●埼玉県某所
電動泡立て器が棄てられた沼があった。
その沼は以前から、河童で出ると言われていた、いわく付きの沼。
そのため、近隣の住民でさえ、近づかない程、危険な場所であった。
そこに現れたのは、河童……ではなく、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
小型の蜘蛛型ダモクレスは、ブクブクと沼に沈んでいき、底に沈んでいた電動泡立て器にヒールをかけた。
「アワダテキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
次の瞬間、ダモクレスと化した電動泡立て器が、耳障りな機械音を響かせて渦巻を発生させ、沼から勢いよく飛び出した。
そして、血に飢えたケモノの如く複眼をギラつかせ、グラビティチェインを求めて街を目指すのであった。
●セリカからの依頼
「カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)さんが危惧していた通り、埼玉県某所にある沼で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
ダモクレスが確認されたのは、埼玉県某所にある沼。
この沼は森の中にあり、普段は立ち寄る人もいない。
その分、一般人を避難させておく必要はないようだ。
「ダモクレスと化したのは、電動泡立て器です。電動泡立て器はダモクレスと化した事で、ロボットのような姿をしています。今のところ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われてしまうでしょう」
セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。
参加者 | |
---|---|
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716) |
シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157) |
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969) |
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471) |
●埼玉県某所
『……河童沼には近づくな。河童様の祟りがある』。
ケルベロス達が向かったのは、そんな噂のある沼だった。
その沼が、いつの頃から河童沼と呼ばれていたのは、今となっては分かっていない。
おそらく、ずっと昔……それこそ、名付けた人物が亡くなって、しばらく……場合によっては、数百年ほど経っている可能性があるほど、昔から呼ばれていたようである。
だが、実際に河童がいた訳では無い。
沢山の人達に何度も水を抜かれ、沼が清掃されても、テレビ局が撮影に来ても、河童を見つける事は出来なかった。
だからと言って、何もなかったわけではない。
清掃の度に自転車や大型家電、ベビーカーや、パチンコ台などが見つかっていたのだから……。
そのため、地元であっても、河童の存在を信じている者は少なかった。
それでも、河童沼は危険な場所として恐れられ、子供達を近づけないようにしていたようである。
そのおかげで辺りに人影はなく、ヒッソリとしており、それでいて不気味な感じがした。
「まさか本当に電動泡立て器のダモクレスが現れる事になるとはね。……ともあれ、被害が出る前に倒してしまおうか」
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)は事前に配られた地図を頼りにしながら、仲間達と共にダモクレスが確認された河童沼にやってきた。
そこは思ったよりも広く、近寄り難い場所だった。
その上、足元がぬかるんでおり、歩くたびにジュブジュブと嫌な音がした。
まるで空気の抜け始めたエアーベッドの上を歩いているような感覚。
油断すれば、腰までズボッと行きそうなほど、異様な感覚。
だからと言って、ここで退けない、退く訳にはいかない。
ダモクレスと戦うために来た以上、このまま踵を返す訳にはいかなかった。
幸いカシスは長いブーツを履いてきたため、思ったよりも不快ではなかった。
しかし、ダモクレスとの戦闘中も、同じような状態を維持できるかと言えば、怪しいところであった。
「それにしても、不法投棄とは嘆かわしい。定期的に清掃が行われているようですが、そのせいで余計に不法投棄が増えているようですし、ダモクレス以上に問題かも知れませんね」
シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)が眼鏡をキランと輝かせ、複雑な気持ちになった。
おそらく、ゴミを捨てる者達に罪悪感はない。
むしろ、定期的に清掃されている事で、不法投棄をするのは、ゴミ出し感覚。
そう思えてしまう程、沼には大量のゴミが浮かんでいた。
そのためか、沼の清掃日が近づくにつれ、ゴミが増えていくという現象が続いているようである。
「泡だて器って甘々な夢ある器具だと思うんだけど……まさか沼の底に沈んでいるとはね……。一体、何があったのか分からないけど、わざわざ沼に捨てた意味があるような気も……」
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が、あれこれと考えを巡らせた。
普通に要らなくなったのであれば、雑芥としてゴミに出せば済む話。
それをわざわざ沼まで行って捨てた事には、何か深い理由があるはず。
残念ながら、その理由は分からないが、この沼に棲む河童にお供えした訳では無いだろう。
「理由は何であれ、そろそろ沼の水を全部抜いてもらった方がいいかも知れないね。それだけじゃ、問題が解決しないとは思うけど、本当に河童がいたら困るだろうし……。アスガルドでも、そういう曰く付きの場所は誰かが勇気を振り絞って何とかしたものだ……と、テレビを見ながら思い出したりしたよ。とにかく何とかしないと……。手遅れになってしまう前に……」
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、昔の事を思い出した。
事前に配られた資料を見る限り、沼の清掃は定期的。
それでも、顔を背けてしまう程、臭くて、汚れているのだから、何か別の方法を考える必要がありそうである。
だが、それはケルベロス達が、解決する問題ではない。
ケルベロス達には、やるべき事があった。
そのために、苦労をして、ここまで来たのだから……。
「ア・ワ・ダ・テ・キィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
次の瞬間、河童沼が渦を巻き、その中からダモクレスと化した電動泡だて器が姿を現した。
その姿は、不気味。
まるで電動泡だて器で出来たロボット兵器。
旧世紀に封印された負の遺産と言うべきモノだった。
「ア・ワ・ダ・テ・キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、ケルベロス達に対して渦巻状のビームを放ってきた。
そのビームは、強力であり、醜悪ッ!
反射的に飛び退いてしまうほど臭く、ドン引きするレベルであった。
「……なるほど。戦うべき相手が誰なのか、既に理解しているようですね」
シデルが納得した様子で眼鏡の縁をツイっとやり、マインドシールドを発動させた。
それと同時に、マインドリングから浮遊する光の盾が具現化され、ダモクレスが放ったビームを弾き飛ばした。
「ア・ワ・ダ・テ・キィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
それはダモクレスにとって、予想外の結果。
ダモクレスの花ったビームを喰らい、ケルベロス達が肉の塊になると思い込んでいたため、まったく予想に反した結果であった。
しかし、ダモクレスの戦意は、喪失していない。
むしろ、ヤル気満々。
ケルベロス達に狙いを定め、再びビームを放ってきた。
それは先程よりも強力であり、命中すれば、肉塊になるのは、確実。
「なかなか強力な攻撃だけど、防げない程のモノじゃないね」
すぐさま、カシスがエナジープロテクションを展開し、属性のエネルギーで盾を形成し、ダモクレスが放ったビームを防いだ。
その衝撃で危うく尻餅をつきそうになってしまったが、ギリギリのところで何バランスを保つ事が出来た。
「ア・ワ・ダ・テ・キィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
その事にショックを受けたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせた。
だが、ダモクレスは諦めていなかった。
電動泡立て器型のアームを振り回し、再び距離を縮めてきた。
「……やるしかないようだね。まあ、覚悟はしていた事だけど……。ここで止めなきゃ、シャレにならない事になりそうだし……。覚悟はいいかい、トト」
オズが覚悟を決めた様子で、ウイングキャットのトトにアイコンタクトを送り、「碧落の冒険家」を歌い出した。
それに合わせて、トトが上空に舞い上がり、仲間達を援護する準備を整えた。
「アワ、アワ、ダ・テキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせながら、電動泡立て器型のミサイルを飛ばしてきた。
それはグルグルと回転しながら、地面を抉り取り、大爆発を起こして、大量の破片と泥を飛ばしてきた。
「そんな事で、俺達が怯むと思っているんだったら、随分と甘く……いや、安く見られたものだね」
カシスが大量の破片を避けつつ、メディカルレインを発動させ、薬液の雨を降らせて、仲間達の傷を癒した。
「ア・ワ・ダ・テ・キィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
しかし、ダモクレスは怯まない。
両手のアームをグルグルと回転させ、大量の泥を撒き散らしながら、ケルベロス達に迫ってきた。
「ちょっと待った! そこまでよ! それ以上、近づいたら、泥がついちゃうでしょ! そんな事をしたら、只じゃおかないわよー! だから、こっちに来ない! ……って、聞いてる? 聞いていないよね? そんなにバシャバジャ泥を飛ばして、こっちに来ているんだから! だからと言って、塗料をかけても攪拌されちゃいそーだし、ここは必殺のデリンジャーあたーっく!!」
レイが覚悟を決めた様子で、キリリとした表情を浮かべ、『スーパー神風デリンジャーアタック!』を仕掛け、空高く舞い上がって、懐から取り出したデリンジャーをぶん投げた。
それはクルクルと回りながら、ダモクレスの頭上に落下ッ!
「ア・ワ・ダ・テ・キィィィィィィィィィィィィィィィ!」
その一撃を喰らったダモクレスが、耳障りな機械音を響かせた。
『やったな! 叩いたな! こんな事、持ち主だって、ヤラレた事が無いのに! もう許さない! 絶対に許さない! この泡立て器で、頭の中までグチャグチャにしてやるぅ』と言わんばかりにブチ切れ。
だが、ボディは、限界。
その上、デリンジャーが当たったのは、ダモクレスのコア部分。
一番、脆くて、敏感な部分にヒビが入り、怒りと共に弾け飛んだ。
それはダモクレスにとっても、予想外の結末。
まるで頭の血管がブチ切れて、逝ってしまったかのように、ダモクレスは悲しい最後を遂げた。
そして、ダモクレスは、完全に停止。
まったく動かなくなって、単なるガラクタと化した。
「今度、池にキュウリでも供えに来ましょうかね」
シデルがホッとした様子で、河童沼を眺めた。
……そこには河童の姿はない。
しかし、河童がいてもおかしくない程、何かが出そうな感じであった。
「ふっふーん、虫取り網で河童を捕獲よ――!! 張り切っていきましょ!」
そんな中、レイがハイテンションで、虫取り網をブンブンと振り回した。
色々な意味で、ヤル気満々。
ある意味、ダモクレスと戦っている時よりも、ヤル気満々、テンションMAXであった。
それ故に、必ず河童をゲット。
途中で油断して、尻子玉を抜かれないようにするため、警戒度もフルMAXで、少しずつ沼に近づいていた。
「河童の神秘性を失わせてしまうのは勿体ないけれど、綺麗な泉に生まれ変わらせないと、また何か棄てられてしまいそうだ。お祓いや掃除を手配したほうがいいだろうね。……とは言え、まあ……気が済むまで待っていても、バチは当たらないか」
そう言ってオズが苦笑いを浮かべながら、河童ハンターと化したレイを眺めるのであった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年9月7日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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