせると──それをふぅと吹いて風に撒き、慧子の体へ飛来させた。
冬の匂いを抱いたその風は、優しく撫ぜるように傷の跡を開き、癒やし、縫合して。痕も残さず治癒しきっていく。
「後は反撃するだけだね」
シルフィアが言葉と共に『呪言の歌声』を連ね、呪いを具現して巨躯を縛れば──頷くリィンもまた手を翳す。
「これで、吹き飛んでしまいなさい!」
瞬間、無から弾ける爆破を生んで巨体を後退させた。
そこへ翔ける疾き風は、ローゼス。
「誇りと栄誉を賭して──そして鶏を護り抜く為に。その首頂戴する」
髪を靡かせ、眼前で振り抜く刃は苛烈にして鋭利。練り上げられた力の全てを解き放つ一刀が、巨躯を斬り裂き血潮を噴かせる。
倒れ込む罪人を蝕むのは、リィンの『心を刻む歌声』。
「私の声よ、あなたに届きなさい──!」
紡ぐ旋律が精神を切り刻み、死を忍び寄らせる。シルフィアはそこへ翳した知恵の輪を解き放ち──。
「パズルに眠る竜の力よ、解放せよ!」
閃く雷光の竜が巨体を突き抜けた。
斃れゆく罪人へ、レイも銃口を向けて。
「さぁ、帰りなさい、もといた世界へ」
眩いマズルフラッシュと共に、命を狙い違わず貫いた。
●紅を追え
「さて、鶏探しか」
平和の戻った境内に、しかしニワトリはいない。
予見通り方々に逃げたままのようで……息をついてジョーイは見回していた。
「クッソ面倒くせェが……ま、いいか」
気が向いたらやってやるよ、と言いながら──帰り道へ歩みがてら、視線を巡らせて捜索を始めている。
と、丁度外との境。鳥居の影となっている所で……一匹の野良猫と睨み合っているニワトリがいた。
猫は四肢を低めて、ニワトリは微動だにせず。互いに隙を見せないようにしているのか、ごろごろ、コッコッと小さな鳴き声だけが響く。
「買っといて良かったな」
ジョーイはそこで、マタタビを猫の後方へ放り──にゃっ、と猫が飛びつくとその間にニワトリを捕獲していた。
(「鶏が居なかったら猫と戯れる絶好のチャンスなんだがなァ……」)
そんな葛藤はありつつも……ジョーイは踵を返し。脚を掴んでいたニワトリを放して、境内へと戻していったのだった。
ふわりと翼で風を掴み、カシスは空を飛ぶ。
彼方から合唱のように聞こえるニワトリの鳴き声だけれど──。
「探すならやっぱり、空からがいいからね」
呟きつつ、林の高度も建物の高さも越えて全体を見下ろす形を取ってみる。すると早速……数羽のニワトリが拝殿の屋根にいるのが見えた。
どこかから登ったのか、湾曲する角度に上がることも下がることも出来ずに立ち往生している。
「こんなところにいたのか」
近づくと、コケッ、とニワトリ達は驚くけれど──カシスは怖がらせぬように穏やかに言葉をかけた。
「さぁ、お家は下だよ。お利口だから元の場所へお帰り」
そっと触れると、そのうちにニワトリも身を預けてくれるから……そのまま掴まえて下まで降ろしていった。
それを見て笑顔を浮かべるのは、シルフィアだ。
「わぁ、上にいたんだね」
「そう言えば、裏手の方からも鳴き声があったよ」
カシスが言うと、シルフィアと共にいたリィンが頷いて。
「今、そちらへ向かおうとしていたところです。行きましょう」
「うん!」
シルフィアも言って、驚かせぬように人間の形態を取って歩み始めていく。
そうして参道から外れて拝殿を回り込む形で裏へ。
藪を抜けて広めの平地に出ると──。
「わわっ、こんなに沢山!」
コッコッコッ、コケッ、コケコッコー!
ばたばたと羽を鳴らし、まるですし詰め状態のニワトリが渋滞を作っていた。
まあ、とリィンは上品に口元を押さえる。
「ここが安全だと思われたのでしょうか」
「そうかもねー」
シルフィアは応えながらもぱんぱんと手をたたき、ニワトリ達を導き始める。
「もう大丈夫だよ、だから逃げないでねー!」
「ええ、もう恐れる心配は無いですから。戻っていらっしゃいませ」
と、リィンもまた穀物と野菜を交ぜた餌を道なりに撒いていた。するとがぁがぁと鳴きながらニワトリ達が歩み出す。
そのままシルフィアとリィンで先導していくと、ニワトリ達は餌をついばみながら少しずつ進み……そのうちに境内へと辿り着いていた。
見回せば、かなり多くの数が戻っていて……ぱたぱた、コケコッコーと何とも賑やかで。
「神社にニワトリって結構居るよね」
シルフィアは何となく馴染みある景色を眺めつつ、大きな石に座る。
「干支にも鳥がいるし、やっぱ神聖な生き物なのかな?」
「かも知れませんね。そうでなくとも、愉しげで……素敵な光景だと思います」
リィンがそっと微笑めば、カシス達も頷いて。暫し、ニワトリの姿を見つめていた。
耳を澄ませてみると、風音の中にニワトリの鳴き声。
「かなり、ここから離れた鶏もいるみたいですね」
境内から、慧子はその方向を探るようにぐるりと視線を巡らせていた。
それからふむと少々考える。
単純に探していっても良さそうだけれど──。
「餌の匂いに釣られてくれる……かな?」
「早速、試してみましょ?」
と、光の翼を美しく煌めかすのはレイだった。そのままゆるりと翔び上がり、全体を見下ろせる高度に昇る。
そして取り出したのは、ヨモギと米ぬかを交ぜた専用の餌。
「──さあ、イケメンなニワトリさんはどこかしらーっ?? 今なら美味しいご飯をプレゼントよっ!」
レイは空をすいすいと泳ぎながら、餌をぱらぱら。気配のありそうなところに撒いて誘き出してみる。
すると、コケコケッ!
道から少々外れた社務所の影から、ニワトリ達がばたばたと出てきた。餌をつまみつつ、こちらの姿に驚いて逃げるものもあるけれど……。
「にわとりと追いかけっこかー」
それを見据えることほは、焦らない。
柔よく剛を制す。力任せじゃできない仕事だけれど、だからこそ修行にぴったりだとも思うから。
「それじゃ、行こうか」
「ええ。では挟み撃ちで……!」
頷く慧子が正面から近づいて、ニワトリが逆方向、壁沿いに逃げると──その先にことほ。やってくるニワトリを抱きかかえて見事に掴まえた。
だけでなく、参道の方へ逃げたニワトリには──。
「藍ちゃんよろしくー!」
応ずる藍がゆっくり先行。外側に走って、びっくりしたニワトリがばさばさと退避すると……回り込んでいたことほがキャッチ。
腕の中で少々暴れるニワトリを撫でて落ち着かせ、うんと頷く。
「これで、この辺りは大丈夫かな」
「ええ。後は、向こうですか」
と、慧子が見つめる先では──垣の上で野良猫に睨まれているニワトリ。慧子は動物の友の力を発揮して猫に話しかけた。
「ここは鶏達の住処ですから、今回は……」
猫はにゃあと応え、仕方なしとばかりに帰ってゆく。
境内に戻ると、レイも多数を掴まえていた。
「ニワトリも人間と一緒で色んな特徴があるわよね。ラインハルトにマリアに伍介に……」
精悍な雄鶏に、上品な雌鶏、趣ある褐色の一羽……動物との触れ合いにちょっとビビりながらも、愛着も湧いて名前を付けている。
「皆可愛いわ」
「そうですね。確かに」
慧子も頷く。
鶏のことは食材だと思っているけれど……生きている様子を見るとやはり生き物なのだと感じて、その感情に適応するように。
「とにかく、賑やかになったねー」
ことほは軽く伸びをして眺める。そこには先刻までにはなかった、楽しい騒々しさに満ちた景色があった。
ローゼスは林の中へ歩み入っていた。
木々は深いけれど、能力で植物を避けているため視界は広い。餌の穀類も撒いているので、見つかるのは時間の問題と思われた。
さらに、髪を軽く立たせて。
「鶏の、姿を似せれば、如何かな──」
その見目は何処か鶏冠を思わせる形になる。
「こんなものですか。さて、これで出てきますかね」
準備も万端に見回せば──程なく、がさりと草をかき分ける音。数羽のニワトリがローゼスを見つけて出てきて……ばたばたとその周りを回った。
どうやら仲間だと思っているらしい。
「上手く行ったようですね」
更に別の方向からも集まり……ローゼスを先頭に親鶏、雛達と長い列が出来る。
「しかし──」
と、歩みつつローゼスは見下ろした。
見た目はふわふわ感があるけれど、時折警戒するように羽ばたいたりと、気性の荒さも見せる。
鶏にはそこまで思い入れがあったわけではないけれど。
「逞しいものですね」
そんな感情を抱きながら、境内へ。
全てのニワトリが戻ったそこは、明るく、ときにけたたましく……そして和やかな空気に満ちるのだった。
作者:崎田航輝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年9月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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