ハイパワーが仇となり

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟に棄てられたエアコンがあった。
 そのエアコンが棄てられたのは、ハイパワー過ぎたため。
 それ故に、大量の電力が必要であった。
 それは持ち主にとって、デメリットでしかなかった。
 そのため、すぐに大量の電力を必要とせず、ハイパワーのエアコンに買い替えられた。
 そうなれば、今まであったエアコンは、用なし。
 故に、棄てられた。
 ……ゴミとして。
 処分費用をケチって、棄てられた。
 だが、エアコン自身は、棄てられる事など、望んでいない。
 その思いに引き寄せられたのか、小型の蜘蛛型ダモクレスが現れた。
 蜘蛛型ダモクレスはエアコンに機械的なヒールを掛け、ダモクレスに変化させた。
「エアコンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン」
 次の瞬間、ダモクレスと化したエアコンが、耳障りな機械音を響かせ、倉庫の壁を突き破るのであった。

●セリカからの依頼
「アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)さんが危惧していた通り、都内某所にある廃墟で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある廃墟。
 この場所は以前から廃墟と化しており、ゴミの不法投棄が後を絶たなかったようである。
「ダモクレスと化したのは、エアコンです。ダモクレスと化した事で、エアコンはロボットのような姿をしており、街に繰り出しているようです。今のところ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われてしまうでしょう」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)
 

■リプレイ

●都内某所
「私が危惧していたダモクレスが本当に現れたのは驚きましたが、これも何かの因縁でしょうしね」
 アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)が何やら察した様子で、仲間達と共に都内某所にある廃墟にやってきた。
 この場所が、何時から廃墟になったのか、分からない。
 気がついた時には、廃墟。
 周囲の人間が、廃墟の存在を認識した時から、廃墟であった。
 故に、何時から廃墟であったのか、誰も分からない。
 知るつもりもない、興味もない。
 ダモクレスが確認されたのは、そんな場所だった。
 それでも、近隣住民達は知っていた。
 この場所は、ゴミ捨て場である事を……。
 ゴミ捨て場として、相応しい場所である事を……。
 それが何故だか分からない。
 理由は知らない、知るために割く時間もない。
 だが、みんなゴミを捨てた。
 気にせず、捨てた。
 それが当たり前のように……。
 そうする事こそ、正義であるかのように……。
「エアコンって、夏場には必須の家電だよね。でも、ハイパワーも度が過ぎると使い辛い迷惑なものになっちゃうけど……」
 四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)が、複雑な気持ちになった。
 おそらく、ハイパワーこそ正義。
 そんな考えから、作り出されたモノなのだろう。
 むしろ、ハイパワーでなければ、駄目……と言う考えもあったはず。
 しかし、ここに捨てられていたという事は……それが答え。
 それがエアコンにとって、求めていた答えと違っていたとしても、拒絶する権利はない。
 ただ捨てられ、ゴミとなり、忘れていくだけ。
 その現実を受け入れる事が出来なかったため、小型の蜘蛛型ダモクレスを、この場所に引き寄せてしまったのかも知れない。
「ハイパワーなのは悪くないですけど、今の時代は省エネの時代、電気代が少ない方が便利ですからね」
 綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)が、何やら察した様子で答えを返した。
 実際に、ハイパワーのエアコンと、省エネのエアコンを天秤にかけ、後者を選んだという事だろう。
 勝者と敗者、その関係は単純。
 負けたから、捨てられた。
 実にシンプルで、分かりやすい答えであった。
「確かに、ハイパワーすぎるのも考え物ね。エアコンが強すぎたら、体調を悪くしてしまうし、何より電力が掛かるから、こうなったのも仕方がない事なのかも……」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、何処か遠くを見つめた。
 ……それが運命。
 エアコンが受け入れなければいけなかった現実。
 しかし、エアコンは別の選択肢を選んだ。
 本来であれば、存在しなかった選択肢を……。
「エアコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したエアコンが、力任せに廃墟の壁を突き破り、ケモノの如く耳障りな機械音を響かせた。
 ダモクレスはロボットのような姿をしており、荒々しく息を吐きながら、ケルベロス達の前に陣取った。
「なにごとも適材適所よね。あんたも6畳8畳じゃ役に立てないかもしれないけど、イベント会場なら、きっとひっぱりだこだもん。だから、お願い。涼しい風だしてよ~。いま凄く暑いから……」
 佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が、ダモクレスにお願いをした。
 それは些細な願いであったが、ダモクレスにとっては、求めていた言葉。
「エアコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 故に、加減はしなかった。
 辺りが極寒地帯と化す勢いで、冷房ビーム。
 それは善意、圧倒的な善意。
 この時点で意味不明な感じではあるものの、善意の押しつけである事は間違いなかった。
 だが、レイは薄着。
 その状況で浴びる冷房ビームは、拷問以外のナニモノでもなかった。

●ダモクレス
「うわ~……寒い、寒い、寒い! シャレにならないくらいの寒いのだけど! これって、さすがにやり過ぎじゃないの? ダメでしょ、絶対に寒いし! 寒すぎだから! ……って、今度は暖房ビームを放つつもり? 駄目、駄目、絶対に駄目! この流れだと、絶対に暑いから!」
 その途端、レイが身の危険を感じて、ダモクレスの考えを改めさせようとした。
 しかし、ダモクレスは、ガン無視。
 『オーダー、入リマシタァァァァァァァァァァァ!』と言わんばかりに、ハイテンション!
 辺りを火の海にする勢いで、暖房ビームを放ってきた。
 それはレイを汗だくにするほどの破壊力。
 全身汗ビッショリで、グッタリしてしまう程、危険なビームであった。
「大丈夫ですか。緊急手術を施術しますね」
 すぐさま、アクアがレイに駆け寄り、ウィッチオペレーションを発動させ、魔術切開とショック打撃を伴う強引な緊急手術で治療した。
「さぁ、行きますよ、ネオン。共に頑張りましょう!」
 それと入れ替わるようにして、玲奈がボクスドラゴンのネオンに声を掛け、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
 それに合わせて、ネオンがボルトタックルを仕掛け、ダモクレスの身体を吹っ飛ばした。
「エ、エ、エ、エ、エアコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 だが、ダモクレスは諦めなかった。
 むしろ、逆。
 怒り心頭ッ!
 その怒りをビームに変え、冷房、暖房、ごちゃ混ぜにして、情け容赦なく、ぶっ放した。
 それは暑くて、寒く、寒くて、暑い。
 ……つまり適温。
 ダモクレスの怒りに反して、とてもイイ感じのビームになっていた。
「このビーム……、逆に気分がリフレッシュしそうなくらいに心地が良いのだけれど……。一応、攻撃しているのよね? 少なくとも、そのつもりで放ったビームよね?」
 そのビームを浴びたリサが、不思議そうに首を傾げた。
 決して、悪くない一撃。
 まんざらでもない攻撃。
 思わず、『……ありがとう!』と叫んでしまいそうなほど、心地良い攻撃であった。
「エ、エ、エ、エ、エアコォォォォォォォォォォォン!」
 それはダモクレスにとって、予想外の出来事。
 反射的に『なんてこったい!』と叫んで、両手で地面を叩いてしまう程のショックであった。
 しかし、その原因を作ったのは、自分自身。
 自らの怒りが招いた結果。
 そんな自分を攻めたところで、ケルベロス達が反応に困って、ションボリするだけである。
「エアコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 だからこそ、キレた。
 世に言う逆ギレである。
 そして、伸ばしたのは、リモコン型のアームであった。
「これって僕らのせいじゃないよね? それなのに、怒りの矛先を僕らに向けるのって、色々と間違っていると思うんだけど……」
 司が複雑な気持ちになりつつ、薔薇の剣戟を仕掛け、幻の薔薇が舞う華麗な剣戟で、ダモクレスを幻惑した。
 それに合わせて、レイがスーパー神風デリンジャーアタック!(イザノトキノゴシンジュツ)を仕掛け、空高く舞い上がると、キラリと汗を輝かせ、懐から取り出したデリンジャーを、ダモクレスめがけてブン投げた。
「エアコォォォォォォォォォォォォォン!」
 それはダモクレスにとって、ショックであり、屈辱。
 地味に痛くて、イラッとして、ストレスになる一撃だった。
 だが、幻惑されている影響で、全く見当違いの方向に怒りをぶつけて、ぶつけまくっていた。
「……何処を見ているの? 怒りのぶつけ所が……。まあ、違っているとも言えないけど……。私達に背中を向けているのが、そもそもの間違いね」
 リサがダモクレスの背後に陣取り、ディスインテグレートを仕掛け、不可視の虚無球体を放って、リモコン型のアームを消滅させた。
「エアコォォォォォォォォォォォォォン!」
 その途端、ダモクレスが怒り狂った。
 ただでさえ、屈辱的な状況にある中、自慢のアームを消滅させられてしまったのだから、無理もない。
 ケルベロス達に対して、怒り……今度は正当な理由の怒りが向けられた。
「エ――アコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 そして、キレた。
 堂々と、胸を張って、ドヤ顔で!
 その上で撃った。
 エアコン型のミサイルを!
 冷房、暖房、除湿に、空気清浄、何でもアリ。
 まるで流れ星……いや、流星群の如く、エアコンがケルベロス達に降り注いだ。
 それは暑くて、寒くて、そのどちらであり、どちらでもない感じの爆発。
 しかし、その威力は絶大。
 アスファルトの地面を削って、えぐり、大量の破片を飛ばしてきた。
「水よ、光よ、煌く万華鏡の様に皆に届け」
 すぐさま、アクアがシャボン玉万華鏡(シャボンダママンゲキョウ)で魔力を込めたシャボン玉を無数に創造し、光を乱反射させる事で仲間に癒しの輝きを与え、超感覚を覚醒させた。
「この電気信号で、痺れてしまうと良いわよ」
 それに合わせて、リサがライトニングパルスを発動させ、高速で流れる電気信号を放って、綺麗な電気の光を輝かせつつ、ダモクレスを痺れさせた。
「エア、エア、エアァァァァァァァァァァァァァァァ」
 それでも、ダモクレスは動こうとした。
 だが、ダモクレスは動けない。
 全身がビリビリと痺れ、その場から全く動く事が出来なかった。
「だったら、その魂……僕が戴いてあげるね」
 次の瞬間、司が降魔真拳を叩き込み、ダモクレスのボディをヘコませた。
 その一撃は、あまりにも破壊力抜群。
 ダモクレスのコアを守っていた装甲が弾け飛び、宙を舞うには十分な一撃であった。
「これでコア部分が丸出しになりましたね。それでは、その無念な魂を今すぐ消し飛ばしてあげますよ」
 それと同時に、玲奈がダモクレスに、凶太刀を繰り出した。
 その影響でダモクレスの身体に呪詛が伝わり、魂を汚染していった。
「エアコォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
 そして、ダモクレスは滅びた。
 断末魔を響かせ、天に向かって、苦しそうに手を伸ばし……。
 完全に機能を停止させた。
「それじゃ、周辺のヒールをしておくわね。でも、このエアコンは……あたしの狭い部屋にはちょっと不向きよねぇ。どこか引き取ってくれるとこがあればいいんだけど……」
 レイが困った様子で、エアコンだったモノを見下ろした。
 使おうと思えば、使えそうではあるものの、シャレになるほど、ハイパワー。
 そのデメリットを考えれば、必要とする人も限定される。
 少なくとも、誰もが欲しがるモノではない。
 だが、それでも、誰かが必要としている……はず。
 そんな気持ちを胸に秘め、その場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月4日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。