墓場からの嘆き

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 破棄された黒電話があった。
 その場所は行き場を失った黒電話にとっての墓場。
 今にも黒電話の亡霊が出てきそうな不気味な場所。
 元々は墓地だったようだが、そこを管理していた寺が潰れ、今ではスッカリ荒れ果てているようだ。
 そのため、よほどの物好きでもなければ、近づく事さえないらしく、肝試しスポットとして知られているらしい。
 そこに小型の蜘蛛型ダモクレスが現れ、黒電話の中に入り込んだ。
「クロデンワァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、黒電話が機械的なヒールによってダモクレスと化し、耳障りな機械音を響かせながら、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)さんが危惧していた通り、都内某所にある墓地の跡地で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある墓地の跡地。
 今は荒れ果て、黒電話の墓場と化しているようだ。
「ダモクレスと化したのは、黒電話です。黒電話はダモクレスと化した事で、無数の黒電話が集まったロボットのような姿をしているらしく、街に繰り出し、人々のグラビティチェインを奪うつもりでいるようです。今のところ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われてしまうでしょう」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)
 

■リプレイ

●都内某所
「まさか、黒電話のダモクレスが本当に現れるとはね。幸いまだ被害が出ていないようだから、人に危害が加わる前に、倒してしまおうか」
 カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)は事前に配られた地図を確認しながら、仲間達と共にダモクレスが確認された墓地にやってきた。
 その場所は町外れにあった。
 だが、その場所は、いかにも何か出そうな雰囲気が漂っており、どの墓もまったく手入れがされておらず、荒れ放題になっていた。
 そこには深い理由がありそうな感じであったが、今回の目的はそれを調べる事ではない。
 しかし、その理由が気になってしまう程、墓地は不気味で、おどろおどろしかった。
 それに加えて、異様に思えたのは、山積みされた黒電話であった。
 ……まるで黒い巨大なピラミッド。
 それが原因で何やら近寄り難い雰囲気が漂っており、見えない壁に阻まれているような威圧感があった。
「それにしても、随分と墓が多いね。定命の人々が生き続ける限り、墓は増える……と思うのだけれど、こうして荒れてしまうところもあるのだね」
 オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、複雑な気持ちになった。
 それ以前に、この場所が人の墓場なのか、黒電話の墓場なのか分からなくなってしまう程、どちらの数も多かった。
 そのため、人の墓場と呼ぶのが正しいのか、黒電話の墓場と呼ぶのが正しいのか分からなくなってきたが、とりあえず墓場である事は間違いない。
「そういえば、黒電話って今の時代にもあったのかな? とりあえず、私は現物を見るのは初めてだわ。まぁ、ダモクレスと化したなら、油断は出来ないのだけれど……」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、山積みされた黒電話にライトを照らした。
 黒電話自体、初めて見たのだが、これだけの数を集めたのも、驚きであった。
 そこに深い理由があるのか分からない。
 だが、一番高い可能性は、ただ単に捨てやすかったから。
 そこに深い意味はなく、視界に入っただけ。
 この場所ならば、誰も文句を言わないだろうという考えから。
 故に、罪の意識は微塵もなく、大量のゴミを捨てられた事で、ホッとしている可能性が高かった。
「……と言うか、黒電話って、何っ!? と、とにかくお墓に出るんだから、謎の怪談みたいな存在のはずよね! だったら、大丈夫! だって、私……ヴァルキュリアだもん。だから……幽霊なんてへっちゃらよ」
 そんな中、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が、自信満々な様子で胸を張った。
 とにかく、幽霊が現れたって、大丈夫。
 万が一、襲い掛かってきたとしても、幽霊が相手なら怖くない……はず。
 何やらツッコミどころが満載ではあるものの、気にしたら負けである。
「……とは言え、何だかホラーな感じがヒシヒシと感じられますね。……とはいえ、私達はケルベロス、此処で怖気づく訳にはいきませんが……」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)が、警戒した様子で辺りを見回した。
 先程から漂う、妙な気配。
 それは山積みされた黒電話の中から感じられた。
「クロデンワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した黒電話が、まわりにあった黒電話を弾き飛ばし、ケルベロス達を威嚇するようにして、耳障りな機械音を響かせた。

●ダモクレス
「他の黒電話を取り込んで、ダモクレスと化したようだね。まるでロボット……いや、鎧武者と言うべきかな。ひょっとして、ここに埋められていたのは、武将だったとか。まあ、いいか。行くよ、トト」
 すぐさま、オズが気持ちを切り替え、ウイングキャットのトトに声を掛け、寓話語り『奇跡の娘』(グウワガタリ・キセキノムスメ)を発動させた。
 それに合わせて、トトがダモクレスの死角に回り込み、仲間達を援護する準備を整えた。
「クロデンワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 それと同時に、ダモクレスがガシャコンと昭和チックな音を響かせ、耳障りな機械音を響かせ、電波状のビームを放ってきた。
「ここは墓の跡地だから、この場に相応しく安心して眠りなさい」
 リサがダモクレスに語り掛けながら、電波状のビームを素早く避けた。
 そのビームは樹齢ウン百年と思しき大木をへし折り、轟音と共に家の屋根をブッ壊した。
 おそらく、それは家の住民にとって、膝から落ちるほどショックな出来事。
 いまのところ、家に誰もいないようだが、それで良かったと思うのは、この家と関係のない者達だけだろう。
「クロデンワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その途端、ダモクレスに融合した黒電話達が、一斉にジリリリリンと音が鳴り響いた。
「えっ? 何っ! 何っ! 何っ!? ひょっとして、あの電話に出たら、呪われるとか、そんなんじゃないわよね。……と言うか、何処から掛かってきた電話なの? 正直、怖いんだけれど……。やっぱ、あれよ。間違いなく、呪われるヤツ! だって、そうでしょ? もう使われなくなった電話に掛ける人なんているわけないもの!」
 この結論に達した時、レイが全身に鳥肌を立たせた。
 この状況は間違いなく、アレ。
 今晩トイレに行けないアレである。
 例え、その難関を乗り越える事が出来たとしても、悪夢にうなされ、汗ビッショリと言うオチだろう。
 それを容易に想像する事が出来てしまうため、背筋にゾッと寒気が走り、全身にゾワッと鳥肌が立った。
 だが、退けない。
 退ける訳がない……!
 とにかく、トイレは誰かについて行ってもらおう、そうしよう。
 でも、悪夢だけは……。
 考えるだけで、震えが止まらなくなってしまうものの、その時は、その時。
 何とかなるはず。
 何とかならなかった場合は、頑張って朝まで起きているしかない。
「クロデンワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 しかし、ダモクレスは、残酷。
 そんなレイの気持ちを無視して、ダモクレスがビームを放ってきた。
 そのビームは、真っ直ぐレイを狙って……その命を断つため、情けも、容赦も、微塵もなかった。
「……考え事は後だよ。大丈夫、悪夢の原因……その元凶さえ断てば、問題解決だから……」
 カシスがレイを守るようにして、エナジープロテクションを展開し、属性エネルギーで盾を形成し、ダモクレスのビームを防いだ。
「クロデンワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、ケモノの如く耳障りな機械音を響かせ、何かに取り憑かれた様子で、受話器型のアームを振り回した。
 それは、まるで巨大な駄々っ子。
 駄々っ子パンチ、タイフーン!
 ボコボコと言うよりも、ボコ、ドカ、バキッと言った感じであった。
「うわっ! 怖い! 怖い! 本当に怖いからっ!」
 レイが涙目になりながら、ダモクレスから逃げていった。
 まさに、恐怖ッ!
 絶対的な恐怖ッ!
 ……逃げたい。
 とにかく逃げたい!
 全力で逃げたい……!
 その気持ちを胸に秘め、全力全開、猛ダッシュ!
「さすがに、この状況を放っておく訳にはいきませんね。私が足止めしておきますから、早く逃げて下さい」
 そんな空気を察した紅葉がダモクレスの行く手を阻み、ハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾でダモクレスを攻撃した。
「ク、ロ、デ・ン・ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、バランスを崩して膝をついた。
 だが、ダモクレスは諦めていなかった。
 先程の攻撃でボディにヒビが入っても……。
 コア部分が見え隠れしていても……。
 ケルベロスに対する殺意は消えていなかった。
 むしろ、逆ッ!
 ケルベロス達に対する殺意が、爆発しそうな勢いで、膨らんでいるようだった。
「クロデンワァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その気持ちを爆発させるようにして、ダモクレスがミサイルを飛ばしてきた。
 そのミサイルは黒電話の形をしており、耳障りな音を響かせながら、次々とアスファルトの地面に落下した。
 それと同時に、ミサイルが爆発し、大量の破片が鋭い刃となって、ケルベロス達に向かって飛んできた。
 その破片は、軽くかすっただけでも皮膚が避け、辺りに血が飛び散るほどの破壊力。
 それに加えて、ダモクレスが再び駄々っ子パンチを繰り出してきたため、色々な意味で危険な状況が作り上げられた。
「怒りのやり場を探しているのかも知れないけど……。それを俺達に向けられてもなぁ。それだけ辛い思いをしてきたのも分かるけど、俺達が犠牲になったところで、恨みが晴れる訳では無いしね。それでも、戦うって言うんだったら、俺達だって遠慮はしないよ」
 カシスが大量の破片から逃げるようにして物陰に隠れ、メディカルレインで薬液の雨を戦場に降らせた。
「クロデンワアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 しかし、ダモクレスの考えは変わらず、『だったら、俺達を殺して、みんな殺すゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』と言わんばかりの勢いで、再び受話器型のアームを振り回した。
「真正面から突っ込んでくるなんて、随分と馬鹿にされたものね。それとも、消滅願望でもあるのかしら? どちらにしても、愚かとしか言いようがないのだけれど……」
 それを迎え撃つようにして、リサがディスインテグレートを仕掛け、不可視の虚無球体を放って、ダモクレスの身体を消滅させようとした。
「クロデンワァァァァァァァァァァァァァァ!」
 その事に危機感を覚えたダモクレスが、尻餅をつく勢いで後ろに下がった。
「……この状況で逃げられると思っていましたか?」
 そこに追い打ちをかけるようにして、紅葉が月光斬を繰り出し、緩やかな弧を描く斬撃で、ダモクレスを真っ二つに切り裂いた。
 その一撃は実に鮮やかで、ダモクレスの身体だけでなく、コア部分も両断する程の破壊力。
 ダモクレス自身も、何が起こったのか分からず、断末魔を上げる余裕すらなかった。
 そのため、状況を理解する事さえ出来ずに崩れ落ち、ダモクレスと融合していた黒電話も、ひとつ残らずガラクタと化して、再び山を築き上げた。
「そう言えば、ここの所有者って、どうなっているんだろうね? この様子だと、みんな無縁仏になっているのかも知れないけど……。それだったら、無縁塚とか、そういうものを計画できないかな。さすがに、このまま放っておく訳にもいかないし、何とかしたいところなんだけれど……」
 そんな中、オズが仲間達に声を掛け、荒れ果てた墓に視線を移した。
 このまま何もしない訳にはいかない。
 ……その気持ちだけは揺るがなかった。
 仲間達も同じ気持ちであったのか、その方法を探すため、荒れ果てた墓を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月5日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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